空京

校長室

創世の絆 第三回

リアクション公開中!

創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション



検討と改善(2)

 校舎内、その校長室では正にいま「防衛面」に関しての話し合いが行われていた。
「では! 「イコン整備場」の建設を行っても良いと?!!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が身を乗り出して言った。「え、えぇ」と受けたラクシュミは完全に気圧されていたが、
回廊の拡張は到底見込めないと報告がありましたから。やはり分解した上で持ち込んで、こちらで組み立てるしかないようです」
 パラミタとニルヴァーナを繋ぐ回廊、その直径はわずか5m程しかない。回廊の組織と仕組みの解析はこれまで継続して行われていたのだが、つい先程に調査員が持ち込んだ報告は「解析不能。現状では、拡張見込めず」といったものだった。
「これ以上、保留の状態にしておくわけにはいきません。遅れた分、建設を急ぎましょう。今は駄目でも、いずれ、イコンをこちらで運用できる時が来るかもしれませんし」
「おぉ……おぉ! 良い決断だ! 素晴らしい!」
 ハーティオンは喜びと期待に胸を躍らせた。当初よりイコンの必要性は説いてきた、回廊の解析にも携わった、イコン学部「イコン整備技術科」の開設も決まっている。「イコン整備場の建設許可」は正に彼の悲願でもあった。
「そうと決まれば早速取りかかるとしよう! 鈿女博士」
「分かってるわ」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)がキリっと応える。「幸いにも技術者は揃っているようだし、あとは機材の搬入さえ行えればイコンの運用も可能でしょう。搬入の手続きは書面ですれば良いのかしら?」
「あ、うん」ラクシュミがこれに応える。
「しばらくは私に直接渡してくれて良いよ。入星管理局の体制が整えば搬入する物資もそこで一度チェックして貰うようになる予定だけど」
 搬入の是非はラクシュミが決める。不審な物資は持ち込ませない。これも防衛策の一つだ。
「その管理局についてなのだがな」
 青葉 旭(あおば・あきら)が割って入る。入星管理局の提案者である彼も、いわゆる「検品業務」に関しては初耳だった。自分たちの知らぬ所で任務が増える事に関しては経緯も含めて追及したい所だが、今はそれよりも確認したい点がある。
「パラミタからの回廊を通過する者たちは管理しやすいが、それ以外のルートから来る者をどう管理するのか。その対策を講じたいと考えているのだが」
 ラクシュミは一体どう考えているのか。実際にブラッディ・ディヴァインは独自のルートでニルヴァーナに入りている。これは明らかな不法入星行為だ。
「確かにこのまま規模を拡大されても困りますし。そうですね、まずは侵入ルートの特定でしょうか」
 それも決して悪くない。完全に後手に回ってしまっているが、侵入ルートさえ押さえてしまえばその驚異は半減する事もまた事実だ。食糧供給を完全に止めることだって可能だろう。
「それでも今は工事に人手を割いているから、特別にチームを作って調査させることは出来ないわ。有志を募るという方法もあるけれど……」
「いや構わない。やはりまずは建物の完成、そして入星管理局の運営を開始させる事を優先させるべきだろう」
「ワタシからも、一つだけ」
 山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)が遠慮がちに「鳥人型ギフトや、この先も現れるかもしれない他のギフトって、入星管理局的にはどう扱うの? 「一人」としてみて良いんだよね?」
 言い方は悪いが、ギフトとはすなわち「意志を持った物体」であるとも言える。にゃん子自身は「ゆる族」だし、仲間内には「機晶姫」や「強化人間」だっている。ギフトを彼らと同じに見ても良いものか、またラクシュミはどう考えているのか。
「もちろん「一人」として認めます。そのように応対していただければと思います」
「分かったわ、そうする」
「お願いします」
 ギフトも「一人」として、立派に人権を認めて接すること。それが校長としての意見だそうだ。
「話を戻して良いかしら?」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が笑顔で言う。さて、どこまで話を戻すのかといえば、先の「イコン整備場」についてである。
「整備場を作るのには賛成よ。でも、それですぐにイレイザーやらインテグラルやらに対抗できるとは限らないわよ」
「どういうことです?」
「ニルヴァーナで正常に稼働するかどうか、そのテストをする必要があるって事。それをクリアしなければとても「戦力」とは言えないわ」
「なるほど、確かにそうですね」
 だからこそ余計に時間がない。イコン級の敵が増えてきたというのに、組立場となる建物すら建っていない状態なのだ。
「一刻も早くテストを行うこと、そしてデータを取って分析すること。そのためは、とにかくイコンを持ち込む必要があるわ」
 パートナーのジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)ラクシュミに資料を手渡す。そこには幾つかのイコンの名が羅列されていた。
「回廊を通って持ち込めそうなイコンを選定したわ。比較的小型な所で「ペガサス」や「ウォーストライダー」系、それからパーツ単位に分ければ持ち込めて、そのうえ組み立ても比較的容易な種をリストアップしてみたの。建物の工事と平行して持ち込んでも良いかしら?」
「こちらも出来ました」
 鈿女が資料を差し出す。そこには整備場に必要な機材がリスト化されていた。
「許可します。ただ……時間は掛かるでしょうね」
「ええ……」
 搬入、組み立て、そして調整に試験など。クリアするべき点は多いものの確かにそこには希望がある。
 また、この話し合いに先駆けて行われた「新規施設の提案議会」において、ラクシュミは「巨大生物用の厩舎」を許可していた。これも防衛戦力の強化を考えての事だった。
 当然、ニルヴァーナの生態系を破壊しないよう配慮する必要はあるが、いずれ、そういった力がイコンと共にニルヴァーナでの開拓や防衛に活用される日は近そうだった。
 それに、黒い月にあるというデータボックス。
 あれを解析すれば、あるい、回廊を拡張できる情報があるかもしれないのだし。
ラっクシュっミ殿っ」
「がぅがぅがぅっ」
 声を弾ませて言ったのはクロウディア・アン・ゥリアン(くろうでぃあ・あんぅりあん)、篭もった声で「がぅがぅ」と言ったはテラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす) である。
「何か忘れてはいまいか?」クロウディアが問う。
「がぅが、がぅがぅが、ががぅ?」
「そうだ、その通り、全くその通りだ。防衛面の強化を図るのなら、我輩の「購買」にも武装関連の品揃えを検討するべきではないか?」
「そう、ですね。それでしたら、対イコン用の武器は一通り取り扱う事にしましょう。爆弾の類も揃えて貰って構わないですよ?」
「ははははは! 何とも豪快な。了解した、すぐに発注をかけよう」
「がぅ! がぅがぅが!!」
 意気揚々と言ってカタログを取り出した。こちらも必要な品をリストアップして提出する必要がある。もっともクロウディアにしてみればこの規模の店舗経営なんてお手のもの、『設備投資』やら『資産家』などをバックアップに使うほどに余裕がある。購買の定番「焼きそばパン」も取り揃えるとのことなので、校内施設「購買」は十分に期待できそうである。