空京

校長室

創世の絆 第三回

リアクション公開中!

創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション



おもてなし(3)

「お疲れさま」
 ステージを終え、席に戻ったギフト崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が出迎えた。
 パートナーのマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)が用意した十人掛けのシックなソファーの中央にギフトを連れて座らせた。
「失礼します」ギフトの隣に亜璃珠が座る。
「お食事前ですから、お茶にしましょうか」
 マリカが紅茶を用意して出したが、ギフトの目はピッタリ添いている亜璃珠の太股に釘付けだった。
 思った通りのキャバクラ好き。少し雰囲気を出しただけでこの有り様。分かりやすい人、と亜璃珠は妖しく微笑んだ。
「いかがかしら。ちゃんと楽しめてます?」
「ふむ。そうだな、決して悪くない、そんなところか」
「良かった。私もあなたと居られて楽しいわ」
「そっ、それはヨカッタ、はは、ははははは、はははははははは」
 ご機嫌ね。料理は……まだかしら。もう少しお話してあげましょうか。
「ねぇ。あなたの他にもギフトって居るのかしら。お友達とか、お知り合いとか」
「なぜそのような事を……? ん……? なんと、そうか、さっそく我輩に飽きてしまったか」
「違うわ。心配なのよ、女性のギフトが傍に居るなら、あなたとはもう、これっきりになるでしょう? だから、」
「そんな事はない! 我輩はいつでも戻ってこよう!」
「本当? 浮気しない?」
「もちろんだ! あんな娘などキミに比べたら……いや比べるまでもない! キミが一番美しい」
「約束してくれる?」
「もちろん、約束だ」
「嬉しい」
 亜璃珠による報告。鳥人型ギフトの他にもギフトは多く存在する、また彼が「娘」と称する女性タイプのギフトもまた存在するという。そして鳥人型ギフトは間違いなくスケベな雄だ。


「ん? あの者は……?」
 料理が運ばれてくるのが見えた。と同時にそれらの配膳台にフラフラと及川 翠(おいかわ・みどり)が近づいて行って―――
 パクリ。
「あっ!」
 ギフトが思わず声をあげた。何が起こったのかもう一度しっかり確かめようと―――
 パクッ。
「あっ!!」
 もう一口、いや二口か。は運ばれてきた鳥料理に箸をつけた。
「あ、あの者は……あの者は一体何をしている」
「あれは……」
 亜璃珠も苦笑い。答えに困っていると、もう一人、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)も近づいていって、
 パク。
「あの娘もっ!!」
「あ、あれはその……」
 つまみ食い? だとすれば言い訳なんてできない。ギフトをもてなす為に作られた料理をつまみ食いするなんて……。
「あら?」
 よく見ればは同じ料理には二度目の箸をつけていないし、ミリアはそれをフォローするように順に皿を手渡している。とすると…………なるほど、これは……。
「ご心配いりませんわ。あの娘たちは毒味をしているのです」
「毒味?」
「えぇ、大切なお客様に出す料理です。万が一にも粗相があってはいけませんから、ああして見えるところで味見をして安全かどうか確かめているのですよ」
「なんと……。我輩のために自ら危険な役を……」
 ギフトの目に涙、シルクハットのメーターがまた一つ積み上がる。何だろう、とても今更ながらこのギフト……実はこれまたとっても、ちょろい?
 らの毒味を通った料理が次々にテーブルに並べられてゆく。
「まずは前菜から、どうぞ召し上がれ」
 シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)が作ったのは「大甲殻鳥」を使った鳥料理のフルコース。前菜こそ「フォアグラのゼリー寄せ・プロヴァンス風」と大甲殻鳥を使っていないが、「チキンのコンソメ」「去勢鳥の丸焼き・香草詰め」「鳥鍋・豪華寄せ鍋風」「ヤマウズラのパイ包み焼き・トリュフソース」「エッグタルト・アイスクリーム添え」へと繋いでゆく。
「お代わりもたくさん用意してますから、ご遠慮なくお申し付け下さい」
「ふむ、ふむふむ。なるほどなるほど、どれも旨い、実に美味だ」
「ありがとうございます」
「ん? これは?」
「そちらは一品料理です。ヘルムート
「はい」
 ヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)は丁寧に一礼をしてから傍に立った。
「程良く温めたワインを薄くスライスしたローストチキンに注ぎました。程よく溶け出した肉汁と豊潤なワインとの絶妙なハーモニーを楽しんでいただければと思っております」
「ふむ。どれ」
 チキンを一切れ、口へと運ぶ。次に言葉を発するよりも前にシルクハットのメモリが一つ増えた。
「いや素晴らしい。実に見事、素晴らしい」
「一品料理なら私も自信があるわ」
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)が出したのは「大サザエ」に「アワビ」に「大エビ」。どれも日本有数のグルメ県から取り寄せたものだ。
「日本の食文化も楽しんで貰えたらと思ってね。あ、日本っていうのは私の生まれた国のことなんだけど―――」
 料理の説明からそのまま「日本」の説明へ。地球はもちろん、パラミタや日本についての情報はとても珍しいようで、鳥人型ギフトは食い入るように聞いていた。
「箸休めにどうぞ」と何とも控えめに「お弁当」を出したのはセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)だ。
 「アスパラの牛肉巻き」に「ミニハンバーグ」「鳥の唐揚げ」に当然の「おにぎり」など。たとえ好き嫌いがあっても食べられるように、またこの食事会の雰囲気が少しでも柔らかくなるようにと想いを込めて。
 想いは届いたか、ギフトは「アスパラの牛肉巻き」を食べて一言「うむ、美味であるぞ」と笑顔を見せた。
 その後も「大甲殻鳥」を使った鳥料理や「キノコ類」を使った炒め物やらスープやらが運ばれてきた。もちろんギフトで出汁を取った「カレー鍋」も振る舞われたが、それらを一つ残らず口にして、どれも「美味い!」と大袈裟に喜んでいた。
 理沙が出した高級日本酒をグビッと呑み込んだ所でシルクハットが光り輝いた。
「いや満足だ、堪能した。これほどに楽しい「ひととき」は久しぶりである」
 メーターは全て埋まり、そこから強い光りが溢れて飛んだ。
「諸君らの心と想い、しかと知った。我輩の力を貸そう」
 徐々に確かに鳥人型ギフトが「変形」してゆくその様を、まばゆい光りのその中に皆で同じに見届けた。