空京

校長室

創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション


シールド発生装置を手に入れろ!

 イレイザーの背にある遺跡の中。
 暗視で中を確かめると、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は手早くライトをつけた。
「参考に聞こう。予測されるシールドをこの場で起動した場合、どのような影響が出る?」
 クレアの問いに、すこし後ろを歩く小暮 秀幸は、しばし唸ってから答える。
「最も高いのは、発生するシールドがイレイザーの行動を阻害するエネルギーとして作用することでしょう」
「それじゃあ、作戦どおり展開しましょう。我々はシールド装置のありかを探索、発見したらそれを起動し、イレイザーの動きを制限します」
 確認するように、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が言う。
「少尉、今度は先走ろうとするなよ」
「……はっ」
 クレアに釘を刺され、秀幸は敬礼を帰した。
「遺跡の防衛装置はまだ生きているようですね」
 前方の様子を確かめて、サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)が告げる。見れば、センサーを起動させた銃口らしきものが、通路を見張るように向けられている。
「それでは、その相手はわたくしどもがさせていただきます。前方を恐れず、一気に前進しましょう……っと」
 白鳥 麗(しらとり・れい)が言いかけるときに、遺跡全体が大きく震えた。当然だ、イレイザーの背中に乗っているのである。
「参りますわよ!」
 麗の体が踊るように駆け出す。エネルギー銃がセンサーに反応して銃口を向けるが、
「お嬢様は部隊を守り、私がお嬢様を守る……というわけですな」
 悠然と進み出たアグラヴェインが腕を掲げ、その射撃をはじいた。滑り込んだ麗が、今度はその腕をつかみ、体操選手のように体を大きく振ると、長い足をめいっぱいに伸ばしてつま先で銃を砕く。
「お嬢様、あまりはしたないことをされては……」
「お説教でしたら、後でまとめて聞きますわ!」
「後に続こう」
 声を掛け合いながら次々にシステムを沈黙させていく二人を追って、クレアや秀幸も続く。
「イレイザーが動き回るせいか、所々壊れてるみたいだねぇ」
 走りながら、堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は周囲に目を向けていた。生きているのは、固定された銃座やトラップがほとんどだ。遺跡を守るモンスターを想像していたのに、どうやらそういうものは砂に埋もれてしまったらしい。
「トラップの配置に一定の指向性を感じます」
 と、短く報告したのはヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)
「守りたいものがこの先にあると言うことでしょう」
「方向を示してくれ。白鳥たちを後ろから案内するんだ」
 クレアの指示に頷き、次々にトラップを破壊する麗たちに続く二番手に出る二人。
 果たして、突入は驚くほどスムーズに進んだのであった。


 が……。
「なるほど、どうやらこれがシールドの発生装置らしいな」
 たどり着いた空間で、秀幸はぽつりと呟いた。
 その中央にあるのは、3メートルほどの大まかに正二十面体をした装置である。それを制御するものらしい台座の上にのせられていた。
「イレイザーの動きを封じる目的も兼ねて、この場で起動が可能かどうかの実験をする。このために連れてきたんだ、しっかりやれよ」
 機工士でもある秀幸の肩を叩いて、クレアが告げる。
「はっ」
 敬礼を返してから、秀幸は早速解析に取りかかった。
「装置の内面までは分かりませんが、内部にエネルギーを集中させた後、増幅させるようです。台座はその制御に使われているもので、これは我々の技術でも再現可能でしょう」
「つまり、あのごろっとした部分を取り出せばいいわけだ」
 目深にフードを被ったメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)が呟く。いかにも裏切りそうな見た目ではあるが、使える人間なら誰でも使うのが教導団だ。
「どうやって運び出すんですか? 通路に引っかかりそうですけど……」
 鳳 美鈴(ふぉん・めいりん)が首をかしげる。
「ふむ……」
 と、クレアが思案したところに、秀幸がコンソールらしき場所に手を置いた。
「起動します」
 そうして、シールドが展開された。


 外から見れば、イレイザーの体を包み込む規模の輝くエネルギー・フィールドが展開されていた。
 それはぎらぎらと輝くシャボン玉のようにイレイザーを閉じ込め、伸ばしていた触手は力場にむちゃくちゃに乱されて、イレイザー自身の体にぶつかるか、あるいはちぎれ飛ぶものまであった。
「……たいした威力だ」
 ぽつりと、上空から観察していたヘクトルが呟いた。暴れるイレイザーを封じ込めているのである。
「……これなら!」
 蓮華が喜色を見せる。彼女が作った落とし穴にはまり込むようにして、イレイザーの体が砂の中から押し出されていく。シールドは自分を守るために砂を押し出す方向に力場を発生させているのだが、結果としてイレイザーの方を砂から遠ざけているのである。
「だが、永くは保たないだろう」
 ヘクトルの読みどおり、イレイザーが体をひねって暴れ始めた。


「……うわっ!」
 イレイザーが体をむちゃくちゃに揺さぶると、遺跡自体が振動しはじめる。こうなること自体は予見できたが、もう一つ、予測できなかった事態が起きていた。
「おい、何かにつかまれ! 吹っ飛ばされるぞ!」
 と、叫ぶのはアキラ・アキラ(あきら・あきら)。その視線の先には、ぐったりと体を崩した秀幸がいた。
「こりゃあ、あれですか。シールドを発生させるためのエネルギーは生体エネルギーだった、ってやつじゃなですかね?」
 ドロ試験体 一号(どろしけんたい・いちごう)がどこかのんびりした様子で言った。
「言ってる場合か! くそっ!」
 部屋の中の壁と床がひっくり返る。イレイザーが体をねじっているのだ。すると、シールド発生装置はぐらりとかしぎ、台座からこぼれ落ちた。
 イレイザーがかつて受けたことがない攻勢にさらされているのは間違いないが、喜んでいる場合ではない。装置が台座から転がり落ちたことでイレイザーの体を包むシールドは消え去り、暴れるのはおとなしくなったが……
 秀幸はものに掴まることもできないまま、遺跡の深い闇の中に消え去っていく。
「彼を助けなければ……」
「しかし、このままでは遺跡が崩壊する危険もあるぞ。今思いついたんだが、壁を爆破しながらなら、この装置を外に転がして出すことができそうだ」
 歯がみするハンスに、メンテナンスが告げた。
「それなら、僕が……」
 飛び出そうとする一寿。だが、ヘクトルの無情な通信。
『作戦の目的は装置の確保だ。装置が崩壊に巻き込まれては意味がない。装置を運び出すことを第一に行動してくれ』
 隊は、これに従った。メンテナンスは次々に壁を破壊し、アキラと一号が巨大な装置を押して転がしていく。一歩間違えばつぶされかねない上に、装置の故障もあり得る。それでも、運良くと言うべきか、丈夫な作りの発生装置は、砂の上に落ちるまで、無事だったようだ。砂漠という地形に救われたといえよう。
 麗や一寿は秀幸を捜そうとしたが、複雑な遺跡の中、短時間で秀幸を捜し出すことはできなかった。作戦を次の段階に移すため、撤退を余儀なくされた。
 秀幸を助けるためには、イレイザーを倒した後で探索隊を派遣するべきだろう、という判断がなされたのだ。