空京

校長室

創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション


砂漠のサメ

 イレイザーとの戦いが繰り広げられているポイントからしばし。
「……来やがった!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)の展開する魔法に、イレイザー以外の敵意が鋭敏に感じられた。
「砂漠はうまいえさが少ないからのう。これだけいれば呼び寄せられるのもふしぎは無かろう」
 上空の悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、ケイが示した方向を見やる。
 それは大まかに言って、黄土色の表皮を持ったサメの形をしていた。流線型の体は鱗に覆われ、砂の中を自在に動き回る岩のように大きな質量を自在に踊らせている。
「敵の居場所はケイが割り出す! わらわが大まかな場所に魔法を撃つゆえ、それを頼りにかかっていけ!
 ケイの指示を受けたカナタの魔法が、文字どおり砂ザメをあぶり出すように砂漠を舐める。それは正確に、サメのいる位置を捉えていた。
「確かに、砂の中を泳ぐサメというわけだ」
 その姿を眺め、感心したようにノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が呟いた。
「おもしろい。どんなものか、見せてもらおうじゃないか!」
 さすがに、契約者たちの存在に気づいたのだろう。サメが砂の中を跳ねるようにして進路を変え、ノアに向かってくる。
 が、ノアはその眼前に氷の壁を生み出し、がち、と鼻先を押さえた。
「ニクラス!」
「御意」
 それだけを答えて、ニクラス・エアデマトカ(にくらす・えあでまとか)が氷の壁に阻まれた砂ザメを殴りつける。サメは体をくの字に曲げて、砂中に吹っ飛ばされた。
「向こうの巨獣とそう変わらないね。しつけて乗騎にできるかな?」
 ノアは楽しげに思案した。それならばまず、力の差を見せてやらなければ。
「おおっ……これは、やれるか!?」
 戦えている。そう判断して思わず身を乗り出したのは、イザナギ 京(いざなぎ・きょう)
「俺たちの実力じゃ、まだ援護が精一杯ってところだねぇ」
 砂に身を伏せ、他の仲間を狙っているサメに威嚇の砲撃を浴びせながら、ワーンズワイス・エルク(わーんずわいす・えるく)は肩をすくめた。
「それなら……」
 ふと、そのすぐ隣に人が立っていた。パワードスーツ状の魔鎧ラスト・ミリオン(らすと・みりおん)を着たナイン・ルーラー(ないん・るーらー)である。
「突撃するから、上手に援護して」
 じゃきっ、と銃を構えるナインに、
「ようし、任せて」
 ワーンズワイスが答える。
 ケイの魔法が捉えたサメをノアがひるませる。そのただ中に、ナインは突っ込んでいった。
 砂中を移動するサメを狙うのは難しい。だが、細かく狙いをつける必要はない。動物である、ひるませることができれば、攻撃よりも生存を選んで身を翻す。
 そこにラストの防御力に任せて突っ込んだナインの接近射撃が浴びせられていく。
 戦いが始まって数分で、砂ザメの様子は変わってきていた。ひるんでいるのだ。


「そうだ!」
 ぴこーん! と頭の上に豆電球を光らせて、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)は手を打った。
「またろくでもないことを思いついた?」
 エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)がぽつりと呟く。
「今度はれっきとした作戦! みんな、協力してくれやがりなさい!」
 飛空挺に乗って上空から指示を飛ばす雲雀。その手から放たれる魔法が、砂ザメの頭を押さえるようにあぶる。
 たまらず砂中に逃げ込むサメ。今はもう、狩られる側である。危険な契約者たちから逃げようとしているのだ。
「そっちに逃がすのは危険だぞ!」
 サメの進路に気づいて、源 鉄心(みなもと・てっしん)が声を上げる。
「逆! こっちが一番有効です!」
 サメを追いながら、その逃走経路を誘導するように魔法を放つ雲雀。その背後ではエルザルドが手にした芭蕉扇から激しい風を生み出し、炎を煽ると同時に砂を巻き上げている。
「鉄心、もしかして……」
「そうか、そういうことか」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)のつぶやきに、鉄心も頷く。二人は騎乗するペガサスを飛ばし、砂ザメの集団の前に飛び出した。
「こっちです!」
 ペガサスの高度をぎりぎりまで下げて、飛ぶ速度はそのままにギャロップが砂を叩く。砂中のサメに、人間以外の生き物がいる、と知らせることで引きつけているのだ。
「敵も作戦の一部とする……というわけか、なるほど」
 もはやサメと言うよりイワシの群れのようになって砂の中を逃げる砂ザメ。その群れから離れようとすれば、鼻先を鉄心の銃弾が叩き、驚かせるのだ。すぐに群れの中に舞い戻ることになる。
「うわわわわっ! 何、何が起きてるの!?」
 慌てたのは、その進路上で撃退体勢を取っていたユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)である。ここを通すなと言われているのに、何十匹ものサメが向かってきているのだ。
「引きつけて! ぎりぎりになったら助けるから!」
「そんな無茶な!」
 雲雀の乱暴な指示に、ユーリにできることは転身して必死に走ることだけであった。
「お、お父さん! 待ってください!」
 その後を追うユゥノ・ユリン(ゆぅの・ゆりん)。果たして、人間に脅威を覚えたはずのサメたちが二人を追いかけるのはメイド服の魔力によるものであろうか。
「……ってええ! こっちはまずいよ!」
 メイド服を振り乱して走るユーリの目前には、山の如き巨体……イレイザーだ。
「それが狙いです! こいつらをイレイザーにぶつけて、砂の中からイレイザーをかく乱してやるです!」
 と、雲雀。砂ザメはイレイザーに比べれば小さいが、足下を泳ぎ回られればイレイザーの感覚は鈍るだろう。そうなれば、契約者たちにとってはかえって戦いやすいというものだ。
「そ、そうか……ようし、走るよ、ユゥノ!」
「は、はい! 分かりました!」
 名誉挽回に燃えるユーリは全力でサメたちを引きつける!
 砂漠では無敵の捕食者たちも、作戦に乗せられて追われる側だ。その前方にイレイザーがいると分かっても、生物の本能に従うのはふしぎではない。すなわち、その足下をくぐり抜けても全体の何割かが捕まるかもしれないが、全滅覚悟で人間と戦うよりはマシだ、ということだ。
「本隊への連絡完了。タイミング合わせろ!」
「やれやれ……!」
 逃げるユーリたちの頭上に、鉄心とティーの乗るペガサスが向かう。これ以上はイレイザーの触手が届く範囲である。その直前に、ぱっと二人のぼーいずめいどが飛びあがり、ペガサスの上へ避難する。
「しっかりやりやがりなさい!」
 とどめにムチをくれるように広範囲に炎を降らせ、雲雀が叫ぶ。
 果たして、砂ザメはイレイザーの足下を泳ぎ抜けて逃げることを選んだ。イレイザーはこのちん入者に驚き、触手を用いて撃退に当たる。
 それが、イレイザーを相手取る部隊にとって、格好のタイミングになった。