First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last
リアクション
おもてなし(2)
「あっ! 来ました! 来ましたよ!」
調理場から食事会場まで、フレンディスに手を引かれた鳥人型ギフトが運ばれて……もとい連れられて来た。出迎えたのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)とセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)である。
「♪鳥型ギフトさ〜ん、鳥型ギフトさ〜ん、ニルヴァーナからやってきた〜♪」
歌っているのはヴァーナーただ一人、セツカはあくまでその護衛である。愛するヴァーナーを守ることはもちろん、本日の主役を狙う者が居ないとも限らない。頬こそ柔らかく笑っているが目だけは鋭く光らせていた。
「♪あなたはどんなわるいヤツでもやっつける〜、あなたはみんなを守れるつよい人〜♪」
よいしょも込みで、期待も込めて。貴賓へ捧げる歌で鳥人型ギフトを迎え入れた。
席へと案内させる最中、またその後もヴァーナーはギフトを前に歌い続けていた。その舞台袖では、
「ここはオレたちの出番だな」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が瞳を輝かせていた。
「不測の事態に対処できてこそ真の表現者!! 今こそニルヴァーナ校の実力を見せる時っ!!」
料理が届くまでの間どうにかこの場を「繋ぐ」必要がある、しかもそれが「おもてなし」と見られたならそれはもう言うことなし。今こそ生徒全員で力を合わせて場を繋ぐべきだ、と。
「いいか、仮装大賞でもビデオ投稿でも絶対点を稼ぐネタってのがある。それは何か、はい、リーブラ!」
「へっ?! わたくしですか?」
急に振られてリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は戸惑うばかりに、
「え……と、動物、でしょうか」
「惜しい! それも正解、だが違う!! 答えは「子供」! 無垢な子供を前にすれば多少下手な演技でも、誰でも点をくれてやりたくなるってもんだ。ましてやここは学校だぜ? 結果は見えてる、明らかだ」
「はぁ……」
「つまり生徒だけで結成した「ニルヴァーナ少年少女合唱団」が歌を披露すれば鳥人型ギフトも満足するってわけだ」
「あ……でも、ニルヴァーナ校はまだ開校準備中で……その、生徒はいない……かと」
「え?」
校舎も完成していない学校に何故生徒が居ると思ったか。勘違いとは恐ろしいものである。
「ア、アイディアは良かったと思いますわ! 魂胆はともかく」
「………………な、ならば! オレのシャンバラクラシックを聞けぇ!!」
「えぇっ!!」
光に包まれリリカル変身。魔法少女シリウスがギター片手にステージに上がる。
リーブラもステージに連れられて「わ、わたくしたちの歌をき、き、……聞けぇ〜!?」なんて言わされていた。
まぁもっとも彼女の場合は、態度ほど嫌がってはいないようだし。
しばし歌声に酔いしれるとしましょうか。
ヴァーナーに続いてシリウスたちのロックラシックステージ。これに続くはロックアイドルユニット『ラブゲイザー』の二人だった。
「え?! ここでライブ?! 打ち合わせもなしにそんな……」
ディーヴァ響 未来(ひびき・みらい)が当然の戸惑いをみせる中、
「そんなの、いつものことでしょ」
と応える琳 鳳明(りん・ほうめい)は淡々と準備を進めていた。自身のベースを肩にかけると、「いつもはちゃんと打ち合わせてるじゃないっ!」なんて言ってる未来の胸に、彼女のギターをスッと突き出した。
「行くわよ。ファンが待ってる」
「鳳明ちゃん……」
視界の隅に見えた「ホワイトボード」には「GO!」と書かれている。これは藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)の言葉だろう。彼女はこの短時間に、音楽科の備品として持ち込まれていたマイクやらアンプやらを拝借して見事、即席のステージを構築したようだ。「まぁ僕でも……簡単なセッティングくらいは出来る……と思う」なんて言っていたようだが、それなりに見栄えのする立派なステージが出来上がっていた。
「し、しょうがないわね!」
「えぇ。行きましょう」
腹はくくった、もう迷わない。
「よ〜し☆ミクちゃんいっくぞ〜☆」
ロックアイドル『ラブゲイザー』の熱いステージが始まった。
「楽しんではりますか?」
不自然な丁寧関西弁でギフトに近づいたのは日下部 社(くさかべ・やしろ)、芸能事務所846プロダクションの若き敏腕社長である。
「どうや? うちの娘らのパフォーマンス、なかなかのもんやろ」
「ふむ。実に見事だ、素晴らしい」
「せやろせやろ。あぁせや、他には何か無いか? 何かこう、感じるもんがあるとか無いとか」
「ん? ふむ。ふむ、なるほど。そういえば胸の奥がザワめくと言うか、羽が騒ぐ感じが……いや! 何だ?! どうもじっとしていられんぞ! 何だコレは!!」
「やっぱりそうか! 俺の勘は正しかったようやな!」
社は得意げにマイクを手に取ると、
「一目見た時にティンとキタんや! キミ、アイドルやらんか?」
「アイドル?」
「そうや、うちでプロデュースするで。ほれ! まずはステージ上がってみぃ!!」
鳥人型ギフトにマイクを握らせて強引にステージに上げた。
「思ったままに踊ればええ! 歌いたくなったら叫べばええんや!」
戸惑うギフト、ただただ立ち尽くしている。当然だ。ズブの素人がいきなりステージに上げられてパフォーマンスをしろと言われても……まして歌ったり踊ったりなんて……。
と誰もが思っていたのだが―――
「おぉ…………おぉ!!」
己のビートを感じたのか、社が見抜いた才能か。ギフトは次第に勝手にリズムを刻み、『ラブゲイザー』の曲にあわせて踊り始めていた。
「おぉおぉやっぱりや、踊れるやんか、あの羽も舞台映えするしな―――おっ! 何や! 目を閉じて踊っとる! 目隠しか?!! 目隠しでステップを?!! はっ!! 目隠しのステッ……まさか即興で、初ステージで表現しよう言うんか?!!」
何たる大きな原石を見つけてしまったのだ、と社は興奮していたが、客席で見ていた多くの者には「フラミンゴが灼熱の浜辺で熱がっている」ように見えたという。
まぁ、今は原石、可能性。本人もノリノリで踊っているようだし、いろんな意味で客の目も集めてる。料理が届くまでの間、鳥人型ギフトはステージ上で大いに汗を流したそうだ。
First Previous |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
Next Last