空京

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創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
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リアクション



希望と従事

 校舎の北側エリア、「PS(パワードスーツ)整備場」。
 建物の外観は大方完成、また敷地内の床面の舗装もほぼ終えていた。工事は順調、他のどの建築物よりも早く完成が見込める、そんな状況だと言うのに―――
「もう一棟つくるだと?」
 三船 敬一(みふね・けいいち)が聞き返す。
「どういうことだ、整備場は完成間近だろう」
「だからこそ、だ」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)が応える。「あとは内装と機材の搬入をするだけだ、工員の手が余る、もう一棟くらい俺たちなら建てられる」
「建てるって何を」
イコン整備場だよ。さっき連絡があった、この北エリアに建てる事が決まったそうだ」
「だからって……こっちの整備場を完成させるのが先だろう」
パワードスーツの次はイコン、それから飛空艇だと考えていた。ちょうどいい機会だろう?」
 彼らの仲間内は六人、そこに教導団員たちを加えた大所帯で工事を行っている。「PS整備場」の建設状況が知られれば遅かれ早かれ協力要請は来るだろう。
「分かった、隊を分けよう。工員はそっちの方が必要だろう?」
「助かるよ。岡島(岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ))と大田川(大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち))には引き続きこちらを手伝って貰おうと思うが」
「構わない。あぁそれなら高嶋(高嶋 梓(たかしま・あずさ))と山口(山口 順子(やまぐち・じゅんこ)を貸してくれるか。それから天城(天城 千歳(あまぎ・ちとせ))もだな。物資の搬入手続きと書類作りを頼みたい」
「わかった。話しておくよ」
 岡島大田川も整地作業は慣れたものだ。こちらの敷地に隣接して「イコン整備場」を建てる事になるだろうが、さほど時間は掛からないだろう。出来るだけ早く施設の基礎工事に取りかかりたいものだ。
「だんだんと形になってきたなー」
 整備場を見つめた猿渡 剛利(さわたり・たけとし)は実感を込めてそう言った。彼は今、三船と共に機材を搬入を行っている。乱雑でも整備場内に機材が運ばれ埋めてゆく光景は、整備場の完成が近いことをヒシヒシと物語っている、そう感じていた。
「感じるのは勝手だけどね、」
 手を止めずに三船 甲斐(みふね・かい)が言う。彼女の仕事は運ばれてきた機材のメンテナンスだ。
「そう次から次に持ってこられても、追いつかないよ」
「そんなこと言ってー、楽しんでるくせに」
「んー? そう見えるかい?」
 誰がみても明らかだ。甲斐の瞳はルンルンに踊っている。
「まぁ、あっちはだいぶ溜まってるみたいだけどね」
「あっち?」
 視線の先にウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)、「一体いつになったら戦えるんだよ!」なんてボヤキながらも、それなりに丁寧に機材の設置している。彼はメンテを終えた機材の整理と管理を担っているようだ。
「戦いたいなら、こんな所に居るべきじゃないよなぁ」
「ダメだよ、彼は貴重な人材だからね。腕力があるのに機材メンテナンスの重要性をちゃんと理解している。そんなの、めったに居ないんだから」
「なるほど。顔に似合わず「適材適所」だったわけだ。―――っと、」
 言って思い出した。猿渡高崎 朋美(たかさき・ともみ)を呼び止めた。
「私?」
「正解。じゃなくて、あとで向こうの現場に来てくれってさ。イコンの整備場を作るから、その事で」
「分かったわ。でも、あとで良いの?」
「あぁ。発案者とかも来るらしいから、その時に居て欲しいんだそうだ」
「役に立てるかしら、私なんかで」
「よく言うぜ。天学が誇る敏腕整備士さん」
「褒めても何も…………いえ、調子に乗るわよ」
「はっはっは、良いんじゃねぇの? そういう乗り方なら」
 天御柱学院の整備科でイコンの整備を中心に学んでいる。その知識と経験はここでも生きることだろう。これこそ立派な「適材適所」か。
 「イコン整備場」。その建設に関わる者たちの志気はみな高い。他の施設に比べて工事の開始こそ遅れたが、予定よりもずっと早くに形になるかもしれない。


 校舎の二階、とある教室、その窓際において本宇治 華音(もとうじ・かおん)マーキー・ロシェット(まーきー・ろしぇっと)は作業を行っていた。
 順に教室を回り、窓にガラスを取り付けてゆく。つい先程一階部分は全て終え、今は二階での作業に取りかかっているのだが―――
マーキーマーキー!」
 窓枠を隔て、教室内の華音が窓の外のマーキーに言った。
「よそ見をしていると危ないわよ。私が」
「私が?!!」
 機晶姫であるマーキーはウィング付きの全身装甲姿で窓の外に、すなわち飛行状態で外からガラスを押さえる役割を担っているのだが―――
「どうしたの? そんなにモジモジして」
「それはっ! …………だって、これ……」
 一階で作業をしていた時は我慢できた、しかし作業場が二階になれば彼は空を飛ばなければならなくなり―――急にヒラヒラが気になって……というより恥ずかしくなったようだ。
「恥ずかしくて当然だよ! こんな格好、やっぱり恥ずかしいよっ!!」
「まぁ。大変似合ってますわよ」
「うぅ……どうして僕がこんな……」
 こんな格好、これすなわちピンクが基調のスカートっぽい装甲服を指している。マーキーは男の子である、ゆえに今の姿は女装状態、いや「女の子」に見えてしまう。スカートのヒラヒラが気になるのも当然だろう。
「もう……」
 マーキーが落ち着くまで、というより腹をくくるまで、華音は少しばかり待つことにした。
 窓の外、上空にはニルヴァーナの黒い月が見える。この月が、のちに落下してくるのだという。
「こんなにキレイなのに……」
 もし本当にこの地と衝突するような事になれば逃げる余地は無さそうね、なんて考え始めて……すぐに止めた。
 考えるだけ不安が増す。不安をマーキーに気付かれない為にも、今は目の前の仕事に専念しよう。華音は改めて自分にそう言い聞かせたのだった。

「ほぉ。なるほど」
 校舎の一階、保健室とその隣室を見てダン・ブラックモア(だん・ぶらっくもあ)はそう漏らした。
「悪くないんじゃないか? なぁ、アメリ
「………………」
アメリ?」
 アメリ・ジェンキンス(あめり・じぇんきんす)は応えない。それどころか自分で車椅子を動かしてこの場から去ろうとした。
「おいアメリ! どうした?!!」
どうせ治らないわ
「は?」
「何でもない」
 見たところ医療機器も一通り揃っているし、学部が発足するとなれば大学病院のような機関になるという事だろう。だとしたらそれなりに期待はできるかもしれない…………それでも―――
「大丈夫だ」ダンが車椅子の前にしゃがんで真っ直ぐに、
アメリの病気はきっと治る。ここで、ここの医学部で治そう。なっ」
 またそんな無責任な……。アメリは確かにそう思って、そう思ってからアメリは目線を膝元に落としながらに、小さく「うん」と呟き応えた。

「はい、これがカリキュラム案、こっちが備品の申請一覧ね」
 校舎内廊下を歩みながらに月音 詩歌(つきね・しいか)ラクシュミにそれらを手渡した。「午後の会議のまとめは、日が変わるまでに終わらせるよ」
「新規の建築物に関してだよね。それは明日までで良いわ、ありがとう」
 詩歌は今日もラクシュミの補佐役を務めている。ラクシュミはこの後、各エリアの建設地を回る予定になっている。
「あっ、あそこ! あの入り口のところ!」
 詩歌が窓の外に指を向けた。そこは校舎の入り口だった。
「あの辺に建てることになるんじゃないかな? ラクシュミちゃんの銅像
「あの、ね、そのことなんだけど……本当に建てるの? 私の銅像」
「なに言ってるのー? ラクシュミちゃんもオッケーしてたでしょ? ねぇ?」
 同意を求められたセリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)が「そうじゃのう」と応えてから、
「確かにわしもこの耳で確かに聞いたぞぃ。恥ずかしそうにしてはいたがな、それ以上にわしには喜んでいるようにも見えたぞい」
「そっ! そんな事ありませんよっ! ちゃんと建設の意図と詳細を聞いた上で他の案件と同じように適切に判断ちた―――うぅ、ベロ噛んだ……」
「無理するからじゃ。顔、ニヤケとるぞ」
 学校の入り口に校長の像を建てる。これは割と一般的な話だろう。それに加えて今回は中庭にも鳥人型ギフトの銅像を建てることが同じ議場で決まっていた。こちらはただの機嫌取り、ラクシュミの像の建設は満場一致、反対する者など一人も居なかったという。
 校舎を出る前に一行はロック・バロック(ろっく・ばろっく)アルム・アー・シー(あるむ・あーしー)に出会った。場所は一階トイレ前。
「さーて、どーしよーか」
「どうしましょうね」
 腕組みをして考える二人。
「もっと、もっと良い「便所ライフ」があるはずだよな」
「そうね、もっとロックな「トイレタイム」がきっとあるはずよね」
「水は限られてる……水を垂れ流しに出来ない状況だからこそ、だからこその何か……」
「この土地特有のもの……それを使って何か……」
 じっと少しばかり黙った末にアルムが一言、
イレイザー……かしら」
「!!! なるほど、イレイザーか………………あるな」
 …………あるかなぁ? 放っておくと物騒なトイレが出来上がりそうだが、ラクシュミたちはスルーした。ここはひとまずスルーして泳がせる事にした。
 イレイザーを使った水道システムなんて想像もできないが、もし実現したならそれはそれで素晴らしい。実にアクロバティックなトイレになる事だろう。
 自由な発想が溢れている。この学校はまだまだまだまだ面白くなりそうだ。