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リアクション
小暮 秀幸、投げられる
「本気……なのか?」
大岡 永谷(おおおか・とと)は、半歩前を進む小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)に声をかけた。
「当然だ。この作戦で、今までの迷惑をすべて帳消しにしなければ、教導団に戻れない」
秀幸は、丸めた頭よりもはっきりと分かる、鋭い眼光で答えた。
「本気だっていうなら、作戦の準備はできてる。今、イレイザーを砂中に釘付けにしている。頭上からは触手での対応が予想されるから、死角をつくってそこを突けばいい。でも……」
「危険すぎない?」
言いよどむ永谷の代わりに、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)がそっと付け加えた。
「あのイレイザーにダメージを与えるには、一度に大量のエネルギーを与えなければならない。その手段として、この超宝珠は理想的なツールになり得る」
ぐっと手の中の怪しげな丸い物体をつかみ、秀幸は呟いた。
「……お前が、そこまで言うなら……」
「いいえ、認められません」
戦場に向かおうとする彼らの前に、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が告げた。その両手は剣呑きわまりない光条兵器をすでに構えている。
「なっ、ど、どういうつもりですか!」
思わず叫ぶ永谷に、エシクは静かに一瞥を向け、すぐに秀幸に戻した。
「秀幸、私は力尽くでも止めます。私の攻撃をしのげる確率が1%にも満たないことくらいは分かりますね?」
「……ほ、本気ですか?」
「あなたが選択できる未来は二つです。この場で私に斬られるか、素直に情報科の役目に戻るか……イレイザーに自爆特攻など、この私が許しません」
ぐぐぐ……と、エシクの手に握力がかかるのが分かる。緊張感が高まっていた。その時だ。
「待って!」
横合いから声をかけられた。そこにいたのは、ニルヴァーナ校に出向いているはずの金本 なななだったのだ!
「金本少尉!? なぜこんな所に……」
読者諸兄に先にネタをバラしておくと、この場にいるのはなななではない。ニンジャの技を究めたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)だ。エシクに足止めさせて、秀幸を引き留めるために変装しているのである。その点を踏まえて、以下をお楽しみください。
「そんなの、小暮君らしくないよ! 超宝珠の爆発に巻き込まれたら100%生還できないってことくらい、私でも分かるよ!」
「自分が皆にかけた迷惑を考えればこれくらいは当然のことだ」
捨て鉢気味の秀幸に、ななな(に変装したローザマリア)は首を振った)
「何言ってるの! そんなの全然関係ないよ!」
「いや、でも少尉が……」
「小暮君の莫迦っ!」
バチィ!(1 HIT!)
「はぶっ!?」
ローザマリアの平手が秀幸の頬をばっちり打った。その背後で、エシクは光条兵器をしまっている。
「死んで欲しくないんだよ! 死んだら、もう終わりなんだよ!」
「お、落ち着いてくれ、金本さん!」
その勢いで抱きつこうとするローザマリアを永谷が落ち着かせようとしている。
「その通りですぅ!」
だが、秀幸を止めるためにやってきたのは一人だけではなかった。
「今回の作戦目的はイレイザーを倒すことではないですぅ。特攻して超宝珠を爆発させたら、シールド装置やイレイザーの胸の水晶まで破壊してしまうかも知れないですぅ」
「そうなれば、イレイザーを倒せても作戦は失敗です。指揮官になるつもりなら、作戦の目的をはき違えないでください」
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)と、アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)の言葉に、秀幸はハッとした表情を浮かべた。
「そ……そうだった。確かに、自分はなんてことを……」
「ちょっと待ったぁー! 自爆なんてことはさせないよ!」
ばぁん! と集中線を浴びて登場したのはリリィ・ルーデル(りりぃ・るーでる)。
「キミには想像力がないの!? そんな自爆をしたって、『やったか!?』って叫ぶともくもく煙が晴れていくとほとんど無傷の敵が堂々と現れるのが常識でしょ!?」
「い、いや、そんなことを言われても……」
頬を押さえながら、何を言い返していいか分からなくなっている様子の秀幸。
「私の未来にはこんな記録があった……気がします」
勢いづくリリィの背後から進み出た七志乃 のなめ(ななしの・のなめ)が、胸に手を当てた説得を試みるポーズでじっと秀幸を見つめる。
「元超魔王小暮秀幸は贖罪のため、超宝珠の力を暴走させて『ひとりぼっちはさみしいもんな』などと口走って自爆するもイレイザーは無傷……そして、3話にわたるキャンペーンの結果生き返るのですが、それが原因で未来は……ああっ、これ以上は口にできません!」
「どこから正せばいいんだ……」
思わず呟く永谷。
「な、なんだか分からないが落ち着いてくれ、確かに、クレセント殿の言うとおり、超宝珠で自爆する作戦は効果が薄いと……」
「バカヤローッ!」
大音量の叫びと共に、秀幸の背中を結城 奈津(ゆうき・なつ)のドロップキックが急襲!(2 HIT!)
「なぜぇっ!?」
「てめぇ……てめぇは立派にヒール(※彼女らの業界では悪役を指す)を勤め上げてたじゃねえか!」
吹き飛ばされた秀幸の首根っこをつかんで切れ味鋭い水平チョップの連打。そして、どこからか取り出したマイクに力の限り叫ぶ。
「お前のデーモンぶりに乗って共に盛り上がった仲間がいるんだろう! そいつらと共に作り上げたショーを恥じるんじゃねえ!」
とどめは首刈りラリアットである。(5 HIT!)
「その通りだ!」
ボグシャー!(6 HIT!)
美しいフォームで拳を突き出した鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が、震える声を絞り出す。
「超魔王が何だ! 俺なんか超狂戦士ですよ!? あんなことはなかった! よしんばあったとしてもこの世界中に気にしてる人なんかひとりもいないはず! ええ、そうに違いありません! もう終わったことの上に、別世界の話……だから、その話をこっちに持ち込んで来ないでください!」
第四の壁に挑みかからんばかりの勢いの貴仁。
「あと自爆しても仕方ないじゃないですか!」
付け加えるかのごとく叫びながら、がくがくと秀幸を揺さぶる貴仁。
「それでも自爆を選ぶというなら、力尽くで止めます!」
そして、その体を天高く放り投げた! 空中できりもみ状に回転する秀幸を見上げたのは、
「これ以上のシリアスはこの私が許さない!」
と眼鏡を光らせるリリィと、
「分からずやめコノヤロー!」
レスラー魂に火がついて大炎上を起こしている奈津だ!
二人の腕が秀幸の胴体に回される。そして重力に加えて、ブリッジの勢いを利用して二人分の……いや、三人分の体重を相手の全身に打ち据えるツープラトンバックドロップ!
「……がはっ!」
(KO!)
かくして、秀幸の自爆特攻は力尽くで防がれたのであった……果たして、力に訴える必要があったのかどうかはまた別の問題である。
「やりすぎだ、奈津」
そのままフォールに持ち込もうとする奈津の後頭部を、ミスター バロン(みすたー・ばろん)が叩いて止めた。
「超魔王だったからといって小暮がそれを苦にして自爆などするはずがない。そんなことがこの作戦に影響するはずがないからな」
静かに、バロンが告げる。
「小暮には何か別の思いがあったに違いない……今はそれを確かめている時間はなさそうだがな」
「一応、回復はしておくけど……これは、自爆どころか作戦参加もアブなさそうだね」
泡を吹いている秀幸に癒しの魔法をかけながら、鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)が周りを見回した。
「う、ううんと……とりあえず救護に回してくれ。小暮には一度、作戦から抜けてもらうか……」
あまりにも勢いよく進んだ事態にぽかんとしたままの永谷も、さすがに秀幸のことが心配になってきていた。
「……というわけで、名誉の負傷を受けた小暮少尉に変わって、作戦の主旨を説明する」
トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の通信が、戦場に広がった。
「第一段階は、イレイザーの戦意を煽り、やつが地中に逃げ込まないように注意を引くこと」
「この段階は、すでに成功と言っていいわ。交戦中の部隊は、引き続き、やつの戦意を煽って」
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が、付け加えるように言う。
「やつが戦いに夢中になっている間に、シールド回収部隊が遺跡に突入してシールド発生装置を確保。確保が完了次第、胸部のクリスタルを奪取するための集中攻撃を行う」
その二点が、今回の作戦の目的である。
「そして、両方の確保が確認できた後、小暮少尉が届けてくれた超宝珠を使ってイレイザーに致命傷を与える!」
「私たち、龍雷連隊はイレイザーの注意を引くために全力を尽くすわ」
「イレイザーを倒すために必死になる必要はない。総員、総力を尽くしてくれ!」
通信が終了する。
本格的な戦いが始まろうとしていた。
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