空京

リアクション

砂漠の決着

「ニルヴァーナ校の成立はこの一戦で決まるぞ。もう胸の水晶は気にしなくていい、頼むよ！」
　曖浜　瑠樹（あいはま・りゅうき）の指揮する部隊が一斉に銃を構え、波状攻撃を加えていく。
「ううっ、まだ動けるなんて、やっぱりやりにくいです！」
　波状攻撃の中核はマティエ・エニュール（まてぃえ・えにゅーる）だ。手足や触手を狙って飛び回り、槍を振り回していく。
「こ、後方は任せてくださいー！」
　支えているのは、レジーヌ・ベルナディス（れじーぬ・べるなでぃす）率いる輸送部隊だ。最後の一押しである。絶対に物資を切らすわけには行かない。だからこそ、彼女は部下と共にこの最前線まで補給を届けに来たのである。
「すまない、助かるよ……って、こりゃ、ちょっとやばいな」
　瑠樹の視線の先では、だらんと垂れた下あごを振り回し、炎をはこうとするイレイザーの姿。
「撤退だ、下がれ！」
　指示を飛ばすが、何十人もの集団がそうそう簡単に下がることはできない。
「エリーズさん！」
「しょうがないなぁ！」
　前に飛び出したエリーズ・バスティード（えりーず・ばすてぃーど）の胸から発射される二連ロケット砲がイレイザーの首に突き刺さり、かしがせる。
「今の内、下がって！」
　その間に、瑠樹の指示する部隊が一斉にラインを下げる。
「こ、これっ、どうするんですか？」
　頭部に著しい損傷を受けながらも暴れ回るイレイザーに、困惑した様子のレジーヌ。
「いえ……これは、これでいいんですよ」
　マティエが答える。
「これでいいってどういうことよー」
　しぶとさにいらだちを募らせたエリーズが効くと、瑠樹は頭を掻いて答えた。
「一般兵の装備じゃ、イレイザーに傷をつけることはできないからねぇ。援護が精一杯だし、充分にやったよ」
「あっ！　それじゃあ、とどめを刺せる人が準備を終えるまで準備していたんですね！」
　レジーヌは思わず空を見た。まさに、その通りの状況が作られていたからだ。
　一組目。
「さあ、倒すぞ！」
「お仕置きですわね！」
　十文字　宵一（じゅうもんじ・よいいち）とヨルディア・スカーレット（よるでぃあ・すかーれっと）による、イレイザーの敵意をむき出しにしたギフトを使っての突貫。　
　二組目。
「隙を作って！　きっと、美羽が決めてくれるから！」
「水晶化の治療法研究のためには、水晶だけじゃなくてイレイザーもいた方がいいよね！」
　コハク・ソーロッド（こはく・そーろっど）の操作するゴーレムの援護射撃を受けた小鳥遊　美羽（たかなし・みわ）の、高高度落下攻撃。
　三組目。
「無茶ですよ」
「アレを倒すには、多少の無茶は仕方ないわよ！」
　御凪　真人（みなぎ・まこと）の手加減ナシの風術によって生きた砲弾と化したセルファ・オルドリン（せるふぁ・おるどりん）の、音速を数倍した突撃。
　それらがタイミングをぴたりと合わせて、一斉にイレイザーの頭部を狙う。
　スローモーションの中で宵一とヨルディアの構えるギフトがＸ字にイレイザーの頭に突き立つ。むちゃくちゃにイレイザーが吐き出す炎のブレスを左右に押し分ける真人の風を浴びて、下あごの無くなった口蓋をセルファの槍が貫く。衝撃が頭上に抜ける前に、その頭蓋骨を美羽のギフトが砕いた。
「離れて！」
　槍と剣が深々と突き刺さったイレイザーの頭部に向けて、真人が手を掲げる。膨大な魔力の奔流が、雷の形を取って流れ込んでいく！
　もはや悲鳴を上げる器官もない。イレイザーの頭部はぼろぼろの炭と化していった。
「……よし！」
　瑠樹は思わず拳を握りしめて、喜びを声に出していた。
「あ、あとは、水晶とシールドの運搬をお願いします！　みんなが待っていますから！」
　レジーヌも喜色ばんで声を上げる。すでにシールド発生装置と水晶は戦場から離されて、それぞれ必要な場所に向けて移送する準備ができている。
「あとは、遺跡の中に取り残された小暮を捜し出せば……」
　と、勝利ムードが漂ったとき……
　イレイザーの巨体がうごめき、一気に砂の中に沈み込んでいく！
「……なに！？」
　今、頭を焼き払ったはずのイレイザーが砂に沈んでいく。その姿に、思わず真人は声を上げた。
「ええっ、そんな！？」
　文字どおり全力の一撃を見舞ったのだ。美羽も体を動かせない。そも、何十人がかりで引き留めていたイレイザーにしがみついたところで、その動きを止めることなどできない。
　一同は呆然と、それを見送ることしかできなかった。


　頭を失ったイレイザーは、生物としての執念か、砂を巻き上げたかと思うと、砂漠のかなたへ逃げ出していった。
　その背中に乗せられたライゼのおかげで、居場所は分かっている。同じ砂漠の一角で、ほとんど身じろぎせずに回復に専念しているらしい。もっとも、頭を失った今、ゆっくりと体力を失っていくだけかもしれないのだが。
　小暮からの連絡は、まだない。ライゼも、単独での突入は危険と判断して帰投した。
　なお、探索隊および教導団はこの作戦を成功と判断している。シールドおよび水晶の回収が成功しているためだ。