校長室
創世の絆 第三回
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ドームへの突破口を開け2 「2時の方角に新たなスポーンが50体あまり潜んでます!」 エデッサからの通信が入った。グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)がロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)、を従えてエデッサに返答を返した。 「スポーンのほかにイコン、それに、ドーム内にも強力な敵がいる。 ドームに突入する者は、可能な限り無傷でいてもらわなければな。 こちらは任せてくれ」 「おう、頼んだぜ」 大吾が叫び、グラキエスは頷き返した。 「この数……力を加減している場合ではない。魔力を解放し、敵を殲滅する! キースは離れてくれ。万が一……暴走した時は、頼むぞ」 キースは首を振った。 「エンド、離れろなんて言わないで下さい。 君を助けるために私に出来る事があるはずです。 暴走した時の事なんて頼まないで下さい。そうなる前に、カタを付ければいいだけです!」 正面を見据えたまま、無表情に放たれた言葉であったが、最後の一言には、並々ならぬ気迫がこもっていた。 「……そうか」 グラキエスはまず、痛みを知らぬ我が躯で鉛のように重い己の肉体の苦痛と疲労を抑えこんだ。調整がうまくいかねば自分のみならずこの近辺のみなに被害が及ぶだろう。それをもう一度しっかりと意識して魔力を開放した。キースはすかさず防衛計画を用いて線路や道路に被害が及ばぬよう、慎重に周囲の建物を防御に適するよう爆破し、固まっているスポーンたちを分散化させる。グラキエスは瓦礫の陰から数体ずつ襲い来るスポーンに、ブリザードを見舞い、サンダーブラストで止めを刺してゆく。 「エンド……どうか無理しないでください」 祈るように呟くと、キースはスポーンが抜けてこようともがく半壊した建物を冷静に爆破した。 友の身を案じてやってきたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)とレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)だったが、現れた新たなスポーンの群れに驚愕を隠せない。 「なんだこの敵の数……グラキエスのやつこいつらを一人で引き受けようと思ってたなんて……本気かよ。 あいつ今体悪いんだぞ!。 こうなったら片っ端からブチのめして敵の数減らしてくぜ! その分グラキエスが戦う数も減るってもんだ!」 超感覚を作動させるや、ロアの頭部に太く捩れた羊の角が生じ、双眸はネコのそれのように瞳孔が縦に割れた。口元に生じた鋭い牙と、両手の爪。その姿はさながら悪魔か魔獣そのものだ。キースが爆破した建物を利用し、隠形の術を駆使してサイドワインダーで一体ずつスポーンを屠り、時に死角からブラインドスナイプスを食らわす。ヒットアンドアウェイの戦法で、着実に素早くスポーンの息の根を止める。絶対にグラキエスを守る。そのためなら手段は厭わない。ロアは戦場の魔物と化した。 「市街戦……か。アガテでの事を思い出すな……。 あの時より魔力も魔法も強力になった。充分に戦えるだろう。 動きを鈍らせて、ロアが動きやすいようにするかね」 レヴィシュタールはつぶやくと、奈落の鉄鎖でスポーンの動きをを鈍化させ、氷術でさらに畳み掛ける。そこをロアが確実に屠る。皆は着実に素早く、スポーンの数を減らしていった。 「とにもかくにも、ドーム突入のメンバーがすんなりと入り込めるよう、全力を尽くすのみ、ですね」 九十九 昴(つくも・すばる)が線路沿いの倉庫エリアに集くスポーンを見据えて呟いた。九十九 天地(つくも・あまつち)が静かに言った。。 「わらわもともに戦いましょう」 神凪 深月(かんなぎ・みづき)がうなずく。 「わらわもみなの助けになりたいのじゃ。このあたりはビル街、幸い隠れられそうな場所も多い。 物陰から狙撃しようぞ」 幼い少女の姿の魔鎧、リタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)が銀色の髪を揺すり、眠そうな目つきで――眠いわけではなく元からこういう目つきなのだ――深月を見つめた。 「リタも協力して戦います」 「要するに露払いだろう? 僕は僕に出来る範囲でしか助力できないし、するつもりもない」 リゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)が突き放すように言い放った。神凪がじいっとリゼネリの顔を見つめた。 「……素直でないのう。そこはみな同じじゃ」 リタが下からリゼネリの顔を覗き込む。 「己にできることをみな、ベストを尽くすんです」 そう言ってリタは瞬時にして神凪の鎧と化した。胴を覆う部分ははっきりしない黒い靄のようだが、漆黒のフード付サーコートにはリタの瞳の色と同じ鮮やかな紅でキメラが描かれ、頭髪と同じ色の銀のガントレットが日に輝く。 「まあ、同じ銃使い同士、協力して戦おうぞ」 神凪の言葉にリゼネリは軽くうなずいただけで何も答えなかった。その表情から何を思っているのか窺い知るすべはない。リゼネリに陰のように付き従うミレリオ・リガルハイト(みれりお・りがるはいと)が、静かにリゼネリに言った。 「私は貴方様を御守り致します。たとえどんなことがあろうとも」 「ああ……アーデ、頼む」 アーデと呼びかけられたミレリオは優雅に一礼した。 そこに白雪 椿(しらゆき・つばき)が遠慮がちに声をかける。 「皆さんのお力に少しでもなれれば……1人でも多くの負傷者さんを出さないよう頑張ります。 支援、回復スキルが使えますから」 白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)があわてて言葉を継ぐ。 「あ、あう…皆さん、頑張ってくださいませ……! 椿とともに、できるだけ負傷者を出さずに済むよう一生懸命お手伝いに努めますからっ!」 「私と天地は直接攻撃を担当します。周辺のスポーンをお願いします!」 昴が一度言葉を切り、蒼竜刀『氷桜』を構えた。牡丹の澄んだ歌声が響き、その場の全員に力が漲る。 「いざや、参りましょうぞ!」 「参りますっ!」 天地も呼応し英霊のカリスマを纏った。牡丹がすかさずスポーンに向かい、魔法防御を下げる効果のある歌声で前衛の支援をする。 「天のいかづちを!」 天地が直近にいたスポーンの一叢めがけて稲妻の札で招雷する。雷耐性のないスポーンが2体、体をこわばらせる。残ったものも不快げに口を大きく開き、触手をのたうたせた。そこに昴が風のような速さで舞うように近づき、アナイアレーションを見舞う。同時に天地がファイナルレジェンドで畳み掛けると、一気に10体あまりのスポーンが黒い塵となって霧散する。 その後部に控えていたスポーンが飛び出してくると、炎を吹きかけようと開かれた口めがけて神凪がピンポイントに狙撃する。頭部を砕かれたスポーンが3体、瞬時に分解する。 そこへ別の群れが、ビルの横手の路地から湧き出るように姿を現した。 「ここから先は……進入ご遠慮くださいませ!」 椿が丁寧な口調とともに、アシッドミストを路地に向かって繰り出した。怯むスポーンの一瞬の隙を突き、ガードラインとミレリオ本体に守護されたリゼネリが狙撃を行う。一体は胸に大穴を開けられ、もう一体は頚部に風穴が開き雲散霧消する。触手をうねらせて横から飛び出してきた個体は、ミレリオの闇黒ギロチンに怯んだところを神凪に狙撃され溶けうせた。 牡丹の歌に攻撃力を増幅された昴と天地がすべるように残りの敵に接近し、なぎ払う。スポーンたちは刈り取られた麦のようにばたばたと斃れた。 「ひと段落……でしょうか? お怪我した方はいませんか?」 牡丹の問いかけにミレリオが静かに答えた。 「襲ってきましたスポーンが無事ですまなかったようでございますが……。 皆様致命傷だったとみえまして……もうどなたもおいでではありませんね」 ドームへのルートを確保しているメンバーの後を追い、芝浦ふ頭では厳重に警戒する護衛に守られながら、突入部隊が比較的安全な列車中央付近の車両部に順次乗り込んでいた。全て収容したのを見計らい、香取は護衛メンバーを見渡し、澄んだ声で言った。 「とにかくなんとしてでもドームへと向かう部隊を無事送り届けましょう!」 護衛担当全員が、真剣な面持ちでどよめきをあげると、香取は玉兎を従えて車両前方へと乗り込んでいった。護衛を担当するもの達も、おのおの列車に乗り込み、持ち場に着く。 無人走行する列車がもう少しで竹芝に到着するというところで、突然ずしんと衝撃が走った。 「な、なんだ?!」 列車先頭にいた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、無人の運転席を透かして前方を見た。撃ち落とされたらしいイザナミが一機、大地に叩きつけられ、はるか前方の線路を横切って頭部から滑って行くのが見えた。 「せ、線路が……!」 その勢いと重量で、3メートルほどにわたって前方の線路が引きちぎられ、破損している。 ポータラカ人で、今回のミッションには銀髪紅眼の女性の姿をとっているンガイ・ウッド(んがい・うっど)が呻くように言った。 「このままでは……脱線してしまうな」 「……サイコネットで足場を作れば、何とかしのげるかもしれない。 けど……列車全体が通過するまで維持となると、どのくらい負荷がかかるか……。 フォースフィールドを展開するほど余裕がないかもしれない……」 「周囲の警戒は任せよ。幸いさほどの数のスポーンはおらぬ。列車が通過するまでの足止めで良いしな」 「……わかった! 一刻を争う、頼んだよ!」 東雲が精神を集中し、破損した線路の代用品を作り出す。 (なんとしても持ちこたえなきゃ……) 東雲は全エネルギーを集中した。額に玉の汗が浮かんでいる。線路に近づくスポーンを、ンガイが雷術で吹き飛ばす。多少ゆれたものの、電車は無事東雲の作成した箇所を通過した。 「や、やった……」 全ての力を使い果たした東雲はそのまま意識を失った。 「うむ、よくやったぞ」ンガイはそっと東雲の頭を座ったひざの上に置いてやったのだった。