空京

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創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション


ドームへの突破口を開け1

 クジラ型ギフトが接岸している黒い月の芝浦ふ頭は、2022年の芝浦ふ頭となんら変わりはなかった。上空に点々と自衛隊の所属を表す紅白のカラーリングを施されたイザナギ、イザナミが哨戒飛行し、雑踏の代わりにイレイザー・スポーンが蠢いている他は。
クジラ型ギフトへ向けての攻撃も、集中砲火ではないものの、依然間欠的に続いている。
芝浦ふ頭からの予定された道のりはスポーンや、そう多くはないとはいえイコンであるイザナミ、イザナギが哨戒に当たっている。敵の目から上陸メンバーを遮蔽するために、クジラ型ギフトは倉庫の密集するあたりに接岸された。

 月の中枢へ向かうメンバーは、彼の地で何に遭遇するかわからない。ドームへつくまでの間に消耗してはまずい。となれば護衛に当たるものと、ドームまでの道を切り開くメンバーとが必要だ。休養中の夏來 香菜(なつき・かな)のパートナーであるキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)がにやりと笑う。
「ドームまでの道なら切り開いてやるぜ! 手加減は要らない場所だし相手、思う存分暴れられるってもんだ」
「私たちはここでクジラ型ギフトを敵から守ります」
リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ)ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が何か言い出す前に機先を制して言った。
「……帰ってくる場所がないと、困ってしまいますからね」
「そ、そっか、そうだね」
ルシアはリファニーの言葉にこくこくとうなずいた。
「公的交通機関がスポーンたちとは無関係に地球と同様のダイヤで運行しているようです。
 無人ですし、突入部隊の護衛のしやすさ肉体的負担を考えますと、これらを利用しない手はないと思います」
香取 翔子(かとり・しょうこ)が提案する。長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が鋭い目つきで香取を見た。
「ギフト内から、列車やバスなどの運行状況は調査済みです」
白 玉兎(はく・ぎょくと)が言葉を添える。キロスも首を縦に振った。
「いい案かもしれないぜ? 列車を使うとなれば、道順は一本。
 突破するオレらも線路沿いに突っ込んでいきゃいいしな」
「……なるほど。確かに護衛はしやすいな。向こうさんもピンポイントで狙いやすいって点を除けば、だが」
長曽禰が皮肉っぽい笑みを浮かべた。
クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)島本 優子(しまもと・ゆうこ)を従えて立ち上がった。
「香取率いる隊がドームへと向かう部隊を護衛します」
香取が用意してあった地図データを示した。
「芝浦ふ頭に上陸後、竹芝まで北上、そこで大門まで地上を移動後に地下鉄に乗り換えます。
 月島に向かい、また乗り換え、東から千代田区へ……。
 可能なら有楽町、そこまで行けないようでしたら銀座からドームを目指してはどうでしょうか」
クレーメックが別ルートを指し示す。
 私の隊は有楽町方面への最短ルート、汐留で本隊と分離します。
 しかる後、新橋方面から千代田区へ向かう囮部隊として敵をそちらへ惹きつけます」
「……いいだろう。お手並み拝見ってやつだな」
長曽禰はそう言って壁に寄りかかる。一方のキロスは獲物を前にして興奮する猟犬のようだった。
「ドームまでの行動だが、陽動作戦エリアまではルートは保護しつつ手加減なしで。
 その後新橋方面への分隊との間は確実に殲滅しつつも、敵側の注意を引き付けないことが必要だな。
 あとは切り開いたルートの、突撃部隊が通過するまでの維持か」
「切り開いたルートの維持はお任せください。新星のメンバーと、協力してくださる契約者がいます。
 急襲作戦ではないですし、メンバーの保護を最優先で」
香取が請合った。
「んじゃ、あとは行動あるのみ、だな」
キロスは身を翻すと、露払いを引き受けた契約者たちを引き連れコントロールルームから出て行った。

 クジラ型ギフトを出てすぐの倉庫の影で、エッツィオ・ドラクロア(えっつぃお・どらくろあ)は呟いた。
「しかしここ……気味が悪いな……東京の街とほんとに瓜二つだ」
「あいつらを除けば、ね」
エデッサ・ド・サヴォイア(えでっさ・どさぼいあ)がうなずき返す。その目線の先、倉庫から程近い線路の向こうに幾匹かのスポーンがうろうろしている。あたりにいるスポーンやイコン全てがクジラ型ギフトに攻撃を仕掛けてきているわけではないようで、強い警戒行動ではなく、さながら獲物を探しつつ哨戒にも当たっている、巣の近くにいるアリのような動きだ。エデッサは早くも武器を構えるキロスに声をかけた。
「キロスさん、先発の部隊の行動ですが、私どもから提案があります」
「ん? なんだ?」
「遮蔽物の多い市街戦だし、敵の数もこちらを凌駕していると思われます。
 ボクらが偵察に行けば、ルートは決まっているわけですし、いくらかなりとも有利でしょう」
「んー。そうだな。よし、任せた」
「了解です」
二人はすべるように倉庫の影から影へと移動していった。ルート上のスポーンの数や、周辺の遮蔽物についてもぬかりなく無線でキロスらに伝えてゆく。エデッサがスポーンを目視し、情報を入力しながらつぶやいた。
「歯がゆいですね、何も出来ないというのは」
「こういう地道な行動が大事なんだ。戦うだけが作戦行動じゃないって事だな。
 実際情報ひとつで、大きく戦況が変わる事だってある。情報収集は戦争の基本だよ」

 油断なくあたりを見回しながら前進するキロス。そのさまをじっと見つめている男がいた。如月 和馬(きさらぎ・かずま)だ。
(パラミタを救う方法は一つだけとは限らない。複数あってどれを選択するかで意見が分かれた時どうなるか……。
 その際、キロスはへクトルを説得できうるかもしれん。ここはひとつ知り合いになっておきたいものだな。
 ……恐竜騎士団員としては入団してもらいたい人材でもある)
和馬はキロスに向かい、軽い調子で話しかけた。
「あんた、ヘクトルの弟だそうだな」
「ああ……それがどうした」
キロスはどうでもよさそうに応じた。
「いや、兄貴とはずいぶんタイプが違うと思ってさ。どう思ってるのかなーっと」
「ヘクトルは使えねえダメ兄貴だな。まぁ事務屋としては凄腕だ。
 事あるごとにコンモドゥス家の一員であるからにはまじめに働けとか、うるせえこと言ってこなきゃ、いい兄貴かもな」
(とすると、兄弟反目ってわけじゃないんだな……)
和馬のパートナーアーシラト・シュメール(あーしらと・しゅめーる)もやはりキロスから情報を……と考えていた。
(わたくしとしては夏來香菜という存在はどうも何か引っかかりを感じる……。
 手の早い暴れ者という印象ですがパートナーである夏來香菜に一目ボレというのも、女性に免疫がないのかもしれません)
「キロスさん、わたくしもちょっと伺いたいことがあります」
腰椎に響くような低く甘い声音だ。
「ん? 何だ?」
キロスが振り返った。アーシラトは一度目を伏せ、ゆっくりと上目遣いにキロスの目を見つめ、その腕にそっと手をかける。
「香菜さんとはどういう経緯で契約なさったのかしらと思って……」
キロスは無表情にアーシラトを見返し、そっけなく巻きついた腕を払った。
(何……? 女好きのくせにわたくしの色香に動じないと言うの?)
「昔、空京でバカやって暴れていたときにな。修学旅行で空京に来ていた香菜に拳でブン殴られたんだよ。
 オレはな、香菜の気風の良さに惚れ込んだんだよ」
「……それだけだと言うの?」
「理由としちゃ十分だろ?
 さーて。そろそろ偵察隊もだいぶ離れた。近場から露払いと行くか」
無限 大吾(むげん・だいご)セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)を見やって言った。
「スポーンと戦って蹴散らすぞ。そしてドームまでの道を切り開くっ!」
 セイル、準備はいいな?」
「ええ、いつでも行けます。奴等を排除しましょう!」
「よーーーし、行くぞ! キロスくんに続けーーーっ!」
エッツィオがあわてて無線で呼びかけてくる。
「皆さん、線路とその周囲を破壊しないように気をつけてくださいっ!」
「わかってるって!」
キロスが突撃しながら叫び返した。
最初に遭遇したのは数十体だった。大吾がインフィニットヴァリスタを構え、鬼神のごとくスポーンに襲いかかるキロスの背後から、スナイプでキロスの周辺にいるスポーンの急所を狙い、銃弾を撃ち込む。セイルは戦闘モードに切り替わるや、表情が一変した。金剛嘴烏・殺戮乃宴を構え加速ブースターでスポーンの群れに突っ込む。スポーンが獲物の間合いに入るやソニックブレードがあたかもバターであるかのごとく敵を切り裂いた。時折飛んでくる触手はブレイドガードですべて弾く。
「おらおら、退けよ虫けら野郎共!
 邪魔するなら容赦なくミンチにしてやんよ! クククッ、アハハハハッ!」
致命傷をおって霧散するスポーンの間を縫って、魔女の高笑いが響く。キロスもまた水を得た魚のごとく、スポーンが行く手をさえぎる丈高い草であるかのごとく蹴散らしていた。赤毛が炎のように燃え立ち、口元には笑みさえ浮かべている。戦いを楽しんでいるのだ。近くで戦いつつ和馬はその鬼神のような姿に畏怖を覚えた。
一体を屠った大吾を狙って、斜め後方から別のスポーンの触手が数本飛んでくる。
「おっと!」
オートガードを駆使したレジェンダリーシールドで触手を受け止め、はじき返す。
「あははははは! 虫けらめが!」
セイルが突っ込んでくる。獲物を振り上げてソニックブレードでそれらの触手をまとめて一刀両断した。触手を失ったスポーンががっと口を開き、大吾はめがけて毒炎を噴出してくる。すばやく飛びのいて可能な限り直撃を避ける。毒耐性の鎧を装備しているが、なんといってもそのほうがスマートだ。そのまま炎を吹いたスポーンの胸部めがけて銃弾を打ち込むと、敵は黒煙となって消えうせた。
「まだ十数体が周辺にばらけている! 油断するな!」
「望むところよ!」
大吾の言葉に、キロスとセイルは異口同音に返してきた。
そこにエデッサから通信が入った。