校長室
創世の絆 第三回
リアクション公開中!
地下鉄にて 大門から乗り込んだ地下鉄の車両のドア脇には、相沢 洋(あいざわ・ひろし)と相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)、それに洋の直属の部下たちが武器を構えて警戒に当たっていた。 「我が隊の任務は地下鉄内部で停車する駅での警戒だ。 定刻通りに運行されている以上、敵は停車時間に接近してくる可能性が高い。 そこでスポーンを車両に近づけないよう防御のための弾幕を張る!」 洋孝がのんびりした口調で後を引き取った。 「今回の作戦は、どーみても銃の性能と弾薬が問題だからさ。機関銃と支給弾薬は目いっぱい補給してある。 せっかく根回しした弾薬だからね、遠慮なしに使ってね」 真っ暗なトンネル内を移動していた車両の前方に明かりが差す。 「駅に着くぞ。撃ち方用意! 安全装置解除しろ!」 ドア脇にぴたりと機関銃を構えた兵士がつくと、社内に緊張が漲った。 『次は……』 どこか無機質な女性の声が、駅への到着を知らせる。 駅構内には果たしてスポーンたちが待ち構えていた。 「さーて来ましたよー。敵、スポーン。数、多数! 先制攻撃だよー」 のんべんだらりとした洋孝の号令の後、がらりと扉が開く。 「撃てーっ!!!」 凄まじい弾幕が開かれたドアから放たれた。駅構内の立て札や看板がスポーンもろとも粉々になって飛び散る。 「各員!弾幕を張り続けろ! 弾幕を切らせたら仲間が傷つく! 弾は切らすな!」 洋が発破をかける。駅構内にいたスポーンたちは、近づくまもなく蒸発した。 「さーて、これからしばらく、この状態が続くよー。みんな気合を入れてがんばってねー」 洋孝の言葉に、全員が緊張の面持ちで敬礼した。連続する同様の行動はミスを招きやすい。これから列車が駅で止まるごとに、彼らの緊張は続くのだ。 「次で乗換えだ。駅の構内にいるイレイザー・スポーンを排除しに行くぞ」 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)が天津 麻衣(あまつ・まい)と待機する直属の兵士たちに言った。地下街を移動し 「これから地下鉄に乗る必要があるわ。 駅構内と、運行している地下鉄に被害が及ばないよう、可能な限り近接戦闘でしとめる!」 麻衣が言って、薙刀型の光条兵器を構えた。念のために移動前にパワーブレスと護国の聖域をメンバーたちに使用する。エスカレーターは動きの自由がきかない。音を立てないよう静かに奥手にある非常階段を上る。あがってすぐのフロアに3体のスポーンが哨戒していた。ファウストが軽身功を駆使して壁を伝いスポーンの奥側に移動、トンと軽い音を立ててフロアの床に飛び降りた。スポーンがいっせいに反応し、ファウストめがけて突進してくる。 「今よ!」 麻衣が叫んだ。兵士たちが獲物を構え、スポーンの背後から襲いかかる。 「ヒットアンドアウェイでね!」 麻衣が後方から支援しつつ呼びかける。ファウストはスポーンの攻撃を避けつつ、軽い身のこなしでまるで空中を舞っているかのようにトリッキーな動きでスポーンを幻惑し、部下が攻撃しやすいよう図っている。2体のスポーンが黒煙と化して溶け失せた。残る一体が、不意に向きを変えて突きを入れようとしていた兵に向かって毒炎を吹きかけた。 「うぁっ!」 たたらを踏む兵士を炎が掠める。避けようと下がった兵を深追いしたスポーンの胸部ににファウストのドラゴンアーツをまとった拳が炸裂し、胸板を打ち抜いた。悪夢のような生き物は、幻のように揺らめいてぼろぼろと崩れ、消えた。麻衣は即座に浄化の札とグレーターヒールで兵士の手当てを行った。 「この先も油断するな。なんとしてでも本隊をドームへ送り込むぞ」 ファウストが静かに、だが断固とした調子で言った。 月島で別の路線に乗り換えた後、無人の運転席に陣取り、地下鉄の線路上に警戒の目を凝らしていた、ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)が言った。 「そろそろドームが近い。駅構内だけでなく地下鉄のトンネル内にもスポーンが潜んでいる可能性が高い」 「気をつけて、ジェイコブ。トンネル内は明かりが電車からのみになりますわ」 フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)がジェイコブに呼びかける。 「ああ、わかってるって」 身を低くして、運転席の正面からトンネル内を窺う。鍵穴型の前照灯からの明かりが、トンネル上部に張り付く5体のスポーンの姿を捉えた。 「上か!」 フィリシアがサイドウィンドウから雷撃魔法攻撃を放った。3体が落下した。ジェイコブがサイドウィンドウから身を乗り出す。 「壁に気をつけてください!」 フィリシアが叫ぶ。 「あー、わかってるって。落ちたら列車が最後の仕上げをしてくれる」 走る列車からの射撃は並大抵のことではない。身をひねって天井のスポーンの上半身を狙って狙撃する。2体が転げ落ちてきて、一体がフロントシールドの上に落下してきて、ジェイコブの突き出した上半身を狙って触手を繰り出してきた。 「おおっと!」 窓からジェイコブが素早く引っ込むと、フィリシアがガラス越しに氷槍を作り出してスポーンの胸部を突いた。怯んだ拍子にスポーンは列車から転げ落ち、列車に撥ねられて霧散した。 「まるで安手のアクション映画だな……」 ジェイコブがつぶやいて、再びトンネルの闇に目を凝らした。 「さて、と。そろそろ有楽町か……」 キロスがつぶやいた。有楽町から先はドーム内側にある。現在のところ地下鉄がドームとの境界でどうなっているのか知るすべがない。千代田区を目前にした有楽町より、銀座のほうがいくばくたりとも警戒が薄い可能性が高い。キロスはそう判断し、銀座で降りることにした。周囲には地下街が張り巡らされており、デパートや店舗などが大量にあるため、売り場のディスプレイなどを利用すれば本隊のメンバーも比較的身を隠しやすいだろう。奇襲を警戒しつつ地下鉄を降り、無人のままのデパートや売り場をかいくぐって、ショッピングモール伝いにドームに接近を図る。合間に哨戒するスポーンとの交戦もあったが、新橋方面の囮部隊が功を奏したと見えて、苦戦することはなかった。 銀座で下車して2時間後。ようやく千代田区の区境を目前にする位置に到達した。スポーンの体や、あの黒い種子とよく似た質感の黒い巨大な殻が、千代田区をすっぽりと覆っていた。直前までの町並がそっくり再現されており、デパートなどの商業区であるだけによりいっそう悪夢めいた不気味さを醸し出している。 「この中に何があるのか……」 ドームに攻撃を加えようとキロスは大きく息を吸い込んだ。その瞬間。漆黒のドームの表面にぽつんと丸い穴が現れた。キロスは攻撃しようとした手を止め、穴を見つめた。何かが出てくるのかもしれない。警戒して後方に少し下がり、いつでも攻撃できるよう身構えた。穴はは拡大、縮小を繰り返しながらゆっくりと、だが確実に大きくなってくる。なにか相反するものがせめぎあっているかのように、戸惑い、迷いつつ扉が開く―――そういう感じだ。 しばらくの後、2メートル四方ほどの丸い入り口がポッカリと開いた。内側はドームが明るく見えるほどのさらなる闇に覆われ、内部の様子は外から窺えない。 「私の居間へようこそ、と、クモがハエに言いました……か? 残念ながら、こちとらハエじゃねえ、狩人蜂なんだよ。狩られるのはお前さんの方さ」 キロスは不敵な笑みを浮かべて闇を覗き込みながら、本隊のメンバーの合流を待っていた。