空京

校長室

創世の絆 第三回

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創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション


異界のトウキョウ

 露払いのメンバーとともに銀座までやってきた瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、周囲をゆっくりと見回した。
「ドームまでの道を切り開くつもりで来たんやが……この町は、一体どうなっているんやろか。
 見ているものの心理に働きかけている、深層風景や記憶から情報を得て、複写複製している……。
 可能性はいくつもあるが、これは考えてもキリが無さそうやなぁ」
「奇遇ですね。私もドームという目立つ目印は囮で、実は本当に隠したい何かが目立たない街にあるかもしれんと思ってね。
 造られたからからには理由があるはず」
斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が言い、裕輝は相好を崩した。さらに熱弁をふるう。
「せやろ! 無人で動くものと言えば戦闘機等が挙げられるが、あれはどっからか遠隔操作するもんやろ? 
 それと同じだと考えれば、そっかに操作役がおるはずや」
「何より私はRPGのマップは全て回る性質でね。
 イコンまでいる防衛戦とあれば大規模な闘いは必至。戦に紛れて何かするにはもってこいだ」
「ええねええね。オレも同じこと考えとった」
一体のスポーンが、ドームへ向かうメンバーとの戦闘からはぐれ、襲い掛かってきた。裕輝は上の空でスポーンに無造作に雷霆の拳を叩き込む。
胴に一撃を食らったスポーンが、触手を叩きつけようとした刹那、裕輝のパートナー、鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)が刀で触手を両断し、わめく。
「ちょっ!! 闘いながら考え事とか危ない真似すんなっ!
 オイ馬鹿っ!!! 聞いとんのかぁあ? 死にたいんかこのドアホっ!」
「うっせー、考えてるだけや。それにいけるっちゅーね……おわっ、危なっ」
触手を失ったスポーンの毒炎が吹きかけられ、裕輝は飛び退ってその首を一撃した。
「ほれみた事かっ!」
偲が刀でその首を切り落とし、スポーンは霧散した。
「うっさい、つーか去ね」
「黙れ、お前が去ねっ!」
「まあまあ、ここで喧嘩してても目立つだけよ」
ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)が2人を諌め、言葉を継いだ。
「皆が戦っている中、我々だけ戦わないのは心苦しいけど……。
 ここは適材適所ね。トレジャーセンスで街を探索します。協力して調査しましょう」
テルミ・ウィンストン(てるみ・うぃんすとん)が通りを走るバスを見た。
「バスも無人で動いているのか……」
パートナーのエクス・ゼロ(えくす・ぜろ)は警戒心ゼロといった様子で周囲を見回している。
「ココガ、銀座、デスカ?」
「高級なお店がかつていっぱいあったという……」
ロスヴィータ・フォン・ヴァルトハウザー(ろすう゛ぃーたふぉん・う゛ぁるとはうざー)が言うと、パートナーのマリア・テレジア・フォン・ハプスブルク(まりあてれじあ・ふぉんはぷすぶるく)が喜んで手を打ち合わせた。
「まあ! 面白そう! 異国観光、夢だったの! お買い物とかできるのかしら?」
「いやちょっと危ないから……」
邦彦が声をかけるが、マリアは聞いちゃいない。
「とにかく固まって行動しましょう?」
ネルが言った。
「あ、映画館がある!」
テルミが叫んでそちらに駆け出した。5人がいっせいにあとを追う。
「何かまた厄介事の匂いが……師匠だけでも厄介なのに……ハァ〜」
偲がため息をつく。
「決して、遊びなどではなく、えーっと、アレです。
 教導団として黒い月の文化的情報を集めようかと思ったんですよ?
 映画が面白ければフィルム回収してニルヴァーナ校でながせればなーなんてね?」
「マスターニ、付キ添ッテ、映画ヲ見ニ行ク」
テルミがうそぶくと、エクスが無表情に賛意を示す。
「しかし映画館の内部で上映されていたのは、どこかで見たような映画のハイライトシーンと予告編だけ。巨大なスクリーンは同じ映像をただただを延々と流し続けている。
「……本編がないのか」
テルミはつまらなそうにぼやいた。邦彦はHCで街の様子をギフトにいるメンバーに送信した。
マリアがロスヴィータの袖を引いた。
「何かお店に入ってみましょうよ。……ここ、通貨単位は円かゴルダなのかしら……。
 そうだ、お腹がすいたら食堂に入ってみましょう。
 ここで食べる物は夢か幻か、はたまた……?」
近くにあったレストランの内部は明るく、無人だった。そして料理の気配も香りもなかった。
「あら残念……」
「食べられるものかもわからないし、よかったのかも……」
ロスヴィータは呟いた。
6人は銀座の町を歩き回り、あるいはバスに乗ってあちこち見て回った。稀に襲ってくるスポーンは、喧嘩しいしい裕輝と偲が対処した。
 デパートは煌々と明かりがつき、商店に商品は並んでいた。だが、書店の本はベストセラー以外のものが置かれていない。開いてみても、中身は解説や断片的な情報が載るのみで、本編はない。雑誌も全て同じようなものしかない。
街角の電気店のテレビが映し出すのは、何度も同じニュースフラッシュや、次々チャンネルを切り替えているかのように断片的なドラマやドキュメンタリーだけで、同じ内容だけが繰り返されている。
 デパートの商品も、男性用品の売り場や、贈答品売り場などがない。邦彦がトイレに行こうとしたものの、男子トイレの設備はシュールレアリスムの彫刻家が作成したかのように形のはっきりしないものとなっていて、使えたものではなかった。

 いい加減歩き疲れたころ、商店街のフルーツ・ショップのかごに盛られたマンゴーをマリアがうっかり引っ掛けて落としてしまった。落下したマンゴーはガツンと硬質な音を立てて地面に転がった。
「え?」
ネルがそれを拾い上げると、見た目はマンゴーそっくりであるが、落下して傷が入った部分からは、闇の裂け目が覗いていた。
「な……なんなのこれ……」
取り落とされ、砕けたマンゴーの中は、黒い塊だった。その表面には緑のパルスが走っている。震え声でネルが言った。
「これは一体どういうこと……?」
エクスは小首を傾げると、漆黒のマンゴーのような物体を足先でつついた。
「……ナニカ、食ベナクテ、ヨカッタデスネ」