校長室
創世の絆 第三回
リアクション公開中!
VS・イコン クジラ型ギフトの上で平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、難しい顔をして上空を飛行するイコンを見ていた。 「イコンの前提条件として、無人稼働をするなんてありえない。一体どういう仕組みで稼働しているんだ? 第二世代機の力を知る天学生としては、アレが本物なのかも確かめないと、ね」 レオに装着された魔鎧、告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)が静かに言った。 「サポートは任せなさい」 「ああ、頼んだ」 「レオさん、有人機だったら別だけど、無人機だったら機能は存分に引き出せない筈だよ」 と、榊 朝斗(さかき・あさと)。アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)も頷く。 「搭乗者が1人ですらパワーが30%に落ちるんですもの……」 「全くみんな無茶するよね! まあ、生身でイコンに臨む、限界を試すっていうのもちょっとわくわくするのも確かだけど」 水鏡 和葉(みかがみ・かずは)も意気盛んといった感じだ。 「第一世代ならともかく、第二世代に生身でケンカ売る馬鹿なんていないと思っていたが。 面白い。いつも以上にスリル満点。和葉と和葉の師匠と親友に感謝だねっ」 ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)も挑むことを楽しんでいるようだ。レオが仲間を少しいさめる。 「いいか、イコンを引き付けることが護衛につながる。原則ギフトの防御、スポーンの対処は行わない。 目的は撃墜でなく、飛行装置、武装、動力機の破壊だからね」 「ワタシは朱音と一緒に光る箒に乗って敵を撹乱するよ」 須藤 香住(すどう・かすみ)が言った。 「一人じゃ到底無理だけど、でも仲間がいる。香住姉は勿論、レオくん、和葉ちゃん…… さあ、行こう! 僕たちの力を今ここで見せるんだ!」 祠堂 朱音(しどう・あかね)が力をこめて言った。 「よーし、みんな行こう!」 「おうっ!!!」 まずは朱音と香住が光る箒に乗って出撃した。光の帯を描いて空中に飛び出す。イコンのうちイザナミはアサルトライフルの他、大型ビームキャノンを装備している分厄介だ。2人は高く舞い上がり、一番近い場所にいるイザナミに狙いをつけた。ビームキャノンがギフトに向かって光条を放っているが、シールドはまだなんとか持ちこたえている。 「さあ、ワタシのフラワシたち、パーティーの時間です! 一緒に踊りましょう」 香住が防御用フラワシを呼び出した後、イザナミに焔のフラワシで攻撃を仕掛けた。ダメージを与えようというより、注意を引くための攻撃だ。イザナミが向きを変え、香住に照準をあわせようとする。そこに朱音がすっと飛び出す。朱音と香住は散開すると、小回りの利く箒で舞踊のごとく旋回し上下左右に飛び回ってイザナミを翻弄する。 (レオ、今が好機だ) ヴィクウェキオールがテレパシーで呼びかけてきた。レオは氷雪比翼で飛行しながら隠れ身でイザナミの死角に回り込むと、霞斬りを乗せてブラインドナイブスを通常ならコントロールのある場所へと打ち込み、空蝉の術を使って速やかに離脱する。 (……スポーンを身代わりにできれば楽なんだがな) 魔鎧が呟いた。もう一度接近し、同じ場所に攻撃を見舞う。今の一撃で機晶フィールドが破られたようだ。 「第二世代の機晶フィールドはこんなに脆くはないはずだが……」 レオが一人ごちた。ともあれ好機である。もう一度攻撃を仕掛けると、機体はコントロールが不安定になり、よろめくような動きになった。アサルトライフルのめくら撃ちを華麗に避けながら、朝斗がレビテートとシュタイフェブリーゼを利用して舞い上がってくる。サンダークラップを放つとイコンはそのままふらふらと戦線を離脱した。 「後方にイザナギ!」 宮殿用飛行翼で上がってきていた和葉が叫び、朝斗は危ういところでイザナギの新式ビームサーベルをかわした。 「あっぶねえええええ!」 和葉がすぐ死角から動力部位を朱の飛沫で攻撃し、そのままパイロキネシスで侵食を狙う。 「いまだ、ルアーク! 行けっ!!」 ルアークがパイロキネシスで発火した箇所にさらに爆炎波を見舞った。 「堕ちろっ!!」 機晶フィールドが破られ本体にダメージが与えられると、イザナギは黒煙を噴きながら海に落下し、爆発でもしたかと思われるほどの水しぶきを吹き上げた。ルアークがにやりと笑った。 「一丁上がり。このコンビネーションで行けばうまくいきそうだな」 「そうですね。でも油断は禁物です」 アイビスが言った。 もう一機のイザナミにレオが先の要領で攻撃を仕掛け、そこに朝斗の放電実験が炸裂した。数回で機晶シールドを破られたイザナミに、アイビスがレゾナント・アームズの使用のため咆哮しながら機晶姫用フライトユニットで突っ込んでくると、イコンの間接部分を狙って猛烈な攻撃を仕掛ける。香住が箒で飛んでくると、焔のフラワシを放った。イコンの出力が著しく低下する。そこを狙ってレオがすかさずサイコメトリで機体情報の読み取りを図った。 「……なにっ?!」 返ってきたのは、イコンの反応ではなかった。何か異質な反応である。そのままイコンは盛大な水しぶきを上げて、海に没した。 レオたちの戦うイザナギ、イザナミの様子を見ていた緋山 政敏(ひやま・まさとし)が、綺雲 菜織(あやくも・なおり)に向かって言った。 「あれを奪えば多少なりとも皆の負荷が下がるんじゃね? 第二世代の割りに弱いみたいだ。 見た感じそれほど無茶でもないような気がする」 「無人だから出力もあまりないようだしね。敵のイコンを乗っ取って返り討ち、面白そうじゃない?」 「行くっきゃねえだろ?」 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が横から声をかけた。 「コアが残っていれば修理は出来るから、あまり神経質にならず、身を守るほうを考えて」 「もう完全に行く気満々、ですね……」 カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)がつぶやく。 「散開して様子を見よう。好機をきっちり掴まないとな」 政敏の言葉に、4人はおのおの物陰に潜んだ。 (見て。あの機体、よさそうじゃない?) 菜織のテレパシーが政敏にささやきかける。一機のイザナギがビームサーベルを失い、体勢を立て直そうとしていた。しかもおあつらえ向きにかなり低い位置にいる。 (オッケ!) (センサーの死角はどうやら正面から見て7時の方向) 政敏はバーストダッシュで舞い上がった。大きくイコンを迂回し死角から接近、そのままコクピットとセンサーの前をわざと掠めて舞い上がる。イザナギが政敏を至近距離にいる敵と認識し、巨大な体の向きを変え、アサルトライフルの照準を合わせようとした。 (……あらかじめわかっててもいい気持ちじゃないな) 政敏はそのままイザナギを翻弄するように斜めに飛んだ。菜織がレビテートとロケットシューズで一気に加速して死角から機体に取り付いた。ぐるりと銃口が政敏のほうを向く。カチュアがバーストダッシュとライド・オブ・ヴァルキリーで瞬時に接近、光学カメラ部分に向けて近接距離から光術で強烈な光を放った。同時に政敏が機晶シールドの撃破目的で機晶爆弾を投げつける。センサーが異常を感知したイコンが、港の接岸エリアに足から着地した。菜織が素早くコクピットに飛びつき、ほぼ同時に美幸がHCから攻性プログラムを放った。 「……?! 反応がない?」 美幸が驚きの声を上げた。 「おかしい! ハッチ強制解放のボタンが利かない!」 菜織が叫ぶ。危険と見た政敏がさらに彼女らに危険が及ばない位置に機晶爆弾でダメージを与える。 「やむを得ませんね」 ハッチに向かって美幸が雷術を放った。目もくらむような光と轟音が響き、ハッチドアが吹き飛んだ。 「やった!」 オープンになった搭乗部に素早く潜り込もうとした菜織の動きが凍りつき、後ろから覗き込んだ美幸も息を呑んで後ずさった。 「……なに……これ」 「どうしましたかっ!」 カチェアがすたんと舞い降りてきた。ゆだんなく構えながら政敏もその後に続く。 無残に破壊されたコクピットには、座席も操縦設備も、何もなかった。 紅白に塗装された外殻が折れ曲がり、ギザギザの断面を見せている。その断面は金属ではなかった。ある程度の厚みを持ったそれは、漆のような漆黒を呈している。吹き飛んだハッチの内部には、細胞を思わせるマットな質感の黒い塊に、金属のようなものが絡み付いたものがいくつも繋がって収まり、それらの間を淡い緑色の、どこか粘液を思わせるパルスが循環する体液のように弱々しく脈打っている。その一部が先の攻撃で破損し、その部分はパルスも消え、ベルベットのような黒い物質が異様な形に変形している。 そのさまは巨大な甲殻類が甲羅を毟り取られ、内臓の一部が覗いているかのようだった。 「……なんなの……これ……」 カチュアが震える声で呻いた。4人は青ざめた顔を見合わせ、しばらくその場から動けなかった。