空京

校長室

創世の絆 第三回

リアクション公開中!

創世の絆 第三回
創世の絆 第三回 創世の絆 第三回

リアクション


ダイ・ハードな面々

「うわ、マジで東京みたいだ。オレ東京って数回しか行ったことないけどさ……」
渋井 誠治(しぶい・せいじ)があたりをきょろきょろ見回しながら言った。
「確かに気味が悪いほどそっくりだ……。
 地球とはかけ離れたこんなところに、いったい何のために東京の町並みを再現したのか……」
用心深く周囲を警戒しつつ、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)も誠治に同意した。立ち並ぶビルに商店街のアーケード、走行するバスや車。線路には雑草すら生えている。
「これが東京の町並みなのね……。
 本当の東京なら人が沢山いるのだろうけれど、こんなに大きな街なのに誰もいないってのは不気味ね」
ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)が彼らの待機するに近接する静まり返った商店街を見やって言った。八百屋、魚屋、雑貨店……いずれも品物は店先にディスプレイされているのがかえって不気味さを増幅していた。
「全く誰もってわけでもないけどな……」
瑞江 響(みずえ・ひびき)が言って、路上にいる十数体のスポーンを指し示した。
「見た目は似ていないけど……なんだか動き方が昆虫の群れみたいよね」
鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)が身震いした。
「オレさ、接近戦は得意じゃないんだよな。カモフラージュで建物に隠れつつ狙撃になるな……。
 攻撃力もそう高いわけじゃないし、援護に回るよ」
「そうね、私も誠治もスナイパーだから、けん制か、一体ずつの撃破になると思う」
ヒルデガルトがうなずく。剛太郎が全身を覆う装備をポンと叩いた、
「自分もどちらかというと狙撃が得意だが、防御は高い。
 スポーンを引き付けるから、そこを狙って撃ってくれ」
「あたしはサイコキネシスが使えるから、多少動きを鈍らせたりできると思うよ」
望美が言うと、響も周囲の地形を確認しながら、
「俺も奇襲向きだしな……」
後ろに控えるアイザック・スコット(あいざっく・すこっと)を見やり、
「アイザックは魔術攻撃だから、遠距離だが広範囲に攻撃ができるな」
「おう、派手に決めてやるぜ」
アイザックはにやりと笑った。
「敵は確実に仕留める。あ、回復も任せとけ。皆で無事戻る事が一番大事だからなっ」
「では、自分がまず囮となって敵を引き付ける。そこに魔法攻撃、ついで奇襲と狙撃を畳み掛ける。それでいいかな」
剛太郎がみなの顔を見た。
「危険な役回りだ、十分気をつけてくれ」
誠治と響が真顔で剛太郎の肩をポンと叩いた。
「ああ、任せてくれ」
「行動開始ね!」
ヒルデガルトの言葉にみな素早く散開した。駅前広場に向かって目立つよう剛太郎が走る。気づいたスポーンたちが一斉に後を追い始めると、望美がヒプノシスを放つ。
剛太郎を追うスポーンに向けて、アイザックがファイアストームを放った。紅蓮の炎がスポーンたちに襲い掛かる。三匹のスポーンが声にならない咆哮とともに黒煙と化した。何体かのスポーンの動きが鈍ったところに、誠治とヒルデガルトの銃弾が命中し、致命傷を与えた。
「炎耐性か。これならどうだ」
隠形を解いた響が轟雷閃を見舞う。青白い稲妻が飛び、あたりにオゾンの臭気が立ち込める。感電し、断末魔の痙攣を起こすスポーン。残る2体が長い触手を響めがけて繰り出してくる。
「おおっと! 響は絶対傷付けさせねぇ!」
アイザックが素早く響をつかんで引き戻し、端正な顔を怒りにゆがめて凄まじい氷嵐を放った。そこに剛太郎がクロスファイアで半ば凍りついたスポーンを打ち砕く。
「みな無事か?」
響が問いかける。
「オレは全ての地にラーメンを広める男! パラミタしかりニルヴァーナしかり! こんなことでへこたれやしないぜ」
誠治が啖呵を切った。
「……ラーメン?」
望美がきょとんと問い返すと、誠治は彼女に熱弁をふるい始めた。剛太郎はそんな二人を尻目に、無線で護衛部隊に連絡を取った。
「……こちら大洞です。駅前のスポーンは殲滅しました。味方には被害なし。引き続き警戒に当たります、以上」

「異世界に出現した人っ子一人いない東京で戦闘! まるでアニメみたいじゃない!」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、汐留近辺の瀟洒なビル群を見渡して言った。
「セレン、竹芝から敵の目をそらすためにこっちへ来てるんだから、目的を間違えないでね」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がハイテンションのセレンフィリティに釘を刺す。
「わかってるわよぉ。ちゃんと暴れまわるから大丈夫」
高柳 陣(たかやなぎ・じん)がにやっと笑った。
「キロスって奴もだけどさ、あんたもなかなか気が合いそうじゃねぇか……。
 まぁさ、東京と瓜二つってのはどうしても引っかかるよな〜……。
 一切手加減なしってのはいいけどさ」
「そこ重要よねっ!」
セレンみたいな暴れん坊が2人も……。セレアナが目をくるりと回し、肩をすくめた。
「なんと申すか、東京の街を生ける者以外全てをそっくり映し込んだかのような街並みじゃの」
木曽 義仲(きそ・よしなか)の言葉に、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)も頷いた。
「まさにそういう感じですよ……なかなか表現力がありますねぇ」
「うむ? ……いやいや、ははは。かつては多少歌なども嗜んでおりましたからな」
「おお、そうでしたか」
漆黒の鎧を全身に纏い、背中のダークヴァルキリーの羽をそっと触りながら紅坂 栄斗(こうさか・えいと)が嫌そうにスポーンのうろつく国道のほうを透かし見てぶつぶつつぶやいた。
「またあの気持ち悪いのがワラワラ出てきたわけだ……」
「うむ、やはりあの連中の気色悪さは何度見ても慣れぬな
ユーラ・ツェイス(ゆーら・つぇいす)も鼻にしわを寄せた。
「わしもぱわーあっぷして大体の状態異常は直せるようになったぞ!
 それゆえ前回より役に立てるはずじゃし、お前は存分に暴れてくるがよいぞ!」
そう言ってユーラは栄斗に、夕暮れの太陽のごとき輝きを持つ剣型光条兵器を投げ渡した。
「……まあ、手加減なしにやれるわけだし、新しい装備の実験台にはちょうどいいか」
栄斗は鼻を鳴らした。シェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が救急セットのチェックを終わり、立ち上がった。
「んで、どう行くんだ?」
セレンフィリティがにいっと笑って国道を身振りで指した。
「出来るだけ派手に敵の目を惹きつける必要があるからね?
 トラックをいただいて、それに乗ってスポーンめがけて突入ってのはどうかしら?」
「お、いいねいいね! んで?」
陣が目を輝かせた。
「しかるのち、敵を十分ひきつけたらドームと反対方向へ一気に引き上げます。
 道をふさぐ形で大型車両を止めて飛び降りて速やかに離脱。スポーンがそこにたかってきたら……」
セレアナが爆発を軽く身振りで表現して見せた。栄斗が言った。
「キロキロも納得の戦闘を見せてやる。
 ……あ、みんな暴れすぎて俺達を巻き込んで攻撃したりしないでね」
義仲が首をかしげる。
「俺は地形を生かした戦闘が得意じゃから、残り物の掃除と行こうかの。
 ……ところでキロキロとは?」
「キロスのことじゃ。こやつは人に勝手に妙なあだ名をつけるのじゃ」
ユーラがしかめ面をした。
「ほうほう……そういうことであったのか」
「んじゃ行こうぜぇ!」
陣が倉庫そばの駐車場に停車した大型トラックめがけて走ってゆく。セレンフィリティ、セレアナもあとに続いた。
「皆、やるき有るのは、良いんだが、無茶と無謀は、違うからな? 無理するなよ……」
シェイドがぼそっとつぶやいた。
3台の大型トラックが、凄まじい勢いで国道を走ってゆくと、行く手のスポーンたちを引っ掛け、跳ね飛ばす。その衝撃にスポーンは人形のように吹っ飛び、致命傷を負って溶け失せる。周囲を哨戒していたスポーンたちがいっせいにトラックのほうに振り向き、アリのように集まってきた。トラック停止予定位置の後方、倉庫に程近いあたりで待機していた紫翠が一人感心したようにつぶやいている。
「かなりの激戦の……ような感じですね? 追いかけてくるスポーン……100体以上はいそうですね……。
 何事もないように他の車が走ってますけど……これ防衛システムなんでしょうかね?
 ……運転者がいないのに、勝手に動いてますね」
「実況はいいぞ。怪我人が出たらすぐさま応対じゃ」
ユーラが言う。
「あ、はい」
凄まじいブレーキ音とともに、3台のトラックが斜めに停車し、互いに衝突しあって道路をふさぐ。セレンフィリティ、セレアナ、陣が運転席から転がるように飛び出し、こちらに走ってくる。
「3、2、1、ゴー!」
カウントダウン終了とともに、トラックにたかっていたスポーンもろともトラックが爆発炎上した。凄まじい爆風がその場にいた全員を襲う。吹っ飛んできたねじが、紫翠の頬を掠め、軽い熱傷と裂傷を作った。爆発を逃れたスポーンを、空中から栄斗が剣戟でけん制し、義仲が物陰から飛び出し、2人で組んで手際よく止めを刺してゆく。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
頬から血を滴らせ、紫翠が尋ねる。
「紫翠だけだよ……。あのな……怪我人を助けたい気持ちは、分かるが、自分の事も考えろよ? 毎度の事だが……自分より他人の心配しやがって、限界も考えろよ? まったく……」
シェイドがぶつぶつ言いながら手当てを始めた。
「んじゃ次行ってみようか!」
セレンフィリティの能天気な声。まだしばらくは危なっかしい戦闘は続きそうだ。シェイドはため息をついた。