校長室
創世の絆 第三回
リアクション公開中!
クジラを守れ! 1 露払いの部隊すべてが出払うのと同時に、ギフトの守護隊も行動を開始した。ルシアの力を借りてリファニーは熾天使の力を開放し、クジラ型ギフトの守護に専念することにした。クジラ船長が無反応となった今、ギフト自体には決め手となるほどの防御の術はない。契約者たちとともに守り抜くしかないのだ。 固い決意に満ちたリファニーの横顔を見て騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はひそかに思う。 (リファニーさん、いつも寂しそうな顔してるよね……。 リファニーさんの顔が少しでも晴れたら、アイシャちゃんの望むみんなが仲良く笑顔でいられる世界に一歩近づけるかも) そして声に出してはこう言った。 「お父さんからの遺言も預かっているし、詩穂はリファニーさんを守り抜くよ」 そしてイコンの攻撃ですら防ぐという『サクロサンクト』でギフトの防御を整える。ルシアが感嘆の声を上げた。 「わあ、すごーい!」 素直に喜んでいるルシアを尻目に、リファニーは真剣な表情で空を見つめている。セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)もそんなリファニーを心配そうに見やった。 (『近づくとてつもなく大きな力』を感じるとおっしゃっていたけれど……。 シルエットを具現化して戦わないように申し上げておかないとかしら) つとリファニーの傍に寄り、声をかける。 「リファニー様、あなたはまだ完全には目覚めていないのです。 お気持ちはわかりますが、今現在わたくしたちの目的は皆様の帰る場所、このクジラ型ギフトを守る事です」 「わかっているわ、大丈夫」 そこに神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)が声をかけてきた。 「東京の街並みは詳しくないから、あたしもリファニーの傍でクジラさんを守るわ。 ねえ、リファニー、近づいてる大きな力ってなんだろうね。やばい敵だとまずいし、何か気付いたらすぐ知らせてね」 「そうします」 リファニーは短く言って、接近してきた爬虫類の頭部にハチの羽を持ったスポーン3体にに攻撃を仕掛ける。詩穂がすかさず支援スキルを使い、自らはホエールアヴァターラ・バズーカを構えて、空中のスポーンを狙い撃つ。直撃を受けて溶け崩れたスポーンの後から、別の固体が飛来してくる。 「リファニーさん、無理はしないでくださいね。わたしとジュジュがサポートしますから」 エマ・ルビィ(えま・るびぃ)が言ってパワーブレスをかけた。 「ありがとう」 リファニーは微笑を浮かべた。天のいかづちでエマがスポーンを打ち落とし、そこに授受が猛烈な勢いで剣を振るう。スポーンの胸に剣が突き刺さると、ぐずぐずと形が崩れる。 「攻撃は最大の防御よ! 向こうが一方的に攻撃してきたんだもんね。 あたしも 殲 滅 の 限 り を 尽 く す わ!」 「……ジュジュ怒ってますね〜」 エマが接岸している場所から襲ってきたスポーンにファイアーストームを見舞うと、何体かが消し炭と化した。 「わたし、炎の魔法がいちばん得意なんですわ。 壊しちゃいけないのがクジラ型ギフトの上のものだけですから、遠慮なく行かせていただきます」 セルフィーナがウルフアヴァターラ・ソードを構えて、授受の加勢に駆けつける。 戦の女神のようだわ……ルシアは戦う2人の後姿を見て思ったのだった。 ヴァンガード強化スーツ零式に身を包んだ飛鳥 桜(あすか・さくら)は、決意の色を浮かべて、潜んでいた貨物の陰からゆらりと立ち上がった。 「……僕も第三期に行くべき、ここは思いきって改名しよう! でも……変身前に呼ばれると結構恥ずかしいかな……。いやいやいや、ここで照れてはいけないんだ! うん」 パートナーのミスティア・ジルウェ(みすてぃあ・じるうぇ)が、一人くるくると表情の変わる桜におずおずと声をかける。 「マスター、クジラさんを守るんじゃ……」 「そうだ!!」 おもむろに桜はスポーンの哨戒する通りを見下ろす、倉庫の屋根に上った。そして眼下ののスポーンたちに向かって叫んだ。 「君たちっ! 新たな僕のデビュー戦の相手になって貰うよ! 見た目もザコ敵キャラそのものなのも都合が……ごほん」 そしてメタモルブローチを作動させると、瞬時にチェリーブロッサム・スーツにチェンジした。 「僕の名は『チェリーブロッサム』!!! 正義と自由のヒーローだ!」 「ボクのデータによると……ヒーロー名は『ヴァルキュリア・サクラ』じゃなかったっけ……? ヒーロー界は複雑怪奇だ……」 後方からミスティアのツッコミが入る。 「正義の光でlock−on!! 君の悪事をJudgement!!」 ツッコミを華麗にスルーして、桜はエレキギターを奏でつつ、田町の方へと走ってゆく。ミスティアが加速ブースターでその後を追い、あっけにとられていた(?)スポーンたちも、さらにその後を追って走り出した。駅にはちょうど電車が停車していた。桜は先頭車両に乗り込むと、歌いながら最後尾目指して走ってゆく。ぴったりと後について走るミスティアが、車両間のドアをこまめに閉めて時間を稼ぎ、1車両分遅れてスポーンたちが続く。最後尾から桜が飛び降り、一拍遅れてミスティアが飛び出してくると、その瞬間ドアが閉まり、電車が動き出した。最後尾車両の一番後ろにスポーンたちがみっしりとたまっているのが見える。次の瞬間、ミスティアが仕掛けた爆弾が電車の最後尾で爆発、スポーンもろとも車両が大破した。 「ヒットアンドアウェイさ!」 「マスター……なんかそれ、違う使い方だと思う……」 「いい? こちらより敵のほうが多いのだから、囮になっておびき出すのはクジラ型ギフトを守るためには必須。 そのための重要な役回りなのよ」 シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が月詠 司(つくよみ・つかさ)に向かって言った。 「そ、そういうものなのですね……」 「そう! いい? 空中のも地上のも、できるだけ一箇所に多く集めてね」 「出来るだけ味方を巻き込まない位置に、ですね。わかりました」 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が妖刀白檀をすらりと抜き放った。 「リファニーが言う『遙か彼方より近づく、とてつもなく大きな力』も気になるけど……。 まずはみんなで迫り来るスポーンの脅威からクジラ型ギフトを守らないとね」 「スポーンの中には触手の棘で石化攻撃をしてくるものもいるそうですわね。 万一のときは『清浄化』で直ちに治療して差し上げますわ」 セクシーでかつ可愛さも狙ったうぃっちろーぶ姿の藍玉 美海(あいだま・みうみ)が杖を構えた。 「ツカサが囮になっておびき出すから、まとめて攻撃がいいと思うのね」 シオンが言った。 「私も空の敵を撃破するわ」 沙幸が空飛ぶ魔法で浮き上がった。どんなに翻ってもその下に穿いているはずの布地が見えることはないという、マイクロミニのプリーツスカートが翻る。シオンが美海のほうを振り返った。。 「ツカサが集め損ねた空中のスポーンの対処をお願いしても?」 「もちろんよ! ここは徹底的に潰すべきですわ」 「集めきったところで、ワタシと一緒に魔法攻撃で一気に……」 「なるほど、それでしたらバッチリですわね。ワルプルギスの夜で焼き尽くして差し上げますわ」 司は空飛ぶ魔法でふわりと浮き上がった。少し高めに舞い上がりながら一人つぶやく。 「そう言えば、リファニーくんが大きな力が近づいていると言っていましたが……。 此処から何か見えますかね?」 きょろきょろしても特に何も変わったことはないようだ。司はスポーンを挑発しながらの低空飛行に切り替えた。近くにいたスポーンがわらわらとついてくる。 「うーん……近寄らせすぎず、といって遠いと離れてしまうし……距離感が難しいですね」 司は速度コントロールに集中した。よろよろと飛行する司の後方で、沙幸がドラゴンと似た飛行型スポーン1体を相手取っていた。突っ込んできたスポーンを上方に飛び上がって華麗に避けると、そのまま相手の背後を取る。 「やあああっ!」 気合とともに刀が一閃し、一体の翼もろとも触手がばらりと切り離された。シオンの稲妻の札が本体の止めを刺す。 「うーん、すばらしいコンビネーション技だわ」 沙幸が感嘆の声を上げる。 「……ちょっと集中するのに疲れてきたんだけど」 司がシオンに訴えてきた。 「んー、もうちょっと右へ」 「こっち?」 「行きすぎ、左へ、あー、惜しい」 司ともどもスポーンの群れが、倉庫前の駐車場をふらふらと左右に行き来する。 「今よっ!」 シオンが合図すると同時に手にした擲弾銃バルバロスが擲弾を射出する。同時に美海が灼熱の炎を放った。 「ああああああああああ」 スポーンもろとも司にも攻撃が見事命中。霧散したスポーンの群れがいた場所にふらふらと落下する。 少し離れた場所にいた芦原 郁乃(あはら・いくの)が聞き耳を立てた。 「どうしたの?」 蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が尋ねる。 「……聞こえない? ほら、今、『メディ〜〜ク』って呼ぶ声が! 「そ、そう?」 「聞こえたのよっ! 心に! みんながスポーンと戦っている今、救護活動に携わる人間が必要なんだ!!」 郁乃は叫んで駆け出した。 「ちょっと、隠れながらじゃないと危ないよ!」 マビノギオンが物陰を伝って移動しながら後に続く。 「あああ、ひどい怪我だわ! しっかりして!!」 郁乃は焦げ焦げになった司のもとに駆け寄った。 「うう……治療を……」 「少し待ってね。回復役のメインはマビノギオンで、わたしは負傷者の搬送がメインなの! かなり重い怪我だから、応急処置だけでは……」 追いついてきたマビノギオンは目を丸くした。 「毒の炎ってこんな症状になるの? ……火傷だけみたいだけど……。 ……いや、あたしは今回、治療に専念するのが役目! 余計なことは考えない! 目の前にいる患者を救うことが私の役目!」 郁乃とマビノギオンの治療の成果は高く、司の状態は見る見る回復した。それを見たシオンがどこか残念そうに見えたと、美海は後に沙幸に語っていたという。