空京

校長室

選択の絆 第三回

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選択の絆 第三回
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リアクション


一兵足りとも死なせはしない

 三分させた戦力、その母艦の一つであるワロニエンは他部隊と共に救援を待っている負傷者などを探し、保護していた。
 ワロニエンの艦長であるサオリ・ナガオ(さおり・ながお)は臨機応変に行動をしていた。
「香取大尉が理解のある方で助かったですぅ……独立部隊としてお役に立って見せるですぅ」
「うむ。そうでなくては面目も立たぬしな」
 周辺の警戒をしつつ、サガリに言葉に返事をする藤原 時平(ふじわらの・ときひら)
 独立部隊として許可をもらった以上、自分の身は自分で守らねばならないと考え、傭兵団と協力しつつ用心していた。
「ですが、これほどの被害は予想していませんでしたですぅ……契約者さんたちはまだしも、普通のイコンパイロットさんたちへの負担がすごいですぅ」
「それを補うための麿たちでおじゃろう。そのためのワロニエンでおじゃろう?」
「……そうですぅ! さあ、じゃんじゃんバックアップするですぅー!」
 自分たちのやっていることは無駄ではないと認識を新たにしたサオリが気を取り直して、そう声を上げつつ救助者を探す。
 サオリが気持ちを一新している時、イコンに乗らず戦場を走る二人の姿があった。
 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)フィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)である。

「大丈夫か?」
「す、すいません……」
 墜落していたイコンの中から負傷したパイロットを救出するジェイコブ。
 上空では戦艦やイコンでの戦闘が繰り広げられ、ここに止まるのは危険だった。一刻も早くここから脱出しなければならない。
「少し痛むと思うが耐えてくれ」
「は、はいっ……つぅ!」
 負傷兵を担いだジェイコブはフィリシアが待つ地点へと急行する。
「……! こちらですわ!」
「すまない、遅くなった。こちらに移動していたのか」
「ええ、あの辺りはイコン戦の真下でしたので……よくぞ戦ってくれました。今治しますからね」
 そう言うと負傷兵に対してヒールをかけ、傷を癒していくフィリシア。
「あ、ありがとうございます」
「お礼はまだです。ここから無事に生還できたら、ですね」
「その通りだな。……よし、フィリシア。少ししたらここにオットーたちの輸送用トラックが来る手筈になっている。
 そいつをそれに乗せてからもう一度合流しよう。オレは先に先ほど見かけた戦艦の内部を見てくる」
「わかりました。気をつけてください」
 フィリシアの言葉を聞いてジェイコブは無言で頷き、墜落した味方の戦艦へと走っていく。
「……すいません。僕がいたから……」
「そんなこと仰らないでください。あの人はあなたを救いたかったのです。
 あなたが気に病むことなんて、何一つありませんわ……と、お迎えが来ましたわ」
 フィリシアの視界には、自分たちのほうへ近づいてくるトラック、ランゲマルクが見えていた。
 その上空にはエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)コンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)の両名が乗るORPOの姿もある。
 ランゲマルクはフィリシアたちの場所で停、その中からオットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)が急いで出てくる。
「遅れて申し訳ございません。道中荒れ続きで時間がかかってしまいました」
「その分、誰一人欠けることなくワロニエンにお送りいたしましたわ」
 オットーたちの言葉を聞いて、フィリシアは胸をなでおろした。
 最初は全員一緒に行動をしていたジェイコブたちだったが、送り届ける時だけはオットーたちと離れ、要救助者を探す方針に変えていた。
 でなければ手遅れになる者が出てくる可能性があったからだ。
「さすがです。ではこの方をまず乗せて、次はあちらへ。味方の戦艦が墜落していたので、先にジェイコブが向かっています」
「アルフレートさんたちは如何したのでしょうか?」
 オットーの質問にフィリシアが素早く答える。
「修理可能なイコンを見つけたので、別の場所でそちらの修理をしています。そろそろ直る頃かと思いますが」
「……オットー! 一瞬だけ救難信号をキャッチしましたわ!」
「? さっきこの辺りの信号は全部見たはずですが」
「……ジェイコブ! 彼が救難信号を出しているのかもしれません!」
 フィリシアの顔に焦りが滲む。一瞬だけの救難信号……これに一抹の不安を覚えたフィリシアはトラックの荷台に乗り込み、オットーたちと共にジェイコブがいるはずの場所へと向かった。

「……どうでしょうか? 直りますか?」
「当たり前だ。貴重なイコン、無駄には出来んからな」
 プラヴァーのパイロットを尻目に、イコンの修理を急ぐアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)
「あなた様はどうでしょう? イコンが直った時、搭乗は可能でしょうか?」
 アルフレートの傍らにいたアフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)がパイロットに話しかける。
「え、ええ。僕の方は軽傷ですから」
「……よし、これで動くくらいはできるだろう。乗ってみな」
 そう言われたパイロットがプラヴァーに乗り込む。すると、ぎこちなくではあるがプラヴァーが動き出した。どうにか帰れる程度には修繕されたようだ。
「よし! これなら後退も可能だな……とりあえずバウアー曹長と合流して」
「あ、あの。あれ……敵イコンではありませんか?」
 アフィーナが指差した方向。そこには確かに敵イコンの姿が見える。そしてすぐ近くには墜落したと思われる味方戦艦もあった。
「どうしてあんなところに敵イコンが……?」
「ぼ、僕がどうにか」
「バカを言え。この機体では攻撃は出来ても、まともに回避もできんだろうに……ん? あれは、ランゲマルクに、ORPOか?」
 遠くから戦艦へと急速接近するランゲマルクとORPOを見つけたアルフレート。
「どうしましょう?」
「……挟み撃ち、といこうか。プラヴァーのパイロット、向こうから来るイコンと連携するぞ。奴が敵と交戦に入り、敵が隙を見せた瞬間にありったけ射撃しろ」
「わ、わかりました!」
 こうしてアルフレートたちはゆっくり、敵イコンへと忍び寄る。

「……運がないな。よもや敵イコンがこんな低空にいるとは」
「も、もう一度救難信号を……!」
「だめだ。ここまで近づかれている今、信号など出したらここにいますと言うようなものだ。耐えろ」
 息を潜めるジェイコブと戦艦内にいた生き残り数人。その内の一人はすぐにでも手当てをしなければ息絶えてしまう状態だ。
 だが敵イコンも既にここから立ち去ろうとしている。ジェイコブは敵が去るまで待っても助けられると判断していた。
「早くしないと、こいつが……!!」
「落ち着け。敵イコンが長くここにいるとは考えられん。オレの仲間もここに向かっている。だからおちつ……」
「ごふっ!?」
 と、瀕死の女が吐血する。それを見た男が錯乱する。
「ししし死ぬな! 今助けを呼ぶからな!」
「おいよせっ!」
 ジェイコブの制止も虚しく、男は救難信号を出してしまう。
 その信号を傍受した敵イコンも動きを止めて、戦艦へと転換。獲物を見つけたかのように飛来する。
「くそっ! お前らはここでじっとしていろ!!」
 バレてしまった以上、全員でじっとしている訳にはいかなくなった。ジェイコブは戦艦から身を乗り出して敵の前へ姿を現す。
 敵はイコン、ジェイコブは生身、勝ち目はない。だから逃げ回るしかない。
 軽身功を使用して、敵の攻撃を辛くもよけ続けるジェイコブ。しかし、次第に間合いを詰められあと一歩で殺されるというところまで追い詰められる。
「ここまで、か……」
 ジェイコブへ、敵イコンによる凶刃が斬りかかる。その刹那、

ドゴンッ!!

 ORPOが敵イコンの機体を揺らしてジェイコブの助けに入る。
「どうです? 腹部を貫かれた気分は?」
 敵イコンの腹部に深々と銃剣を刺すORPOだが、機体性能は相手の方が上。そのまま跳ねとばされる。
「ぐうぅぅ、味方を助けるためとは言え少々無茶しすぎましたわね」
 プラヴァーでの強行。それは無謀かも知れないが、ジェイコブを助けるためには躊躇していられなかった。
 まだ戦闘はできるものの、性能は敵が上。正攻法で勝つのは難しい。
「なら……私たちの後方からは味方部隊が来ている。すぐにでもこちらにつき、お前を倒すだろう。そうなる前に撤退することをお勧めする」
 コンラートが脅すようにして敵イコンへと勧告する。が、相手は引かない。それどころか自分たちの方へ向けて急接近してくる。
「くそ。聞く耳もたないか、そもそもそれを鑑みて引くということする知能すらないか!」
「こうなったら、やるしかありませんわ」
 エミリアが覚悟を決める。どんどん二機の距離が狭まり、最早まったなし。
 というところで側面からプラヴァーのビームアサルトライフルの弾が飛び、敵イコンへと注がれる。
「支援!? ……いいえ、今はいいですわ! わたくしたちも撃ちまくりますわ!」
 エミリアたちもビームアサルトライフルを敵イコンへと撃ち続ける。
 クロスファイアを浴びせられる形となった敵はその場に釘付けとなり、やがて動かなくなった。
「や、やりましたわ……」
「よし、上手くいったな」
 側面からの攻撃を行ったプラヴァーのパイロット及びアルフレートたちが合流する。
 窮地を脱した救助部隊は、戦艦に残っていた救助者をトラックに乗せる。その際、先走って救難信号を出した男がジェイコブに謝罪する。
「す、すまなかった……あんたを危険な目に遭わせて」
「……二度あるかはわからないが、二度とするな。味方がこなかったらあのまま全員死んでいた」
「……」
「だが、今はもういい。奥さんの所へ行ってやれ。それが今のお前に出来る最善だ」
 そう言いつつ片方の唇の端を上げて笑うジェイコブに、男は涙を浮かべながら礼をして、瀕死の女、妻の所へと走っていった。
「……ジェイコブさんなら、私がああなった時、どうしますか」
 隣にいたフィリシアから放たれた質問に、ジェイコブが即答する。
「助ける。それだけだ」
「……ありがとう」
 こうして戦艦内にいた人を全て救助しワロニエンに搬送した後も、次の救助者の探す救助隊だった。