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リアクション
祈りよ届け 4
「やれやれ。敵は考え無しの力攻め、それだけならば造作も無い。諸葛亮を相手にした時より遥かに楽。
……だがこの数の差、これではいかなる策略も焼け石に水よ」
寄せる波の如く迫り来る異形の怪物を前に、司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)が愚痴をこぼす。……尤も、まだ愚痴をこぼす余裕が有る、とも言えよう。
「深入りは無用、敵の突撃を防ぎさえすれば良い! 足を止めた怪物に集中砲火を浴びせよ!」
仲達の指揮の下、盾役の契約者が怪物の突撃をその身を以て受け止める。儀式場への突入を防がれた怪物が打開を試みる前に、後方からの一斉射撃が行われる。
『――――!!』
何発もの魔弾や実弾を食らった怪物が悲鳴をあげ、活動を停止して倒れると同時に消えていった。
全身を鋼鉄の鎧で包んだ軍勢が、規則的な動作で荒野を進む。そこへ怪物が突撃を行うが、鋼鉄の壁はその最前が少し剥がされた程度で、すぐに後方から補われ怪物を食い止める。
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)の召喚した不滅兵団も、怪物の足を止めるのに貢献していた。
『――――!!』
突破できない苛立ちを咆哮に変え、なおも攻撃を繰り出そうとした怪物は、上空から迫る影を完全に見失っていた。
『――――!!』
竜に似た獣から浴びせられる、超高温の炎。怪物は悲鳴をあげることも出来ずに炎に飲み込まれていった。
(ミーミルの力は、護る為の力。
ミーミルがその力を十分発揮出来るようにするのが、父である私の務め)
アルツールは自ら打って出ることで、『娘』である聖少女――ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)、ルピナス・アーノイド、ヴィオラ、ネラ――が『護りの力』を存分に行使出来るようにしていた。
そして今現在、既に怪物が儀式場へ攻め込んできてからかなりの時間が経過しているが、この場ではまだ一人の戦死者も出ていないのは、彼女たちが負傷した契約者の救出に全力を注げていたからであった――。
「うわあっ!!」
怪物の攻撃で吹き飛ばされた契約者が、地面を転がる。起き上がろうとするも、蓄積した疲労が身体を地面に縛り付ける。
『――――!!』
彼が抜けた事で空いた箇所から、人の背ほどの大きさの怪物が侵入し膝をついた格好の契約者にトドメを刺そうと迫り――横から飛んできた何かの繰り出した拳で吹き飛ばされた。
「大丈夫ですか!? 今、助けます!」
怪物を退けたミーミルが負傷者を担ぎ上げ、後方へと飛び立つ。そこへ別の怪物が近付こうとするが、その頭部に光刃を、背中と腹にそれぞれ黒と銀の魔力弾を受け、活動を停止した。
「わたくし達が居る限り、ミーミルに手出しはさせませんわ」
「せやせや! ねーさんも、張り切ってくでー!」
「ああ。皆を護ろうとするミーミルを護るのは、私達だ」
『姉妹』であるルピナス、そしてヴィオラとネラがミーミルを支援する。彼女らの助けを受けてミーミルは無事に戦線を離脱、儀式場へと到着した。
そこでは、祈りを届けようとする者たちに加え、戦闘で傷ついた契約者の治療に当たる者たちが居た――。
「ここに居れば大丈夫だよ。さあ、治療するから少しの間、じっとしててね」
クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の行使する癒しの力が、契約者に再び戦場へ立つ力を与える。この場に張られている魔方陣の効果と相乗された結果、それまで立つことすら叶わなかった契約者がスッ、と勢い良く立ち上がり、クレアに礼を言うと駆け足で前線へと戻っていった。
「クレアさん、こちらをどうぞ」
小さくなっていく背中を見送って、ふぅ、と息を吐いたクレアの手元へ、涼しげな色合いのドリンクが渡された。
「ありがとう、ミリアさん! ……うーん、美味しい! これでまた頑張れるよっ」
ドリンクを用意したミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)に微笑むクレアの表情には、確かにそれまでと比べて力が漲っていた。
「ミリアさん、おにいちゃんの所に行ってあげて。おにいちゃんは「皆を守るんだ」って張り切ってたけど、倒れちゃったら元も子もないから」
分かりました、と頷いて、ミリアはクレアに見送られ、夫である涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)の下へ向かう。
「…………」
ちょうど儀式場の中心に立つ涼介は、自ら張った巨大な魔方陣の維持に注力していた。
(私の力で、必ずこの場は守り抜く。我が魔力を聖域となり、全てを守り給え)
笏を掲げ、祈るように佇むその姿はいっそ神々しくすらあり、ミリアにはとても頼りがいのあるものに映った……が、同時にクレアが心配したように、きっとこの人は皆を守ろうとしてどこまでも無理をするのだろう……そう思わせる姿でもあった。
「お疲れさまです、涼介さん。喉、渇いていませんか?」
そんな思いもあってか、ミリアにしては少々強引に、涼介の下へ近付くと用意したドリンクを差し出す。
「……ああ、ありがとう。ここを離れるわけにはいかないからね」
微笑んだ涼介がドリンクを受け取って口をつけた。
「うん、美味い。全身に染み渡るようだ」
飲み干されたドリンクの空き容器を涼介が返そうとすると、タオルを握ったミリアの手が伸びて、うっすらと汗の浮かんでいた額をそっと拭っていく。
満足そうに「ふふっ」と微笑んだミリアは、大げさかもしれないが天使のようだと思えた――。
シャンバラ儀式場の一角。
広場となっているような場所にて。
「ここは、846プロの出番やな!」
日下部 社(くさかべ・やしろ)は、
シャンバラ儀式場の様子をテレビ中継すべく、
ライブ会場を設置した。
「ふふふ……こういう時の為に846プロダクションは作られたんやで?
俺の計算に狂い無しやっ!」
「そうだったんだね。
どうりで……!」
黄瀬春香としてステージに立つ予定の、
松本 恵(まつもと・めぐむ)に、
社が言う。
「いや、そこは、感心するとこじゃなく、ツッコミ入れるところや!」
「そうなの?
えーと、なんでやねん!」
「もう遅いっちゅうねん!」
「マスター、この漫才も全世界に放送されてるって忘れてない?」
響 未来(ひびき・みらい)に言われ、
社はハッと我に返る。
「そうやった!
あ、でも、よくあるやん、ライブのあっため役のMC的な?」
「まったく、しょうがないわね」
未来は、ため息をついた。
そして、気を取り直し、ライブ中継に、アイドルの顔になって集中する。
「みんな、ライブに集まってくれてありがとう!
846プロはもちろん、いろんな場所のライブをつないでいくから、期待してね!」
会場から歓声が上がる。
未来は友人であるクロエ・レイス(くろえ・れいす)にも、
中継を通じ、メッセージを送る。
「やっほー♪
クロエちゃんも祈ってくれてるのね。アリガトー♪
今度またマスターと千尋ちゃんを連れて遊びに行くからねー♪
可愛い服も持っていくから絶対着てみてねっ☆」
「こちらこそ、ありがとう!
やしろおにぃちゃんとみくおねぇちゃんのおかげで、ほかのみんなともいっしょにいられるきがしたわ。
あとね、わたし、あそぶの、たのしみにしてるから。
だから、ぜったいぜったい、みんなげんきにもどってきてね! やくそくよ!」
「ええ、約束よ!
絶対、皆、元気で、また遊ぼうね!」
ヴァイシャリーからのクロエの返答に、手を振りかえして。
未来は笑顔で、司会進行を続ける。
「じゃあ、行ってみましょうか!」
黄瀬春香の姿の松本 恵(まつもと・めぐむ)と、
松本 優(まつもと・ゆう)が、846プロダクションアイドルとしてステージに上がる。
2人は声を揃え、「スペシャルシングス」を歌い始める。
「赤い光が登ることを信じて草木かきわけ戦う者
縁の中に炎があれどそれに負けず育てる者
青き海の中で代わりとなる思いを探す者
雷のような心を胸に抱き癒しをもたらす者
黄金色の夕日を孵す者
白銀の水に代えて生きる術を見つける者
そして水晶に写る草木を集める者
私が見ていた世界は特別なんかんじゃなくてきっとありふれた物
だから私達は祈ろう明日という未来のために」
手拍子が沸き起こり、歓声が会場を包む。
ライブ会場の盛り上がりに合わせて、
玉屋 市朗兵衛(たまや・いちろうべい)が、
マジカルファイアワークスを打ち上げる。
大きな音と光に、観客は熱狂し、歓声を上げる。
「たまやー!」
「かぎやー!」
「初代様との夢の共演だ、
スターマインシスターズもダイナマイトシスターズもぬかるでないぞ」
スターマインシスターズもダイナマイトシスターズは、
それぞれ、会場中で花火を打ち上げている。
宗家花火鍵屋の初代弥兵衛が、皺の刻まれた顔に、笑みを浮かべる。
「市朗兵衛、えろう、腕をあげたやないか。
これは、負けられんなあ」
「はい、恐れ入ります。
腕を磨いてまいりましたのは、今日、この日のためだと思っています」
「ああ。頑張ろうやないか。
これは、鍵屋弥兵衛、一世一代の大仕事や」
再びの共演に、弥兵衛も、心を躍らせているようだった。
「はいっ!」
市朗兵衛はうなずき、会場を、そして、ライブ中継を盛り上げるべく、頑張るのだった。
一方、そのころ、六尺 花火(ろくしゃく・はなび)は。
「ヒャッハー!
今日も全力で爆破します!」
「打ち上げが滞りなくできるよう怪物でも爆破しててくれ」
と、パートナーの市朗兵衛に言われ、
会場の近くにモンスターがよらないよう、
マジカルファイアワークスをぶっ放していた。
実は、儀式場での花火が台無しにならないよう、
ていよく厄介払いされたのだが、本人は気づいていない。
花火のマジカルファイアワークスで、上空のモンスターは、
どんどん打ち落とされていく。
そのため、味方にも感謝された花火だったが。
明らかに周囲を見ていないため、
巻き込まれないよう、花火の周囲からは味方も離れていた。
「ヒャッハー! 爆発だー!
あたし達の青春を見せつけてやる!」
しかし、花火はまったく気にしていなかった。