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(6)イルミンスールの森探検・2―熊をおびき出せ―

「よし、いくぞ……」
 「熊対応班」の一人轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)が薪に火をつけた。薪には通常よりも煙が多く出るように生木を混ぜてある。
 しばらくの間、出てきた煙を扇いで洞窟へ送り続けていると、洞窟の中からなにやら獣のうなり声が聞こえてきた。
「声だけでも、相当大きそうな感じね……」
 雷蔵のパートナー、ツィーザ・ファストラーダ(つぃーざ・ふぁすとらーだ)が、戦闘グループから若干距離をとりながらつぶやく。
「ガルルル……」
 洞窟の暗闇の中から、光る4つの目が現れる。生徒たちが身構えていると、ゆっくりと2頭のグリズリーが姿を現した。
 グリズリーの体格は相当大きい。背の高い生徒の2倍程度は余裕であると思われた。煙で苦しくなって出てきたので相当怒っているらしい。生徒たちを捉えると、2匹とも一度に向かってきた。
「2頭か、ということはあと最低でも2頭は穴の中にまだいるんだろうな」
 雷蔵は火を消しながら、持っていたランスを構え直す。
「仕方ないが、ここは俺たちに任せてキノコ採取班はキノコを探してきてくれ! もしグリズリーに出会ったらなんとか穴の外におびき出してほしい」
「わかりました!」
「まかせてくれ!」
 ナナとズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が一斉に返事をする。そしてキノコ採取班のキノコ探索を担当する生徒たちはいっきに洞窟の中へと向かった。

 洞窟の中は、途中まで一本道になっており、奥の方でいくつかの穴に枝分かれしていた。
「どうやら洞窟の内部は話の通りみたいね」
 アーデルハイトから話を聞いていた十六夜 泡は火術で松明に灯をともして、洞窟の中を照らしていた。
「キノコは洞窟の奥にあるはずだわ、真ん中の道を進みましょう」
 ナナが皆に言った。
「それより、皆で手分けして探した方がいいんじゃないかな?」
 ズィーベンはナナとは違う考えのようだった。
「ここは少し危険を冒してでも、一刻も早くキノコを見つけた方がいい。二手に分かれよう」
 シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)雨宮 夏希(あまみや・なつき)たちも賛成らしい。
 確かに、事態は一刻の猶予もなかった。キノコを持ち帰り、クロードに薬を飲ませるのは早いに越したことはない。時間がかかればかかるほど、クロードも生徒たちも疲弊してしまう。
 生徒たちは二手に分かれ、洞窟内を探索することにした。

「では俺たちはこちらへ行きましょう」
「はい!」
 真一郎、可奈たちとともにフィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)セラ・スアレス(せら・すあれす)リセリナ・エルセリート(りせりな・えるせりーと)たちは枝分かれした道の一つに飛び込む。
 道はそれほど長さはなく、すぐに行き止まりになっていた。
 道の奥の方に、大きな影が見えたかと思うと、影がむくりと起き上がった。
「やはり、まだグリズリーがいましたね……」
 先頭にいたリセリナは仕方なくランスを構えると、ゆっくりとグリズリーに近づいていく。その間に、真一郎たちはリセリナと距離をあけるようにした。
「貴方たちの住居を荒らしてすみませんが、少しの間です……外へきてください」
 もちろんリセリナの言葉はグリズリーにはわからない。
 グリズリーは住居を荒らすものの存在を関知しただけである。
 リセリナはグリズリーがこちらへ向かってくるのを確認すると、グリズリーから目をそらさないよう気をつけながら洞窟の外へと向かった。
 グリズリーはフィルたちには注意をかけなかった様子で、洞窟の中にそのまま残される。
「今のうちに、キノコを探しましょう」
 真一郎が言った。フィルたちはグリズリーが戻ってくる前にキノコを見つけるべく洞窟内をくまなく探すが、どうやらこの場所には生えてないようだった。
「どうやらキノコは、他の場所のようですね、一度ナナさんたちと合流しましょう」
「そうした方がいいみたいね」
 フィルの言葉に、セラもうなずいた。フィルたちは急いでナナたちの元へと向かう。

 そのころ、シルバ、ナナたちは別の道へと進み、道の奥でグリズリーと対峙していた。
「ガルルル……」
 立ち上がるとナナたちの2倍はある大きさのグリズリーはうなり声をあげながら、こちらに向かって突進してきた。
「ごめん、少しおとなしくしててね……!」
 ズィーベンがグリズリーの足下に向けて氷術を放つ。
 後ろ足が氷で固められ、グリズリーは動けなくなった。
「よし、今のうちにキノコを探そう……」
 シルバたちは急いで洞窟の中を調べる。その間、ズィーベンと夏希は武器を構えてグリズリーが動き出したときに備えていた。
「ここにはないみたい」
 ナナは洞窟内を何度も見回したが、本に載っていたような形のキノコは見あたらなかった。
「フィルさんたちの方になければ、真ん中の洞窟と言うことになりますね。いったん戻りましょう」
 雨宮の言葉に従い、ナナたちは洞窟を後戻りすることにした。

 さて、グリズリーを引きつけながら洞窟の外へと飛び出したリセリナの視界には、未だ2匹のグリズリーと戦い続ける雷蔵、ツィーダ、ユイン、九郎、そしてソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)たちなどの姿が飛び込んできた。
 グリズリーたちは若干弱っていたが、2匹ともぴったり寄り添っており、近づきがたい状態になっている。
「グリズリーほどの熊になると、さすがに苦戦しているようですね……」
 リセリナは助けを求めるのは難しいと感じ、グリズリーの注意を引きつつ、距離をとって攻撃の機会をうかがっている。
「大丈夫ですか、ここは任せてください……!」
 そこ洞窟の入り口で、グリズリーの現れたときのために待機していたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が飛び出してきた。
 ジーナはランスでグリズリーを傷つけてしまわないように、ドラゴンアーツでグリズリーの注意を逸らすことにした。
「……せえぇい!!」
 ジーナは気合いを込めて、ランスの衝撃でグリズリーの付近の大岩を砕く。
「ぐお!?」
「チャンスです!」
 リセリナがグリズリーの注意がそれた一瞬の隙に、頭をランスで強打する。グリズリーはそのまま気絶して、地面に突っ伏したのだった。

「まずは2匹を引きはがすか……」
 九郎が剣を構えて駆け出す。その勢いのまま剣を繰り出して一度に2匹ごとグリズリーたちを斬りつけた。
 片方のグリズリーが怒りの声を上げて九郎を追ってくる。
「はーい、ここは任せて!」
 ユインが追ってきたグリズリーに向けて銃で掃討射撃する。ばらまかれる銃弾にひるんで、グリズリーの動きに一瞬隙がでる。
「よし……今だ!」
 雷蔵が突撃する。グリズリーの頭部をねらって、力の限りランスで強打した。
 グリズリーは反撃する間もなく気絶し、地面に倒れた。

「この俺様と出会ったことが運の尽きだな……」
 ベアはその可愛らしい白熊の外見とは裏腹に、漢らしい台詞を放つ。しかし悲しいことに目の前にいるグリズリーにはそのギャップはわからなかっただろう。
「グオーッ!」
 グリズリーはベアに駆け寄ってきて鉤爪のついた腕を振るう。このまま直撃したらきぐるみが破けてしまうのか……!?
「そうはいきません!!」
 ソアがグリズリーに向かって氷術を放ち、足元を凍らせる。
 動きを封じられたグリズリーはそれでも爪をふるうが、ベアに軽くよけられてしまう。
「覚えておけ、俺こそ白熊の、いや熊の頂点に立つものだ……!!」
 ベアは力を込めたストレートを食らわせ、自分の身長よりも大きなグリズリーを気絶させてしまったのだ。
「さすが、歴戦の熊は違うわね……」
 雷蔵の手当をしていたツィーダが、グリズリーの倒れる姿を見て驚いたように言った。

 ようやく洞窟の外に出てきたグリズリーは全部、気絶させることができたのだった。
「もうグリズリーは出てこないみたいだな」
 急に熊が出てきたとき混乱しないように熊対応班の何人かが洞窟の入り口で見守っていたのだが、そのうちの一人、神城 乾(かみしろ・けん)が洞窟をのぞき込みながら言った。
「真一郎さんたちはまだ戻ってこないようですね、様子を見に行った方がいいかもしれません」
 犬神 疾風(いぬがみ・はやて)が心配そうに言った。
「確かにその通りね……」
 ジーナもうなずいた。洞窟の入り口で見張りをしていた者たちは、ソアたちに交代を頼んで、いそいで洞窟の中へと向かうことにする。
 はたして、洞窟の中ではなにが起きているのだろうか……