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(4)校内の混乱を鎮めよ・3―プールにて―

 ルカルカたちが校舎をとびだすと、目の前にプールが現れた。学校によくある50メートルのプールであった。
 プールサイドでは、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)たちが小型発電機の準備をしていた。
「ルカルカ、準備は大丈夫だ、プールの水も十分ある」
「わかったわ、ありがとう」
 そういっているうちに、捕獲班や波音たちを追ってきたクロードがゆっくりと姿を現す。
 未だに怒りは収まらないようで、先ほどにもまして毛の体積が膨らんでいた。
 クロードはプールサイドに零や波音、ルカルカたちの姿を見つけると、そちらへ向かってきた。
「ぐおおお……」
 うなり声をあげて、クロードが髪を伸ばす。
 そこへ弥十郎、雪ノ下 悪食丸(ゆきのした・あくじきまる)ジョージ・ダークペイン(じょーじ・だーくぺいん)たちが飛び出してきた。
「おっと、ここからは俺たちが相手するぜ。行くぞジョージ!」
「ああ、我輩たちに任せたまえ」
 悪食丸たちはそういうと、クロードに向かって駆けだしていく。
「いくぜ、チーム・ジャスティスブラッド出動だ!!」
 ジョージはクロードに向かって火術を放つ。その間に悪食丸が剣を構えてクロードに向かってつっこんでいった。
「プールにでも入って、頭を冷やすんだな!!」
 次々にせまりくる髪の攻撃をよけながら、悪食丸はクロードの懐に飛び込み、剣を毛塊に食い込ませる。そこへジョージの火術も加わり、クロードはもがき苦しんだ。
「いまだ!!」
 弥十郎と悪食丸が二人同時に蹴りを入れて、クロードをプールへ突き落とす。
 ばしゃああん、と盛大に水しぶきをあげて、クロードはプールサイドから落ちた。
 みるみる毛が水を吸い込み、もがく動きが遅くなるのがわかる。
「よし、全員水から離れろ!」
 ダリルが発電機のスイッチを入れる。プール内に設置された電極から水中にいたクロードを感電させる作戦である。またその場にいた芳樹、エリシアたちも雷術をプールに放つ。
 バチバチとクロードの体から火花が散った。
「ううう!」
 クロードは大声を上げて水中で暴れた後、動きを止めた。どうやら気絶したらしい。
「……気を失ったか?」
「まて、急に近づくと襲われるかもしれない……」
 ダリルがスイッチを切ったのを確認した後、悪食丸がおそるおそるプールに近づく。クロードである毛の塊はぷかぷかと水の上に浮かんだままだ。
「元は人間だけあって、さすがに電撃に耐えられる訳ではなかったようだな、このまま気を失っていればいいが……」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が言った。彼はクロードと同じイルミンスールの教師であった。正直クロードの失敗をよく思っていなかったが、一応同僚なので見捨てるわけにはいかない、と助けにきたのである。
 生徒が傷つくのもクロードが傷つくのもよいことではない。だからアルツールはクロードがそのまま意識を回復しないように願っていた。
 ……しかし、生徒たちに見守られながら数分間沈黙していたクロードであるが、やがでぴくぴくと毛の先を動かし始めた。
「……思ったより早い回復ですね」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が剣を構えて言う。
 クロードはゆるりと体勢を変えると、ざぶざぶと水をかき分けて生徒たちのいるプールサイドへとゆっくり、向かってくる。
 そしてたっぷり水分を含んだ毛先がプールサイドに這いあがってきた。さすがに水の分だけ体重が増えて、動きは遅くなっているようだ。
「ちっ……しつこい奴だな」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が舌打ちし、アサルトカービンをクロードへ向ける。
「これでどうだ!!」
 何発かの銃弾をクロードへ当てるが勢いは衰えない。どうにも水を吸ったため、動きは重くなったが、頑丈さは増しているらしい。
 ラルクは効果が無いと分かっても、銃をおろさずに打ち続ける。生徒たちを守る方法が他に無かったからだ。
 しかしやがて銃弾が切れてしまう。
「こうなったら素手で食い止めてやる!!」
 ラルクは銃を捨ててクロードに向かって構えた。

「……しかたない」
 アルツールは呪文を唱え、氷術でクロードを凍らせることにした。
 クロードの体毛は水分を多量に含んでいたので、あっと言う間にカチカチに凍ってしまう。
 恭司がそっと近づいて、クロードの体をつついたが、どうやらすぐに回復する様子はなかった。
「あまりさわらない方がいいぞ。この魔法だって長続きはしないだろうからな」
 アルツールが呼びかけた。凍ったのは水分を大量に含んだ毛の部分だけだから、まさか凍死することはないだろうと彼は考えていたようだ。
 しかしそれは、時間とともに術が破られてしまうことも意味していた。
「こんな魔法を使わなくても、俺にかかればいちころだったのによ」
 ラルクが残念そうに言う。もちろん本気で戦っていたらどうなっていたかは分からない。
 けどそんなときでさえ軽い口を叩いてしまうのであった。

 結局今のところできるのは、すべて足止めでしかない。
 根本的な意味で、クロードを助けるには、解毒剤を作って飲ませるしかないのだ。そのためには材料の『青い星のキノコ』がなければならない。
「今は何もできないというわけですか……」
 恭二が力なくつぶやいた。
「そうではない。今できることをするだけだ」
 アルツールが言った。今できること。それはクロードを見張り、生徒たちを守ること。
 それは同時に、クロードを守ることでもあった。
「なるほど、今できること、ですね……」
 恭二は未だ凍ったままのクロードを見守りながら言った。
 ラルクも渋々承知したようで、その場でキノコ採取班たちの帰還を待つことにした。
 そして一刻も早くキノコ採取班たちが帰還するのを願っていた。
 一部の生徒たちはすでにキノコの到着に備えて、薬の調合の準備を始めていた。
 残ったプールサイドの生徒や教師たちは、ただひたすらクロードと対峙しながら、時が来るのを待っていたのだった。