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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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 団長は用意された席につき、小さく息を吐いた。
「少し喋りすぎたな」
「あ、団長、俺が冷たいお茶を持って来ますヨ」
 サミュエルが立ちあがり、スタッフの人にお茶をもらいに行く。
「そ、その、団長……」
 お茶をもらいに行こうとして、サミュエルは足を止めて、団長の方を振り返った。
「俺は今の団長が大好きデス ダカラ無理しなくて良いとおもうのデス」
 尊敬の念を黒い瞳いっぱいに浮かべて、サミュエルは団長に想いを告白(?)した。
 そして、お酒ではないが(お酒は禁じられたため)ガラスのティーポットに入った冷たいお茶をもらい、サミュエルは団長のそばに座って、それをお酌するのだった。
 団長のそばにいて、幸せオーラ全開のサミュエルの近くに、見知った顔がやってきた。
「私もお邪魔していいですかぁ」
 漢服の女性礼服を着た皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がしずしずとやってきて、団長の逆の隣に座った。
 その伽羅から少し離れたところで、うんちょう タン(うんちょう・たん)と嵩が伽羅の様子を見守っていた。
「がんばるのだぞ、伽羅。二十の坂を越えて、浮いた話一つ無いようでは、皇甫一族の祖霊に申し訳が立たぬ……」
 嵩はマリーと同じ悩みを持っていたのだ。
 そのため、マリーに直々にお願いに行った。
「見合いとは申さぬ、申さぬが……我が遠孫が不憫でならぬ。何卒この義真にご協力をお願いいたす」
 漢時代の感覚のままの嵩からすると、22歳の伽羅は行き遅れなのだ。
 何とかして早く、という心配の心が大部分、それに後漢の人間なので、団長の外戚というのも悪くないとちょっとだけ思っていたりもするのが混じり、マリーへのお願いとなったのだ。
 うんちょうタンからすると、伽羅が団長の嫁になれば敬愛する関羽とは義兄弟! ということで大いに応援していた。
「団長に女性への免疫をつけるためと思し召して、将軍共々何卒お願い申し上げまする」 
 深々と頭を下げる二人にマリーは感謝し、「こちらこそよろしくお願いいたします」とマリーが頭を下げ、こういう席となったのだ。
(おじいちゃんたち、何か言ってるみたいですねぇ……)
 伽羅の場所からひそひそ話しているのが見えるが、伽羅は気づかないことにした。
 しかし、伽羅は特に好きな人がいるわけではないのか、嫌なわけでもなかった。
(もし嫁に行かされるのならば、有能で、権力もある団長なら望むところ。鋭い目付も嫌いではないし)
 と団長に対しては思っていたからだ。
 団長と目が合うと、伽羅は笑みを見せ、団長に話しかけた。
「今回の武闘会、団長はどのように予想されますかぁ?」
 小次郎からもらったトーナメント表を見せて、伽羅が話を振る。
 伽羅は団長が『自分よりやや劣る程度に有能で、話題を共有できるが、出しゃばらず媚びないタイプが好み』と読んでいた。
 権力の座にいる、あるいは、権力志向の強い男性がよく好むタイプである。
 恋人や妻である以上、話す機会が多いのだから、どんなに可愛くても、話題についていけない馬鹿では困る。
 ただ可愛いだけなら、愛人でも、職業として相手をしてくれる人でもいいのだ。
 むしろ、その方がどんどん新しいのに変えられるので、向いている。
 しかし、妻は一番そばにいて、陰に日向に自分をサポートする相手であるので、それなりに賢くないと困るのだ。
 結婚・離婚を繰り返すのは管理能力がないと思われるため、それもできないから、選ぶのは慎重だ。
 賢くないとではあるが、しかし、自分を越えたり、権力の座の妻なのに出しゃばるようでは困るし、権力のある自分に媚びるようなタイプでは興が冷める。
 伽羅はそれを読んで、そうであるようにふるまって、団長と話した。
 男に対して『私の方が頭がいいのですよぉ』という態度をするのは、本当に賢い女性がやることではない、と伽羅は知っていた。
 矜持が高く、自分が頭が良いと思っている男性なら尚更。
「ふむふむ。この組み合わせだと、そういう展開になるのですねぇ」
 団長の予想を聞き、伽羅は感心しながら頷く。
 まだ、団長は『団長と生徒』という意識でいて、伽羅を女性とは意識していないようだが、話し相手として認められればまずは良し、かと、伽羅は思っていた。
「…………」
 サミュエルが穴があくほどに自分を見つめていることを、気づかないふりをしながら。