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団長に愛の手を

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団長に愛の手を

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「……危なかったぁ」
 月島 悠(つきしま・ゆう)は、サミュエルの視線が団長に釘付けなのを確認し、ホッとした。
 ユーマ・ツキシ、の偽名で参加した悠だったが、教導団員女性のほとんどいない合コン会場では落ち着かず、武闘会の会場に来たのだが、その途中で、団長のお茶を取りに行ったサミュエルにぶつかってしまったのだ。
「あ、ゴメンネ!」
 急いでいたサミュエルは、悠に気づかずに行ってしまった。
「団長、待っててくださいネ〜!」
 サミュエルの目には団長しか映っていなかったらしい。
 悠はホッとしたが、ふと、遠くから見覚えのある眼帯の男がやってくるのが見えた。
「まずい……」
 普段の任務中の口調に戻るほど、悠は緊張した。
「レオンなら絶対に気づくっ」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)に見つからないよう、悠は急いでその場を離れた。
「ん……あれは……」
 小走りに歩く悠の姿を見て、悠の秘密を知っている佐野 亮司(さの・りょうじ)は悠だということに気づいたが、声をかけないように気をつけた。
「がんばれよ、悠」
 気づかれないことを祈ってやりながら、その背を見送る。
 だが、悠が歩く前から、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)とやってきた。
「あ、あなたも見学の人?」
 悠に気づかず、にこにこっとルカルカが可愛らしい笑みを見せる。
「私も見学なんだ! 今、ウォーレンさんが見学席を増やしてくれてるから、一緒にどう?」
「い、いえ、あの……」
「ルカルカ、この子、合コンの子じゃないかな?」
 ウォーレンがフリフリのワンピース姿の悠を見て、そう言い出した。
「ほら、教導団の女の子はみんな制服ばかりだし……他校から来た子かと」
「あ、そうなんだ! じゃ、蒼空学園かな? イルミンスール? あ、でも、イルミンスールとか百合園だったら、私、知り合いの知り合いかも!」
「そ、その、あの……」
 話を進めるルカルカに悠はおろおろする。
 追及されるとうまくかわせそうにないと思ったのだ。
「ん〜、ルカルカ、他の学校に来て緊張しているかもだから、あまり最初からつっこまないほうが……」
「そうだね、ごめんね。つい、可愛い子がいるなーってうれしくって!」
「い、いえ。その……では、失礼しますね」
 悠は逃げるように二人の前から去った。
 その途中で、悠は急いでいたせいか、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)にぶつかってしまった。
「おや、失礼。お嬢さん」
「こ、こちらこそ……」
 謝る悠を見て、ルースがにかっと笑みを見せる。
 流れるような青く長い髪をちょっとだけピンで留め、袖も襟元もフリルの服を着た悠は、教導団にはいなさそうな可愛いタイプだった。
 気が強い女性ばかりの教導団になので、自分と視線が合って照れくさそうなのがまた可愛かった。
 照れてるというよりも顔を見られて、正体がバレルのを恐れ、俯いているのだが。
「どうしました、お嬢さん。道に迷いましたか? それとも、合コンに飽きてしまったのでしたら、俺がお相手を……」
「ナンパか、ルース」
 霧島 玖朔(きりしま・くざく)がルースを見つけて、声をかけてきた。
 その傍らにはハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)の姿もある。
(どうしてよりによって、さっきから『獅子小隊』の仲間とばっかり会うのー!)
 悠はそう叫びたい気持でいっぱいだった。
「ふむ……」
 俯いていた悠だったが、その顔を玖朔が覗きこむ。
 玖朔の好みのタイプは髪の長い女、だ。
 今回はこのイベントに参加して、そういう女を探そうと思っていた。
「こっちにいるってことは、合コンに飽きて、武闘会を観戦に来たのか」
「え、その……」
「もし、観戦をするならば、一緒に観戦しないか? 一人で観戦するのも面白くない」

「あの、お隣の方は……」
「ハヅキは試合参加者の調査のため、メモ帳とビデオカメラで試合の様子を記録するのが仕事だ」
 玖朔の言葉にハヅキは頷く。
「前田、鷹村、メルヴィン、ルーヴェンドルフを始め、他校でも腕の立つものがいれば調査するようにと言われています。私はその作業に集中しておりますので」
 ハヅキはそう言うと、用意したビデオカメラの調整を始めた。
「出来る範囲内で出来る事をやれ」
「イエス、リンクス」
 無口なハヅキはそうとだけ答え、自分の作業に没頭し始めた。
「ええと……」
「ああ、無理強いする気はない。そういえば、名前は……?」
 名前を聞いた後で、玖朔が自分の名前を名乗ろうとすると、悠は慌てて、頭を下げた。
「す、すすす、すみません。ちょっと、私、連れを待たせてるんで!」
 うまくかわすことができず、無理な区切り方をして、悠は走りだした。
「あ、おい……」
 玖朔は走り去る悠を見送り、ルースは小さく苦笑した。
「教導団の子じゃなかったみたいですからね、ちょっと怖がられたのかも知れませんよ」
 そんな2人の会話を知らず、悠は急いで武闘会の会場から出ようと走った。
(良く考えたら、前線大好きのうちの隊のメンバーが武闘会側にいるの、あたりまえじゃない……!)
 自分の見込みの甘さに舌打ちしたい思いになりながら、悠は武闘会の会場から合コン会場に戻った。
「ふう、これで大丈夫ね。……いたっ」
 ほっと一息ついたところで、人にぶつかった。
「これはこれは、申し訳ない」
「あ、セオボルト。ごめん」
 ぶつかった相手がセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)と気づき、悠が謝る。
「おや? どこかでお会いしたことがありますかな?」
 その言葉に、サッと悠の血の気が引く。
 気が抜けたところで、悠は自ら自分の正体をバラしてしまった。
 悠はセオボルトに黙っておいてくれるようお願いし、口止め料代わりのデート位ならOKだからと、とにかく必死に懇願したのだった。
 一方、せっかくの好みの相手を逃した玖朔は、ふと、あることに気づいていた。
「……青い髪?」
 青い髪、青い瞳というのは珍しい。
 しかも、地球人となるとなおさら。
「青い瞳……」
 そういう玖朔は2人知っていた。
 だが、1人は小さな魔女の女の子であり、まったく該当しない。
 もう1人は……その思いだされる姿は教導団の女子制服ではなく、もちろんフリフリのワンピースなどではない。
 教導団の緑の男子制服だ。
「……まさかな」
 玖朔はそう呟きながら、武闘会の良く見える場所へと移った。


 出場する選手たちは一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)の用意してくれた控室に集まり、思い思いに準備をしていた。
 その中で、一人の男に熱い熱い視線を向ける男がいた。
(レオンに勝ちたい、レオンに勝ちたい、レオンに…………)
 と目的から手段までレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)のこと一色な佐野 亮司(さの・りょうじ)である。
 サングラスの奥にある瞳が、じっとレオンハルトを捕えて離さない。
(レオン……)
 いつまで名前を唱えているんだ、と思うかもしれないが、それほどにレオン、レオン書いてあったので、仕方ない。
 どれくらい熱っぽく書いてあったかというと、亮司がデートの際に、片思いの相手の名前を書いてあったのと同じ数だけ、レオンハルトの名前が書いてあった。
 それほどに思っているらしい。
 亮司にとって、レオンハルトは憧れであり、目標であり、すごいと思える相手だった。
(今の俺がどこまでレオンに通用するか試したい……)
 ちなみに手段の8割がレオンハルトのことについて書かれていたことも追記しておく。「…………」
「どうしましたか、レオン?」
 黙りこくるレオンハルトを見て、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が声をかける。
「いや……何やら妙に視線を感じるのでな……」
「レオンと戦いたいって人がいるんでしょう。鷹村もそんなこと言ってましたし、俺も同じ獅子小隊の仲間と戦ってみたいですからね」
 と言っても、戦いは希望制ではなく、厳正なる『あみだくじ』にて行われた。