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暗き森の泣き声(第2回/全2回)

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暗き森の泣き声(第2回/全2回)

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第10章 ナラカに落ちた亡者の怨念

「たしかこの辺だと電話で聞いたんだが・・・」
「あれじゃないのか?」
「亡者が群がっていますね・・・あの中に守護者が?」
 オウガが指差す方向を見ると、何かに亡者が群がっていた。
「―・・・まさかあそこにいるのは・・・!」
 守護者が術で必死に抵抗している姿が、赤色の双眸にラルクの映った。
「妖精さんが襲われているよ!」
「アウラネルクおねえちゃんー!」
 駆けつけたメイとヴァーナーの声に反応し、亡者どもはいっせいに彼女の方へ振り返る。
「イタゾ・・・マンゴラゴラヲモッテイッタヤツラ」
「この前は不意をつかれちゃったけど、今度はそうはいかないよ!」
 ヴァーナーは地面を蹴り、ランスで斬りかかった。
 頭部と胴体を斬り離すが、掴みかかろうとする。
「えぇええいっ!」
 ランスを横薙ぎに振り、亡者の身体を木々へ叩きつけた。
「ナンデナンデ・・・アイツラダケイキテイルンダ。オレタチトドコガチガウ・・・」
「あんたたちは自分の私欲で密猟したからそうなったんじゃないの!」
 ムッときたアーミスは、死者たちに向かって怒気を含んだ口調で言い放つ。
「こっちは交渉で許可をもらったんだ。同じだと言われるのは心外だな」
 グレートソードの刃を向けながら翔はクリーチャーとの間合いを詰めていく。
「何であんなに死者たちがいるんだよ・・・」
 禁猟区で大量の死者が集まる居所を察知した北都は、異常な光景に思わず1歩後退る。
「俺たちと同じだという理由を聞かせてもらいたいな」
「ココノ・・・トッチャイケイ・・・トッタライノチ・・・オトスカクゴ・・・・・・」
「それはお前たちみたいなのがいるからじゃないのか?」
「トッチャイケイ・・・トルトオレタチ・・・ト・・・オナジニナル」
「おいっ、こんなやつらと話していても無駄だ。早く守護者を助けてやらないと・・・」
「しっ!静かに・・・」
 目の前で苦しんでいる守護者を助けようと口を挟む翔に対して、陽一は草むらの方へ視線を移す。
「(なるほどな・・・そういうことか)」
 翔は陽一の視線の先を見てみると、草陰でじっとアルラネルクを助けようと機会を窺っている久多 隆光(くた・たかみつ)の姿があった。
 レオナーズが繰言のように言葉を返す亡者と無駄な会話をしていたのは、注意を自分に引き付けるためだった。
「(会話に集中するあまりこっちに気づいていないようだな・・・。よし・・・今だ!)」
 草むらから飛び出し傷を負ったアウラネルクを抱えて、隆光は亡者たちから離れるために再び草木が覆い茂る道へ駆けていく。
「ニガ・・・サナイ・・・ニガサナイ!」
 亡者たちは怒り狂い、彼らの後を追いかけた。



「―・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・ここまで来ればもう追ってこないよな」
 全力で走った隆光は足を止めた。
「わらわを置いて行け・・・」
「美人と怪我人はこうやって運ぶもんだと相場が決まってるんだよ」
「―・・・わらわに構うな・・・ここへ置いて行くのじゃ」
「何言っているんだ、置いていけるわけないだろ。皆アウラネルクのことを心配してここまで来たんだぜ?おっと・・・やっぱり追ってきたか」
 草花を踏みつけながら向かってくる亡者の気配を察知した隆光は、アーミーショットガンを構える。
「まったく・・・しょうがねぇな。しつけぇヤツは女に嫌われるぜ!」
 銃の銃口を亡者の群れに向け、スプレーショットで弾丸の雨をクリーチャーに浴びせた。
「こっちからも来やがったか!」
 ズダダダンッと銃声が森中に響き渡る。
「くそっ、今度は上からか!」
 木の上から跳びかかってこようとする亡者へ銃口を向けるが、続けて銃を撃ったためトリガーを引いたままだった。
 もう駄目かと思った瞬間、木々の間からモーニングスターがクリーチャーに投げつけられ、化け物の身体は地面へ落下する、
「間に合ったようだね♪」
 亡者に投げつけたモーニングスターの形状をした光条兵器を拾い、ライトはニカッと笑う。
「全てを溶かしつくす濃酸の霧・・・アシッドミスト!」
 迫りくる亡者たちに向かってメイベルがアシッドミストを放つ。
 濃酸によってジュワァアッとターゲットの身体が蕩ける。
「(うっ・・・酷い匂いね)」
 マスク越しからも匂う異臭に、ヒーローのツクヨミに扮した泡は思わず顔を顰めながらも、氷術で冷気を纏った拳で亡者に殴りかかる。
「アシッドミストをかけたほうが効率いいのはわかるが・・・こう匂いがキツイのはな・・・」
 遙遠も袖で鼻を覆いながら術を放つ。
「なかなか当て難い的ですわね!」
 フィリッパは標的の頭部を狙ってハンドガンのトリガーを引き銃弾を撃ち込む。
「ひとまずここを離れるか・・・」
 隆光は再びアウラネルクを抱え、安全な場所へ逃れようとする。
「―・・・ソイツヲ・・・オイテイケ・・・・・・」
「そんなこと出来るわけないだろ!」
「たしかに・・・無理な相談だな」
 ラルクがシャープシューターで、亡者の四肢の間接を狙う。
「オマエタチイカシテ・・・・・・オレタチダケ・・・コロシタ。―・・・ダカラユルサナイ。ソノ・・・イ・・・ノチヲモッテ・・・ツグナェ・・・・・・」
「俺たちは私欲で奪ったわけじゃないぜ」
「密猟でマンドラゴラの養分にされたんだろ。そんなの自業自得じゃねえか。もともとこの地を徘徊していたナラカの亡者にやられて、そいつらがマンドラゴラに食われて魔法草が食人植物化していったんじゃねぇのか?」
「運悪く食べられてしまった人もいるってことですか?」
「だろうな・・・多少脅しの意味で、密猟者を襲わせていたとしても食人植物化した魔法草やナラカの亡者どもがウロついてれば、それの餌食になったりすることもあるだろう」
「マンドラゴラは生き物の血を糧としているから、腹を減らしていれば丸ごと食われることもあるかもな・・・。それが原因で凶暴化したんじゃないのか」
 レオナーズが説明をつけ加える。
「ほぅ・・・なるほどな。そういうことだったのか」
 近くで聞いていた司とロレンシアが、木々の陰から姿を現した。
「元々ナラカから現れたやつらとは違うようだな・・・」
「この場にいる亡者は皆・・・密猟者の成れの果てか」
 ロレンシアは呆れたように、ため息をついた。
「ダメ・・・シュゴシャ・・・コロス・・・・・・!」
「まぁ・・・こんなヤツらに説明しても理解しないだろうな」
「あぁそうだな・・・。ここで片付けてしまおう」
 まったく聞く耳持たない欲深き亡者どもに、翔たちは武器を向けた。



 牙を剥いた死者の群れが翔たちに襲いかかる。
「さっさとナラカへ帰りな!」
 標的の口から後頭部にかけて剣の刃を貫通させ、地面へ斬り捨てた。
 シュバァアッと血しぶきが辺りに跳び散った。
 それでも向かってこようとする亡者の四肢を狙い、司は喉元に迫る鋭い爪を避けランスで貫く。
 土の上に転がった亡者へ、レオナーズとロレンシアが火術を放ち焼き尽くす。
「守護者を探して来てみれば、まさかこんなにクリーチャーがいるなんて・・・」
 駆けつけた水神がハルバードの刃を振り回し、標的の四肢を斬り落とす。
「燃え散りなさい!」
 カディス・ダイシング(かでぃす・だいしんぐ)が動けなくなった亡者へ火術を放つ。
「どうしてこんなに亡者がいるんですか?」
「ここにいるのは密猟してこうなったのに、守護者へ逆恨みしているやつらだ」
 司がカディスに状況説明をしてやる。
「―・・・危ない!」
 アウラネルクを狙う亡者の前に立ちはだかり、北都が銀色のトレイでガードする。
「俺が時間を稼ぐ。先に行け!」
 光精の指輪から光の人工精霊を呼び出し、聖なる光によって掴みかかろうとするクリーチャーの腕を溶かす。
「うん分かった!」
 北都と隆光はアウラネルクを連れて、湖の方へ駆けていく。
「―・・・ここまで来ればもう追ってこないよね・・・」
「だといいがな・・・」
 走り疲れた2人は、草むらの中に座り込む。
「うわぁっ何だ!?」
 安堵しているのも束の間、足元に突然死者の首が転がってきた。
「油断大敵ですよ」
 転がってきた首は、休んでいた彼らを狙っていた亡者を、和輝が剣で斬り落としたやつだった。
「酷い傷ですわね」
「亡者たちにやられてしまったらしいんだ」
「そうでしたの・・・。私が今ヒールで治してさしあげますわ」
 守護者の負った傷が深いせいか、クレアがヒールをかけてやってもなかなか治らない。
「手伝いますね」
「1人では大変であろう」
 守護者が心配で隆光たちの方へやってきた遥遠と綾香も、一緒にヒールをかけてやる。
「大変!アウラネルクさん怪我をしているじゃないですか」
 アウラネルクを探して来ていた可憐とアリスが駆け寄る。
「私も一緒に傷を治してあげるよ」
 アリスもヒールで傷を癒してあげた。