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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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黒羊郷探訪(第1回/全3回)

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5-02 草原亭で

 ここは、第三章(「巡礼」)で、レオンハルト、国頭らが立ち寄った草原亭。
 今ここで席を並べているのは……
 風次郎弓月レーヂエサミュエルプリモ、それにジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)
 とりあえず、途中まで一緒に来た。
「それにしても、似てますよね……」
 皆は、プリモと、パートナーの機晶姫オルジナを見比べて頷く。
「そう? よく言われるんだ」
 草団子をぱくぱくと食べる、プリモ。対して、口数少なく、お団子もくしですっと口へ運ぶオルジナの仕草は大人びている。
「ええ。でも、違いはわかります……」
「髪の色と、瞳の色が違うからね」
 もちろん、それだけでなく。
「んぐ。……お客さん、来たみたい」
 団子を口に詰めて、プリモが言う。
 皆が振り返ると……
「グァァ」
「ウマソウダナァ」
 草原狼だ。
 数は三体。
 風次郎は無言で立ち上がり、立てかけてあった刀に手を伸ばす。
 サミュエルは、レーヂエの前に立って、
「折角の休日なの! 邪魔しないデ! 傷が開いたらどうすんの!」
 敵がレーヂエの視界に入らないように。
「お。どうした、サミュエル、風次郎、敵か?」
「いいの。レーヂエは、気にしないデ!」
 相手を威嚇する、サミュエル。(がるるるる……)
「レーヂエ部隊長。大丈夫ですよっ。ほらお団子でも食べてましょう♪」
「ん……んぐんぐ」
 ざっ。間合いをとる風次郎。
(前回の戦いまでとは違う俺を見せてやろう。丁度光条兵器の試し斬りにもなりそうだ。)
「風次郎さん……」
「ああ」
 風次郎の手に、両手持ちの大鉈が光を放ちながら現れる。
 弓月も、矢をつがえて、風次郎を気遣いつつ援護の姿勢を見せる。
 こちらが武器を取ると、相手も怯みつつ、剣を抜いた。
 風次郎が大きく、振りかぶる。
 と、……相手は三体とも、逃げてしまった。
「キャー」「タスケテー」「オイハギヤァァ」
「……何だ。面白くない」
 草原亭おやじ、「ありゃりゃ。お客さん追っ払っちゃったよ、とほほ……」
 風次郎の手から、大鉈がすうっと消えていく。
「風次郎さん」
「ああ。どうだろう? さっきの構えだと……」
「ええ、風次郎さんの武器は、形状的にどうしても大ぶりになってしまいます。
 ですので、もしあの振りかぶったときに、相手の素早い一撃が入れば、防ぐ術なく受けてしまうことになるのではと。
 でも、そういうときは私が、この弓で風次郎さんを守りますから……」
「……なるほどな。まだまだ、戦い方もよく考えていかなければならないようだ」
「レーヂエ、大丈夫だっタ? ほら、もう敵いないヨ」
「ん、んぐんぐ、んぐんぐ」
 草原亭おやじ、「ほら。お茶ですよ。皆さんもどうぞ。
 で、皆さんこれからどちらへ行かれるので?」
「そうだったな。時間を食った。そろそろ行かねば。
 さて、どうする?」
「レーヂエと俺は、鬼の牢獄亭に泊まるつもりだヨ」
「あたしとオルジナは、魔女の家に寄ってみるつもり。
 風次郎ちゃんは?」
「俺達は、のんびり行くとしよう」
 こうして彼らは、ここで一旦別れ、めいめいの思いを胸に旅を続けるのだった。



5-03 草原の旅

 巡礼に加わってからは、とくに会話もなく、黙々と草原を北に行く、琳 鳳明(りん・ほうめい)レオンハルトルース、ノイエ・シュテルンら一行。
 シルヴァルインはしばらくは、列の最後尾ではしゃいでいたが、黙々と進む巡礼の雰囲気に、だんだん口数少なくなってきていた。
 休憩もなく、疲れも出始めていた。
 が、遠く見えていた山々も、だいぶ近付いてきている。
 谷間の宿場はもうすぐだ。
 そこまで着ければ、温かい宿と、食事にあり付ける……
 もう、陽は暮れかけていた。
 そのうち、段々くっきりと見えてくる山あいの方から、一人の黒い影がこちらに近付いて来る。
 どうやら、この者達と同じ黒い衣に身を包んだ、巡礼の仲間のようだ。
 先頭の集団と合流すると、何か話し込んでいる。
 ここで、列は一旦、止まった。
「ふぅ……」
 息をつく、琳。
 皆も、疲れた表情を見せる。早く宿場に着きたいところだ……。
 ノイエ・シュテルンは、巡礼の進行速度に合わせて、ゆっくり馬を駆るか、下りて荷物を載せるにとどめ、歩くか、というふうにしてきていた。
 その分、足に疲れはないが、巡礼達のどことなく重苦しい雰囲気には、どうにも心が塞ぐ。
「はぁ……」
 シルヴァとルインは座り込んだ。
「ところで琳さんは、どうして一人旅を?」
 ルースとハインリヒが問う。
「え、えぇ。……雑務の仕事をしてたら、あの人達、色々仕事押し付けておいて、遠征に遅れた罰だ!
 って、なんかおっきい荷物持たされちゃうし、……」
 その荷物はもちろん今、ルースとハインリヒが持っている。(「お嬢さん。そのお荷物、お持ち致しましょう」と。)
「この荷物、何が入ってるんでしょうね?」
 と、ルース。
「あ、私、見てないんです。開けてみましょうか」
「第四師団の命運を左右する、重大なものかも知れませぬぞ」
「えー……っと、たばこに、CD、ガムetc...っと。
 ……これって嗜好品ってヤツだよね?
 な、なんで私こんなお使いまで……ううぅ」
「あ。俺、たばこ吸いますよ」
「意外かも知れませんが、わたくしはS‐POP(シャンバラ・ポップ)のCD、よく聴くでございますぞ。
 わーお。これはアイドル後鳥羽樹理殿の曲『峡谷を吹き抜ける風』ではございませぬか!」
 先頭で話していた男らが、こちらへ向かって歩いてくる。
「……何か、妙な感じだな」
「……そのようだ」
 レオンハルト、クレーメックが前に出て、彼らの話を聞く。
 男が言うには……
 この先、谷間の宿場を抜けると三日月湖地方に出るが、どうやらバンダロハムを中心に、動乱の兆しがある。とのことだった。
 騒ぎの発端は不明で、バンダロハムとウルレミラの貴族間の悶着だとか、傭兵同士の抗争、食い詰め浪人の諍いだとも言われ、それに、ウルレミラに軍服を来た連中が来ていること、更には、北の森にも軍勢が駐屯していること、等……。民間人の間にも、自警団を結成するという動きがあるらしい。
 軍人……と言って、男は、こちらを見渡したが、今日はとくに軍人の格好をしてきている者はいない。それに、教導団の名前も、話の中には出なかった。
 また、それに乗じてのことか知れないが、谷間の宿場の辺りでも、勢力の強い山鬼が暴れ回っているという。
 とにかく、かの地方では今、戦争の気配が濃厚なのだと。
 こういうこともあって、巡礼の一行は、三日月湖地方は通過せず、谷間の宿場とは別のルートを辿って、黒羊郷へ至ることにするという。
「このまま行けば、争いに巻かれるは必定。あなた達も、このまま我々と行きましょう。ね?」
「いやー、よかった。危ないところでしたよ」
「では、このまま東へ迂回し、……」
 そうしてしばらくまた、男らは話し込むのだった。これからの道筋についてらしい。
 話はすぐに終わった。
「決まりですね。
 少々道は険しいですが、東の谷を越えましょう。そこには、黒羊の寺院もある。さあ、行きましょう」
 皆は、顔を見合わせた。
 しかし……とりあえず選択の余地はないようだ。
 巡礼は再び、進路を変えてゆっくりと歩み始める。
 すでに日は暮れ、草原地帯とそびえる山々は闇に沈みつつあった。