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リアクション
シャンバラ女王の別荘
カツーン、コツーン。
ひんやりとした空気が漂う遺跡の中。
足音が、先の暗闇に吸い込まれていく。
「うわあぁ、まさに遺跡ですぅってカンジ」
初めての遺跡内部に目を輝かせているゆずき。
「広いお屋敷だった……っていう雰囲気だな」
ぐるりと周りを見て、神名 祐太(かみな・ゆうた)がつぶやいた。
「今いる場所は玄関から繋がる広いエントランスといったところか。メイド服を探すなら、こんな場所じゃなくて、人が寝ていた個室みたいなところにあるんだろうな」
「その通りでございます、裕太様」
一歩先を歩いていたゆずきが、裕太の方を振り返って言った。
「この遺跡、5000年前シャンバラの女王が使っていた別荘だったらしいんですバイ。私も、メイド服はもっと奥……きっと侍女が使っていた部屋にあると思います!」
裕太が目を丸くする。
「そんな話、よく知ってたな」
「ええ。以前お客様で、ラズィーヤ様というお嬢様がお見えになった時に、教えてくださいました」
「あら、ラズィーヤ様もぴなふぉあに来るんですのね」
知った名前を聞いて神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が声を上げた。
「とってもドSなお嬢様でしたけどね。伝説のメイド服のこともラズィーヤ様から聞いて、よか情報ばいただいたと思って、こうして取りに来たのですバイ」
「へぇ。さすがの知識ねぇ」
エレンは、身につけている百合園の制服を、ぽんぽんと叩いた。
「ますます、伝説のメイド服っていうのが見たくなったわ」
「私も早く見てみたいです! それにしても、この遺跡は広すぎて、どこをどう調査していいのか分かりませんね」
ゆずきがため息をついた。目の前には、いくつもの扉がずらりと並んでいた。
「ゆずき殿! ここはいったんバラけるべきだと思うであります!」
ぽんと手を叩いて、ロレッカ・アンリエンス(ろれっか・あんりえんす)が提案した。
「後から来る同志のために、隅々まで地図を作っておくべきであります! が! この扉の数を全員でひとつひとつ開けていては、まゆみ殿の誕生日を過ぎてしまうであります!」
「賛成だな。罠があるだろうから奥に進むときは揃って動くべきだろうけど、この扉を全部開けてみる間くらい、別行動すべきだろ」
裕太も、ロレッカの意見に同調した。そもそも裕太は遺跡に興味があり、少し一人で自由に歩いてみたいとも考えていた。
「分かったバイ。じゃあ、ここからいったん自由行動にします!」
ゆずきも同意し、しばらくの間別行動をすることに決まった。
「扉の向こうを確認したら戻ってくださいね。奥へ行き過ぎないようにお気を付けください」
こうして、思い思いの探索が始まった。
ひとつめの扉
「むふふ、好都合な展開です!」
藤原 すいか(ふじわら・すいか)は、この単独行動を心から喜んでいた。
「お宝もメイド服も、全部お先にいただいちゃいます!」
ご丁寧に偽物のメイド服も持ってきているすいかは、最初から伝説のメイド服を自分のものにするのが目的だった。
「まあ、罠に引っかかったらどうしようもないですからね。慎重且つ迅速に……」
神経を集中させ、足元や壁の罠に警戒する。
「この扉がハズレでしたら、すぐに別の扉の方へ行かなくてはならないですね……」
すいかが入った扉の部屋は、倉庫のような場所だった。
「お宝か隠し通路があってもおかしくない展開です。慎重に慎重に……」
不自然なすきま風が吹く所はないか、妙な出っ張りはないか、全神経を集中させて探す。
「むー。この探検気分、久し振りな気がします」
心が躍る。
慎重に部屋を探したが、隠し通路の気配はないようだ。
「仕方ないですね。別の道を……」
その時! すいかの視界が白に染まった!
「きゃっ! げ、げほげほっ!」
何かを吸い込み、むせるすいか。
「何? 罠っ!?」
ふたつめの扉
ぎぃーーー。鈍い音を立てて扉が開く。
「ラッキー! ここ、キッチンっぽい!」
ぴょんぴょん跳ねながら小林 翔太(こばやし・しょうた)が部屋に飛び込んだ。
翔太の言うとおり、どうやらこの部屋は調理場のようだ。
「食べ物ないかなー。シャンバラ女王様が食べるようなおいしいもの、少しくらい残ってないかなー」
罠でも隠し通路でもなく、食べ物を探し始める翔太。
「食べ物があったとしても、5000年前に賞味期限が切れているであります!」
翔太と組んで動くことになったロレッカが、後から部屋に入ってきた。
「うーん、そうだよねぇ。おいしいものが食べれると思ったんだけどなぁ」
「それより、あまり動きまわると危険であります! 罠があるかもしれないでありますから!」
「うん、気をつけるね」
そうは言いつつ、翔太はどんどん奥へと進んでいく。
「あれ? ここにもうひとつ扉があるけど……カギがかかってるね」
翔太が見つけたのは、人が一人かがんで通れるくらいの小さな扉だった。
「ちょっとピッキングに挑戦してみようかな」
「疲れたら変わるので、いつでも言って欲しいであります!」
翔太もロレッカも、細かい作業が得意だ。この扉ひとつ、二人の手にかかればすぐに開けられるだろう。
ただ、部屋は誇りっぽく、とても暗い。
2、3度交代をしながら、遂にカギが開く手応えを感じた!
「やったね! 開けるよ!」
翔太がドアノブに手をかけた、その時!
ガアアァァアン!
「うわぁ!」
「し、しまったであります!」
翔太とロレッカは、頭に強い衝撃を受けた!
みっつめの扉
「じゃ、開けるッスよ」
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)が慎重に扉を開けた。
「どうやら扉には罠がないみたいッスよ」
「ありがとうございます。では入室してみましょう」
サレンに続いてゆずきが部屋に入る。
「んー。どうやらここは普通の応接室みたいだね」
続いて部屋に入ってきたエレンが、辺りを見回して言った。
「はずれッスかね?」
「まだ分からないわ。こんなときこそ、慌てず騒がず、落ち着いてじっくりと行動しないといけませんわ」
「ではお嬢様方、慎重にゆっくり調べてみましょう」
この扉には、ゆずきに護衛が必要だということで4人が同行している。
「暗くて不気味ですね……」
ゆずきが、ぶるりと肩を震わせた。
「ちょっと気を紛らわすために、雑談でもしようか?」
そんなゆずきの様子に気が付いた久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、明るく声をかけた。
「助かりますタイ、お嬢様。ちょっと心が折れちゃいそうでした」
ゆずきがにっこりと笑った。
「ゆずきちゃんって、パラミタに来る前はどこに住んでいたの?」
「東京の聖地・秋葉原にあるぴなふぉあでお仕事をしていました。出身は九州ですけど」
「やっぱり九州なんだね! ゆずきちゃん、たまーに九州なまりが出るもの」
ゆずきは、ちょっと困ったような顔をして笑った。
「治そうとしているんですけどね……どうしても時々……」
「まあいいじゃん。九州なまりも個性的でかわいいよ!」
「ふふ。ありがとうございます」
「方言の女性って、男性人気ありますよ」
会話に加わったのは、影野 陽太(かげの・ようた)だ。
「うふふ。男性人気があるって言っていただけるのは嬉しいタイ」
「逆に俺はなかなかモテなくて。是非女性の意見を頂きたいところです」
「私よければ、お答えしますよ」
「例えば……例えばですよ。すごく冷たい感じの女性がいるとします。でもその人は、本当はとてもあたたかくて、きっと照れ屋なんです。そういう方と親しくなるには、一体どんなアプローチをすればいいですか?」
「……例えばっていうか……」
「絶対にそれ特定の誰か……」
周りの女子たちは、細い目で陽太を見ている。
「い、一般論です、一般論!」
陽太は慌てて反論する。
「うふふふ。じゃ、一般論ということで、私なりのアドバイスをしてみますね」
ゆずきが、一瞬あごに手を当てて考えてから、答えた。
「照れ屋で気持ちを隠しちゃう女性へのアプローチは、きっとストレートで分かりやすいものでよいと思います」
「でも……そういうの拒絶しちゃうと思いますけど……」
「表面上は拒絶していても、心には響いています。それを続けて、心を解きほぐして、素直にさせてあげるのがよかと思いますタイ」
「なるほど……。心を解きほぐす……」
「頑張ってくださいね」
「だ、だから! 一般論ですから!」
そんなお喋りをしながらも、一切の手抜きをせずに床や壁の調査を続ける沙幸と陽太。だが、手応えは何もなかった。
特に手応えを感じられなかったのは、サレンとエレンも同じだった。
「……罠があるカンジはないッスけど……」
「他にも、何もないねぇ」
応接室と思われる部屋を、くまなく探したつもりだった。
だが、やはりお宝がありそうな気配も、隠し通路もなさそうだった。
「あーあ、どうやらハズレの部屋だったみたいッスね」
サレンが、拍子抜けしたように言った。
「もっとこう、手応えのある罠とか、5000年前から生きてるゾンビ的なものを期待してたんッスけどね」
「ホント。何も起こらないのでは、私のエレガントなお仕事も見せられませんね」
エレンも肩すかしを食らった気分だった。
「まあまあ。遺跡はまだまだ広いんだから!」
沙幸が明るく、二人の肩をぽんっと叩いた。
「その通りですよ。むしろ温存できてよかったです」
陽太も、明るく言った。
「じゃ、次の部屋に移動ッスね」
この部屋の探索を諦めて、ぞろぞろと扉の方に移動を始めたその時!
「きゃあぁぁぁ!」
ゆずきが悲鳴をあげた。
「何か……何かいます!」
「敵?」
エレンが身構える。
「……ひっ! く、首筋に何か触れたッス!」
サレンが飛び上がった!
「やだ……一体何なの! 出てきなさい!」
沙幸が、見えない何かに向かって叫んだ。
「ちょ、ちょっと待っ……う、うわあぁぁ!」
ゆずきに駆け寄ろうとした陽太が、突然床に倒れ込んだ!
よっつめの扉
「メイド服は絶対に人が着替えたりする部屋にあるはずだ。それ以外の部屋は見る必要もないだろう」
裕太は最初の考え通り、寝室など、人が居住スペースとして利用していた形跡のある部屋を探すことにしていた。
いくつかの部屋を覗いたが、どれも来客を迎えるような部屋で、寝室などではないようだった。
「あとはこの通路くらいか……ん?」
裕太は、この通路を進んできたのは自分が最初だと思っていた。
だが、少し先に人影が見える。
「なんだ、いつの間にこっちに来たんだ」
裕太は、人影に声をかける。
「……止まれ!」
その人影……黒霧 悠(くろぎり・ゆう)が、裕太に叫んだ。
「なんだと?」
「その罠に引っかかりたきゃ、そのまま歩いて来てもいいけどな」
裕太は足元に目線を落とす。そこには、目をこらさなければ分からない、僅かな出っ張りがあった。
「……悪ぃ。助かった」
裕太は素直に礼を言った。
「気にするな。トラップ周りが得意なんだ」
悠は、裕太の方を振り向き、にやりと笑った。
「そもそお俺は、メイドとかにあまり興味はねぇ。トラップ解除を楽しみに来ているだけだ」
それを聞いた裕太も、にやりと笑った。
「気が合うな。俺も好奇心を満たしに来ているようなもんだ」
裕太と悠は、お互いに名乗り合った。
「この通路の罠は、その足元のやつ以外は全部解除してやった。それくらい、またげばいいショボイもんだからな。だが……」
悠は、通路の先を見据えた。
「あれはちょっと、面倒だぜ……」
悠の視線の先。
他の木製の扉とは明らかに違う、石の扉があった。
「きゃあああああああぁぁ…………」
遠くから悲鳴のような声が聞こえる!
「ちっ、何だ!」
「行ってみるか!」
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