薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

伝説のメイド服を探せ!

リアクション公開中!

伝説のメイド服を探せ!

リアクション


メイド服を守るもの
「この扉さえ開けば、もうすぐそこに侍女の部屋があるよ。探しているものは、たぶんそこにある」
 もうすっかり味方になったピクシーが、嬉しそうに飛び回りながら言った。
「さあ、伝説のメイド服はもうすぐそこですわ!」
 一行は、石の扉の向こうへ歩を進めた。
 そこは小さな広間になっていた。
 広間を抜けた向こうに、小さな扉がある。
「きっとあそこですよ、行きましょう!」

 扉に向かって走り出そうとした、その時!
 グルルルルル……。
 地の底から響いてくるような、低いうなり声。
「いけません、止まって!」
 慌てて九条 風天(くじょう・ふうてん)が、メイド一行を引き留めた。
「ここはやっぱりバトル担当として、前に出ますよ……」
 ともが一歩前に進み出た。
 ことのは、みり、ともは素直に一歩下がる。
 それを見た風天は、ともの後ろに立って、攻撃に備えた。
 ひた、ひた、ひた。
 何かが歩いてくる。うなり声の正体は……。
「キマイラ!」
 同じくともを守るために側にいた篠北 礼香(しのきた・れいか)が、驚きの声を上げた。
「ええっ、この子が本物のキマイラさんですか!」
「わたくしたちが今日お店を休む理由に、キマイラインフルエンザになったなんて言ったから、怒って出てきちゃったんですわ」
 ことのはが叫ぶ。
 確かに今日4人は、まゆみに内緒で冒険に出るため、キマイラインフルエンザになったという言い訳を使っていたのだった。
「あいつはね、侍女の部屋を守っているキマイラだよ」
 ピクシーが教えてくれた。
「シャンバラ女王はこの別荘で数匹のキマイラを飼っていたんだ。実際に世話をするのは侍女だから、侍女によくなついていたらしいよ」
 ピクシーの話を、全員じっと聞いていた。
「ここに誰もいなくなってからも、キマイラはここを離れなかった。ここで子供を産んで、育てて、ずっと暮らしてきたんだよ。世話になった侍女の部屋を守るために」
「ずっと、ずーっとここで代々暮らしてきたのですね……」
 みりが、ピクシーを見上げて言った。
「うん。こいつばかりは、あたしもどうにもできないよ。戦って、力の差を見せるしかないんじゃないかな」
 ピクシーでも、このキマイラは怖いようで、そこまで言うとみりの背後に隠れてしまった。
「だったら、やるしかないですね!」
 ともが、一歩キマイラに近付いた。
「気をつけて下さいね。お守りしますけど、向こうの強さが未知数ですから」
 礼香があわててともに付き添い、耳元で注意を促した。
「ありがとうございます。でも、危なくなったら逃げて下さいね」
「一人では絶対に逃げませんので、あたしを助けたければ一緒に逃げて下さい」
 礼香は指先で眼鏡の位置をなおすと、表情を引き締めた。
「背後は任せていただいて大丈夫です。落ち着いて対処してください」
 風天も覚悟を決め、盾を持ち直した。
「うっしゃあ!これも修行の一環だ。ぶっ飛ばしてやるぜ!」
 キマイラが飛びかかるよりも一瞬早く、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の先制攻撃が決まった!
 爆炎波をキマイラ目がけて叩き込む!
「炎の弾丸をお見舞いしてやる……。ボルカニックバレット!」
 攻撃は見事にキマイラに命中した! だが、それをモノともせず、キマイラは跳ね上がった。
「そりゃそうだよな。こんなに早くくたばっちゃあ、おもしろくねぇ!」
 ラルクは、楽しそうににやりと笑った。
 再び、身構える。
「さあ、今度はそっちの番だ! 来てみやがれ!」
 ラルクはキマイラを挑発した。むろん、ともを守るためだったのだが、キマイラの知能は皆が思っているよりも少々高かったようだ。
 キマイラはラルクを飛び越し、まっすぐともに向かっていった!
「何でだよ!」
 ともがボスだと悟ったか、力量で狙いを定めたのか。
 理由は不明だが、キマイラがともを一直線に狙っていったのは確かだった。
 ギギギ!
 嫌な音が響く! 黒板を爪でひっかいたような音が近いだろうか。
 ともに振り下ろされたキマイラの爪は、風天が盾でしっかりと防いだのだった!
「大丈夫ですか!?」
 心配して声をかけるとも。
「実は護る戦いの方が得意なものでして」
 ともに心配をさせまいと、風天はにっこり笑ってみせた。
「キマイラの側から離れるんだ!」
 とも達が反射的にキマイラから離れると、月島 悠(つきしま・ゆう)が大型機関銃を撃ち込んだ!
 1発、キマイラの身体をかすめたが、次の瞬間またキマイラは空中に飛び上がっていた。
「ここは私に任せて、いったん下がるんだ!」
「すみません……お気を付けて!」
 悠はもう一度ともに向かって叫び、下がらせた。
 ひたりひたりと、キマイラが悠の方に迫ってくる。
「強いな……かなり」
 悠は、キマイラの強さがかなりのものであることを悟った。
「だが、ここは私が抑える」
 ぎらぎらと光るキマイラの目を、悠の青い瞳が静かな炎をたたえて見つめた。
「私もお手伝いするもん!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、悠の隣に並んで、キマイラと対峙した。
「相手は強いぞ。大丈夫か?」
「私も強いよ!」
「そうか」
 悠と美羽は、キマイラからは一切目をそらさず、短く会話を交わした。
「ガアアァアアァァァァ!」
 キマイラが吼える!
 びりびりと空気が震え、遺跡の一部にヒビが入るほどの迫力だ!
「……私より目立つなんて許さないんだからね!」
 普通の人間であれば怯えてしまうキマイラの遠吠えを目の前で聞いても、美羽は全く臆さなかった。
 それどころか、注目を浴びまくっているキマイラに、ふつふつと敵対心が沸いてきた。
「私も目立っちゃうもんねーーーだ!」
 美羽は、自分の身体より大きな刃渡り2メートルの大剣を振り下ろした!
 ズウゥゥンと地響き!
「あーん、けっこう早いんだ!」
 大剣は、つい先ほどまでキマイラがいた地面に突き刺さった。
 素早い動きで後ろに飛んだキマイラは、ひと呼吸おいて、再び攻撃に転じた!
 狙いはやはりともだ!
「ともちゃんには指一つ触れさせないよ!」
 キマイラの鋭い牙は、今度はクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)のタワーシールドに弾かれた!
 ガキィィンと派手な音が響き渡る。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
 ともがクライスに駆け寄る。
「大丈夫大丈夫。これが騎士としての勤めだからね」
 ともを心配させないように笑顔で返しているが、クライスの両腕は、キマイラの攻撃を受け止めた衝撃でビリビリとしびれていた。
「グルルルル……」
 憎々しげにクライスを睨み付けるキマイラ。
「お前には誰も、たとえ僕でさえも傷つけることはできないよ!」
 クライスは両腕のしびれを隠し、再びシールドをかまえなおした。
「早い!」
 次のキマイラの動きは、クライスの予想を遙かに超えていた!
 素早く、今度はともに当て身を喰らわせようと突っ込んでくる!
「うわあぁぁぁ!」
 ドスッ!
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がともの前に立ち、かわりにキマイラの当て身を喰らった!
「くぅ……」
 たまらずふらつく和輝。
「キャアアア!」
 思わず悲鳴を上げてしまうとも。
「大丈夫です……私はこの程度の事には慣れてます」
 ふらふらと、それでもとものために笑顔で、和輝は立ち上がった。
「身体さえ大きければどうにかできると思うなよ!」
 キマイラの脇腹に橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、鋭いパンチを当てた!
「クウゥン!」
 子犬のような声を出して飛び退くキマイラ。どうやら、当たり所が悪く、ボディにかなり効いているようだ。
「今のうちに彼を助けてあげてください!」
「ただいま参りますわ!」
 恭司の呼びかけに、みりが答えた。
「どなたか、回復ができる方、一緒にいらしてください!」
「では私が!」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)が名乗り出た。
「では、お怪我をなさった和輝様の手当をお願いいたします!」
 みりと望は、大急ぎで和輝のもとへ走った。
「では、治療しますよ」
 望は和輝に『ヒール』をかけた。
「ふぅ……助かりました……」
「本来、年上の男性は自然治癒にまかせるという方針なのですけどね。とも様を護っての負傷ですし、みり様にもお願いされましたから、今日はサービスです」
「……それは……どうも……」
 女性って、メイドって難しいな……と、和輝はしみじみと思った。
「まあ、私が傷つくなら自然治癒なり何なりで治せばいいです。たまの冒険で、メイドさんに気分良く帰ってもらいたいんですよ」
「和輝様、今ちょっとかっこいいこと言いましたね」
 年上男性も捨てたもんじゃない……望はそう思った。

「少々……疲れましたね」
 キマイラに応戦していた恭司は、さすがに息切れを感じていた。
 拳も少し怪我をしたようだった。
「だけど……」
 キマイラもずいぶんと弱っているようだった。あと一押しで……勝てる!
 しかし、恭司の拳は限界だった。
「あとはともたちに任せて、その怪我を手当してください!」
 たまらず、ともが恭司に声をかけた。
「ですが……」
「お願いです! とものためだと思って、簡単でもいいですから手当してください!」
「……わかりました」
 無理にでも戦い続けたかったが、もう自分の拳が本当に限界にきていることを、恭司は分かっていた。
「こっちにも回復のできる方、お願いします!」
「みりちゃん、行こう!」
 朝野 未沙(あさの・みさ)が、みりと一緒に駆けつけた。
「さあ、みりちゃん。回復をしてあげて!」
「え?」
「みりちゃん、あたしがSPリチャージするから、存分にスキルを使ってね!」
「えっと……未沙様……」
「遠慮しないで! みんながみりちゃんの癒しを待ってるから!」
 下を向いてしまうみり。
「ええっとですね、私の回復スキルは、この消毒液だけなんです」
 懐から、消毒液が入っている小瓶を取り出してみせるみり。
「へ?」
「そういうことなので、お手数ですが未沙様にお願いします」
「なるほど……。で、でも、回復スキルを持ってなくても、回復役になってみんなを癒したいっていう気持ち、好きだよ!」
「恐縮ですぅ……」
「気にしないで! あたしがなんとかしとくからね!」
 結局、恭司は未沙が『ヒール』で治療したのだった。

 ふらっふらのキマイラ。もうじきに倒れるだろうことは、誰の目にも明らかだった。
 だが、皆も満身創痍だった。
 あと一撃を喰らわせることができる者がいない。
「ここまできたのに……どうしよう……」
 ともが途方に暮れていると……。
「ともちゃん自身がトドメをさせばいい!」
 神代 正義(かみしろ・まさよし)が、ともの肩を叩いた。
「でも……ともは……」
 自信なさげにうつむくともに、正義が続けた。
「大事な事は色々あるが……何事にも諦めない不屈の精神。これは大事だな! どんな絶望的状況だって、諦めなければいつかは希望に変わる!」
「諦めなければ……希望に……」
 ともの中に、力が沸いてくるような気がした。
「さあ、一子相伝の七つ星拳法を打ち込んでやれ! 自信を持って、信じて!」
「わ、わかりました……。やります!」
 ともは、精神を集中させて身構えた。
「諦めなければ……集中すれば、秘孔が見えるはず!」
 地面を蹴って、キマイラに突進していく!
「ほおおおぉぉあたああぁぁ!」
 ドスッ!
 とものパンチが、キマイラの脇腹あたりに命中した!
 そして……。
「キュウ……ン」
 ドサリ。
 キマイラはついに倒れたのだった!
「できた……七つ星拳法、できたーーー!」
 飛び跳ねて喜ぶとも。
「正義様、ありがとうございました!」
「なかなかやるな。4人の中では君が一番ヒーローとしての適性がある。どうだ、一緒に正義の味方を目指さないか?」
「いえ、メイドがいいです」
 きっぱり。正義のヒーロースカウトは失敗に終わった。