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第4章 馬賊との戦い

 隆とソフィアを救う医療パーツを取りに、遺跡へと出発した学生たち。
 道中、モンスター等に出会うこともなく、不気味なくらいに順調な旅であった。
 だが、このままいくとは思えない。
 そのことを予測していたのか、先行していた閃崎 静麻(せんざき・しずま)が状況の変化にいち早く気付いた。
「ん、あれは……」
 静麻の視界の先、砂煙を上げて馬賊とオーク、ゴブリンの集団が、機晶姫の眠る遺跡を目指す学生たちへと迫っている。
「先手を取られたな。だが、これで遺跡には入りやすくなったか」
「ええ、こちらに向かってくる分だけ、遺跡の警戒が甘くなっているはずです」
 答えたのは静麻のパートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)だ。
 彼女は既に武器を抜き、臨戦態勢を整えている。
 静麻もやれやれといったふうにアサルトカービンを構え、
「とりあえず、後ろのやつらが奇襲される前に足止めでもしておくか」
「後続の皆さんに連絡できたらよかったのですが」
 馬賊の名の通り、馬に乗り機動力のある敵は、かなりの勢いで彼らに接近している。
 後続にそのことを連絡する暇はなさそうだった。
「なに、派手に攻撃すれば気付いてくれるさ。必要なら爆薬で火柱のひとつでも上げてやるよ」
「わかりました。ですが数が数です。囲まれないように気をつけましょう」
 視線を交わしたふたりが、行動を開始する。
 直後に起こった爆発が、学生たちと馬賊の戦端を開くきっかけとなった。
 遺跡を巡って、戦いが始まる。


「死ね」
 刃が空気を切り裂き、樹月 刀真(きづき・とうま)のブラインドナイブスがオークの心臓を貫いた。
 敵を仕留めた刀真の体が、すぐさま隠れ身によって煙の中に掻き消える。付近一帯を覆う煙は、彼の投げた発炎筒の煙である。
「どうした!」
 突然倒れたように見えたオークに、馬賊のひとりが声を荒げる。
 直後、今度はすぐそばにいたゴブリンが炎に包まれた。
「我が一尾より炎が出(いずる)」
 どこからともなく響いたのは、玉藻 前(たまもの・まえ)の笑いを含んだ声。
 断末魔の悲鳴を上げ、ゴブリンが燃え尽きる。
「くそっ! どこに消えやがった!」
 これが敵の攻撃だということには馬賊も気付いていたが、視界が悪く刀真たちの姿を捉えることができない。
 そうこうしているうち、次々と周囲のゴブリンやオークがやられていく。
 やがて発炎筒の煙が切れた頃、部隊を全滅させられた馬賊は地面に倒され、刀真に光条兵器を突きつけられていた。
「ふむ、人を殺す感覚はまだ忘れてないですね」
 感触を確かめるように、刀真は血に塗れた自身の手に目を落とした。
「月夜が気を使ってくれているので以前ほど殺すという事をしなくはなったんですけど、俺としては殺し方を忘れるのも困るわけでして」
「確かに月夜がいると良い顔をしないからな、気の向くままに殺せるのは心地が良い」
 刀真と玉藻の意識は馬賊に向いていなかった。チャンスとばかりに反撃に出た馬賊に対し、
「ああ、まだ死んでいなかったんですか」
 刀真がどうでも良さそうに剣を振るう。
 馬賊の意識はそこで途切れた。


(ふむ。結局、鏖殺寺院について大した情報は得られなかったな。所詮は賊の類でしかないか)
 情報収集では、大した成果は挙げられなかった。
 それでも腐ることなく、ミヒャエル・ゲルデラー博士とアマーリエ・ホーエンハイム、ロドリーゴ・ボルジアが武器を携え立ち上がる。
「我々の任務は、この鉱脈を『誰にも』渡さぬことだ。諸君のような下賎な賊徒も例外ではないのだよ。共に滅びよ!」
 ミヒャエルはそう言い放ち、油断している馬賊に背後から襲いかかった。


「そいつをよこしな!」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)が大事そうに抱えている小人の小鞄を狙って、突っこんできた馬賊が馬上から剣を振るう。
「朱里!」
 すんでのところでアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が、朱里と馬賊の間に割り込みブロードソードその剣を受け止める。
「アイン、また来るよ!」
 一旦は通り過ぎた馬賊だったが、反転して再び朱里たちに突進してきた。
「ぬん!」
 朱里をかばうように彼女の前に立ったアインが、衝突の瞬間、裂帛の気合と共に爆炎波を放つ。
 思わぬ反撃に馬賊は落馬し、そのまま意識を失った。
「大丈夫、アイン!」
「問題はない」
 ほっとした朱里だったが、それでも一応アインにヒールをかける。
 それから周囲を見渡し、
「メニエスたちは来ないみたい」
「来ないなら来ないで構わないだろう。元々、僕たちの目的は医療パーツなのだから」
「うん、そうだよね! 隆君とソフィアの未来は、絶対に消させない!」
 今一度決意を固める朱里。
 スパイクバイクに乗った比賀 一(ひが・はじめ)ハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)は、敵陣に突っこむ直前、その声を聞いた。
「あっちは気合が入ってるな」
「お前もやってみるか、人助け」
「……めんどうだから今はいいや」
 そう言いつつも、一はバイクを運転しているハーヴェインに進路の指示を出す。
「さっさと終わらせるぞ」
「へいへい」
 ハーヴェインのパワーブレスの援護を受け、一がスプレーショットをぶちかました。
 辺り一面にばら撒かれた弾が、オークやゴブリンを蹴散らしていく。
 それにより、遺跡を包囲していた馬賊の陣形が乱れた。
 一とハーヴェインが開けた穴を突き、後続が遺跡へと殺到する。
「よし、やることはやった。あとは馬賊の身ぐるみ剥がして売りさばくだけだ」
「しかし、賊の持ち物をぶんどるなんてガラにも無いことをするねぇお前は」
「あんたが酒で食費を潰さなきゃこんな事しねえよ」
 憮然とした一の言葉を笑ってごまかし、ハーヴェインはバイクを反転させた。


 遺跡を取り囲む馬賊のうち、後方の部隊で爆発が起こった。
「なにが起こった!」
「お、俺たちの食いモンが……」
「とっとと火を消せ!」
 おたおたと動く馬賊たちをよそに、光学迷彩を解いた大岡 永谷(おおおか・とと)が姿を現す。
「よし、成功だ! 蹴散らすぞ!」
「はーい」
「失敗したら調教するつもりでしたが、残念ですね」
 軍用バイクに乗った熊猫 福(くまねこ・はっぴー)ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)が永谷に合流する。
 馬賊とはいえ大人数の集団である以上、食料や補給物資を蓄えている場所があるはずだ。
 そこを叩けば相手を浮き足立たせることができる。
 そう考えた永谷たちは、ゲリラ戦を行う傍ら、それらしい部隊を探し続けていた。
 そしてようやくそれらしい部隊を発見し、ピンポイントで破壊工作を仕掛けたのだった。
「くらえ!」
 永谷がハルバートを振り回し、福の機関銃が弾幕を張った。
 反撃を受けても、ファイディアスのヒールがすぐに癒す。
 混乱していたその場の馬賊たちは、あっという間に壊滅する。
 だが、さすがに敵陣の奥深く。すぐに敵の増援がやって来た。
「待ちやがれ!」
「食いモンの恨みは怖えぞ――!」
 撤収しようとする永谷たちに、馬賊が馬を走らせた。永谷たちを取り囲もうとするオークやゴブリンの群れ。
 しかし、包囲しようとしていた部隊の一角が、突如崩れてしまう。そのことに動揺する馬賊たち。
「おっ、隊列の乱れがあったな。んじゃ突っ込むかー」
 呑気な声と共に奇襲をかけたのは黒霧 悠(くろぎり・ゆう)だった。
 ゴブリンやオークを雅刀で薙ぎ倒しつつ、悠が一緒に敵陣に突入したパートナーに振り返ると、
「メイとセニスも気をつけろよ――って、お前らなにしてんだー!!」
 瑞月 メイ(みずき・めい)は周囲に油を撒いており、セニス・アプソディ(せにす・あぷそでぃ)はやる気なさげに煎餅を食っていた。
「ふぇ? ……えと、……んと……ん?」
「まったく面倒くさいのう。煎餅食ってたほうがましじゃ」
「小首を傾げるなメイ! セニスは少しはやる気出せよ!」
 悠が叫ぶ。すると、
「何でわらわがわざわざ戦うなんて面倒なことをせねばならぬのじゃ!」
 セニスが逆ギレした。悠は思わずため息をつく。
 脱力したせいか、悠が周囲への警戒を怠る。
 1匹のオークが悠の背中から強襲をかけていた。
「危ない主様!」
 位置的にいち早く気付いたセニスが、それまでとは打って変わった素早い動きを見せる。
 一瞬で悠と位置を入れ替え、白の剣でオークを斬り刻んだ。
「主様に危害を加えようなんて不届き者は今すぐ犬の餌にしてくれようぞ!」
 怒りを露に、セニスは倒れたオークを攻撃し続けた。
「セニス……」
 悠の呼びかけに、セニスがはっとしたように動きを止めた。
 セニスはそのまま、振り返らずにぼそりと言葉を紡ぐ
「か、仮にも主様はわらわのパートナーじゃからな」
「ああ、ありがとう」
「……」
 セニスが背を向けているため、お互いにどんな表情をしているのかはわからない。
 それでも勇気を出して相手の表情を確かめようとしたふたりの耳に、こんな声が届いた。
「全焼、殲滅、大掃除ーっ♪」
 は? と悠とセニスが間抜けな声を出すと同時、メイがライターに火をつけた。
「ちょ、メイ、やめ――!」
「点火ー♪」
 悠が止める間もなく、小さな火が地に落ちる。
 それまでメイが撒いていた油に引火し、敵味方もろとも一瞬で炎に包まれるのだった。


 遺跡の入口、正確には遺跡地下へ続く階段がある建物の入口だが、その付近は一番の激戦区となっていた。
 入口に陣取り、押し寄せてくる敵を押し止めているのは戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)だ。
「戦部、2時の方向からゴブリンが3体来ていますわ」
「わかりました」
 リースの指示に従い、小次郎が機関銃の銃口をゴブリンに向け、掃射する。
「次は9時の方向からオークが2体、11時の方向からも馬賊が3人、いえ、5人来ますわ」
 機関銃がオークを一掃するも、その間に馬賊が接近していた。その背後、小次郎の視界が新手の馬賊を捕らえる。
「……さすがに数が多いですね」
 小次郎とリースに向けて、馬上から剣と槍が刺し込まれる。
 多数の攻撃を受け、ふたりは劣勢に追い込まれた。
 そこにルイ・フリード(るい・ふりーど)リア・リム(りあ・りむ)が応援に駆けつける。
「やらせませんよ!」
 迫る刃に臆さず、間に入ったルイがウォーハンマーで馬賊の攻撃を受け止めた。
「いくぞ!」
 リアの爆炎波が動きの止まった馬賊を巻き込む。
 リアはそのまま、後続の馬賊を相手に立ち回り始めた。
 傷を受けた小次郎に、ルイが手を差し出す。
「大丈夫ですか。諦めてはいけません!」
「誰が、諦めたと言いましたか」
 小次郎が自力で立ち上がる。
「そう、その意気です! さあ、協力しましょう! 力を合わせれば必ず勝てます!」
「え、ええ……そうですね」
 ルイの暑苦しい笑顔に押し切られ、小次郎は思わず頷いてしまう。
 それからルイは遺跡の入口に仁王立ちになり、壁の如く馬賊に立ちはだかった。
「さあ、いくらでもかかってきなさい! ワタシの辞書に諦めるという言葉は存在しません!」
「ルイ! そっちに行った!」
 槍を構えた馬賊のひとりがリアを避け、死角からルイに突っこんできていた。
 反応の遅れたルイを槍が貫く間際、
「ぐあっ!」
 突然、短い悲鳴をあげて馬上の馬賊が吹き飛んだ。馬から落ちた馬賊はそのまま動かなくなる。
「こ、これは……」
 わけもわからず難を逃れ、呆然としていたルイだったが、やがて感極まったように吼えた。
「ついに、ついにワタシの祈りが天に届いたということですね――!」
 

「なに言ってんだか、あのおっさん」
 遺跡の近くの瓦礫に隠れ、スナイパーライフルとシャープシューターで敵を狙撃していたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が苦笑する。
 その間にも手を動かし、トライブは鼻歌交じりに馬賊を一体、また一体と敵を撃ち抜いていく。
「狙撃手は孤独なお仕事〜♪」
「トライブ、敵に見つかったのじゃ」
 同じく隠れていたトライブのパートナー、ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)が近付いてくる馬賊を指差した。
 隠れているとはいっても、距離的には遺跡の入口からそう離れていないのだ。さすがに敵も気付いたのだろう。
「おっと、そんじゃ場所を変えるぜ。馬賊の中を突っ切ることになるけど、我慢してくれよなベルナデット」
「あうあう。馬賊たちは怖いけど、他ならぬトライブの頼みならば、わらわも頑張るのじゃ」
 健気な言葉をくれたベルナデットの頭を撫でてやり、トライブは次の狙撃ポイントを探すためにその場を離れた。