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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

リアクション

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 そんな中、部屋の隅では、比島 真紀(ひしま・まき)と、パートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、真面目にウィニングの対策を行っていた。
 「今こそ、教導団の技術開発の真髄を見せ付けるチャンスです。このバズーカ砲型とりもち発射兵器「とりもちくん(仮)」で、ウィニング・ウィザード・ザ・ニンジャを倒すのであります!」
 「この使用説明書に書いてある、「どんな敵もイチコロよ☆」というのは、どういう意味だ?」
 「……見なかった方向で!! 役に立てばよいのです、役に立てば!!」
 そんな会話をしながら、「隠れ身」で身を隠した真紀と、サポート役のサイモンは、それぞれが「とりもちくん(仮)」を用意するだけでなく、部屋の中に粘着テープやコント用の金ダライを設置していた。
 そこへ、神名 祐太(かみな・ゆうた)が、校長室に入ってくる。
 「校長、アーデルハイト様、すみませんでした。アーデルハイト様が何回殺されるかを賭けたりしてしまって……」
 謝罪の言葉を述べる祐太に、エリザベートとアーデルハイトが注意を向けた瞬間、祐太は手鏡をかざした。
 「なーんてことを言うと思ったか!! 喰らえ!!」
 「ウィニイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイング!!」
 祐太の手引きにより、窓の外にウィニングが控えていたのだ。
 「わはははは!! アーデルハイト!! よくも俺の金を燃やしてくれたな!! せっかくの金儲けの機会を台無しにしたことを悔いるがいい!! 変な設定つけられちまえ!!」
 ウィニングは、祐太の手鏡に向かって、設定崩壊ビームを発射する。
 ビームは鏡を反射し、アーデルハイトの方に飛んでいく。
 「婆さん、あぶないっ!!」
 その瞬間、茅野 菫(ちの・すみれ)が、アーデルハイトを守るふりをしつつ妨害して、自分が設定崩壊ビームを受け巨乳になろうと飛び出す。
 (これで、あたしも小次郎みたいな胸になれるっ! 巨乳になったら、婆さんに自慢してやるんだから!!)
 「だめよ、菫!!」
 しかし、菫のパートナーの吸血鬼パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)が、思い切り菫を突き飛ばす。
 同じく菫のパートナーで、英霊の相馬 小次郎(そうま・こじろう)は、巨乳クノイチコスプレして、大きめの鏡に取っ手をつけた盾でアーデルハイトを護衛していた。
 小次郎の鏡の盾にビームがさらに反射して、アーデルハイトの180度逆方向に飛んでいく。
 「え」
 祐太は、反射されたビームを思いっきり浴びてしまった。
 「「とりもちくん(仮)」発射!!」
 「当れ!!」
 真紀とサイモンが、その隙をついて「とりもちくん(仮)」を発射、ウィニングを狙うも、
 「ぐごふっ!? なんじゃこりゃあああああああ!?」
 「とりもちくん(仮)」の餌食となったのはジャックであった。
 「ね、ねばねばす……ぐごあ!?」
 ジャックは粘着テープに突っ込んで行き、さらにその頭に金タライが落下した。
 「お、お約束過ぎます!!」
 「ある意味期待を裏切らなすぎだぞ、ジャック!!」
 真紀とサイモンが、感嘆の声をあげる。
 「うわああああああ!! 俺は、どうして財布なんか持っているんだああああ!!」
 設定崩壊ビームを浴びた祐太は、思い切り財布を投げ捨てる。
 「金なんて大嫌いだ!! 見たくもない!! こんなものは人にあげてしまえ!!」
 そう叫ぶなり、祐太はダッシュで去る。
 「早く! 部屋のヘソクリも全部、処分して、小銭一枚ない空間にせねば!!」
 「あ、おい、待て!!」
 あまりの出来事に、アーデルハイトが怒りの言葉も忘れて、祐太を追おうとするが、あっというまに走り去ってしまったのであった。
 「ウィニング!!」
 その間に、パビェーダが、ウィニングに向き直る。
 「菫が巨乳になってしまっては困るの! とにかく困るの!! ということで、あなたを論破して廃人にしてやるわ!! あなたはニンジャなんかじゃない!! なぜなら、どんぐりまなこでないし、くるくるほっぺではないし、ニンジャなのに亀ではないし、ニンジャなのに忍犬を連れていないし、ニンジャならば頭から地面に落ちても平気なはずだし、そもそもニンジャなんて非科学的だからよ!!」
 古今東西のアニメや伝説、ゲームなどから産みだされたデタラメなニンジャ像でウィニングを口撃するパビェーダに、ウィニングがたじろぐ。
 「ウィニイイイイイイイイング!? なんだおまえは!? 俺はニンジャでウィザードオ!!」
 クノイチ姿の小次郎が、ウィニングに追い討ちをかける。
 「ふむ、『悪党』、つまり、平安時代の忍者の源流と言われている集団か。悪党も戦国や江戸の世には縦社会になっておったのう。おぬしは、どこの悪党のものだ? しかし、こんな特攻をしてくるとは下忍の中でも、特に下っぱなのであろうなぁ。苦労もあろう」
 「俺は、俺は、俺はあ!! 凄腕暗殺者だああああああああああああああああああああああ!!」
 下忍と決めつけられて同情されたウィニングが、絶叫しながら逃げ去ろうとする。

 「待て!! 私にビームを浴びせろ!! あの金の亡者と言ってもよいような性格の祐太が、あんなにお金が嫌いになったのじゃ!! そるじゃ子の話の通り、そのビームは効果てきめんということじゃな!!」
 アーデルハイトが、ウィニングの前に回りこんで叫ぶ。
 「くっくっくっく……あはははははは!! すばらしい、すばらしいわ、先輩っ!! さあ、皆、先輩の新たな門出を祝って万歳三唱をお願い! そして拍手で送り出して!」
 エヴァは、必死で笑いをこらえつつも結局大笑いし、自分でも拍手している。
 「やかましいわっ! 後で殴る!!」
 「ウィニイイイイング!? なんなんだ、いったい、おまえらは!? そんなにアイデンティティー崩壊したいのか!?」
 「本人が受けたいといっているのに、それを無視するなんて、悪い子たちねぇ」
 巫丞 伊月(ふじょう・いつき)は、アーデルハイトがビームを浴びれるよう周囲を説教して説得しようとしていた。
 「大体、アーデルハイトちゃんが設定が変わったくらいで廃人になるような弱い子だとでも? 信頼無いのね……アーデルハイトちゃん可哀相。……エリザベートちゃん、それでもあなたパートナーなの? ちょっと正座して反省なさい。あと、貧乳である事を悩んでいる子に貧乳は素晴らしいとか言う子もいるようだけれど、相手のコンプレックスを褒めるとか、それってどんなイジメなのよぅ」
 そんなことを言ってる伊月には、実は別の目的があった。
 伊月のパートナーの剣の花嫁エレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)と、同じく伊月のパートナーである吸血鬼ラシェル・グリーズ(らしぇる・ぐりーず)が、アーデルハイトに襲いかかる。
 「な!? 何するんじゃ、お前ら!?」
 「エレノアは、ロリの皮を被ったバーさん……長いからロバでいいです……の願いを叶えてやろうとしてやっているのです。これは人助けなのです。けっして、エレノアも胸が大きくなったらいいなどとは思っていないのです」
 「アーデルハイト殿、これはビームを受けるための演技です。姉様に羽交い絞めしていただいた上で、猿轡をお召しになっていただいて、その御手も荒縄などで縛らせていただきましょう。けっして、楽しいなどと思ってはおりませんよ?」
 「一緒にウィニング・ウザイ・ドジ・ニンジンとかいうヤツのビームをうけにいくのです。ウザイ・ドジ、さぁ、エレノアごとこのロバにビームを撃つのです」
 (ツンクールなエレノアちゃんが変態淑女になったら……あらあら、ぅんふふふ〜涎モノねぇ〜)
 「大変興味深いですね。ぜひ、メモに残させていただきとうございます」
 伊月とラシェルも、エレノア同様、完全に自分の欲望の元、行動していた。
 「誰がロバじゃあああ!!」
 「ウィニイイイイング!! ウザイ・ドジじゃねええええええ!!」
 しかし、アーデルハイトが抵抗して暴れ、エレノアだけがビームを浴びてしまう。
 その結果、ツンクールロリ剣の花嫁エレノアはマッチョタキシード花婿に変身した。
 「え、エレノアちゃん!? たしかに胸囲は大きくなったけどぉ……」
 「伊月ちゃん……」
 「え。今、私のこと、『下等生物』じゃなくて、名前で呼んだのぉ!?」
 「大好きなのですー!!」
 「いやあああああああああああああ!? エレノアちゃんが、エレノアちゃんじゃないいいいいい!?」
 「お、お穣!? 姉様!? す、すごい、これは絶対にメモしなくてはなりませんね!!」
 メモ魔のラシェルは、伊月に抱きついているマッチョタキシードのエレノアの様子を、クトゥルフ神話学科の魔導書のようなイラストで記録しようとしたのだが。
 「いいかげんにしろー!!」
 怒りのアーデルハイトにより、伊月、エレノア、ラシェルは、3人まとめてお星様になるのであった。

 そこに、棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)が現れ、ウィニングに迫る。
 「俺様は農学以外はサッパリじゃが、鏖殺寺院がマゾを殺す……ドMを悦ばせにくる事は理解したきに。『貧乳』ちゅう言葉責めで、アーデルハイトが絶頂まで興奮して昇天寸前じゃきに、のう。皆も鏡プレイと変身プレイで発奮とはスミにおけん。ああ。東洋の魔法使いたる忍びの術、房術は恐ろしいのう。きっと30年間の禁欲の果てに会得した術に違いないきに、俺様的にはウィザードで忍者なのはなんの矛盾もない。刺客は30過ぎのDT忍術継承者=矛盾しないというわけじゃ!! が、それじゃ理解できんのが『ウィニング』なんじゃが。これはどういう意味じゃろうのう? 漢字で書くと『憂忍愚』かのう? 『初妊具』じゃと興奮するのう。ウィザードのウィ。忍者のニン。じゃが、グの字の処遇がサッパリじゃ! DTとグが、どう関係するのか。小一時間、身体に問い詰めちゃるき!!」
 「ウィニイイイイイング!! 俺は20代だあああああああ!!30過ぎじゃねええええええ!!」
 「じゃあ、DTとグはどう関係するんじゃ!?」
 「知るかああああああ!!」
 そんな会話が繰り広げられる中、亞狗理のパートナーの守護天使バウエル・トオル(ばうえる・とおる)が、さらに混乱を招こうとしていた。
 「悩殺寺院から、マゾ殺しのドSアラサーDT忍者が来たそうですね。今度こそ昇天しかけたアーデルハイト様にヒールをかけ、増殖させるチャンスです!」
 バウエルが、禁猟区をアーデルハイトの胸にかけ、言葉責めでアーデルハイトを昇天させヒールで増殖させようとする。
 「ここをこんなに大きくして!」
 「お前ら、セクハラしすぎなんじゃあああああああああああ!!」
 ブチ切れたアーデルハイトが、魔法をぶっ放し、亞狗理とバウエルは、パラ実にあるまじき詰め込み教育で秀才になる暇もなく、ぶっ飛ばされたのであった。

 そんな大混乱の中、菅野 葉月(すがの・はづき)は、セバスチャンがざんすかラリアットで処刑されないよう、共闘しようとしていた。
 「クマのゆる族だったのに、老眼鏡執事に変身した、とかいうキャラの立ち方に嫉妬して、ざんすかは君を消そうとしてるんです。バトラーっぽくデリンジャーで殴ったりして、『私は普通のバトラーになりました』みたいな態度を見せつければ、ざんすかも安心して、君のことは殺さないでしょう。なに、心配いりません。そるじゃ子とか、また同じような外見年齢の女の子が登場して、ざんすかもあせっているんですよ。『レギュラーになれたと思ったら、ゲストキャラだと思ってたキャラに、レギュラー奪われてしまうざんす!!』ってことです。ぶっちゃけ、戦闘系のキャラということで、ざんすかとそるじゃ子が役割被ってるのは事実です。ざんすかも必死なんですよ」
 葉月のパートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)も、うんうん、とうなずく。
 「そうそう。葉月の言うとおりだよ。ジャタの森の精のじゃたにたいしてのライバル視も半端なかったし。ざんすかも、根は単純だから、無害だってことがわかれば、攻撃しないでしょ。ここは大人であるセバスチャンが……まあ、ざんすかは5000歳なんだけど……一歩引いてあげれば、いくら乱暴なざんすかでも、わざわざつっかかってくるってことはないと思うよ」
 「ユーたち、声がでかすぎるざんす!!」
 かくして、葉月とミーナは、またしてもざんすかラリアットの餌食となり、お星様になった。

 「アーデルハイトを殺してたときも思っていたが、なんなんだ、ここの奴らのノリは……」
 そるじゃ子が、呆然と見守る中、七尾 蒼也(ななお・そうや)が、ヘアバンドに鏡をつけた状態で現れた。
 (そるじゃ子は俺が落としたんだ! 最後まで面倒見るぜ。ほんとは悪い子じゃないんだ)
 「カツ丼の兄ちゃん!? なんだ、その格好は!?」
 「寂しかったんだろ? ……俺がお前を生まれ変わらせてやる」
 そう言って、ビーストマスターとして適者生存でそるじゃ子を調教し、鏡を隠し持たせてウィニングを倒させようと、蒼也が近づく。
 「適者生存だと!? あたいが何回アーデルハイトを殺したと思ってんだよ! ていうか、『調教』で『お医者さんごっこ』って……変態か!?」
 「いや、これはお医者さんごっこじゃなくてだな……あ、待て!」
 「あんたは比較的まともな奴だと思ってたのにー!!」
 「違う! 最初から壊れてればアイディンティー崩壊も怖くないよな……って思って、一回きりだしエロキャラでもやってみるかって考えてただけだ!!」
 「ちくしょおおおおおおお!! チャン以外の奴らはデフォルトでロリコンかよー!!」
 「いや、セバスチャンもロリコンの部類だろ!!」
 逃げ出したそるじゃ子を、蒼也が必死で追う。

 「ウィニイイイイイング!! 一時撤退だぜえええええええええ!!」
 「あ、こら、待て!! まだ私にビームを浴びせてないじゃないか!!」
 「そるじゃ子とウィニングが逃げたざんす!! 邪魔されない場所でぶっ殺すざんす!!」
 ウィニングと、アーデルハイト、ざんすかも、校長室から走り去る。

 「……セバスチャン、トリア」
 「は、はい」
 「なんでしょう、エリザベート様?」
 「お茶が冷めてしまいましたぁ。入れなおしてほしいですぅ」
 「……かしこまりました」
 「ただいま、ご用意いたします。沙希様達も、どうぞ」
 「ありがとう、トリアさん」

 こうして、エリザベート達の平和なお茶会は続行されるのであった。