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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【後編】

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 第4章 桐生大戦争! 世界樹の隣で大怪獣バトル勃発のこと

 アーデルハイトおいてけぼりで大騒ぎの中、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が近づく。
 「アーデルハイト様のおっしゃることはごもっともですわ。巨乳……はともかく、豊かなバスト、均整の取れたプロポーション、食べても太らない体質……それはまさに「女の子」にとってびっくりするほどユートピアな状況ですものね。そのためにはまず、アーデルハイト様のご意向を無視する「君側の奸」を排除しなければ! 誰が真の世界樹の守り手であり、誰が真の森の守り神であり、誰が真の世界最高の魔法使いであるかを小生意気なエリザベートだのざんすかだのに見せ付けてやらねばなりませんわよ! そう、敵と戦う前に、まずは粛清を! 一心不乱の大粛清を! 今こそご決断の秋ですアーデルハイト様! 僭越ながら露払いはわたくしどもが務めます。ですのでお力をお与え下さいアーデルハイト様」
 ジュリエットのパートナーのシャンバラ人ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)が、ツッコミを入れる。
 「お姉様、アーデルハイト様の密かな願いには、わたくしも共感いたしますけれど、粛清というのはいかがでしょう。それはアーデルハイト様の本意ではないのでは?」
 「何を言うのジュスティーヌ。イルミンスールの最高権力者はアーデルハイト様ですのよ? それを、年端も行かぬ子どもが校長をしているという時点でおかしいのです。エリザベートはいわば傀儡。アーデルハイト様の手駒に過ぎないのに、あんな大きな顔をしているのはおかしいのですわ!」
 「そ、そうでしょうか……?」
 アーデルハイトの最高権威性をジュリエットにまくしたてられ、ジュスティーヌは沈黙する。
 ジュリエットのパートナーの英霊アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)も、革命気分を盛り上げる。
 「ラ・テルール! ラ・テルール! 裏切り者のアバズレどもをギヨタンへ送るじゃん! 自由、平等、博愛を! ついでにあたしたちには「より平等」を! アーデルハイト様は、世界最強ォォォ!」
 「……言われてみれば、私は最近、なめられすぎな気がするのう。ラリアットでぶっ飛ばされたり、殺しまくられたり、「大ババ様」「超ババ様」という呼称が学生達の間でまで一般化したりと、皆、私への敬意が足りん!」
 「そのとおりですわ。だから何か魔力とかマジックアイテムとか付与してくださいアーデルハイト様」
 支配者のおこぼれにあずかろうというのが、ジュリエットの狙いであった。
 「エリザベートはともかく、まずは、ざんすかに、きっちり立場をわからせてやらねばなるまい! たかだかザンスカールの森の精が、この私に逆らうなど、どのような結果が待っているか思い知らせてくれるわ!」
 「その意気じゃん!」
 アンドレが煽る。
 「というわけで、ざんすか! 今日こそ目に物見せてくれる!」
 「アーデルハイト、いきなり何言ってるざんすか!? でも、売られたケンカは買うざんす! こっちこそ、エリザベートのパートナーだと思って手加減してやっていたのに、本気でぶっ殺してやるざんす!」
 暴走したアーデルハイトは、ざんすかと派手に戦い始める。

 一方そのころ、校長室。
 相変わらずセバスチャンとお茶していたのは、皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)と、パートナーの関聖帝君に見えないこともないゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)、同じく伽羅のパートナーの英霊皇甫 嵩(こうほ・すう)であった。
 「んー、さすがですぅ。アーデルハイト様の執事ともなれば、お茶の入れ方一つも違いますねぇ。元バトラーの私なんか、及びもつかないですぅ」
 伽羅がセバスチャンのお茶を褒めちぎる。
 「ありがとうございます」
 セバスチャンが、温和な笑みを浮かべる。
 「……【男たちの本色】チャン」
 伽羅の言葉に、セバスチャンのお茶を入れていた動きが止まる。
 「……まさか、暗殺者組織にその人ありと知られた、かの熊型ゆる族が、こんなところに潜んでいようとは……気がつかないはずですぅ。……なにしろ外見も名前も全然変わってますからねぇ」
 「ま、まさか、では、この虫も殺さぬ顔をした張(チャン)殿が、あの『【その熊、凶暴につき】チャン』だというのでござるか義姉者!」
 うんちょうタンが驚きの声をあげる。
 「なるほど、この方が……音に聞く『【グラサン白マフラーの】チャン』殿でござったか」
 嵩が、興味深そうに笑みを浮かべる。
 「……何のお話ですか」
 セバスチャンが伽羅に向き直る。
 「バトラーの世界は狭いのですよぉ。ゆる族ソルジャーはたくさんいますけれど、ゆる族バトラーと言えば希少ですからぁ。少女を守るため、暗殺者組織をたった一人で事実上の崩壊に追い込んだ、という伝説は聞いたことがありますがぁ、……まさか実在したとは驚きですぅ、【二丁拳銃の】チャンさん。お目にかかれて光栄ですぅ」
 「【血まみれ風呂(ブラッドバス)の】チャン……ゆる族の間でもその悪名、いや失礼、過去の名前は名高きものでござる。前非を悔いて起ったゆる族きっての義士、【屍山血河の】チャン殿とご一緒できるとは光栄でござる。及ばずながらもこのうんちょうも助太刀させて下され!」
 「かの『【大大大哥】チャン』殿が……かくも柔和な方でござったとは。聞くと見るとは大違いにござりますな。お互い歳は取りたくないものにござります」
 「いえ、あなた方のおっしゃっているのは、別人でしょう。私は、ただの執事ですよ」
 セバスチャンは笑顔を浮かべるが、逆光で、老眼鏡の奥の瞳を伺うことができない。

 校長室でそんな会話が繰り広げられている中、桐生 円(きりゅう・まどか)とパートナーの吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)と、同じく円のパートナーの英霊ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が、ウィニングに迫っていた。
 ざんすかと戦ってる隙に、アーデルハイトに向けてビームを放ったウィニングの前に、ヘッドスライディングで円が滑り込む。
 「ふふふ、これでボクはワンダフルボディ円と呼ばれるようになるだろう。ん? まてよ! 胸が大きくなってない! どういうことだ!」
 「いや、身長150センチになってるだろおおおお。俺ができるのは設定崩壊ビームを放つことであって、ビームの効果は設定を崩壊させることだけだ。世界法則の変更はできないんだよおおお」
 「なん……だと?」
 「今言ったとおりだ。桐生円の胸を大きくするのは、この世界をこの世界たらしめている、基本法則を変更するということだ。つまり、宇宙の摂理そのものを変更するということ! 人間の身たる俺には不可能だああああああああ!!」
 「そ、そんなことがあるわけが……」
 円はがっくりと膝をつく。
 「とりあえず、打ちひしがれた円はおいておいてぇー」
 オリヴィアが、3体のゴーレムを使って、ウィニングを拘束する。
 「ぎゃああ、何しやがる!」
 胴上げされたウィニングがわめく。
 「ちょっと力を借りるわよぉ〜。オリヴィアにも設定をつけてちょうだいぃ〜。百合園一の美人吸血鬼ってかんじがいいわぁ〜、百合園の吸血姫とかもいいわねぇ〜、あとは子どもに好かれるおねぇさんとかいう設定もいいわねぇ〜寄ってくると楽そうだしぃ〜、あとあと、女の子からよくひとめぼれされちゃぅ〜とかそんな設定もお願いねぇ〜」
 ミネルバも、高周波ブレードをウィニングに近づけて言う。
 「むはははは、この健康器具で切り裂かれたくなければおとなしく円とミネルバちゃんたちに設定光線を打つのだー! ミネルバちゃんの設定は、お菓子を無尽蔵にそこらじゅうに出せるって設定がほしい! つけてくれたら離してあげる!」
 「おまえら、何勝手なこといってやがるぅうううう!?」
 ウィニングは、オリヴィアとミネルバにビームを放つ。
 「やったわぁ〜。百合園一の美人吸血鬼オリヴィアよぉ〜」
 「わーい、お菓子が無尽蔵に出せるようになったよー!」
 「〜と思い込んでいる」という設定を付与されたオリヴィアとミネルバがはしゃぐ。
 「くっ、宇宙の摂理など、ボクがこの世界の神になり、変更すればいいだけのこと! それに、まだ、身長が足りない! オイ、なんとかウィング! 本当はボクは160センチな大人の魅力にあふれた子だったんだよ! 言ってる意味はわかるよね!?」
 円が、ウィニングに迫る。
 「そんなに言うんなら、設定つけてやるよお!」
 ウィニングのビームで、円が身長160センチになる。
 「む、胸がまったく大きくならないだと!? もっと、もっとだ!」
 ウィニングがさらにビームを放つと、アメフトばりのタックルで、桐生 ひな(きりゅう・ひな)が滑り込んでくる。
 「円だけが背が高くてないすばでーになるなんて許さないのですっ、私も負けずに大きくしてもらうのですよー。同じ桐生として絶対に負けたくないのですよー」
 ひなが、身長170センチのないすばでーになる。
 「えへへ、これで私はエクステンドボディひなって所ですかねー」
 「な、ひなは出るとこ出てしまるとこしまる体型になってるじゃないか!! もっとビームを撃つんだ!」
 「むむっ、円には絶対負けたくないのですっ! もっとビームのおかわりをもらうのですっ!」
 かくして、W桐生の設定崩壊ビーム合戦が開始された。
 2人はぐんぐん巨大化していき、イルミンスールの校舎内に入っていられなくなり、ついには、身長300メートルになった。
 「どうしていまだに縮尺が同じなんだああああ!!」
 かたや、口から1600℃の炎を吐き、目からビームを放射可能、帽子が回転して空を飛べる、恐怖の殺戮兵器、円。
 「悪の栄えたためしなしっ! この桐生ひな、史上最大最強の分銅の人として、円を倒すのですっ!」
 かたや、ぼんきゅっどどんな超ないすばでー、口から冷凍ビーム、あほ毛から電撃を放つ、恐怖の潰し屋ひな。


 世界樹イルミンスールのすぐ側で、巨大怪獣大決戦が始まった。


 「シャゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
 さらには、巨大ドラゴンになった、ジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)が飛んでくる。
 「おーほほほほほほほほほほ!! 世界を支配するのはわたくしよ!!」
 そして、魔王になった日堂 真宵(にちどう・まよい)も、参戦する。

 「あぶないー!」
 さらに、十六夜 泡(いざよい・うたかた)のパートナーの魔女リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)が、泡のポケットから飛び出して、ビームからかばう。
 「って、ええ!? リィム!?」
 その結果、手のひらに収まるくらいの大きさだったリィムも、300メートルになってしまった。

 5人の怪獣大決戦は、エスカレートするばかりである。

 そんな中、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は、パートナーの機晶姫ラグナ アイン(らぐな・あいん)の提案に従っていた。
 「なあ、本当にこれで、元凶であるニンジャを倒せるんだろうな?」
 爆弾を設置しながら、佑也がアインに問いかける。
 「そうです。ヒーローは遅れてやってくるものです!」
 アインは、力強くうなずく。
 「あなたの悪事を見過ごすわけにはいきません! 今ここで成敗してくれます!」
 アインは叫ぶと、太陽を背に、ブロードソードを天に向けて、轟雷閃で剣に雷をまとわせた。
 「刀狼よ! 我に力を!」
 さながら、特撮ヒーローの登場シーンのように、佑也の設置した爆弾が爆発した。
 「……って、お前これがしたかっただけだろ!?」
 佑也のツッコミもつかの間、同じく佑也のパートナーの機晶姫ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)が、空から流星となって降ってきた。
 「風よ林よ火よ山よ、我に力を与えたまへ……天空の花嫁、ツヴァイ推参ですぞ。いやはや、なかなか楽しい星間飛行でしたぞ」
 前回、お星様になったツヴァイが、アインに呼ばれて飛んできたのである。

 「このままじゃ決着がつかないのですっ! ここは、やっぱり、分銅タックルしかないのですっ!!」
 ひなが、分銅を担いで、怪獣大決戦の真ん中に突っ込む。
 「このシナリオで、真に皆に恐れられる桐生さんは、この私なのですっ!! ぶちゅっ」
 「滅びろ、巨乳ども!! ヘルジャッジメントオオオオオ!! ぐにょっ」
 「シャゴオ!?」
 「ぎゃひゅっ」
 「ぎょにゃっ」
 ひなの自分もろともの超巨大分銅攻撃より、円、ジゼル、真宵、リィムが一緒につぶれる。

 「……イラッ☆」
 さらに、ツヴァイが、その上に落下する。

 「はあっ!!」
 いつのまにか近づいていたセバスチャンのデリンジャーの一撃で、巨大怪獣達と流星ツヴァイは、お星様になった。

 「おお、さすがチャンさんですぅ」
 伽羅が、うんちょうタン、嵩とともに、拍手喝采する。
 「……私は、ただの執事ですよ」
 セバスチャンが、いつもどおりの、温和な笑みを浮かべる。

 立川 るる(たちかわ・るる)が、その様子を、嬉々として観測する。
 「わーい、また撃ち上がった! 名付けて、るる星群☆ やっぱりお星様大好きっ☆」