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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

リアクション


二章

「つまり謎の手紙は宇宙人の仕業だったんだよ!」
「な、なんだってー!!」
「……この前見せたコミックが原因かしらぁ〜?」
 魔法学校屋上よりも遥か高い、世界樹イルミンスールの頂上に彼女らはいた。
「あの手紙は宣戦布告で宇宙人が侵略に来るんだよ。しかし、ジュンロクくんをボクたちが捕らえれば先制攻撃をすることが可能というわけだ!」
 そう断言するのはウィザードの桐生円(きりゅう・まどか)。(迷探偵)
「なんてイケない奴なんだジュンロクくん! そんな宇宙人はミネルバちゃんが成敗してあげるのだー!」
 次にパートナーの英霊。モンクのミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)。(アホの子)
「ま〜円の決断だから、お姉さんは何も知らな〜い。でも面白いからアリだわぁ〜」
 最後に、同じくパートナーの吸血鬼。モンクのオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)。(愉快犯)
 宇宙人の侵略を阻止するべく、天に近き場所、世界樹の頂上へと文字通り飛んで来た三人。
「あとは答えを宣言するだけだよ」
「絶叫系なら任せとけー!」
「その前に円ぁ〜」
「なんですマスター?」
 世界樹の頂上が、天に近き場所、と考える者は彼女らだけでは無かった。

「ディーくんってばぁ、もっとスピード出してくださいですよーぅっ」(ゆっさゆっさ)
「ニーチェぇぇぇぇえッ! 危ないって、揺らすなって!!」
 世界樹の頂上を目指す二人乗りの空飛ぶ箒。運転担当のウィザード。ディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)
 後ろに乗るゆっさゆっさ担当のソルジャー。橘ニーチェ(たちばな・にーちぇ)
「ルナリィス、くれぐれも安全運転で頼む」
「……うん……安全運転、……ね」
 後に続く箒も二人乗り。
 安全運転を担当するのはディアスのパートナーで剣の花嫁のメイド。ルナリィス・ロベリア(るなりぃす・ろべりあ)
 後ろにはニーチェのパートナーで魔女のウィザード。橘ヘーゲル(たちばな・へーげる)
 ディアス&ニーチェのフラフラ運転を見て、安全な運転を心掛けない者はいないだろう。
 ただし、賑やかでちょっと楽しそう、などと密かに思ってるルナリィスを除けばだが。

「到着ですよーぅ」
「やっと、ついたぜ……」
「ディアス……大丈夫?」
「ニーチェ、あまりはしゃぐな。ジュンロクに会った時の体力を残しとけ」
 ようやくついた頂上。そこには先客が待っていた。
「ふふふ、ボクの他にもジュンロクくんの正体に気付く者がいたようだ」
「な、なんだってー!!」
「さっきも聞いたわねぇ〜。そして、はろはろー」
 そこには円、ミネルバ、オリヴィアの三人がくつろいでいた。
「向こうも同じか……さて、どうする?」
「良いモノが先に答えた奴だけにプレゼントされるなら……ニーチェ」
「僕はじゅんろっくんを、こう、もふれたら……いや、よいものも頂きたいですよ?」
「なにを言ってるんだ?」
「……もふ……もふ」
 両手をもふもふさせるルナリィス。
「どうやら、やるしかないようだぜ」
 答えられる前に答える。それが出来なければ妨害するしかない。
 冷たい空気は更に張りつめ、一触即発の雰囲気が漂う。
 しかし、円にとっては不思議でならない。どうして侵略阻止の仲間なのに、旧知の敵のような空気になるのか。
 オリヴィアは何も言わない。
 なぜなら。

 それが楽しくて仕方ないからである。

「(さてさてぇ〜、これからどうなるのかしらぁ〜? それにしても、オロオロする円も可愛いわぁ〜)」
「なんだかわからないけど邪魔者かー? だったら、ですとろーい!」
 ですとろー、の部分で轟音が響いた。
 大きな爆発音。それは遥か下、魔法学校の屋上。見れば紅蓮の劫火と黒煙が立ち上がっていた。
「え、なんだろう?」
「戦闘か。だが、どうして……」
「まさか、天に近き場所ってのは」
「円ぁ〜行くわよぉ〜!」
「イエ〜ス、マスター! ミネルバ!」
「お〜! 乗って〜!」
 オリヴィアの行動は速かった。爆炎を見て面白そう、から、行ってみる、への思考処理も速かった。
 箒に乗るオリヴィアを追って、円はミネルバの運転する飛空挺で飛ぶ。
「先を越されたっ! いくぞニーチェ!」
「あ、ディーくん待ってー」
「ルナリィス、俺たちも」
「…………」(コクリ)
 三人と四人は落ちるようにして屋上を目指す。
 途中で飛んでいた小型飛空挺に衝突するのだが、それは済んだ話。


 所変わってイルミンスールの森。
 雪が降り積もり、雪化粧をした森は幻想的で儚げだった。
 その深雪の中を踏み締めて進む者がいる。
「ケイティさん、凄い景色ですね」
「え、ああ、うん、そうですね……」
「やっぱり森に来て良かったです」
 などと陽気にパタパタ尻尾を振るのは獣人のローグラティア・カルチェット(らてぃあ・かるちぇっと)だ。(狼)
 少し遅れて歩くウィザード。ケイティ・アルベイル(けいてぃ・あるべいる)のパートナーでもある。
 二人はジュンロクを捜してここまで来た……のだが。謎は解けていない。
 ラティアの逆転の発想。
 本人に答えを訊けばいい、という画期的な方法を編み出し、目下捜索中なのだった。
「どうしてこんなことに」
「ユニコーンでも出そうですね。清らかな乙女だけが会えるそうですけど……」
「……どうしてこちらを見るんですか?」
「清らかですよね?」
「清らかですよぉ!」
 能天気に愉快なラティア。逆に陰鬱な溜息をつくケイティ。
 二人が進むその後方から、低い機械音が聴こえてくる。
 バイクだ。軍用ではない様だが、雪道で大丈夫なのだろうか。
 恐らくはタイヤにチェーンを巻いたか、スパイクタイヤに換装しているに違いない。
「今度こそ、ジュンロクが見つかるといいね」
「川での光景は忘れました」
 それはセイバー高村朗(たかむら・あきら)と、そのパートナーの剣の花嫁。プリーストのルーナ・ウォレス(るーな・うぉれす)
 二人もまた、ジュンロクを捜してイルミンスールの森へ訪れたのだが。
 その前に訪れたサルヴィン川で見たモノは忘れる事にしていた。
 それはあまりに、見るに堪えない惨状だったのだ。
「おっと、俺たちの他にもいるみたいだよ」
 ゆっくりと減速し、やがて完全に止まった。
「気を付けた方がいいと思います。良いモノ欲しさに独占しようと襲ってくるかもしれません」
「いやあ、さすがにそこまでは無いと思うけどなあ。優しそうだよ?」
「ケイティさん、優しそうと言われちゃいましたよ。私だけ」
「もう、師匠だけじゃ無いですよ。……無いですよね?」
「えっ? あ、はい、お二人とも優しい顔ですよ」
「何を真顔で言っているのですか」
 呆れつつ、ルーナもケイティとラティアがそういった類の人間では無いと考えを改める。
 四人はジュンロクを捜す為、共に行動することにした。
 特に朗は良いモノよりもジュンロクの正体に興味があった。物欲よりも興味心が勝っていたのだ。
 ケイティとラティアも、というより、主にケイティはさっさとジュンロクを見つけたい。
 謎解きをしたかったのに、相談相手が悪かったのだ。
 バイクから降りて押して歩く朗。幸いこの道は固められているのでそれほど苦にはならなかった。
「これはこれは、私以外にも人がいたのですか。のぞみ、また後で連絡します」
 どこからか、そう聞こえた。
「あなた達も、ここにジュンロクが現れると考えたのですか」
 道の無い方向、木々の隙間に彼はいた。
「えーっと、あなたも?」
「はい。正確には私の推理では無いのですが、関係無いでしょう。私は怒りに来ましたので」
 そこに現れたのはバトラー沢渡真言(さわたり・まこと)
 真言の目的は良いモノでは無い。ジュンロクを叱りに来たのだ。
「怒りに、ってそれはどうして?」
「それは手紙に書いてあった事に関してです。酷いではないですか、謎に答えられなければ悪い子扱いだなんて」
 そんな基準は良くないと思い、ここまで文句を言いに来た。それが真言だ。
「多くの方が気付いているようですが、ジュンロクとは《馴鹿》と書くそうです。なので森が怪しいと感じたのです」
 言いつつ、真言は雪に字を記す。
「あの、その《馴鹿》が何なのか知ってるんですか?」
「ジュンロクとは別名で、一般的には……」
 そこで何者かが真言の視界に入った。
 それにはケイティ、ラティア、朗、ルーナもすぐに気付いた。
 何と言うか、とても派手な服装をしており、真っ白な風景の中でかなり目立っていた。
 しかし、だからと言ってそれが異質でも無く。
 むしろ、これ以上無いくらいにその服装は、その場に合っていた。
「ま、まさか……」
「……あの人はっ!」
「もしかして、あれがジュンロク?」
 何者かは、ゆっくりと、近づいて来た。


 所変わって。(再)
 ここはサルヴィン川。
 川と言っても大河である。その中には魚だけではあきたらず、凶暴な生物が潜んでいるやも知れない。
「フ、フフフフフフフ……」
 雪が降る川岸に、一人の男が立っていた。寒いのに。
「ふぇックシュ!!」
 彼の名は譲葉大和(ゆずりは・やまと)。モンクである。
「はふぅ、寒いのでちゃっちゃと宣言してしまいましょうか」
 彼は既に答えを導き出す事に成功している。
「ですが、順序立てて宣言した方がいいのでしょうか」
 考えでは、このサルヴィン川こそが天に近き場所だった。
「天に近き場所。それは地球から見て天。すなわち地球から一番近い場所、といえば、太平洋に流れ込むサルヴィン川の事を指しているのです」
 実に見事な、迷推理だった。
「そして王、騎士、女王。あれはある法則によって、数個の文字が現れます。
 それは『L』『Y』『U』『I』『A』の五つ。
 これらの文字群に対して浮かび上がる命。それは『LIFE』を意味する。
 文字群から『LIFE』に含まれる文字を除去すれば……
 残ったのはY、U、Aの三つ。これらと川に関係する命とは!」
 カメラが右、左、正面の順で大和の顔をアップで映す。
「A・Y・U! あゆ、だっ!」
 震えが止まらない程の衝撃が走るくらいの迷探偵が、ソコにはいた。
「さあ、改めて宣言しましょう……」
 宣言ではなく。

「あゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーっ!!」

 絶叫だった。
 しばし、静寂が訪れ、やがて川より一匹の頭に皿を乗せた生物が上がって来た。
「ちょっとあんた、こんな所でウルサイよ!」
「あ、すみません」
 その後、数分間説教をし、気を付けてよね、などと川へ戻って行った。
「……河童に怒られてしまいました」
 途中で、行こうルーナ見てると悪いよ、そうですね、この光景は忘れる事にします。という会話が聞こえた。
「結局、間違いだったのでしょうか……さぶいし、眠いし、恥ずかしいし、あとさぶいし……タイヤキまで用意したのですが……あゆ……」
 とぼとぼ、と聞こえそうな足取りで帰って行った。
 それを始終見守った二人。

「なんだか面白い人でしたね」
「彼もジュンロクを捜していたのでしょうか。仕方ないとは言え、少し可哀そうな気もしました」
「大地さんは優しいんですね」
「そ、そんな事は無いですよ……」
 などと会話するのはナイトのティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)
 そしてソルジャーの志位大地(しい・だいち)の二人。
「それにしても見つかりませんね。ウィル」
 この二人、そもそもは共通の友人に呼ばれて来たのだが、今はこうしてはぐれてしまっている。
「そうですね。……少し休憩にしませんか? 実は妖精スイーツと紅茶を持って来ているんです」
「あ、ありがとうございます。それでは休憩にしましょう」
 二人は適当に座れる所を見つけると、並んで座った。
「少し熱いので気をつけてください」
「はい。あっ、おいしいです」
「それは良かった。用意して正解でした」
 先にティエリーティアが飲んでから大地も一口飲む。彼は紳士だ。当然レディーファーストは心得ている
 寒い場所で飲む紅茶は格別の美味しさだった。体を内側から温めてくれる。
 しかし、体を温めているのは紅茶だけではないだろう。
 ティエリーティアの喜ぶ顔を眺めながら、もう一口飲んだ。
 そして。
「ティエルさん、これを」
「はい?」
「メリークリスマス」
 小さな箱を手渡した。
「わぁ、ありがとうございます。開けてもいいですか?」
 もちろん、と言われて中身を取り出す。
 ソレは銀の飾り鎖。ブレスレットだった。
「わぁ……綺麗です。ありがとうございます。大地さん」
「いえ。喜んで頂けてなによりです」
 実はブレスレットは二つあり、片方は大地が持っていたりする。
 その両方にブレスレットには文字が刻まれていたりもする。ティエリーティアから見えない位置に。

 TIEL&DAICHIと

「あっ、ちょうどいいので大地さん」
「なんですか?」
「はいっ!」
 出された両手には可愛らしくラッピングされた何かが乗っていた。
「これは……?」
「メリークリスマスです」
「俺にですか?」
「はい。どうぞ受け取ってください」
「あ、ありがとうございます! 開けても……?」
「もちろんです」
 丁寧にラッピングを解き、中に包まれていたソレが姿を現す。
「ソレ、私が作ったんです。シナモンクッキーなんですけど……」
「…………」
「お口に合うか分りませんが、一生懸命作ったので、その、食べて頂けると嬉しいです」
「…………」
 ソレは、シナモンクッキー。本人が言うのだから間違いない。
 例え、形は三角錐、香りはカレー、七色に輝いていようとも、シナモンクッキーだ。
「……いただきます」
 ガキンッ! ガキッバキバキッバリッ……ドサッ。
「……だ、大地さんっ!? 大丈夫ですかっ!?」

 ティエリーティア。
 自分で料理する必要がない環境と、絶望的な家庭科の数値との関係は不明である。