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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

リアクション


第五章

「そこだーっ!」
 バサッ!
 銀髪ショートが放った網が宙で広がり、ジュンロクに襲いかかる。
「はいはい、じゃまじゃまー!」
 小型飛空艇が網に突っ込んで焦げ茶のボブカットと、黒のショートが飛び降りる。
「させんわボケー!」
 青紫の炎が迸り、銀髪ショートに襲いかかる。
「効かーんっ!!」
 紅蓮の炎が燃え盛り、降りかかる青紫の炎から身を護り、爆ぜた。
 周囲の者は衝撃で薙ぎ倒されそうになる。

「二人はいないし、邪魔者だらけだし。めんどくせー! みんな燃やしちゃるわァ!」
 両手に紅蓮の炎を燈らせるのはミンストレルのウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)
 彼は大地とティエリーティアを呼びつけた張本人なのだが、はぐれた二人は川でティータイム。
 網を投げたのはジュンロクを捕獲する為だったのだが、それを邪魔した小型飛空艇。

「ウィルネストさん? 一人占めしようなんてさせませんよぉ?」
 飛空艇から飛び降りたのはソルジャー佐々良縁(ささら・よすが)。そのパートナーのアリスのセイバー。佐々良睦月(ささら・むつき)
「俺の作った投げ縄よりも先に網なんて投げんなー!」
 言いつつ投げ縄が睦月の手から放たれたが、無残にも紅蓮の炎に焼かれる。
 そのまま勢いの止まらない炎が睦月を焼く。その寸前で別の炎が遮った。
 色は青紫。

「ざ〜んねんウィルネストさん。オレって今は縁ちゃんとむっきーの味方なんだぜ?」
 それはウィザードの七枷陣(ななかせ・じん)。その後ろにはパートナーの機晶姫。ソルジャーの小尾田真奈(おびた・まな)が待機する。
「ご主人様の意向なので、申し訳ありませんが貴方を襲撃させて頂きました」
 真奈はジュンロクに向かって事後承諾のように言う。

「待てぃ! そいつは俺様が退治してついでにアイテムをガッポガッポなんだよ! いや、あくまで副産物だ、ぜッ!」
 再び放たれた炎が真奈に向かうが、やはり炎が邪魔をする。
「てめーっ! 俺様が紅蓮の魔術師と知ってのろーぜきか!?」
「そんなん知らんわっ! 邪魔すんなら灰にしてやるぁー!」
「やってみやがれぇーっ! 骨まで焦がしてやるぜぇっ!」
 双方の放った猛火は正面からぶつかり合い、互いの色で染めようと、より強く、より激しく煌めいた。
 紅蓮と青紫が混じり合い、マゼンタの炎が二人を挟んで膨らんでいく。
 どちらも譲らない、それ以上に、自分が力を抜いた瞬間に地獄の劫火へと変貌しつつあるソレは我が身を焼き尽くすだろう。
 炎は止まらない。
「あったけー」
「氷雪合戦も休止ね」
「円ぁ〜、寒いわぁ〜」
「ミネルバちゃんも〜!」
「くっつかないでマスター、寒くて重」
「毒虫の群れは冬でも使えるのかしらぁ〜。試したいわぁ〜」
「……クナイデスヨ?」
「服がビチョビチョだぁ」
「下もびしょ濡れだよ〜!」
「美羽さん、それは脱がない方がいいのでは……」
「ここに置いておけば渇くかな?」

「「乾かすなっ!!」」

 ちょこんと置かれた靴下が渇かされている。『靴下』がだ。
 暖を求めて亡者の如く集まって来る。
「じゅんろっくんあったか〜い」
「……もふもふ」
「可愛い……?」
「どうして疑問なんです。お嬢さん」
 まったりタイムへと移行しつつあった。
 地獄の劫火はストーブ代わりだ。
「い〜かげんにぃ……」
「しろ〜て〜……」

「「言ってんだるぁーッ!」」

 行き場を失った炎の球は天を目指してどこまでも飛んで行った。
 大気圏を越えるかどうかは不明だ。
 あちこちからストーブを惜しむ声が聞こえる。
「凄まじい熱気でしたねえ」
 ジュンロクは呑気に感想を述べている、その後ろに袋が見え隠れしているのを見逃さなかった。
「アイテムゥー!」
 ウィルネストが飛び掛かった、と同時に幾人もの影が宙に舞っていた。
「させんわー!」
「あたいのモノだよッ!」
「毒虫の群れ……」(ポツリ)
「マスターの言う通りに!」(生存本能)
「ミネルバちゃんダ〜イヴッ!」(ついで)
 その時、縁の中で時が止まった。そう思える程の速さで思考を展開したのだ。
 自分はどうするか、その行動を考える。
 選択肢は三つ。
 その一。童顔な縁は突如飛び掛かりに参加する。
 その二。仲間である陣が良いモノを手に入れる。
 その三。何も出来ない、現実は非情である。
 彼女はその二に丸を付けたいが、多勢に無勢。流石に心許ない。ならばと選んだ選択は。
「させないよぅ〜! JK〜ッ!」
 縁が情熱的に考えて(JK)選んだ選択はこれだ。

 その四。ころしてでも うばいとる。

 一斉に襲いかかる者どもによってジュンロク、そしてアイテムは強奪されてしまう。
 もう少し、という所で何かに阻まれた。
 全員が宙に浮いたまま、なにかにぶつかって近付けないのだ。
 縁は思った。
 その三。三。三。三。脳裏を三が反響する。
 ゆっくりと仰向けに倒れて行く中で、彼ら彼女らは見た。聞いた。
「ジュンロクはワタシたちが守ります」
「ハードボイルドに行こうか」
 二人はトナカイの格好に仮面をしていた。しかし顔の半分までしか隠せない仮面なので、知っている人は知っていた。
 それはプリースト佐々木弥十郎(ささき・やじゅうろう)と、そのパートナーの英霊。ナイトの熊谷直実(くまがや・なおざね)だった。
「これ以上はワタシの『禁猟区』を打ち破ってからじゃないと、指一本ジュンロクには近付けない」
 阻む何かは結界だった。ジュンロクの周囲に展開されたそれによって護られている。
「一体どちらさまで?」
 トナカイの格好をした弥十郎にジュンロクは問い掛ける。
「ワタシは……そう、パンナコッタドラグーンとでも名乗っておきましょう」
 弥十郎曰く、甘くてつるンとする竜騎士隊です。
「何だか分からないけどぉ〜、やぁっておしまい〜」
 どうしてかオリヴィアの言葉で円とミネルバの他に大勢が襲いかかる。さながら悪の軍団だ。
 ズドドドドドドドッ。
「いやいや、いくらなんでも多すぎるでしょう?」
「こんな時こそ、割れたくなければ固くなれ。ハードボイルドだ」
 そう言って直実はパンナコッタを取り出す。同じく弥十郎も。
「これでも喰らいなさいな」
 次々にパンナコッタを投げる。投げる。投げる。
 それらは口に入る。入る。入る。
 とっても残念な味わいだ。
「悪い子にはハズレのパンナコッタだよ」
 これには身を悶えるしかないが、数には限りがあった。
 すぐに限界を迎えてしまう。
「必死だねぇ。それならこっちも必死になろうか」
「いいね。ハードボイルドだ!」
 圧倒的な数を前にしても怯まない。そこに加勢が現れた。
「私も加勢させて貰いますね」
 弥十郎は一瞬だけ驚いてすぐにいつもの表情に戻った。
 片手剣の光条兵器を振るうそれは樹だったのだ。
「構わないですか? 弥十郎さん」
「ワタシはパンナコッタドラグーンです。……ありがとうございます。樹さん


 ふふ、と二人は笑みを交わす。
「私の背中、あなたに預けるわ!」
 悪の軍団が二人を囲む。
「こいつはいただけねえな。行くぜシャルル!」
「うん、プレゼントが取られちゃうもんね!」
 光条兵器『TRICK・CARD』を手にした祐太とシャルルが駆け出す。
「睡眠薬入りのお茶が無駄になってしまった。ならば行くぞアリス、俺の手で良いモノを手に入れる!」
「クッキーも、無駄になりました……」
 続いて、眼鏡を光らせた輪廻と惜しむようにクッキーを見るアリス。
「負けてられねえな。俺たちも行くぜっ!」
「そう言うと思ってたよっ!」
 更に紗月が負けじと走りだし、凪沙が予想通りとばかりに後に続く。
「それじゃあ、あたしたちも!」
「はい。行きましょう」
 ほしのが言うと、ふぇいとは電撃を操る。
「みんなの笑顔のため、私は負けない!」
 正義感からアリアも剣を手にする。
「出番だ出番だー!」
 最後に陽太がここぞとばかりにアピールした。

 こうして、第二次屋上大戦は始まった。

 激戦の中を、ふらふらりと歩く少女がいた。
 両目を閉じているのにどんな攻撃も彼女に届かない。
 フェルブレイドの鬼灯歌留多(ほおずき・かるた)
 自分に向かってくる攻撃は全て事前に察知して回避。
 確実に狙われている時は奈落の鉄鎖によって局地的重力の操作。相手の攻撃を止める。
 彼女には戦う意思は無い。ただ一か所。そこを目指していた。
 それだけの為に戦闘中の真っただ中を通過する。おしとやかに大胆とは彼女の事か。
 やがて、ある場所に到達すると、そこは違ったのかウロウロと行ったり来たり。
 本人も気配の察知が戦場の殺気で困難になっている事が分かっていた。
 どうしよー。などと考えても戦場は終わらない。
 だが、長ドスを持った着物娘は不気味で割と標的にはされなかった。
 再びあっちへこっちへ。彼女が捜しているのは何なのだろうか。
 それは彼女だけが知っていた。

 屋上での闘いが始まって数分。
 結界の中のジュンロクに、やがて魔の手が忍び寄る。
 というよりも、正面突破だ。
 禁猟区の結界がやがて限界を迎えようとしたその時、この争いを終わらせる者が現れた。
「プレゼントは俺が頂く!」
 それだけならば新しい敵だが、彼は救世主たりうる器だ。
 その風体には誰もが動きを止める。そして直視すら躊躇わされる。
 月を背中にマントをはためかせる一人の男。
 全裸で仁王立ちの彼はバトラー。変熊仮面(へんくま・かめん)という。
「というよりもくれ! 早くくれ! ユー・エム・エー! 誰からもプレゼントもらってないんだ! だからくれ! ハリーハリーハリ―ッ!!」
 その動きを見てヒソヒソとする者ばかりで闘いは止まっていた。
 特に動じないのは両目を閉じている歌留多。そういうのに耐性がある縁など。
「なに見てるんだ貴様ら! いつもは目を逸らすくせに!」
 などと自分から目立っておいて理不尽な仮面だが、校舎の三角屋根のてっぺんにいる彼に近づく者はいない。
「キャッキャッウフフは許さんぞ!」
 屋上の端っこにそれらしき人影を見つけた仮面は興奮しすぎたのか。
 ツルっと。
 三角屋根の、三角の、尖った部分が……。
「はゥっ!?」
 エコーが掛かった。
 ゴロゴロと転がってそのまま奈落へと落ちていく。
「あ〜れ〜……」
 フェードアウトしていく。
「ああ、流石にマズイよ。カーラ」
「間に合います。私の加速ブースターは当社比の倍です」
「どこ製だっけ?」
 その質問に答える間もなくカーラは飛び出した。
 たぶん、大丈夫だろう。彼女は言った事は成そうとする。
 問題なのは、この空気だった。
 もはや闘いなどという雰囲気でもなく。
 むしろ、スキルを持つ者はキズを癒したり、お茶を振る舞っていたりする。
「なんか、私は忘れられているような気もします。はい」
 ようやく話が進められるとジュンロク。
 同時に歌留多も、目的の人物を見つけた。
「見つけました……あなたが、ジュンロクですね?」
 そこには、ジュンロクがもう一人いた。