校長室
【2020節分】ハチャメチャ豆撒きロワイヤル
リアクション公開中!
再び始まる豆撒きならぬ『ハイブリッド豆撒き』。 事態は落ち着くどころかより賑やかに、より混沌と化していった。 「よし、抜けた! 後はエリザベートまで邪魔する者はいない!」 飛び交う人と豆の中を駆け抜け、葉月 ショウ(はづき・しょう)が白と黒の縦縞のユニフォーム姿でエリザベートの前に躍り出る。 「来ましたねぇ! 何故そのような格好をしているのか分かりませんが、覚悟しなさぁい!」 「細かい事は気にしない方向で! くらえ、大魔神を超えるフォークボール!!」 ショウが、クルミ大の豆を野球のボールに見立て、自らに秘められた力を解放する。今やその名を聞くのも久しくなった『トルネード投法』でもって投げ出された豆は、しかしエリザベートの遥か頭上へ飛んでいく。 「どこ飛ばしてるんですかぁ? 私の方がまだ上手く投げられますねぇ」 「言っただろ、フォークボールだ、ってな!」 ショウが投げた豆に手をかざして、下に落とす仕草を取れば、重力に引かれて豆が軌道を変え、見事にエリザベートの頭にこつん、とヒット……デッドボールする。 「いたいですぅ〜! お返しにこれでもくらうですぅ〜!」 エリザベートがショウのフォームを真似て、クルミ大の豆を投げつける。七歳の身体能力なのでフォームはメチャクチャだが、飛ばされた豆には炎が宿り、言葉通り『炎の魔球』と化してショウへ一直線に飛び荒ぶ。 「そんなもん、これで打ち返してやるぜ!」 ショウがバットを取り出し、向かってくる豆をフルスイングする。豆の勢いが勝っていたか、打たれた豆は明後日の方向へ飛んでいく。 「まだまだぁ!」 続いて投げられた豆も、やはり打ち損じて明後日の方向へ飛んでいく。 「ツーストライク……次で決めてみせる!」 「無駄なあがきですぅ。そぉれ!」 投じられた三発目の豆を、ショウが目を凝らして見つめ、渾身の力でバットを振り抜く。唸りを上げるバットは……豆の僅か上を切った。 「くっ、三振……! 豆撒きには勝利したが、凄く負けた気分だ……!」 「よく分かりませんが、私の勝ちみたいですねぇ〜。さあ、次は誰が相手ですかぁ?」 「ああっ、ネコさんが……! ネコさん、私を護ってくれてありがとう……仇は必ず打ちます!」 先ほどの空振りした豆の直撃を受けたか、ぷすぷすと煙を立ててぐったりするネコを抱きかかえて、エルミル・フィッツジェラルド(えるみる・ふぃっつじぇらるど)が復讐の目をエリザベートに向ける。 「ネコさんのため、覚悟です!」 びしっ、と指差すエルミルの周りには、尚も六匹のネコが彼女を護るようにじゃれついていた。 「まぁた不思議な子が来ましたねぇ〜。ネコには悪いですが帰ってもらって、あなたも帰ってもらうですぅ!」 エリザベートが普通サイズの豆を寄り集めたいわば豆塊を、先制攻撃とばかりに投げつける。魔法の力で速度を得た豆の威力は凄まじく、エルミルは瞬時に三匹のネコを失う結果となった。 「つ、強い……! ですが、私を護ってくれたネコさんの気持ち、無駄にはできません!」 残り三匹のネコを盾に、エルミルがエリザベートの隙をうかがう。大きな攻撃の後には必ず隙が出来るはず、と踏んでの作戦であった。 「もう三匹のネコも帰ってもらうですぅ!」 言い放ち、エリザベートが三つの豆に炎を纏わせ放つ。 「今です!」 それに合わせてエルミルが、二匹のネコと別れ、一匹だけを抱えて横に飛ぶ。二匹のネコは二つの豆に打たれ、そして豆はコロコロと地面を転がってやがて止まる。 「ネコさんシュート!」 ネコを抱えたまま、エルミルがクルミ大の豆に炎を纏わせ放つ。それに対してエリザベートが余裕の表情で、残り一つの豆をぶつけて相殺する。 「かかりましたね! ネコさんシュート、ツー!」 必中の思いを込めて、一発目に放った豆と同じ軌道の二発目を放つ。これには流石のエリザベートも対応しきれず、ぺしん、とエリザベートの鼻に豆が当たる。 「や……やりましたネコさん! 帰ったら特製のご飯でお祝いしましょう!」 「く、悔しいですぅ……せめてネコだけは帰ってもらうですぅ」 ネコと一緒に喜ぶエルミル、鼻を押さえながらエリザベートが豆を放れば、それは見事にネコの頭を打ち、にゃ、と呟いてネコがぐったりとする。 「……………………」 瞬間、エルミルのそれまでのおっとりとした表情が、まるで何か仮面のようなものを被っていたのが外れるかのように、変貌する。 「何様のつもりじゃこのクソガキ!!」 「わー、ネコが帰ったら鬼がやってきたですぅ〜」 次から次へと豆をぶつけてくるエルミルに、悪戯を楽しむ子供の如くエリザベートが逃げ回っていた。 「あーゆーのもアリなんだ……何か凄いなみんな……というか、どうして炎に包まれてて燃え尽きないのかな?」 フィールドの端の方で神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、炎やら雷やら氷やらに包まれた豆が飛び交う様を見遣って呟く。確かに、氷はまだしも炎、さらには電磁加速など付加しようものなら瞬時に蒸発しかねない。それでも燃え尽きないで残っているのは、豆を撒く者たちの『豆を撒く!』という強い意思の賜物、ということにしておいてもらいたい。 「これがパラミタ風の節分なのですね! なんだか楽しそうです! アヤ、行きましょう! 私とアヤで蒼空学園を勝利に導きましょう!」 隣のクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はやる気満々とばかりに、豆を大量にストックして今にも飛び出していきそうな勢いであった。 「そもそも、節分は邪気祓いではなかったか? ……まあいい。食べ物を粗末にするのはどうかと思うし、俺は帰って恵方巻を作らないといけないのでな。ここで見物させてもらおう」 「あ、うん。ユーリ、流れ弾……豆には気をつけて」 「行ってきます!」 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の見送りを受けて、綺人とクリスがフィールドの中央へと繰り出していく。 「さあ、鬼とやら、出てきなさい! 私が退治して差し上げます!」 大分、豆撒きを勘違いした様子のクリスが、剣の代わりに豆を掴んでイルミンスールの生徒を待ち構える。 (五穀の神様、ごめんなさい……って、ええ!?) 少しばかり罪悪感を覚えながらクリスの背後についた綺人は、次の瞬間あり得ないものを見たとばかりに驚きの表情を浮かべる。 「悪いごはいねぇがぁ? 泣ぐこはいねぇがぁ?」 イルミンスール側からやって来たのは、どうしてこうなったと呟かずにはいられない、鬼の面、ケラミノ、ハバキを身に纏った『なまはげ』。 赤面を茅野 菫(ちの・すみれ)、青面をクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が担当し、その背後を守るようにそれぞれのパートナーたちが追随する。正面の防御力、側面の対応力、そして何より姿形の異様さが幸いして、一行は蒼空学園陣地を一直線に突き進んでいく。 「この感覚、これが鬼の風格なのですね……! ですが、私も引けません! クリス・ローゼン、行きます!」 そんな彼らの進軍を阻止するべく、クリスが果敢にも飛び出していく。 「む、敵か!? マナ様は某がお守りする! てい!」 クロセルの背後に付いていたシャーミアン・ロウ(しゃーみあん・ろう)が、一行の周囲に煙幕を張る。 「何!? これでは照準が――」 「キミに罪はないが、通らせてもらうのだ!」 すれ違いざま、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)がドラゴンアーツの強化を受けた羽子板を用いての豆の一撃を見舞う。そして、煙幕が晴れた後には、いつの間にか『死体』の札を掛けられたクリスが、地面に伏せっていた。 「ど、どうしてなまはげがここに……あれは大晦日の行事じゃ……って、そんなことより、クリス!」 呆然と見送っていた綺人が、慌ててクリスを救出に駆け出す。 「悪いごはいねぇがぁ!?」 そして、順調に進軍を続ける一行はついに、環菜の眼前まで辿り着く。 「何だか騒がしいと思えば……仮装パーティーのつもりかしら?」 「黙れ! カンナ校長、覚悟ー!」 「泣ぐこはいねぇがぁ!」 溜息をつく環菜に、クロセルと菫の飛ばした豆が襲いかかる。それを環菜は避けるでも撃ち落とすでもなく、素直に食らってみせる。光り輝くお凸にもぺちん、と豆が当たる。 「あ、あれ!?」 意外な状況に、クロセルが驚きの声をあげる中、再び溜息をついた環菜がぽつり、と呟く。 「まあ、鬼だから間違いではないかもしれないけど……なまはげは大晦日の行事よ。今は節分、少しばかり遅いわね」 「……………………えっ?」 それに最も反応したのは、赤鬼に紛していた菫だった。 「…………そうなのか?」 お面をあげ、素顔をさらした菫が、なまはげを勧めた張本人、クロセルに問いかける。 「さ、さあ、何のことやら――」 「菫、確かに言う通り、なまはげは東北地方の大晦日の風習で、節分とは関係ないはずよ」 「それに、調べたところによると、赤面がジジナマハゲ、青面がババナマハゲとされているようだ。どうやら二人は逆のお面を被っていることになるな」 とぼけるクロセルに代わり、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)と相馬 小次郎(そうま・こじろう)が間違いを指摘する。それを聞いた菫の目に、涙が溜まっていく。 「ごめんなさい、菫が戦果を上げようと嬉々としているのを見ると、言い出せなくて。……どうして逃げるのですか? 菫を騙した罪、その身をもって償いなさいっ」 「ま、待て、話せば分かる、これはだな――」 雰囲気が悪くなるのを察し逃げようとしたクロセルが、パビェーダに捕獲される。既にシャーミアンはマナを連れて自陣へと撤退を完了していた。 そして、菫はお面をぱたん、と被り直し、クロセルに向き直る。 「うわぁ〜ん、泣くこはいねぇがぁ? 意地悪ヒーローはいねぇがぁ?」 その後、まさに鬼と化した菫の攻撃を全身に浴びて、クロセルが『死体』の札を掛けられフィールドの脇に葬られる。 「安心しておけ、既にバッチリ撮影は済ませた! ……ちなみに節分というのはだな……」 「……二人とももう行ったわよ。あなたも早く行かないと……撃つわよ」 節分のうんちくを語る小次郎のこめかみに、環菜が銃口を向けて三度目の溜息をつく。 「悪は滅びろっ!」 涙を振り払って、菫が怒りを露にしながら自陣へ戻っていった。 「こんな派手な豆撒きは見た事が無いな……まあ、図らずも今、目撃することになったわけだが」 豆撒き開始からある程度時間が経ち、戦況が少しばかり落ち着いた頃合になったところで、それまでフィールドの隅に陣取っていた虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)がイルミンスール生徒に向けて豆を放る。不意を突かれた形になったイルミンスール生徒たちは、涼の放った豆を次々とくらう。 「卑怯だろうと戦法の一種……って、これでは悪役だな」 また一人、イルミンスールの生徒を撤退に追い込んだ涼が、足元に無数と転がる豆を視界に入れる。 「少し、掃除しておいた方がいいかな……」 思い立った涼が豆を拾おうとした瞬間――。 「それを すてるなんて とんでもない!」 声が聞こえ、次いでザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が涼の行動を制するように掌をかざして現れる。 「お前は誰だ。……いや、それより何故止める。このままにしておいても何の得にもならないだろう」 涼の問いに、ザカコが説明を始める。 「節分は、撒かれた豆を自分の年の数より一つ多く食べる風習があるそうですね」 「ああ、そうだ。……だがまさかこのような豆撒きになるとは思ってなかったが」 「……さて、ここで考えてみましょう。イルミンスールの『大ババ様』、アーデルハイト様の御年は5000。つまりは……」 「いや待て、その理屈はおかしい。とても一人が食せる量ではないだろう」 そう、ザカコは是非ともアーデルハイトに、自らの年の数より一つ多い豆を完食してもらいたいがため、豆を出来るだけ多く撒かせることに奔走していたのだ。 「流石にこの数ではイルミンスールも消化できないでしょう。習わしを大事にする大ババ様には是非とも生徒にお手本を見せて頂きたく――」 瞬間、ザカコの頭上から巨大なゲンコツが落とされ、それはザカコをフィールドに埋める。 「まったく、よからぬことを考えおって。これほどの豆を食せるわけがなかろう、私が普段どれほど体型の維持に苦労していると思っとるのか……まあ、太ったら予備の身体に変われば……いやいや、その程度で予備の身体を使うなど怠慢に過ぎる……」 埋まったザカコの上から普通サイズの豆を降り注ぎながら、アーデルハイトが何かを呟いている。と、涼に気付いてアーデルハイトが声をかける。 「おお、済まんな、うちの生徒が迷惑を掛けた」 「いや……いつも、こうなのか?」 涼の問いに、アーデルハイトがハン、と笑って答える。 「情けないがこんなものじゃ。……ま、これもまたよかろうて。おまえも変に毒されず、ほどほどにな」 アーデルハイトがひらひらと手を振ってその場を後にするのを、涼は立ち尽くしながら見送っていた。 さて、『ハイブリッド豆撒き』の途中で戦闘不能に陥った生徒たちは、いつまでもフィールドに捨て置かれているわけではない。ちゃんと有志の生徒たちが救護班として、倒れ伏す彼らをフィールドから救い出し応急処置を行い、さらに必要とあらば離れにある医務室に連れて行き、そこで治療を行っていた。 「あっ、また倒れた人が出た! 大和、現場へ急行だよっ」 「ええ、こちらでも確認しました。行きましょう、歌菜」 遠野 歌菜(とおの・かな)を乗せ、譲葉 大和(ゆずりは・やまと)が使役するパラミタ虎『大河』を駆って、誤って撃たれぬようサイレン代わりにと大和が歌を歌い、そのあまりに恥ずかしい内容に歌菜からツッコミを撃たれつつ、フィールドに倒れ既に『死体』の札を掛けられたイルミンスール生徒のところへ向かう。 「はい、そこまで〜! この方は私たちが連れて行きますので、攻撃はしないでね♪」 トドメを刺そうとした蒼空学園生徒を制して、看護婦姿の歌菜が癒しの力を施し、手厚い看護を行う。 「何だ、お前たち! そいつは俺たちが蘇れないように灰にしてやるんだ、邪魔するな――」 攻撃の機会を伺っていた者たちを、白衣姿の大和が睨みを利かせて阻止する。 「こちらイルミン緊急24時、ただいま白衣の天使による治療中です。言うこと聞かない暴れん坊には、お注射しちゃうぞ☆」 「…………し、失礼しましたー!」 にっこり微笑んで注射器代わりのパイルバンカーを構える大和に、色んな意味で恐れをなした生徒たちが退散していく。 「大丈夫? 自分で歩ける? じゃあ医務室に行こっか」 何とか起き上がれるまでに回復した生徒を、歌菜と大和が医務室に誘導する。医務室が視認できる位置まで誘導したところで、歌菜が用意していた豆と福茶を手渡す。 「お疲れ様でした。今年一年、これ以上怪我のないように過ごしてくださいね♪」 有り難く受け取って医務室へ向かっていく生徒を見送る二人のところに、新たな要救助者の知らせが届く。 「むむ……レーダーに反応あり! 歌菜、向こうでもヒートアップしてるみたいです!」 「ふぅ、大忙しだね。でも、みんなに明るく楽しく豆撒きをしてもらえる手助けになってるとしたら、嬉しいな♪ うん、行こっ、大和!」 「ええ、歌菜となら、どこまででもお供しましょう」 再び大河に飛び乗った二人が、フィールドを目的地に向かって駆け抜けていく。……さてその医務室では、というと。 「おやおや、随分と豆をぶつけられたようですねぇ。さぁ、痕が残ったら大変です。今すぐ脱いでください、私が直に傷痕にアリスキッスを……ふふ、ふふふふふ……」 運び込まれてきた怪我人に対して、本人曰く『気合の入ったナースの格好』をした明智 珠輝(あけち・たまき)が、いやらしい目つきでキスを迫るという、治療行為という名の変態行為に及んでいた。既に何人か犠牲……もとい、治療を受けた生徒たちは一様に、トドメを刺され……否、安らかな眠りについていた。 「いい加減にしろーっ!」 そこへ、リア・ヴェリー(りあ・べりー)の飛び膝蹴りが珠輝の後頭部にクリーンヒットする。珠輝が勢い良く医務室の壁に激突するが、補修改装を為された医務室はその程度ではびくともしない。 「やけに気合入ってるなと思ったらおまえ、ただチューしたいだけだろっ!? ……丁度いい、ここには沢山の豆がある。そして豆撒きは、邪気を祓い無病息災を願う、と教えてくれた。……僕がおまえの邪気を祓ってやる!!」 「嗚呼、リアさんそんな情熱的にぶつけないでくださいっ。嗚呼、痛い、痛気持ちい……ッ!」 治療していた生徒から豆撒きの本来の意味を教えてもらったリアが、それに従い珠輝へ豆をぶつける。クルミ大の豆をぶつけられて祓われるどころか何か間違った方向で昇天している珠輝、彼の病気は既に末期のようだ。 「……ふふ。私のアリスキッスはお嫌ですか。ならば、兎獣人ニューハーフ、藤咲さんの飴と鞭コースも御座いますよ、ふふ」 「な、何だって!? ……そういえば藤咲さん、何でか鞭持参してたよな、まさか……!」 リアが振り向けば、ベッドに伏せる生徒に馬乗りになって、藤咲 ハニー(ふじさき・はにー)が治療行為という名のやはり変態行為に及んでいた。 「いらっしゃぁい。そう、痛い思いしちゃったの? 大丈夫よ……もぉっと激しい痛みを受ければ、豆ぐらいの痛み、忘れちゃうから♪」 痣だらけになった身体を、ハニーの指が妖しく這い回ったかと思うと、鞭の一撃が痣をさらに赤くする。 「ほーーほっほっほっほ! 痛いのも直に快楽に変わるわよぉ〜♪」 「ふふ、流石はニューハーフ、一味違ったいやらしさですね」 「ああもう、何やってるんですか藤咲さん……!」 珠輝が見惚れるように呟き、リアが頭を抱える。 「って、珠輝! さっきからニューハーフニューハーフって、あたしゃニューハーフじゃねぇっつーの! リアリア、クルミじゃ生ぬるいわ、砲丸でもぶつけちゃってー」 「…………うん、そうだね。全部珠輝が悪い。なあ珠輝、ここに『豆撒き用金の玉』と『恵方巻とは一味違う極太棒』があるんだけど、どっちがいい?」 度重なる心労に病んだか、リアがどこか虚ろな目をしながら、両手に玉と棒を持って珠輝に迫る。 「ああっ、そんな……どうしてそんなものがあるのか謎ですが、玉と棒を選べだなんて、とても私には無理……ッ!」 「じゃあ両方だね。……存分に味わえ!!」 その後展開されたとても描写できない光景は、運び込まれてきた怪我人には効果てきめんだったようで、全てが終わった頃には全員が再び豆撒き会場へと戻っていった。 そして豆撒きの方は、さらなる混沌へとシフトしていく――。