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「思い出スキー」

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「思い出スキー」

リアクション

 シャンバラ教導団の夏野 夢見(なつの・ゆめみ)、イルミンスール魔法学校の瓜生 コウ(うりゅう・こう)、百合園女学院 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、それぞれ学校は異なるが一緒に子どもたちにスキーを教えようと計画している。
 女三人集まって、楽しいのは事前の打ち合わせだ。それぞれ連絡を取り合って持ち物の確認をする。
「怪我しちゃった時のために絆創膏や消毒液、骨折した時用の添え木を用意するよ」
 そう話す夢見は雪の中で目立つようブラックコートを着ていこうと思っている。
「オレは手足が冷えないように、子供用の靴下と手袋を買ってくる。ついでにスキー板もそろえようかと思うんだが・・」
 コウは迷っているようだ。スキー用具は他のメンバーもかなり集めているようだ。持って行くと多くなりすぎるかもしれない。
「アタシは念のために持っていくよ、スキー板。お下がりがもらえるし」
 ミルディアは、自分の分のほかに集められるだけのスキー用具をもっていくつもりだ。
「オレもそうするか、サイズの合う合わないもあるしな」
 コウは、空京でスキーのレンタルが出来ないか探すことにした。


 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はヴァイシャリーの街で仲良しの高原瀬蓮(たかはら・せれん)と待ち合わせをしている。
「いいなぁ、美羽ちゃん。今回は行けないんだよねぇ、残念っ!」
 瀬蓮は悔しそうだ。
「また春になればイベントあるよ、そのときは一緒に参加しよ!」
 美羽の提案に頷く瀬蓮。
 二人はスポーツショップに入ってゆく。
「可愛いっ!」
「うん、どきどきするぐらい可愛いねっ!」
 瀬蓮が手に取ったニット帽子は、雪柄が全体に浮かび上がってきらきらしている。耳当てから伸びるボンボンもカラフルだ。
「どーしよぅ、またやっちゃうかも」
「やっぱり?」
 二人は顔を見合わせると、店員に声をかけた。
「この帽子!全部くださいっ!」
「セレンちゃん、全部は多いよっ!」
 美羽があわてて訂正する。
「12個でいいですっ!店員さん、あ、これも入れて、13個!」
 美羽は、目の前にあった帽子を手に取ると叫んだ。


 スキーツアー前日、子ども達は夕日と共に寝てしまった。朝から明日のことを考えて大騒ぎしていて疲れてしまったのだ。明日の朝は早い。大人たちもそれぞれの用意をする。
 孤児院の留守を護ることになった管理人や役員は、子ども達の無事な帰宅を祈って寝顔をいつまでも見ている。

 同行するヴェルチェは、既に集まった防寒具や靴下、手袋などに防水スプレーを賭けている。
 イーオンも荷物の点検に余念が無い。
 

 孤児院で院長を務めるメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、ベッドに入ったものの、なかなか寝付けない。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に話しかけてばかりいる。
「お菓子、足りるでしょうかぁ」
 スクッと起き上がると、足元に用意した旅行バッグを開けるメイベル。
「もっと、持って行きましょう」
 ごそごそバックをつめなおしている。
「メイベル、もう寝たほうがいいよぉ、明日の朝は早いよ」
「はい、分かってるんですがぁ」
 ふわっと欠伸する。
 再びベッドに入り、暖かな布団を顔まで引き上げるメイベル。
「楽しみですぅ、みんな大きくなったかしら」
 メイベルは子ども達の顔を思い浮かべて、クスッと笑った。
 セシリアも気持ちはメイベルと同じだ。明日が待ち遠しい。
「みんな元気かなぁ」
 セシリアの問いかけに、メイベルは夢うつつで答える。
「きっと大きくなってますぅ、楽しみですぅ」
 にっこり笑うと、その笑顔のまま眠りにつくメイベル。



2・スキー日和

 スキー板も防寒具も完璧に揃った。
 スキー場は晴天だ。
 大人が荷物を民宿に運び込んでいる間も子どもたちは大騒ぎだ。

 集まったスキー用具はお手製ありレンタルあり貰い受けてきた中古と様々だが、数は十分にある。
 お手製スキーは後で楽しむことにして、まずは集まったスキーが子ども達に合うかどうかを試してみる。サイズを測っておいたのが功を奏し、子ども用はすべて揃った。

 百合園女学園の伏見 明子(ふしみ・めいこ)は、民宿の土間で、スキー板を手に大騒ぎする子ども達を見ていた。やんちゃな男の子たちは板を剣に見立てて戦いごっこの真っ最中だ。
 そのうちに、本気の喧嘩に突入する子どももいる。
「楽しみというものは、規則を守ってこそだ。おまえのように破ってばかりでは本当の楽しみを知る前に怪我をしてしまうだろう、よいか・・・」
 イーオンが取っ組み合いの喧嘩に突入したアキラを腕をひっぱって、壁際で意見している。
 その間にも、他の子はお構いなく大騒ぎだ。
「うっわー!懐かしい雰囲気。なんか昔に戻った気分だわ…」
 いつも三本編みおさげの明子は、見た目は地味な感じだが、実はかなりのガキ大将だったのだ。
「はーい、お子様どもちゅうもーく!」
 トレードマークのめがねを外して、桁外れのキレのいい大きな声を出す明子。
 一瞬、子ども達の動きが止まる。
 その瞬間を逃さず、畳み込むように声を重ねる明子。
「いよし。それじゃ、雪見るの始めてな子は手ー挙げてー!」
 全員が手を挙げた。
「いい、持ち物を確認するわよ、手袋はしてる?外しちゃだめよ」
 外見に似合わない大声に気おされる子ども達。
「返事はぁ?」
「はーい」
「いい、手袋も、帽子も、靴下も、服も、板も、身に着けているものは全部、皆のことが大好きな人たちが集めてくれた大切なものよ、大事に使うのよ!」
「はーい!」
「じゃ、最後にマフラーを!」
 その言葉に、色とりどりのマフラーを持った飛鳥 誓夜(あすか・せいや)が前に出た。子ども達の首に一つ一つマフラーを巻いてゆく。 
「気をつけて遊ぶんだぞ」
 最後に、ピンクのマフラーがひとつ誓夜の手に残った。
 子ども達は、民宿の外で待つ神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)に引き渡された。イメージカラーは黒と赤と銀のスキーウエアに身を包んだエレンは、白銀のスキー場では目立つ存在だ。
 既にスキー教室の先生を志願したものは雪山でウオームアップをしている。
「怪我しないようにね、気をつけて」
 エレンは一人一人のウエアの着方やブーツ、手袋などを確認してから、子ども達をスキー場へと連れて行く。


 そのころ、客室の一つではレッテが騒いでいる。
「早くスキーしよーぜ、なぁ、ダーちゃん」
「ダーちゃんはよせっ!キング様と呼べっ!」
 コタツで温もっている大鋸をせかすレッテ、大鋸は動く気配がない。
「気にすんなっ、俺のことは気にすんなっ。見ろ、呼んでるぞっ!」
 窓の外でスキーの支度を調えた仲間たちが、レッテに手を振っている。
 みんな首にはマフラー、頭には帽子、暖かな手袋と靴下を履いている。
「大変だっ、ダーちゃん、すぐ来いよ!待ってるから」
 部屋から飛び出すレッテ。
 玄関に向かうレッテを待っていたのは、飛鳥 誓夜(あすか・せいや)だ。
「待って!外は寒いぞ」
 立ち止まったレッテの首に編みあがったばかりのマフラーをかける。
「ひとつ残ったから心配したぞ」
「ありがと!」
 レッテは、マフラーに顔を埋めるとニコッと笑って外に駆け出してゆく。
 その後ろ姿を見送る誓夜。
 側には皇祁 黎(すめらぎ・れい)が立っている。
「俺たちもスキーするか」
 玄関から外に出る誓夜、急に襲ってくる寒さに身震いする。背後からコホンと黎が咳をする。
 振り返った誓夜、自分の首筋が暖かいのに気が付く。
 不器用な黎が作ったいびつで長いマフラーが誓夜の首に巻かれている。
「・・・暖かいな」
 不意を付かれて、誓夜は照れたように呟いた。

 スキー場で子ども達といるのは、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)瓜生 コウ(うりゅう・こう)ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)とミルディアのパートナー、和泉 真奈(いずみ・まな)だ。

 少し離れは場所には、スキーウエアに身を包み準備万端の孤児院教員、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)もいる。

 ミルディアとジュリエットが話しあっている。
「12人いるし、男の子グループと女の子グループで分けようと思うんだ」
「私達は女の子チームがいいですわ」
「・・・う〜ん、じゃ、じゃんけんにしようよ」
 男の子グループは待っている間も暴れて雪ダルマのようになっている。
「男子は大変そうだし・・・」
 公平なじゃんけんの結果、女の子チームを受け持ったのは、夢見とコウ、ミルディア、真奈のチーム。ジュリエットは男の子を受け持つことになった。
 大きな溜息が聞こえる。

 ピンクのスキーウエアに身を包んだ夢見が子ども達に声をかける。
「辛いお粥のお姉さんだよ、覚えてる?」
 笑顔で頷く子ども達。
「みんなぁー、体操でもしてろ、オレが斜面の確認してくる」
 コウは、子ども達に告げると、空飛ぶ箒にまたがり空中を飛んだ。
「いいなぁ、オレも飛びてぇー」
 子ども達から歓声があがる。
 コウは、空中からスキー場を見渡す。なだらかな斜面の先の急な崖に「危険」と大書された看板とロープを張り、目立つ大岩の回りもロープで囲んだ。危険箇所をチェックして、大空をぐるっと見るコウ。
 その間に、ミルディアのスキー講座が始まる。
「スキーを知らない人〜! 教えるから集まって〜!大人も歓迎だよぉ〜」
 ミルディアが張りのある大きな声を挙げると、民宿前にいた数人が駆けて来た。

 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、地球にいたときに着用していたスキーウエアを持ってきていた。パートナーの仁科 響(にしな・ひびき)はスノーボードをしたかったが仕方なく付いてくる。
「わぁー白いー凄いー」
 雪を手にしてにこやかに駆けて来るのは、鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)だ。
「氷雨さん、皆さんと仲良くして、危ないことはしてはダメですよ」
 パートナーの霜月 帝人(しもつき・みかど)もスキーは初めてだが、方向音痴でいつも迷子になってばかりの氷雨が心配でしかたがない。
 勢い良く板を手に駆けてきたが氷雨が転びそうになって、弥十郎の背中にぶつかる。
 間一髪、板の接触は避けられた。
「うぁ、ごめんなさぁい」
「ワタシは気にしませんよ」
 弥十郎は笑っている。
「なんか上手そう…」
 氷雨は、弥十郎のウエア姿を見て呟く。
「いいえ、スキーは大好きで地球では何度かスキー教室には行ったんですがね、上達しなくて」
 苦笑する弥十郎。



 その間にも、ミルディアが女の子チームを二つに分ける。
「レッテ、テアン、リア、ココは、少し背が高いから、コウちゃんチーム。チエ、ルイ、鈴子の小さい子は夢見ちゃんチームね」
 普段は生意気なレッテも大人しく従っている。
「アタシは、みんなの側にいるから、困ったことがあったらいってね」
「もし、スキーが嫌になったり寒くて泣いている子がいたら、ミルディアに教えて下さい。私は宿で待っています」
 真奈がレッテにだけ聞こえるように話しかける。
 にっこり頷くレッテ。
「大人チームは…女の子チームに合流しましょうか」
 少し気の毒そうに男の子チームを見る真奈。
 弥十郎たちはコウチーム、氷雨は夏見チームに合流した。


 仕方なく男の子チームを受け持つことになったジュリエットは、まず子ども達を目の前に並ばせた。アキラは寒さからかピョンピョンと飛び跳ねている。
 お互いを突いたり雪をかけたりしている子ども達に、ジュスティーヌがプリントを配る。
「持てねーよ」
 手袋でプリントを掴めずアキラが騒ぐと、子ども達と一緒に並んでいたアンドレがゴツンと拳骨を食らわした。一応、静かになる男子。
「それではスキー教室を始めますわ。はい、プリントを見て。えー、そもそも地球におけるスキーの歴史は五千年とも一万年ともいわれ、最古のスキーの記録は地上西暦2500年ごろに遡ると言われていますわ」
 言葉が終わるころには、アキラとハルが取っ組み合いの喧嘩を始めた。
 また、アンドレが無言で二人を引き離す。
「それでは用具の名称について学習しましょう・・・・」
 いつの間にか、子どもの数が減っている。
 要領のよい、ヴァセクやテアンは既に、女の子チームに合流していた。
「寝るなぁ!雪山で寝たら死ぬじゃん!」
 アンドレが1人の男の子を必死で立たせている。
「前より重いな、お前」
 男の子の名前は、モイ。もともと太めだったがモイは孤児院に入って猛烈に太ってしまった。
 いつも眠そうなモイは、孤児院にいたときからジュリエットの講義を聞くと反射的に寝てしまうのだ。
「そろそろ飽きてるんで、次行ったほうがいいんじゃん?」
 モイの身体を支えながら、ジュリエットに促すアンドレ。
 ジュリエットの視線が逸れた隙に、アキラとハルが、一斉に駆け出した。
「まだ終わっていませんわ!」
 ジュリエットの隣で助手として淑やかに待機していたジュスティーヌが二人を追って駆け出す。
 しかし雪山。
 思うように追いかけられない、ストッンと転んでしまった。
「とても上手な転び方です」
 咳払いするジュスティーヌ、いつのまにか生徒はモイだけになっているが気にしない。
「まずは『正しい転び方』から学習しましょう。転び方を知らないと骨を折ったりして危険ですわよ。それに、レディは狙った殿方の前で派手に転んでみせることがスキーの醍醐味の一つですわ。ですから、レディが自分の前で転んだら殿方は気をつけなければなりません」
 目の前に唯一残るモイに話しかける。

 子どもを追いかけ、走っては転び、立ち上がっては転ぶジュリエットに手を差し伸べたのは、雪山をスキーで滑り降りてきた武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)だ。
 二人は事前に用意したスキー用具を民宿に運んだ後、一足先に雪山を登っていた。
 牙竜が着ているのは、スキーウエアではない。特撮ヒーロー、ケンリュウガーの姿だ・
 再び派手に転ぶジュリエットをお姫さまだっこで助け起こすと、派手な雄たけびと共に定番のヒーローポーズを決める。
 それまで、夢見やコウにスキーを教わっていた子ども達もケンリュウガーに気が付き、ばらばらと寄ってきた。
「オレたちも行こうか」
 コウや夢見、ミルディアも笑顔で集まってくる。