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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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「ここが、アルディミアク様のお部屋です」
 先ほどまでリリ・スノーウォーカーたちがいた部屋を指して、新米海賊が言った。
「この香りは……。お前は下がっていろ」
 ノア・セイブレムを下がらせると、レン・オズワルドは鼻と口許を押さえて、慎重に部屋の中をのぞいてみた。
 残念ながら、中は無人だった。
 それにしても、この香りは花のようだが、あまりにも強すぎて少し吸い込んだだけでも意識がくらくらする。アロマテラピーのことはあまりよく知らないが、これがあまり普通の状態でないことだけは分かる。もしかして、この香りは何かの催眠効果でもあるのだろうか。そういえば、十二星華のティセラはエメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)を洗脳したり石化して弄んでいる。どうやら海賊たちもティセラと関係がある以上、アルディミアク・ミトゥナも何らかの支配を受けていても不思議ではない。いったい、何が真実で、何が虚偽であるのか……。
「お前は、早く安全なところへ行け。俺たちは、アルディミアクを捜す」
 レン・オズワルドは、部屋の中からなにやら小瓶を持ち出してきた新米海賊にむかって言った。そのままノア・セイブレムをうながして素早く移動していく。
「やっぱり、私に海賊は似合わないんだろうか……」
 乾燥させた花の詰まった小瓶をかかえて、新米海賊はぽつりとつぶやいた。
 
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「なんですか。見たところ、全員クイーン・ヴァンガードの隊員じゃないですか。あっさり捕まってしまうとは情けない」
 闇咲阿童たちは、女王像の欠片を探すうちに、囚われていた鬼崎朔たちを発見したのである。
「そんなことより、みんなの手当の方が先だよ」
 説教モードに入りかける闇咲阿童に、大神理子が言った。幸いなことに、全員たいした怪我はしていない。
「助かった。だが!」
「ええ。復讐すべき相手が増えたというわけであるな」
 怒りに燃える鬼崎朔に、アンドラス・アルス・ゴエティアが言った。
「まあ、私はそこまでは考えてないがな」
 こんなことで復讐していてどうするんだと、斎藤邦彦がネル・マイヤーズの方を見た。
「そうですね」
 ネル・マイヤーズは、そう口にしただけであった。
「ああん、助けてッス」
「いやあ。あたしは、もう少しこうしていたーい」
 サレン・シルフィーユを後ろからだきしめたまま、葛葉明が床の上でごろごろしながら駄々をこねた。もちろん、両手はサレン・シルフィーユのたっゆ〜んな胸をこねている。
「こいつらだけは、おいてくか」
「ああ、見捨てないでッス」
 さっさと牢を出ていこうとする闇咲阿童たちに、サレン・シルフィーユは必死に助けを求めた。
 
    ★    ★    ★
 
「ふう、危なく消し炭になるところだったわ。けほん」
 服のあちこちを黒こげにしながら、ヴェルチェ・クライウォルフがほっと安堵の息をついた。
「戦いは、まだ続いているようじゃのう。おや?」
「あまり動かないでくださいね」
 クレオパトラ・フィロパトルをヒールしながら、クリスティ・エンマリッジが言った。
 近くでは、まだウィルネスト・アーカイヴスたちがシニストラ・ラウルスたちを足止めして善戦している。
「いや、あそこを見よ。どこから出てきたのか、逃げだしていく飛空挺があるのじゃ」
 クレオパトラ・フィロパトルが、南東にむかって逃げるように飛んでいく飛空挺を指さした。だが、すぐに曇天の雲の中に隠れるように姿を消してしまう。
「それは、逃げだす海賊もいるでしょう」
「そうよね。でも、今のあたしたちには追いかける余力はないわ。頃合いを見て、撤退しましょう」
 クリスティ・エンマリッジの言葉に、ヴェルチェ・クライウォルフはそう言った。
 
    ★    ★    ★
 
「ウォーデンが成功していれば、ココ・カンパーニュはこの広間にやってくるはずです」
「だといいがな」
 他の者に悟られないようにささやく月詠司に、アルディミアク・ミトゥナは不信感を隠さずに言った。
「あまり、単独では動かない方がいいんだがなあ」
 アルディミアク・ミトゥナを守りつつついてきた七尾蒼也がつぶやいた。
 はたして、広間に真っ先に現れたのは、ナナ・ノルデンたちと神代明日香たちであった。
「あなたが、アルディミアクさんですね」
 アルディミアク・ミトゥナの顔を見て、ナナ・ノルデンが訊ねた。確かに、ココ・カンパーニュと双子と言っていいほどにそっくりだ。
「だとしたら」
 少しも動じることなく、アルディミアク・ミトゥナが答えた。
 彼女の周りに数人の物がいるが、海賊の仲間らしくスカーフなどで顔を部分的に隠していたりするために、はっきりとは人相が分からなかった。
「無下に戦う前に、一つ聞きたいことがあります。あなたは、ココさんがあなたのお姉さんを殺して星剣を奪ったと言ってますけど、剣の花嫁が死ねば、星剣は消えてしまうのではありませんか」
「そんなことを考えていたのね。それは逆よ。星剣を奪い取るためには、持ち主である剣の花嫁を殺さなくてはならないのよ。そして、ココ・カンパーニュは、それを実行に移した」
 アルディミアク・ミトゥナはそう言いきった。
「でも、あなたはそれをどこで見たのですか」
「そうですぅ。ココさんは、地上にいるパートナーのシェリルさんから光条兵器を受け取ったと言ってましたぁ。どちらが本当なのか分からないですけれどぉ、あなたの話は、いったい誰に聞いたのですかぁ」
 矢継ぎ早に、ナナ・ノルデンと神代明日香がアルディミアク・ミトゥナに訊ねた。
「シェリル・アルカヤは、私の殺された姉の名だ!」
 アルディミアク・ミトゥナが叫んだ。
「嘘だ!!」
 アルディミアク・ミトゥナの言葉をかき消すように、大音声が室内に響いた。
 見れば、ウォーデン・オーディルーロキに先導されてきたココ・カンパーニュがそこに立っていた。
「なぜ、嘘だと言える」
 強い口調でアルディミアク・ミトゥナが言い返した。
「だって、シェリル・アルカヤは、君の名前じゃないか!」
 半分泣きそうなココ・カンパーニュの言葉に、全員がえっと驚いて二人を見つめた。
「言うに事欠いて……」
 怒りで顔を真っ赤にして、アルディミアク・ミトゥナがシールドから剣を引き抜いた。
 問答無用で、そのまま斬りかかってくる。
「危ない!」
 立ちすくむココ・カンパーニュの前に、橘 カオル(たちばな・かおる)が飛び込んだ。木刀でアルディミアク・ミトゥナの剣を横から叩いて切っ先を逸らせる。
「何を惚けている。戦わなければやられるぞ!」
 白砂司が、ココ・カンパーニュを怒鳴りつけた。
「本当にキミがココのパートナーなら、二人は戦っちゃだめだ」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
 橘カオルがアルディミアク・ミトゥナに必死に呼びかけたが、彼女は聞く耳を持たなかった。
 騒ぎを聞きつけて、遺跡に入り込んでいる両陣営の者たちが集まり始める。
「聞く耳持たぬとはこのことであるな。おぬし、本当のことを確かめたくはないのか?」
 悠久ノカナタが、アルディミアク・ミトゥナに訊ねる。
「私は私だ。ここで、決着をつけさせてもらう。来臨せよ、ジュエル・ブレーカー!!」
 アルディミアク・ミトゥナが、胸の前に掲げた左手を、勢いよく横に振り払った。その手に、星拳エレメント・ブレーカーが現れる。
「星拳を出さないと、話もできないのか」
 緋桜ケイが挑発したが、アルディミアク・ミトゥナは乗ってこなかった。
「もう、アルディミアク様を惑わすのはやめてもらおう」
 ルイ・フリードが、アルディミアク・ミトゥナを守るようにずいと前に出た。
「その言葉は、そのままお返しするのかよろしいと思いますわ。いきますわよ!」(V)
 二人の邪魔はさせないと、荒巻さけがルイ・フリードを牽制する。
「二人の邪魔をする人は、『めっ☆殺!』しちゃいますよ」
 騎沙良詩穂が、通路から駆けつけてこようとする海賊たちを鬼眼で牽制した。
「いずれにしても、いったん頭を冷やしてもらわないとだめそうね」
 九弓・フゥ・リュィソーが、いったん目くらましでアルディミアク・ミトゥナの気勢をそごうと、前に出て光術を放った。
「迂闊ですよ!」
 ペコ・フラワリーが叫んだが遅かった。
「アブソーブ」
 九弓・フゥ・リュィソーの放った光球がジュエル・ブレーカーに吸収される。
 星拳エレメント・ブレーカーと星拳ジュエル・ブレーカーは元々同じ性質の物。アルディミアク・ミトゥナが宝石に似た魔力結晶体を使用するのは、確実に魔法によるサポートをうけられる体制を擁していないからという理由でしかない。二つの星拳にむかって、すべての魔法攻撃は鬼門であった。
「スパークル・バブル!」
 アルディミアク・ミトゥナが、左手を突き出した。九弓・フゥ・リュィソーの足下に光の泡が生まれ、閃光とともに弾けた。
「きゃっ」
 逃げようとして、視力を奪われた九弓・フゥ・リュィソーがつんのめって倒れる。そのときの勢いで、マネット・エェルがフードから投げ出された。
「いたあい」
 光が消えて、目を開けたマネット・エェルの眼前に、アルディミアク・ミトゥナの足があった。黄金でできた、アンクレットが威圧感を持って目の前に迫る。つぶやくような唸るような音が微かに響き、赤い機晶石の中にはニイドのルーン文字が浮かびあがった。リングの部分には、ヒラマルスウェン(Hilamarthwen)という文字が刻み込まれている。
「私の邪魔は……」
 アルディミアク・ミトゥナが、逆手に持った剣を、九弓・フゥ・リュィソーの真上で振りあげた。閃光で視力を奪われたココ・カンパーニュたちの動きが一瞬遅れる。
「危ない!」
 そのとき動いたのは、意外なことにトライブ・ロックスターだった。アルディミアク・ミトゥナ側についていたはずのトライブ・ロックスターが、アルディミアク・ミトゥナに飛びつくようにして彼女を引き倒したのだ。さすがに、この動きを予想していなかったアルディミアク・ミトゥナは、ふいをつかれる形になった。
「貴様何を……」
 持っていた剣を、アルディミアク・ミトゥナがトライブ・ロックスターにむけようとしたとき、ストンという音とともに、さっきまで彼女がいた場所に一本の矢が突き刺さった。
「し損じましたか」
 和弓を構えた千石朱鷺が、あわてて身を翻す。
「危ないところだった」
「もういい、どけ」
 トライブ・ロックスターを押しのけると、アルディミアク・ミトゥナが立ちあがった。
 その間に、ヘルメス・トリスメギストスと神代明日香が、九弓・フゥ・リュィソーたちを拾いあげて、急いで後ろに下がる。
「もう、小手先はやめだ!」
 アルディミアク・ミトゥナが、ガーターリングから、アメジストをむしり取った。
「セット!」
 星拳ジュエル・ブレーカーの、レンズ部分に宝石を入れる。
「みんな、離れて」
 ペコ・フラワリーに言われて、その場にいた者たちがあわてて避難していった。
「君は、そんな子じゃないだろ!」
「うるさい。お前が言うか!」
 アルディミアク・ミトゥナの左手に、風の渦が集まっていく。
「やめろ!!」
 ココ・カンパーニュが、右の拳を天に突き上げた。ドラゴンアーツによって打ち出された光条が、遺跡中央の天井を突き崩した。崩壊した巨大な瓦礫が、アルディミアク・ミトゥナとココ・カンパーニュの頭上に落下してくる。
「馬鹿なまねを」
 心中する気かと、アルディミアク・ミトゥナは、ココ・カンパーニュにむけて放ちかけていた圧縮した大気を頭上にむけて放った。