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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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【十二の星の華】双拳の誓い(第2回/全6回) 虚実

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「それで、人気の少ないところに呼び出して、なんの話なの。事と次第によっては……」
 ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)によって立木の陰に呼び出されたココ・カンパーニュは、そう言って軽く拳を握りしめた。
「これこれ、そういきりたつでない」
 オッドアイを瞬かせて、ウォーデン・オーディルーロキが、あわててココ・カンパーニュを押し止めた。
「噂によると、おぬし、アルディミアク・ミトゥナとかいう娘と何か因縁があるようじゃな。そこでじゃ、もしその者と二人きりで会える……としたらどうじゃ?」
 悪い話ではないだろうと、ウォーデン・オーディルーロキが持ちかけた。
 パートナーの月詠 司(つくよみ・つかさ)がすでに海賊たちの方に潜入して、アルディミアク・ミトゥナをおびきだす手はずを整えているのだという。
「うーん。ありがたいと言えばありがたいけど……」
 ココ・カンパーニュとしても、アルディミアク・ミトゥナと膝を突き合わせてじっくりと話し合いたいのは山々なのだが。かといって、そうそう簡単に事が運ぶものだろうか。それに、たとえ私事だからといって、ゴチメイの他のメンバーたちに黙って何かするのは、仁義に欠けるような気もする。
「うまい話には、裏があるってな」
 ふいに声がして、二人は驚いてそちらを振りむいた。
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、すぐそばの木にいつの間にかもたれかかって話を聞いていた。
「あんたか。そのう……、まだビデオほしがってるのか?」
 なぜかちょっと顔を赤らめて、ココ・カンパーニュがとんちんかんなことを聞いた。
「いや、そういうことはおいといてだなあ。だいたい、どちらかといえば、俺は男の方が……」
 格好つけていたつもりのラルク・クローディスが、恋人のことを思ってちょっと狼狽する。
「まさか、あんたも、さらなる変態じゃないだろうな。変態は……潰す!」
 なぜかうっすらと涙を浮かべながら、ココ・カンパーニュが言った。
「と、とにかく、一人で行動するなよ。どうせ、むこうだって本当に一人で来るかなんてわかんねえんだ」
 ラルク・クローディスの言葉にうんと小さくうなずくと、ココ・カンパーニュはその場を離れていった。
「勝手なことを。ツカサのことを軽んじてもらっては困るのじゃ」
「じゃあ、お手並み拝見といこう」
「そうですね。わたくしとしても、リーダーを泣かすようなことはしていただきたくないというところです」
 邪魔をされた形になったウォーデン・オーディルーロキがラルク・クローディスとやりとりするところに、いつの間にか現れたペコ・フラワリーが割って入った。
「もしそのような場合は、あなたたちは、蜂の巣で、串刺しで、細切れで、消し炭で、晩のおかずですので、くれぐれも御注意を」
 淡々と言っているが、目が笑っていない。ゴチメイ隊の五人にとって、リーダーを悲しませる者は最大の敵だ。容赦する必要などない。
「俺もか?」
 なんでと、ラルク・クローディスが自分自身を指さして聞き返した。
「ええ」
 ペコ・フラワリーは、真顔でうなずいた。
 
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「さて、遊んでないで、そろそろ廃墟に行こうか」
 のんびりしてばかりもいられないと、ココ・カンパーニュが切り出した。
「作戦だけど、正面から突っ込んで、邪魔する奴はぶっ飛ばす。以上」
 大方の者が予想通りの作戦を、ココ・カンパーニュが宣言した。
「さんせー。小細工無しで、ドーンとやっちゃおうよ。思いっきり、いくからね〜!」(V)
 ココ・カンパーニュをあおるように、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が尻馬に乗った。
 女王像の欠片を手に入れたいカレン・クレスティアたちは、ココ・カンパーニュたちの力押しによる派手な混乱を期待していた。お宝をゲットするには、敵が混乱してくれた方が動きやすい。
「やっぱり正面からだよね」
 ジュレール・リーヴェンディのそばで、リン・ダージが腕を組んでうんうんとうなずいた。
「そうであるな」
 負けじと、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が大きくうなずく。
 それを見て、自分の方がよく理解したとばかりに、リン・ダージがわざとらしくうなずいた。負けじと、ジュレール・リーヴェンディが、ぶんぶん首を縦に振ってひっくり返りそうになる。
「いや、正面突破はやばいだろう。また、建物を壊しちゃうぞ」
 近くの遺跡探検に来ていた高村 朗(たかむら・あきら)が、あわててみんなを思いなおさせようとした。まともに海賊とゴチメイがぶつかったのでは、以前の遺跡の二の舞だ。
「ココたちが凄い力を持ってるのは知ってるけど、今はみんなで力を合わせるときだと思う。ココたちも、みんなにも無事でいてほしいんだ」
 遺跡にもという言葉は、言わないでおいた。
「じゃあ、遺跡には、正面突破組と、その間に潜入する組とに分けようぜ。もちろん、俺は派手に正面から攻める組な。海賊どもに恨みもあるし、つーかそもそも俺は難しいこと考えんのは苦手でね」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、現実的な提案をした。
「そうですよ。守りの薄いところから遺跡の中に入るのが、攻略戦の基本です」
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が、ウィルネスト・アーカイヴスに賛同した。
「ええと、みなさん遺跡とか言ってますけれど、目的地は町の廃墟なのでは?」
 間違ってると大変だと、佐倉留美が確認した。
「それだけど、ここに来て困ることもあるだろうかと、ちゃんとねーさまに調べてもらったんだもん。これで、どうかな」(V)
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、キマクで情報収集している藍玉 美海(あいだま・みうみ)からの情報をみんなに披露した。
 海賊たちがアジトにしているのは、小さな町の廃墟であることには変わりないのだが、元々その町は、地下の遺跡の上に作られた物なのだという。遺跡調査の人員が暮らすために造られ、調査終了とともにゴーストタウンになったのだった。
「ほらみろ、やっぱ、遺跡じゃねえか」
 ウィルネスト・アーカイヴスが勝ち誇る。
「しっ、聞こえないですわ」
 佐倉留美が、背後からウィルネスト・アーカイヴスをかかえて黙らせた。文句を言おうとしたウィルネスト・アーカイヴスが、佐倉留美のたっゆ〜んに言葉を失わせられる。
「どうも、空っぽになった地下遺跡を、海賊たちが秘密倉庫に使っていたらしいというのが、ねーさまからの情報だよ。だから、廃墟の建物はほとんど関係ないって言うか、見せかけだと思うんだもん」
 藍玉美海からの情報はそこまでだった。彼女はさらなる情報を手に入れようと、キマクの情報通の美少女と忙しい最中らしい。
「ははははははは、ならば、この俺が、正面の敵を引きつけましよう。出番というか、魅せ場ですねえ。まさにヒーローとして、うってつけのポジションです。その隙に、みなさんは裏口から安全に中へ入ってください」(V)
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、囮を引き受けた。
「そうだな。この場合、相手の出方が分からないので、戦力の一気投入はリスクが大きすぎる。もっとも、策があって正面突破と言うなら構わないが。誇りのために犬死にするというなら、俺に止める義理はない」
「すみません、すみません。司さん、元々口が悪くて。すみません。この前の遺跡で生き埋めになりかけて、ずっと怒ってるんです」
 きつい調子で言う白砂 司(しらすな・つかさ)に、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)があわてて頭を下げながら謝った。
「まあいい。だが、厄介事に巻き込まれて、お前を慕う者たちが傷つくのは気分が悪い。だから、俺が先行して敵を薙ぎ払う。お前は、アルディミアクという奴だけに集中しろ。その方が、こちらも楽だ」
 口は悪いが、言っていることに悪意は感じられない。
「ありがとう。みんなを頼りにさせてもらうよ。正面は、チャイたちに任せて、敵をおびきだしてもらおう。その隙に、私たちは地下の遺跡に入る。だけど、もしアルディミアクとかいう子が外に出てきたら……」
「それは、任せるのじゃ」
 ウォーデン・オーディルーロキが請け合った。
「じゃあ、俺は先行して、安全な潜入ルートを見つけてくるぜ」
 言うなり、百々目鬼 迅(どどめき・じん)が飛び出していった。
「ボクたちも行くぞ、アメリア」
「はい」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)も動きだす。
「進入路を見つけたら、連絡する。じゃあ、また後でな」
 そう言うと、高月芳樹たちは百々目鬼迅の後を追って廃墟の方にむかった。
「芳樹から連絡があれば、わらわがお伝えしますのじゃ」
 艶やかな黒髪の和服を着た娘が、進み出て言った。連絡係として残った伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)だ。
「ゆえに、今しばらく、待つのじゃ」
 玉兎は、そう一同に告げた。