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リアクション
「よろしい。みなさん、某で良ければお相手いたそう」
「爺や!」
「良いのです、赫夜様。剣の腕でその人となりが判ると言うもの。太刀を交えることで、みなさんの思いが某には理解できるはず」
「でも、爺やさん一人では大変なのでは…とは言っても、私も爺やさんと太刀を交えてみたいのですけれど…」
遅れて駆けつけてきた、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)と、アリアに連れられた天穹 虹七(てんきゅう・こうな)もことの成り行きを見つめている。
「ははは、可愛いお嬢さんとオチビちゃんのコンビですな。心配ご無用ですぞ」
爺やはかくしゃくと笑う。
「爺や、本当に大丈夫なのか」
心配げな赫夜に爺やはにやり、と笑う。
「赫夜様、ご安心ください。赫夜様をここまで育てたのも某ですぞ」
「確かにそうだが…」
「ただし、みなさんに比べて某、このような年寄りでありますからな、一人一太刀、それきりにして下され。ウィング殿、あなたのような強者に本気でかかられては、某、あの世へ逝ってしまいますぞ。老人虐めはおやめくだされよ」
はっはっは、と笑う爺やに連れられて、藤野家にみんな入ってゆく。
二階建ての日本家屋で慎ましくはあるが、庭も道場もある。みんなは道場に通された。
「それでは、最初に某に挑んでこられたエヴァルト殿、かかっていらっしゃい。ただ、ここも普通の建物ですからな、木刀での勝負をお願いしよう」
エヴァルトは大きめの木刀を手にし、しゅっと一降りする。
「剣の腕だけが全てではない、などと言うつもりは無い…だが、闘いは力だけで決まるものではない、これがな」
二人は真正面から対峙すると、一礼し、構えに入った。
(常人でも十分到達し得る程度の実力しかない俺には、馬鹿正直に大上段から全力で振り下ろすソニックブレード…名付けて『悪を切り裂け両断波』でもやるしかない…相手の得物を叩っ斬れば、少しは認めてくれよう)
エヴァルトはそう、こころに決め、隙の一部も見せない爺やに向かって大上段から木刀を振りかざし、一気に振り下ろした。
「やああ!」
「ふんぬ!」
エヴァルトの木刀を爺やは受け止めると、くるりっと回しはじき飛ばしてしまう。
「おお、某の木刀にヒビがはいってしもうたわ。エヴァルト殿は剛力じゃな」
「くっ」
エヴァルトはしびれる腕を押さえながら、思った。
(強い…もしかすると、赫夜さんより、強いかもしれない…!)
「お兄ちゃん、大丈夫?」
ミュリエルが心配げに駆け寄るが、腕のしびれを抑えながら、エヴァルトは笑ってみせる。
「ああ、大丈夫だ。さあ、次の人の邪魔になってはいけない。下がっていよう」
「うん…赫夜さん、真珠さんのお部屋まで行っていいですか?」
「どうして?」
「せめて、伝えたいことがあるのです」
「…未だ眠っているかもしれないが、一緒に行こうか」
「はい!」
赫夜はミュリエルの手を取ると、二階の真珠の部屋に案内した。
「さて、お次は誰かな」
「では、自分がお願いしたいです!」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がらちがあかないので、直接やってきて、爺やに対決を申し込みに来たのだ。
「お嬢様がたは顔が似ていらっしゃいますよね。それなのに他は色が違うし、特に髪質が気になります。もしよろしければ生い立ちを聞かせて頂けないでしょうか」
赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)も
「自分も真珠さんを疑っていた人間の一人。もう直球で爺やさんに真珠さんについて聞くために剣で挑みに参りました」
と、道場の中に入ってくる。その後ろには、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)、諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)もいた。
「いいが、戸締まりはどうしたんじゃ」
「私がいれましたのよ」
婆やがニコニコと笑って現れる。
「まったく、いらんことを、この婆が」
「おやおや、爺や殿、人数には勝てませんかねえ?」
爺やと婆やに静かな青い対立の炎が燃え上がる。
☆ ☆ ☆
赫夜とミュリエルはそっと真珠の部屋を覗くと、真珠はベッドで眠っているようだった。
「ずっとあんな調子なのですか?」
「…精神的にも落ち着かないから、安定剤を飲んでいるせいもある。だから、それほど起きては来ないんだ。もう少し、気分が落ち着いてくれば、と思うのだが」
赫夜の寂しそうな横顔を見ると、ちょこちょこちょこっと音を立てないようにミュリエルは真珠の枕元まで駆け寄って、小声で囁く。
「真珠さん、手芸とか、もっと色々教えてほしいのです。待ってますね」
眠っている真珠はまるで、「眠り姫」のようだった。
そしてミュリエルと赫夜の二人はまた、道場へと戻った。
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