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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞

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【十二の星の華】籠の中での狂歌演舞
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リアクション

 
 ミルザム、そしてマリオンの治療は、地下演舞場から学園内の臨時看護室に場所を移して行われていた。
 しっかりと時間を割いて治療をしなければならない程に2人の症状は重くなっていた。思考や会話は通常に行える、しかし肢体を自在に動かす事が出来ず、内の臓器は硬く重くなっている。それは痛みを伴うようで、2人は顔を大きく歪めている。
 弱った姿を見せる事はない。加えるなら、
ミルザムを中心とした会議の内容をパッフェルに聞かせる必要は一切に無いだろう。
 臨時看護室には、治療を行える者と今後の指針について論じたいと願い出た生徒たちが集っていた。如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)もその中の一人であった。
「… あの… 星剣を… 彼女の星剣を… 取り上げれば…」
 論じると言っても、基本は皆ミルザムの治療を行っているのであり、症状の劇的な改善が見られない上に、コロコロと症例が変わる為、気付いた事は皆で共有する必要があった。一人一人に余裕がないため、怒声混じりの声ばかりが飛び交っていて、日奈々の細い声は、どうにも誰にも届かなかったようで。
「… あの… その… 星剣が彼女の性格に影響を…」
「日奈々! 負けない! ほらっ」
 くぅ。と俯いてしまった日奈々の顔を、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が覗き見上げた。日奈々は涙の滴を拭って、大きく息を吸った。
「星剣を取り上げれば! …力も押さえて! …性格も! …変わるかも!」
「星剣は取り上げられないのだよ」
 千百合日奈々の頭を撫で褒めた時、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が論を反した。
「星剣とは光条兵器の一種なのだろう? 壊す、ならまだしも、引き離すだけとなると難しい、と思うのだよ」
「… 壊すのは… 違う…」
「あ、日奈々は、壊すまでしちゃうと、パッフェルの人格そのものまで壊れちゃうんじゃないか、って心配なんだよ。ねっ」
「心配って、パッフェルの事が? おかしな者だな、貴公は」
 言われた日奈々の顔が赤くなってゆく。
「まぁ、でも、パッフェルの性格を変えるのに星剣をどうにかする、という考えは面白いと思うぞ」
「私もそう思うねぇ」
 以前にも聞いたような。話に割って入る事が趣味なのだろうか、それともそれしか能がないのか。ご存じ、ノーム教諭が顔を歪めて笑んでいた。
「彼女の力を奪って無理に変化を起こす、という発想は、嫌いじゃないねぇ」
「ノーム教諭、聞いて頂きたい事があるのですが」
 ベアトリクスと一緒にミルザムの護衛をしていた支倉 遥(はせくら・はるか)が笑み寄った。
「五獣の女王器と陰陽五行説との関係についてなんですが」
「ふむ」
「五獣の女王器はそれぞれが五行に対応していて、相生・相剋の関係にあるのではないでしょうか。本来、女王本人が使用するものではなく、五獣の女王器が一種のサイクルを形成することによって女王を補助し、ひいてはシャンバラの繁栄を支えていたのではないか、と」
「それで?」
「はい、五行の『木』にあたる青龍鱗を、そのままその力を使うのではなく、『火』にあたる朱雀鉞を介して使用することで木生火→火剋金とした治療が行えないかと考えたのですが」
「女王器の解析がもう少し進めば、属性等も判明するかもしれないけどねぇ。ただ、それだと女王候補様殿が青龍鱗と朱雀鉞を同時に使う事になるだろう? 何が起こるか分からない上に、本人があんな状態だと、正確なデータを取るのは難しいよねぇ」
「あ、いえ、データではなく… 今はその効果を調べるだけで−−−」
「それに! 報告によればパッフェルは『女王候補様殿には青龍鱗の力を使いこなせない』と言ったと、これはなぜなのか。もし本当に原因が女王候補様殿にあるなら、青龍鱗と朱雀鉞を使っても、ねぇ」
 験行をしても、結果が揺れる可能性があるという事だろうか。
「それなら、パッフェルと同じ十二星華が使うってのは、どうかな?」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)のブラックコートが柔らかくなびいていた。
「クイーン・ヴァンガードにも居るでしょう? テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)が」
「テティスなら居ねぇんだってよ!」
「殿」
「何日か前に出掛けたっきり戻ってねぇんだ、だから今は居ねぇし、呼び戻す事も出来ねぇ、これで良いな、はぃ終わり! おぃ遥、アイツ等がしつこいんだけどよ」
 伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)が言葉を捨てながら天音からに向いた時、神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)がその横を、すっと過ぎていった。
「あなたがノーム教諭ですか?」
「あっ、おぃテメェ等! 誰が入って良いって言った!」
「もう入ってきてしまいましたので、よろしいんじゃありません?」
「誰がよろしい事あるか! 出てけ!!」
 が瞳だけを動かして天井に視線を送った。瞬間であったし、2人にしか分からないであろう。屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)の「構わない」
「待て」という意を受けて構えを直した。
「私を飽きさせたら、すぐに出ていってもらうよ、くっくっくっ」
「えぇ、女王器と光条兵器に関する事なのですが」
「君もかぃ? どうぞ」
 藤次郎正宗の舌打ちが聞こえてきたが、フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)は気に止めずに始めた。
「青龍鱗が毒や水晶化を治癒、または浄化する際、結界にも似たエネルギーで包み込む、と聞いたんじゃが」
「そうだねぇ、光を放って浴びせるタイプと、君が言った通り光で包み込む場合もある。その使い分けは女王候補様殿にも可能なようだったねぇ」
「放出にしても結界にしても、魂のエネルギーを物理世界へ放出しているのではないか?」
「魂のエネルギー?」
「魂のエネルギーに違いがあるからこそ、パッフェルには可能でミルザムには不可能である、そんなおかしな事象がおきる」
「魂の違いか…… 私は血潮や遺伝子に反応して力を発揮すると考えていたから、論測としては近いねぇ。まぁ、どちらも本人にはどうする事も出来ない事だけどねぇ」
 女王器の起動や認証に、遺伝子や血統が関係してるという事なのだろうか。そこに問題があるなら、ミルザムが幾ら足掻こうとも真の力を発揮できないという事になるが。………… 問題があるなら……?
「そろそろ良いか? プロクルは、円お姉ちゃんを迎えに来たのだ。なぁエレン」
「えぇ、そうでしたね」
 見上げながらに、プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)は教諭の前で胸を張った。
「円お姉ちゃんはどこ? 会わせなさい」
「円? あぁ… 彼女なら軟禁されているからねぇ、処分が決まるまでは出られないよぅ」
「処分って… クイーン・ヴァンガードが他校生の処分についてとやかくいう権限があるのであるか?」
「? そうかぃ?」
「ミルザムが女王となってたら反逆であるが、まだ候補に過ぎないのであろ? 犯罪行為ならば、きちんと司法の場で裁くのが基本であるし、指導で済むなら各学校が行えばよいのであろ」
「指導ねぇ… くっくっくっ、便利な言葉だよねぇ」
「彼女たち… なら…… 必ず、解放しま… す」
「ミルザム!」
「おやおや、もう平気なのかぃ?」
「えぇ、だいぶ楽になりました。今できる事をしましょう」
「それは頼もしいねぇ」
「それなら! 今すぐ円お姉ちゃんを解放するである!」
「それは出来ません、彼女たちは、十分にお話を伺ってからの解放になります。申し訳ありませんが、今解放する訳にはいかないのです」
「そんな!」
「待って」
 エレンミルザムの顔をじっと見つめて、教諭へ向き向き直った。
「教諭なら、パッフェルさんとミルザムさんの信号を合わせて青龍鱗を一時的に完全起動するよう出来るんじゃありません?」
「なるほど…… それは面白い」
 笑みながら、教諭はミルザムの顔をまじまじと見つめた。舐めるようなその視線にミルザムが、そっと顔を逸らした時、樹月 刀真(きづき・とうま)が口元を隠して教諭に告げた。教諭とミルザムに内密な話があると。
 刀真のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)閃崎 静麻(せんざき・しずま)、そして教諭とミルザムは隣室へと場所を移した。


「俺たちの目的は、十二星華を守ることだ」
 静麻は、秘密結社「アルマゲスト」の行動理念を説明すると共に、十二星華であるパッフェルを助けたいんだと説いた。
「確かに数々の事件も騒動も起こしたが、だからといって危害を加えたり、ましてや殺すなんて」
「そんな事はしません! させません!」
「女王候補様殿は、パッフェルを更正させようとしている位だからねぇ」
「更正?」
 青龍鱗の力を使ってパッフェルの体内の毒を完全に浄化する。この毒こそがパッフェルの性格を攻撃的で人を苦しめる事を何とも思わないものにしているのだと。
「なるほど、青龍鱗の浄化の力を使えば、可能かもしれないな」
「しかし、上手くいっていないのでしょう?」
 今も青龍鱗を握りしめているミルザムを見れば…。刀真は教諭に真っ直ぐに。
「どうするおつもりです? 何か、企んでいるのでしょう?」
「君も言うねぇ」
 教諭も笑みで応えて。嬉しそうに、己の案を言葉で告げた。
「そんなっ!!」
 一度、そして二度と皆の目が見開かれたが、ミルザムの顔だけは、教諭の言葉が並び置かれるにつれて俯いていった。
「それはまた……」
「思い切った策ですね。しかし……」
「ミルザム様?」
 月夜ミルザムの肩に添いた。
「大丈夫ですか?」
「えぇ」
 俯いたままに。声はとてもに小さかった。
 パッフェルを救いたいという意向からは外れていない、彼女の体内の毒も浄化できるかもしれない…… それでも。
「どうする?」
 ずっと低い声が、真っ直ぐに。
「ミルザム」
 揺れる、今もずっとに揺れている、それでも。このままでは彼女を救えない。自分の力だけでは救えない事は痛いほどに…。
 大きく息を吐いて。大きく吸ってから。
「やりましょう」
 顔を上げたミルザムの瞳は真っ直ぐに教諭を見つめていた。
 教諭もそれを真っ直ぐに受け止めてから、いつものように笑み笑っていった。