First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
「オリヴィア!! ミネルバ!!」
薄暗い倉庫に入る天窓の明かりの元、桐生 円(きりゅう・まどか)は呼びかけた。叫ぶように、いつもなら言わないような…… 存分に取り乱していた。
「円……」
「おはよーってあれ? さっきも、おはよー?」
「よかった…… 2人とも… よかった……」
円が2人を強く抱き締めた時、他の生徒たちも目を覚まし、パートナーとの再会に喜びながらも戸惑っていた。 ベルナデット・アンティーククール(べるなでっと・あんてぃーくくーる)と再会したトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)も同様だった。
「トライブ! お主も無事じゃったか!」
「それはこっちのセリフだ! どうやって元に戻ったんだ」
「それは、わたくしが説明いたしますわ」
一緒に眠らされていた同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)が、頭を押さえながらに身体を起こした。そしてノーム教諭とミルザムが持ち出した取り引きの内容とパッフェルの様子を含めた現状を話した。話しが進むにつれて、一同の顔は強ばっていった。
「私たちの為に……」
「取り引き、と言うより脅迫だねぇ」
「ミルザム? いえ、ノームの策ね」
「あぁ、俺たちをネタに姫さんを強請ろうなんざ、許せねぇぜ!」
何をするわけでもなく、言い交わす事なくに。一行の瞳は同じに向いた。
「必ず! 姫さんを助け出す!!」
トライブの言葉に、ほぼ被りで小さな天窓がノックされた。
「みんな生きてるか〜ぃ?」
「その声は………… ? ……!! マッシュ!!」
「何? 今の間は! ………… まぁ良いや、この壁、壊すから、みんな離れてて」
一行にマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)とシャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)が合流を果たした時、地下演舞場では、ミルザムとパッフェルが向き合って、青龍鱗に触れていた。
ところ変わって、狭き気溝内。
魔法学校、イルミンスールの通気溝内を如月 玲奈(きさらぎ・れいな)は、ぅんしょっ、んんっしょっ、と「ほふく」で前進していた。
「フィー、お願い」
「了解了解です」
レーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)は光精の指輪を取り出し使いて、玲奈の手元を明るく照らした。
銃型HCにコピーした見取り図を見て、玲奈は先の突き当たりを右に行くことにした。
パッフェルがイルミンスールを襲撃した際に全身を水晶化したユイード・リントワーグ、結果として彼女はミルザムが青龍鱗を使っても解除できない水晶化の第一号患者であったのだが。
玲奈が不審に思ったのはユイードのパートナーであるチェスナー・ローズの行動だった。彼女は鏖殺寺院のフラッドボルグの洗脳魔術を受けた被害者なのだが、彼女のパソコンを調べると、そこにはイルミンスールの詳細な学内見取り図が保存してあったのだ。
「ほわっ! ぉおおお〜」
「玲奈玲奈っ? どうなのです?」
「この部屋も当たりだよ………… と言うことは…………」
そのままに通気溝内を進みて、室内を覗き込めば…… 玲奈は嬉しそうな顔をインフィニティーに見せた。
「スゴいスゴいですね、この地図、とっても正確です」
「ふっ…… そうね」
「??? 玲奈玲奈?」
「ふっふふっ、これだけ正確なら、細めに確認と更新をするだけで、ほぼ正確な地図が私の手に…… うふふっ」
不思議そうに首を傾げるインフィニティーに、玲奈は満面の笑みで溢れ言った。
「これがあれば、授業に遅刻しそうな時の近道も、やばい時の逃げ道も思いのまま! しかも!! こっそりテスト用紙を盗み見したり!!! 気になるあの人の部屋にだって行き放題の覗き放題って訳なのよっ!!!!」
「今すぐ! そのデータを持ってくるですぅ!!」
「うわっ! ぁ痛っ!!」
驚き跳ねて頭を打った。その音までも、通話先のレーヴェ・アストレイ(れーう゛ぇ・あすとれい)とエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は聞いていた。
「まったくぅ、そんな犯罪まがいな事には使わせないですよ」
「ごもっともです。後でレナには厳しく言っておきます」
ため息が大きく吐かれたが、レーヴェは広げた見取り図を指して訊いた。
「この見取り図には電気、水道の配管図の情報まで、それも正確に載っているんです」
網の目のように。見取り図は一枚だけではなく、各階の部屋割り、通気溝や電気、水道の配管図が一同に合わせてあるものと個別にもデータ化されてある。印刷するだけでも束になってしまった。
「これだけの情報を得るには、どれだけの時間が必要だとお考えですか?」
「そうですねぇ………… 少なくとも7日といった所でしょうか」
「7日…… という事は、研修から戻ってきた翌日から彼女はユイードの治療に付きっきりでしたから、彼女に見取り図を起こす事は不可能です」
「研修に出る32日前にイルミンスールは構造を変化させましたので、研修の前に作っておく事は出来ないですぅ。つまり」
「はい、誰かが彼女にデータを渡した……」
「彼女がフラッドボルグに洗脳されていたのだとすると、学内に鏖殺寺院と繋がりのある者が居る、という事になるですぅ」
さらに、彼女が洗脳されたのが研修中であるなら、ヒラニプラにも鏖殺寺院が潜んでいるという事に……。
「本人から話を聞くですぅ、チェスナー・ローズを呼ぶですぅ!」
「それが… 探してはいるのですが……」
「居なくなったですか?!!」
地図で遊んでないで探すですぅ!! と怒鳴られて玲奈は再びに頭を強打した。
姿を消したチェスナー、彼女を選んだフラッドボルグ、そして学内に潜む鏖殺寺院。実態を掴みにくい事象だけに、調査が必要な事だけは間違いないのであった。
蒼空の学園を見下ろす男。携帯電話を耳に当て、黒いコートは波打っている。
「あぁ、そうだ、俺の眼たちが色々と見つけて来るものでね」
男が掌を返して開くと、使い魔のカラスが現れた。空気を掴むように拳を閉じ、開いて返す度にカラスが現れてゆく。気付けば、使い魔のカラスは辺りに溢れるように飛び群れていた。
「面白い事になりそうだ」
男は笑みながら一斉に、カラスを学園に向け飛ばした。
学園内、地下の演舞場に続く廊下において、幼子が口を尖らせていた。
「どうして、会わせてくれないのさ」
一生懸命に言っている幼子に添い立っている神代 師走(かみしろ・しわす)は、その言葉に思わずに口端を上げていた。
「オレは! ミルザムぅに会いたいんだよぅ!」
「だぁあぁめ! なんだっ!」
幼子に立ちはだかる青葉 旭(あおば・あきら)も、つられたのか、アヤすように返していた。
「今は、みんな忙しいの! だから入れる訳には、いかないのっ!」
「みんなじゃなくて、オレは、ミルザムぅに会いたいんだよ」
「ミルザム様も中に居るのっ! だから忙しいのっ! だからダメなのっ!」
なぜ青葉くんまで、つられてるんだっ! とか、『だから〜なのっ!』ってパターンで説得する気? っつーか説明下手!! などなど、ツッコミたい事はたくさんあったが
山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)はそれらを飲み込んだ。
さっきから…… 笑ってる、よな… ってか堪えてるのか?
幼子の後ろに居る女の様子が、時にオカシイ。それにこの幼子…… どこかで……。
「じゃぁさっ、ミルザムぅを連れて来てよ、中に居るから忙しいんでしょっ!」
「違うわっ! 忙しいから中に居るのっ! 忙しいから外に出られないのっ! …………って、アレ? 合ってるよな?」
首を傾げる青葉に代わり、にゃん子が幼子に問いた。
「なぁ坊主、ミルザムぅに会ってどうするんだ?」
「話すんだよ、パッフェルぅを助けてやれって」
「? どうしてパッフェルぅを助けるんだ?」
「だって、ミルザムぅとパッフェルぅが仲直りすれば、平和になるだろっ?」
「ぅっっっっぷぷっ…… さつき…それは……」
「さつき?!」
師走が口を押さえた。そしてこの幼子の顔! 間違いない!!
「おまえ、日比谷皐月だなっ!!」
「なっ!!」
次の瞬間、青葉とにゃん子の足下に銃弾が撃ち撒かれた。
弾幕が止んで戻して見れば、幼子は師走に手を引かれ、共に逃げる女の姿も増えていた。
「くそっ! 青葉くん、追うよ!」
「えっ、ちょっ、日比谷皐月って?」
「ちぎのたくらみ、で姿を変えてたんだよ! 捕まえりゃあ金一封と昇進が待ってるよ!!」
にゃん子がアサルトカービンを構えて駆けだした時、先ほどまで気配を消していた如月 夜空(きさらぎ・よぞら)はスナイパーライフルを握りしめていた。
「って、皐月! 何でバレたんだよ!」
「師走が笑ったんだぃ!」
「またっ…… アハハハハ、だって一生懸命に言ってる姿も、ミルザムぅって言い方も、可愛くておかしかったから」
「仕方ねぇじゃねーか、こっちは8歳になってんだからぁ!」
皐月が、ちぎのたくらみを解こうとした時、爆発音が響きわたった。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last