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リアクション
「何っ? 今の、爆発音?!」
「いいからっ、下がってなよっ!」
マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)に言われてシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が後ずさった直後、地下倉庫の壁が爆破された。その音に呼応するかのように、学園内で次々に爆発音が鳴り響いていった。
「何っ? これも君の仕業なの?」
「ヒャハハッ、知らないけど、良い音だよねっ」
「そうだな…… !! これを見ろ」
シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)はクイーン・ヴァンガード隊員が持つ銃型HCを皆に見せた。
「これ、どこで…」
「マヌケ面の隊員から奪ったのだよ。それよりも、見ろ」
HCの画面には何も映っていなかった。数間だけノイズが走り、すぐに消えた。その後は一切に動く気配すらなかった。
「こんな非常時に止まってしまうシステムなんて在るはずがない、つまり」
「誰かがXルートサーバに細工をした?!」
マッシュが大きく頷いた。実際はドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)が爆音の後にXルートサーバに突入し、サーバを銃撃したのだった。ドルチェは見事にHCの戦術データ・リンク機能を停止させた、また無数のカラスが舞い現れた事で隊員たちの混乱は極度に達していた。
シャノンは皆の顔を見回して、冷静に熱く言った。
「良い機会だ、助け出そうじゃないか、パッフェルを」
皆一様に瞳を輝かせ笑んだ。目指すは地下演舞場、パッフェルの奪回を目的に、一斉に駆けだした。
学園の空を舞う大量のカラス。
「いや、使い魔かっ!」
ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は自身の使い魔であるカラスを出現させて、空を舞うカラスにぶつけてみた。
大きさだけを見れば、ウィングのカラスの方が一回り以上大きい、スピードだって出ている、それなのに…。
衝突したカラスは爆発を起こしたのだった。
「なるほど、爆弾を背負わせているのですね? それなら」
ウィングは比較的多く舞っている宙へサンダーブラストを放った。連鎖するように爆弾は起爆し、大爆発が起こったが、その間にもウィングはカラスを斬っては避けていった。
「この派手な手口、そして爆弾…… フラッドボルグか……」
超感覚も発動して、ウィングは無数のカラスへ斬りかかっていった。
「なるほどっ! ランザー!!」
ウィングの戦闘を遠巻きに見て、篠宮 悠(しのみや・ゆう)は馬上からランザー・フォン・ゾート(らんざー・ふぉんぞーと)を見上げて叫んだ。
「カラスは起爆する! 雷術でまとめて爆発させるんだ!」
「おぅよ! 加減は出来ねぇぜ!!」
「あぁ、思いっ切り暴れて良いぜっ!」
「ヒャッハァァ! 行くぜぇ!!」
「ワタシも行こう!」
同じく体長が4メートルを越えるレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)が高周波ブレードを振り回して加勢した。
2人にとっては舞うカラスは虫の如く。巨大機晶姫であるレイオールにすれば爆発も、さほど大きなダメージには感じなかったのだが、
「おぃ! 俺様はお前さんほど頑丈には出来てねぇんだ、少しは考えろよっ!」
「何だ? 怖じ気付いたのか?」
「ぬかせっ!!」
チェインメイルを振り払い、離れた宙へ雷術を放つ。負けじとレイオールも轟雷閃を振り抜いて刈る。
「真理奈、乗れっ!」
悠の白馬に飛び乗りて、真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)は続きの狙撃を開始した。
スナイパーライフルで確実に、それでも次々に。巨体な2人の大振りが生む隙を埋めるようにカラスを爆していった。
「どうします? このまま続けてて良いのですか? ここは2人に任せて、私たちは他を当たりますか?」
「いや、校舎の方に向かったのは気になるが、警備していたのはオレたちだけじゃない。オレたちは、とにかくこの場を収めよう」
「わかりました」
真理奈が散弾銃型の光条兵器を具現化して構えた。その頃、校舎前では神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)がスナイパーライフルで弾幕を放っていた。
「レイス! 行きましたよ!」
「分かってるよ、全く」
飛び来る多群もカラスをレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)はフェイスフルメイスの一閃で一度に打尽した。
「こういう相手にメイスは効くよな、こっちにダメージ無し」
「気を抜かない! 次、来ますよ」
「やれやれ… これはもう警備の範疇を越えてるよな…」
宙を舞い漂っている。それぞれに飛び込んで来ることは無い、来るときはある程度の集団で。それまでは宙を漂い舞っている、まるで指令や合図の類を待っているかのように。
「来ないのなら、今のうちに」
「ん? 何してんだ?」
「瓦礫や拳石も投げつければ起爆するのではと思いまして」
「………… 弾の節約か?」
「まさか。無駄な弾を使いたくないだけですよ」
「やっぱ節約じゃねぇか!」
「あの銅像も投げとくかぃ?」
「………… 片付けが大変だから止めようぜ」
パラミタウサギの像が冷や汗をかいたとき、カラスたちが向かい来た。
構える2人の前に、サンダーブラストが放たれた。爆炎の中からウィングが駆け現れた。
「ここは、必ず守りますよ!」
「えぇ!」
「まぁ、任せろよ!」
止むことのない爆音が続いている、それは戦いの証であるが、演舞場の壁が破壊された音は開戦も合図となった。
演舞場の壁が破壊されるは少し前。
その中央ではパッフェルとミルザムが向かい合い、青龍鱗に触れていた。
パッフェルから受けた毒を解毒する。完了したなら幽閉中の生徒たちを解放すると、その為に、その約束を守るためにまずはマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)の解毒が行われた。
青龍鱗が放つ光が、蒼から薄い緑へと変化してゆく。水晶化を解除した時も、この色の光だった。ミルザムはこの光を知らなかったし、青龍鱗から放つことは出来なかった。
2度目である、間違いない。光の色が力の種類や段階を示すのであれば、この薄い緑色の光こそが青龍鱗の真の力、浄化の力を最大限に発揮している事を示しているのだろう。
マリオンの体を大きな水泡のように包み込み、薄い緑の光が輝きを増してゆく。光が透明度を増してゆき、光を放つ球体となった次の瞬間、水泡は一気に弾けた。
パッフェルは何とか膝をついたが、解毒を受けたマリオンは気を失っており、床に倒れた。
「はぁ…… はぁ…… 次はミル……ザムね……」
「休まなくても平気かぃ?」
「はぁ…… はぁ…… 平気よ…… 早く終わらせる…… んだから」
「それは好都合だ」
言った言葉はパッフェルには拾えずに、息だけを整えてミルザムと向かい合ったのだった。
「お願いします」
言う前にミルザムが教諭の顔をチラと見た事にも気付かなかった。息を吐いてパッフェルは青龍鱗と心を繋いだ。
青龍鱗から放たれる光。それは蒼く、輝きも淡い。
光は早くも水泡を型取り、次第に色を薄緑へと変えてゆく。それにつれて、体が軽くなってゆくのをミルザムは感じた。そして水が完全に薄い緑に輝いた瞬間、ミルザムがパッフェルの背後に回った。
「なっ!」
青龍鱗をパッフェルの胸に押しつけたまま、ミルザムは背後からパッフェルを抱きしめた。
「くっ、何を……」
「このまま…くっ …… あなたの体内の毒を全て…くっ…… 解毒します」
「なっ、そんな事できるわけ−−−」
「青龍鱗の力を使えば可能です!!」
「青龍鱗…… は…… うっ…… あなたには使えない…… でしょう」
「ですからっ! あなたの力を借りるのです!!」
ミルザムの腕が、離れない。気付かなかった…… 彼女が銀色のブレスレットを両腕にしていた事に……。
「そのブレスレットは『籠中双輪』と言ってねぇ、繋がった双輪の外に魔力が拡散・放出するのを防ぐ事ができるんだ。君は今、女王候補様殿の体に包まれているから、輪が繋がった状態ってわけさ」
「あなたの力で青龍鱗は起動する、でもその力は外へは放出されず、反射してあなたの体へ戻る」
「くっ」
「あなたは気付いていないのよ! 体内の毒が、あなたの精神も蝕んでいる事に!」
「違う! これは… この力はティセラの為に、ティセラに喜んでもらう為の力… だから」
「ならティセラは、その力を求めているんだわ! あなたの事なんて見てない!!」
ティセラ−−−
「うぅぅぅぅうぅぅぅううああ゛ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁあ゛」
「あなたには! 仲間を想える心がある! きっと! 真っ直ぐな道を歩む事ができる!」
「あ゛ あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛」
「パッフェル!!」
ミルザムの、いやパッフェルの胸に包まれて、青龍鱗が光を強める。行き場のない力は通常よりも多く強くにパッフェルの体に戻り当たってゆく。
「あ゛ あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
「っつ−−−−−−−−−−−−っ!」
光は一気に膨れて、閃光のように輝いて−−− ゆっくり弾けた。
割れる様を見せつけるように、ゆっくり弾けて散っていった。
体を仰け反るように。そのまま座り込んだミルザムへ、パッフェルは崩れもたれた。
「はぁ…… はぁ…… はぁ……」
パッフェルは気を失っていた。ミルザムも言葉を発せない程に疲弊していた。
見守っていた者たちも、すぐ外で警備をしていた者たちでさえも、誰一人として気付かなかった。それほどに強い光と衝突していた音、何よりも強烈な映像によって、学園内で起きた数々の爆発音に誰一人として気付けないでいた。
そして今、演舞場の壁が爆破されて初めて、非常時なのだと気付いたのだった。
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