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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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【2020授業風景】萌え萌え語呂合わせ日本の歴史

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 飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)の講義が開始されるちょっと前、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)のいる校長室を訪れる人影があった。
 
「いくらイルミンスールの特徴が『幼女』『カオス』『フリーダム』だからといって、流石に今回のこれはやり過ぎではないか? 別に教導団のように規律に厳しくあれ、などとは言わんが……」
 チェス盤を挟んで向かいに座るエリザベートへ、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が苦言を呈する。エリオットから一冊の本を――それは豊美ちゃんが講義で使用していた『萌え萌え語呂合わせ日本の歴史』、地球からネットサイトを通じて手に入れた――渡されたエリザベートが、物凄い速さでそれを一読してアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に渡す。
「いつからイルミンスールは幼女でカオスでフリーダムになったんじゃ。……あながち間違いでもないがの。エリザベートも私もミーミルも入っとるだろうしの」
「?」
 本に目を通しながらのアーデルハイトの呟きに、エリオットとクローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)へ飲み物を出していたミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が首をかしげる。
「歴史を教えること自体は問題ない。だがあの講義の内容に聴講者の顔ぶれ、あれが歴史であり教わるものの態度か? 確かにイルミンスールの校風は『自由』と言ってもいいだろう。だが、自由とは『無秩序』にあらず。せめて一定の秩序は保たれねばならんのだ!」
 身を乗り出して意見を述べるアロンソに、本を置いたアーデルハイトが言葉を返す。
「おまえの言う事にも一理ある。じゃが、『一定の秩序』はかなり曖昧な表現じゃ。そして、曖昧な表現を達するために設けられる規則は、えてして設けた側の憶測を超えて波及することになりかねん。魔法に置き換えるなら『暴走』じゃ。暴走の可能性がある魔法を認めることが出来ぬのは、利発なおまえになら察せるであろう?」
 落ち着きを取り戻したアロンソが席につくのと入れ替わりに、クローディアが口を開く。
「だけど、ミーミルちゃんへの情操教育ってのを考えたら、この教科書の内容はさすがにね……。ああいう人達が増えたら悪影響しか無いんじゃない?」
「え? 皆さんとてもいい人ばかりですよ? 悪い人なんていないです」
 ミーミルの言葉は、彼女が本当にそう思ってのことである。アーデルハイトが苦笑して、言葉を発する。
「そういえば、地球でも似たような事例が問題になっとったのう。最近それを話し合っとった議会が、規制を否決したそうじゃが」
「そうなんですかぁ? 私にはさっぱり分かりませぇん」
 話を振られたエリザベートが、クイーンを動かしてエリオットのビショップを弾く。
「いいことはいいこと、いけないことはいけないこと、どっちもあるんですぅ。決してなくなりませぇん」
「そうじゃな。よいことはよいこととして教えればよい。よからぬことは、保護者の管理の下で適切に教えれば、そうそう問題となることもない。幸いミーミルの周りにはたくさんの者がおる。その中にはよからぬことを企んでおる者もおろうが、その者とてミーミルを悪人にしようなどとは考えておらん。おまえのように警鐘を発することが出来る者がいる限り、イルミンスールが簡単に間違った方向へ走ることはないじゃろう」
 ま、むしろ問題なのは、イルミンスールにおるいわゆる『幼女』7名のうち5名を世話しとる奴じゃがの、とアーデルハイトは笑って答えた。それも、おまえの言葉で少しは懲りたじゃろ、と付け加える。
「チェックメイトですぅ。さ、ミーミル行くですぅ」
 エリザベートの動かしたクイーンが、エリオットのキングの真正面に置かれる。クイーンの斜め後ろにはポーンが控え、エリオットのキングは身動きが取れない。
「はい、お母さん♪」
 エリザベートとミーミルも、豊美ちゃんの講義に参加する者から一緒に受けようと誘われていた。二人が校長室を出て行き、嘆息するエリオットの向かいに、アーデルハイトが腰を下ろす。
「どれ、今度は私が相手をしてやろう。なに、歴史を学ぶ際に必要なのは、過去に名を連ねる者たちへの敬意の心じゃ。エリザベートもその点だけは……むぅ、そういえばあ奴、美術室の私の彫像に落書きしとったな。やはり少し考えねばならぬかの……」
 駒を元の位置に戻しながら、アーデルハイトが呟く。

●弥生時代〜平安時代編

 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が目を覚ますと、そこはイルミンスール魔法学校校舎ではなく、橿原宮(かしはらのみや)であった。ヴァルの目覚めを知った使いの者が大勢現れ、ヴァルの身支度を順に行っていく。
(……そうか、俺は今、神武天皇なのだな)
 得体の知れない力が身の内からふつふつと湧き起こっている感覚に心地よさを覚えているところへ、やはり身支度を整えた神拳 ゼミナー(しんけん・ぜみなー)がやってくる。
「ここが我らの第一歩だ。これから後の世に来るであろう混沌に適応できる強靭な精神を、我らがきっちり教育してやるのだ」
「ああ、そうだ。ここに到るまでに多くの血が流された。だがこれからは違う。武ではなく文化を奨励し、大義の勇を育む土壌たる、国としての思想を育てる。それは必ずや国の成長を早め、より良い国への発展をもたらすであろう。……いざ参らん、始まりの地へ!」
 恭しく頭を垂れる従者の列を、ヴァルとゼミナーが進んでいく。やがて見えてきた玉座にヴァルが腰を下ろし、ゼミナーが脇に控え、そして二人の眼前には無数の人々が、地面に頭を擦りつけんばかりに伏せた姿勢で座していた。
(世界最古の皇帝の一族、その始祖が何を為したのか、そして俺は何を為すべきか、学ばせてもらおうか……!)
 従者の一人が鐘を鳴らし、人々が一斉に頭を上げ、天皇の御言葉を待つ。身体の震えを感じつつ、ヴァルはゆっくりと口を開く。
「今この時より、歴史は綴られる! 後世まで語り継がれる歴史を、俺と共に作り上げてゆくのだ!」
 天皇を讃える割れんばかりの声に応えるヴァル、その横でゼミナーが微笑むような表情でヴァルと人々とを見つめる。
(何かを為せば、歴史は変わる。それが良きか悪しきかを決めるのは後世の者だが、ある結果に対して責任を持つこと、今この瞬間に取った結果が、永遠の後に何かを為すこともある、それらを覚えてくれたなら、歴史は皆のための教育になるのではないかな?)

「うーん、この辺のことは私の教科書には書いてませんねー。全部私の想像で作っちゃいましたけど、合ってるんでしょうかー?」
 豊美ちゃんが、自らの杖『日本治之矛』、通称『ヒノ』を片手に、『萌え萌え語呂合わせ日本の歴史』から目を離して呟く。
「……あの、豊美さん。一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
 安芸宮 稔(あきみや・みのる)の質問に、豊美ちゃんが「はい?」と首を振り向ける。
「豊美さんの持っている矛……私の知る限りでは、『混沌を掻き混ぜて世界を作り出す杖』だったと思うのですが……」
 そう呟く彼の様子は、まるで何かに怯えているようであった。どうやら彼の説明では、豊美ちゃんの持っている矛は相当危険な代物であり、軽々しく力を生じさせてしまうと言葉にするのも恐ろしい事態を引き起こしかねないという。
「私には、稔や和輝が慌てている理由がいまいち分かりませんが……豊美さん、そんな危険なことはなさいませんよね?」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)に言葉をかけられ、豊美ちゃんははい、と頷きつつ、クレア以上に何も分かっていない様子であった。
「ともかく、日本の歴史とは元々が非常に微妙なバランスで成り立っているのです。もし歴史が繋がらないような事態になったら、最悪私達皆が元の世界に戻れなくなる可能性もあるかもしれないのです。そうならないためにも、私達出来る限りの協力はします」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)の言葉に、稔、クレアが頷く。
「えっと……あのー、私だけ全然話についていってないように思うんですけど……『ヒノ』に何か凄い力があるんですか? 知ってるなら教えて欲しいですー」
「私は、スサノオさんが言っていたことを言ったまでですので……」
 その後の説明で豊美ちゃんはようやく、自分の持っている杖が『天沼矛』じゃないかと思われていることに気付く。
「違いますよー。確かにヒノは私が拾ったもので、どこでどうやって作られたのかさっぱり分かりませんけどー、そんな日本を作っちゃう力なんてないですー。あ、でも、心配してくれたのでしたら嬉しいですー。そうですよね、皆さんを預かってるわけですからね。大丈夫です、魔法少女の名を汚さないように頑張っちゃいますよー」
 やっぱり謎な根拠を振りかざして、豊美ちゃんが次の場面へと生徒たちを案内する。