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リアクション
〜ワルカッタノハ、ダレ?〜
はい、ここからスーパーシリアスタイムに入ります。冷めるとか言ってらんない、ちょっと強烈なので注意書きさせてもらいます。ネタバレも入っていますが、エピローグで超凝縮して説明してありますのでそこまで飛んで読むのも手だと思います。どん引き率は前々回を凌ぐかもしれません。では、続きをどうぞー。
「花音さん!」
廊下に出ようとして、花音は朝野 未沙(あさの・みさ)に呼び止められた。未沙は、手に発砲スチロールの箱を持っている。砕いた氷の中には、南まぐろ(別名、インドマグロ)の刺身がや付け合せが入っていて、美味しそうだ。
「花音さんは南まぐろとの絆がとっても深いって話だから、南まぐろと花音さんのコラボレーションクッキングをしようかなって思ったの。これからでも間に合うから、大丈夫よ」
とても良い笑顔の未沙に、花音はどう返せばいいのかと困惑した。
(これ……ギャグですよね……)
しかし今、花音にはギャグに付き合えるだけの余裕が無かった。彼女は、『違いますよ未沙さん。あたしが好きなのは人間の南鮪さんで、インドマグロじゃありません。いえインドマグロも好きですけど』とかギャグに気付かないふりをして真面目に返そうかどうしようかと思っていた。いやでもみんな見てるし、それもどうだろう、つまんないよね?
確かにギャグだ。ある意味、ギャグで未沙は南まぐろを持って来た。だが、花音が思うような能天気な理由ではない。
未沙は、花音に女体盛りをするつもりだったのだ。涼司が花音に手酷くふられたと聞いた彼女はびっくりした。どうしてそんなことになっちゃったのか、いくらなんでも山……メガネさんが可哀相! と、人肌……じゃなくて一肌脱ぐことにしたのだ。あと、別に『山……メガネさん』は別に言い直さなくてもいいよね☆
「てことで、花音さん、ちょっと料理に協力して欲しいのだけど、そこに横になっててもらえるかな?」
堂々とした態度で、未沙はキャスター付きの配膳器具を指差した。
「え……ここに、あたしが、ですか?」
これもギャグの一環なのか、と花音は戸惑う。
(コントでもするつもりなんですかね……)
「ごめんなさい、あたし、ちょっと急いでて……」
悪いとは思いつつも、コント出演(と思い込んでいる)を断る花音。
「急いでる? あ、それなら料理作ったあと、これで運んであげるわよ。さ、乗ってのって」
家庭科室に居た生徒達が、何が始まるのかと徐々に集まってくる。好奇心に溢れたその視線に、花音は断りきれない空気を感じ取った。
(しょうがないな……)
仕方なく、配膳器具に――
「あ、服は脱いでね。服を脱いで眠っててくれれば後はあたしが上手くやっておくから、安心して。で、どこに行きたいの?」
「ふ、服ですか!?」
器具の上で驚く花音に、未沙は頷いた。
「そう。脱がなきゃ真のコラボレーションとは言えないわ。さあ、早く☆」
その台詞に、集まった生徒達は彼女が何をやるつもりなのか悟った。散々涼司に酷い事を言ってきた報い――そうとも思えるが、少々やりすぎのような気がする。芦原 郁乃(あはら・いくの)が慌てて言う。
「ちょ、ちょっと待って、違うんだよ! 涼司は花音に……」
「……恥ずかしい?」
だが、未沙は目を細めて花音に脱衣を要求する。
「あ、あの……最近はパンツ一丁で披露するコントとかあるのは知ってますけど、あたしはそこまでは……」
変な思い込みに陥ってしまった花音に、それじゃあ、と未沙は言う。
「人の居ない所で練習しましょう。きっと、幸せな気分になれるわ」
そして、そのまま配膳器具を押して家庭科室を出る。
「どうする?」
「隠れてやるなら良いんじゃないのか、女同士だし……」
「いや、あれは皆の前に晒す気満々だろ」
等と生徒達がざわついている間に、ガラガラというキャスター音が遠のいていく。
「た、大変です郁乃様! 花音様が……! 皆様に協力してもらってにょ……にょ……にょ……とにかく、早く助けないと!」
「うん、そうだね!」
秋月 桃花(あきづき・とうか)の言葉に同意すると、郁乃は集まった生徒達に言った。
「みんな聞いて! 涼司は花音に×××××んだよ! 花音だけが……! だからね……!」
説明を終えると、生徒達は「えーーーーーーーーー!」と大いに驚いた。
「……ん? どうしたんだ? 花音は?」
そこに、涼司が野外調理場から直接戻ってきた。廊下側ではなく、外側の出入り口から靴を脱いで上がりこむ。
緊迫した雰囲気の家庭科室に涼司が眉を顰めていると、近くでサンドイッチを作っていた真田 舞羽(さなだ・まいは)が状況を伝えた。
「な、にょ、女体盛り!?」
驚く涼司に、舞羽は言った。
「私はキミがあの子に何をしてきたのか知らないし、あの子が何をしてきたのかも知らない。でもきっと、これは2人のすれ違いの末に起こったことなんだと思うよ。人同士の関係は時にすれ違うけど、それでうやむやに終わっちゃうのは不幸だよ。これは、いつか起こることだったのかもしれない。もう、キミが、あの子が、正面から思いをぶつけあうしかないんだよ」
「…………」
涼司は、後悔を多分に含んだ表情をした。それで、舞羽は本来の快活な笑顔になる。こういう時、人の背中を押すのには、やはり笑顔が1番である。
「人間ってさ。好きな人に対しては、最初はいくらでも好意を向けて、尽くせるんだ。でもね、どんなに好意を向けて、相手を思いやっても、相手がそれに対して態度として、言葉として、思いを返してくれないと、不安になるんだ。自分は相手にとって必要ないのかもって思ってね。そして、いつかは離れていく。君は、彼女の思いに対して、自分が想っている心の丈を、感謝なり、好意なり、情なりで。態度で、言葉で、返してあげた? 彼女と、まっすぐ向き合ってた?」
舞羽は生徒達を見回して、続ける。
「今日集まった皆も、君を思いやって、励ましたくて集まってる。でも、君がいつまでもうじうじして、自分の内に籠って、自己憐憫に溺れて、皆になんの思いも返せないのなら。君は彼女の思いと同じように、皆の思いを失うことになるよ!」
「うぅ……!」
涼司は、人目も憚らずに泣き出した。メイド喫茶から始まった、ほんの些細なことで合わなくなったパズルのピース。それは積み重なる度に徐々に穴を増やし――大きなすれ違いを生んでしまった。
「ほら、これでも食べて力出して、ちゃんと助けてちゃんと話をしてくるといいよ」
舞羽は作っていたサンドイッチを差し出した。バケットに野菜やサラミなどを挟んだ、オーソドックスなサンドイッチである。
「あ、ああ……!」
それを受け取った涼司に、弁天屋 菊(べんてんや・きく)がビニール袋に入れたクッキーを差し出した。2つある。
「これは、機晶姫製造所の跡地の図書館にあった5000年前のレシピを元に作ったんだ。遠い昔の記憶にあるものを味わえば、花音の琴線に触れるものもあるかもしれない。これで昔を思い出せば、花音も素直に話をしやすくなるかもしれない。少なくとも、きっかけにはなるだろ」
「5000年前のクッキー……?」
「思い出した事でどうなるか……そこまでは責任取れないぜ。最後は自分でなんとかしろよ!」
菊が豪快に笑うと、涼司は呆然とした様子で言った。
「どうしてそこまで……。俺達と、今まで関わり無かったよな?」
「ん? まあ、お前らとは縁もゆかりもねえけど、ちょっとは縁のあるルミーナに頼まれたとあっちゃあな」
鼻の下をこすって、菊は任強風に極める。
「それは、お前が花音のためにあたしに依頼した、とでも言っとけ」
「いや、それは悪いだろ。俺は、そんなこと全然思いつかなかったし……」
躊躇うように言う涼司に、菊は怒鳴りつける。
「グダグダ抜かしてんじゃねえ! 尻の穴から手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わせるぞ!」
「は、はい!」
涼司は驚いて飛び上がった。そこに、舞羽が明るく言う。
「大丈夫、うまくいくよ!」
「ちゃんと花音に食わせなよ!」
「あ、先輩、俺も行きます!」
家庭科室を飛び出していく涼司に、陽太もついていく。それを見送り、菊は今更ながらルミーナを振り返った。
「……ところで、花音って甘いものとか好きなのか?」
ルミーナはんー、と記憶を辿るような仕草をしてから、言った。
「……好きだと思いますよ」
その頃、未沙は氷術で花音を眠らせ(気絶)させて着々と女体盛りを完成に近づけていた。
「えっとー……お腹や脚の辺りは赤身のお刺身をぺたぺたぺたっと。お臍の辺りはアラとかから掻き集めた身を叩いて柔らかくした物を置いてみようかな。おっぱいのところは、膨らみにあわせてトロをぐるぐるっっと配置。腰の辺りは人参と大根、海草を細かく細く切ったツマを配置しようかな。あとは……」
「ん……」
作業が自主規制ゾーンに入った所で、花音は目を覚ました。起き上がろうとして、自分の状態にびっくりする。
「きゃああっ!!」
配膳器具から転がるように落ちて、身体をしたたか床に打ち付ける。器具の下の網にあった制服を掴んで、慌てて立ち上がった。
「み、未沙さん……! そういえば前にも、着替えの最中にあたしの胸を……そ、そういう趣味なんですかっ? もう、冗談もほどほどにしてくださいっ!」
超高速で着替えて、花音は逃げた。
(涼司さん……! 涼司さん……!)
泣きながら、闇雲に廊下を走る。そこで、どんっ! と正面から来る男性にぶつかり、花音は足を止めた。
「ご、ごめんなさいっ!!」
謝って、急いで先に行こうとする。しかし、ぶつかった相手はそれを妨げるように花音の前に立ち塞がった。
「……?」
「それは……あなたの決め台詞じゃありませんよね? 花音さん」
見上げて目の合った相手――志位 大地(しい・だいち)は、眼鏡を外したその瞳で、冷酷に笑った。
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