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【2020授業風景】すべては、山葉のために

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【2020授業風景】すべては、山葉のために

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  エピローグ〜放課後〜
 

 騒ぎが一応の収束を迎え、生徒達がそれぞれの生活に戻った後も、涼司はその場に留まり続けた。声を掛ける者は誰も居らず――静寂の中で、自分だけが取り残されてしまったような気がする。
 理解。
 後悔。
 意外。
 それでも不可解。
 何が?
 自分の気持ちが。
 罪を認めて残ったのは、
 ただの残骸。
「俺は……」
 その時、頬を何かがちくりと刺した。
「花音……!?」
 まさかと思いつつ、一歩前に出てから振り返る。其処に居たのは――
「ビックリした?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、必殺の薔薇を1輪持ってくすりと柔らかく、暖かく笑った。

 昇降口の段差に座り、ルカルカは涼司に自己紹介をする。
「ルカルカ……? ああ、最終兵器彼女の……」
 薔薇をいじりながら涼司がそう言うと、ルカルカは苦笑した。
「なんか、いつのまにかそんな名前が広まっちゃったけど、名前で呼ばれる方が好きかな」
 そして、持ってきたメロンパンを半分に割って涼司に渡す。
「はい、半分ど〜ぞ」
「メロンパン……こんなもん普段から持ってるのか?」
 涼司は、半月のようなパンをまじまじと見た。
「女の子だもん。甘いの好きよ。何か1つは常備しとくものってね☆」
「そういうものなのか……」
「あっ! もちろん100パーじゃないけど! ルカはそうなの」
 パンを食べつつ、ルカルカはしみじみとした調子で言った。
「この1年でシャンバラも随分変わったわね。シャンバラ復活……時間が掛かると思ってたその日が、もうすぐそこまで近付いてる。後は――闇龍とスフィアクリアで建国ね」
「…………」
 突然世界情勢の話をされて戸惑いながら、涼司はルカルカの横顔を見た。その目の光は真面目そのものだ。
「要塞は進路変更させたし、それに関しては街や市民への損害も出ないと思うわ。このまま、被害が出ないで終わればいいわね。街には沢山の人が居て、その人達みんなに家族が居る。ルカにも家族が3人、分身が1人いるわ」
「家族って……」
「パートナー、だけどね。大事な家族よ。絆値は……かなり強いかな」
 冗談めかして言って、悪戯っぽくちらりと舌を出す。涼司が苦い表情をすると、ごめんごめんと笑う。そして、空に視線を投げる。
「種族も性別も違うから衝突するけど、その当り前の日常が幸せ。ねえ、山葉さんは彼女と、どうしたい?」
「俺は……」
 涼司はしばらく黙って、アスファルトを見詰めていた。ルカルカはただ、彼の言葉を待って何も言わない。やがて、つまみっぱなしだったメロンパンの最後の一切れを飲み込み、口を開いた。
「付き合いたい、んじゃない。付き合えない。俺自身も……ちょっと彼女っぽいな、とか思ったことあったけど、全然本気じゃなくて……でも、別れたくない。だから、冷たくされてショックだったんだ……。これって、可笑しいのかな?」
「……たとえ誰が可笑しいって言っても、そこに理由があるなら――可笑しいことなんてないわよ。別れたくないなら、別れなきゃいいわ」
「でも、花音が……」
「彼女は『パートナーとしては一緒に居る』って言ったわ。だから、あとは山葉さん次第よ」
「…………」
 涼司はぽつぽつ、と飾り気の無い言葉を紡ぎ出した。
「花音の笑顔が見たいんだ」
「うん」
「傍で、見ていたいんだ」
「……うん」
「また一緒に笑いあうことが……出来るのかな?」
「……うん、出来るよ。山葉さんが諦めなければ」
 ルカルカはそう言うと立ち上がった。
「今度、皆でぴなふぉあ行ってもいいかもね。ルカも会員なのよ♪」
「え……そ、そんなことしたら……」
「……行けるようになるわよ。最近は執事喫茶なんてのもあるのよ、そっちに行ってみるのもありかな」
 そうして、自分の携帯電話を取り出した。
「よかったら、友達になってくれる?」
 ――涼司とルカルカは、お互いの連絡先を交換した。

「みんな! 俺……ふられてきたぜ!」
 涼司は家庭科室に戻るなり、開口一番にそう報告した。目を丸くする一同に、恥ずかしそうに頭を掻いて彼は続ける。
「いや……俺が先にふったんだけど……惚れてくれてた女に『男』としては最低と言われた訳だし、『ふられた』でいいんだよな……?」
 外での出来事を一通り話すと、諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)がおもむろに言う。
「でもそれって、まだ挽回のチャンスがあるってことですわよね?」
「? リョーコさん、どういうことですか?」
 きっぱりかっきり、色恋ざたは終わりだと言っているのに、第一、涼司自身に花音と恋愛する気が無いというのに、挽回とはこれ如何に。皆の疑問を代表して、風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が訊く。
「山葉がトラウマを克服すればいい話でしょう? そうなったら、花音ちゃんを好きになる可能性もありますわ。女の子は自分を一番大切にしてくれる男になびくものだから……山葉が鮪氏に決闘を申し込んで勝てば、花音ちゃんも惚れ直すかもしれないですわ」
「け、決闘!?」
 いきなり出てきた物騒な単語に、涼司は驚く。さっきみたいなのは、もうごめんである。
「戦闘ではなく、気持ちが形として現れる……料理対決です。『愛をとりもどせ!』ですわ。決闘のテーマは『花音ちゃんに捧げる料理』としますわ。もちろん審査員役は花音ちゃんに依頼して……。1人の女の子を賭け決闘をする……その時になったら、わらわがドラマチックで王道な、面白い展開を目指して試合をプロデュースしてみせますわ」
「料理か……」
 涼司は、自分と鮪がクッキングスタジアム的な所で料理を作っている所を想像する。
「……あ! もう全部片付けちゃったよな? これから料理とか……作れるか?」
「何か作ろうと思っていたのですか?」
 ルミーナに訊かれ、涼司は言う。
「甘い物を作ってやろうと思ったんだ……。今日はいろいろ迷惑かけたし、帰ってきたら一緒に食べようと思って……俺、やっぱりダメだなあ……ぐだぐだしてるうちに、タイミングを見失っちまうんだ……」
 溜め息を吐く涼司の肩を、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)がぽんと叩いた。
「……まあ、人生山あり谷ありだ。とりあえず美味いものでも食べて元気出せ。な?」
 佑也はライスを盛った皿を涼司に渡すと、中央にでーんと構えているカレー鍋へと誘った。鍋からは、およそ食べ物とは思えない異臭が漂っている。
「なんだ? これ……」
「闇カレーだ」
 はっきりと言い切ると、さあ食え、と笑顔でカレーを勧める。
「同じメガネキャラとして申し訳ないが……これを処分しないことには実習が終わらない。他の料理は俺達でも食えるから是非カレーを片付けてくれ」
「…………」
「まあ、この1年まぎらわしいことばっかりしてきた詫びだと思えば?」
(うっ……!)
 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)に言われ、涼司は反論も出来ずにおたまを掴んだ。ひとすくい、ライスにかける。
「あ、ちなみに味見はしてないから」
「…………」
 恐る恐る、生存本能に抗い一口食べる。この1日で口にしたあらゆるものを超える魔法的なまず……まず?
「まずまず……だぞ?」
「へ?」
 きょとんとする生徒達の前で、涼司は2口3口と普通に食べた。
「まじで……?」
「やせがまんだろメガネ!」
「いや、ほんと旨いって。すごい肉の出汁が効いてて……食ってみろよ」
 けろりと1皿平らげ、2杯目をよそい始める涼司。
「…………」
「まさか……ねえ」
「奇跡でも起きない限りは……」
「……起きた……の?」
 生徒達は好奇心に負け、徐々にカレー鍋へと近付いていく。おかげさまで、鍋はあっという間に空になった。
 その後、ビーフシチューやおでんの残り、各種料理の試食会が始まった。その最中に、ルミーナは涼司に紙袋を渡す。
「お菓子の材料が入っています。ここはもう閉めてしまいますけど……、帰ってから作ってみてください」
「……そ、そうか! ありがとう!」

 時は経ち、夕方――

「付き合っていない、ね……」
 環菜は校長室で、ルミーナと一緒に影野 陽太(かげの・ようた)の作ったハンバーグを食べていた。中央にはサラダが用意されている。
「山葉先輩は、好意を寄せられること自体はまんざらでもなく、でれでれしていただけのようです。花音さんはあくまで『妹的存在』として大切であり……その……花音さんによく似た人が亡くなってしまったことで、恋愛に臆病になっている、と……そういうことのようです。いつまでも答えを出さずに他の女性にうつつを抜かす涼司先輩に、花音さんは愛想をつかしたという訳ですね」
 陽太があの騒ぎの中で聞いたことを要約して報告すると、ルミーナも家庭科室で聞いた涼司の話を思い出しつつ、言った。
「もしかしたら花音さんは、涼司さんが女性と付き合えない理由に気付いていたのでしょうか。それで、もう自分に気は無いから自由にしてくださいという意味で、あんなひどいことを……」
「それは、考えすぎじゃない? ……まあ、本人に聞かないと解らないことだけどね。それよりも陽太、あなた、自分の分は作ってこなかったの?」
 立ったままの陽太に、環菜は怪訝そうな顔で訊いた。
「あ、はい。会長に食べてもらおうと思って作ったので……」
「仕方無いわね……少し待ってなさい」
 環菜は立ち上がると、校長室備え付けの棚から平皿と深皿、ナイフ、フォークを持ってきた。残っている自分の皿から半分切り分けて皿に乗せると、隣に置く。
「ほら、ここに座って。サラダは適当に取り分けて食べなさい」
「えっ! 会長、もしかして……お口に合わなかったですか!?」
「何言ってるの、おいしいわよ。……これじゃあ少ないかしら、ルミーナも……」
「あっ、いえいえいえいえ! これで充分です! 俺、下でいっぱい食べましたから!」
 慌てて環菜の隣に座り、陽太はぎくしゃくとハンバーグを食べる。そこで、校長室の電話が鳴った。
「環菜よ。え? 花音が入院?」

 屋上の柵にもたれ、涼司はアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)から貰ったお弁当を食べていた。脇に置いてあるラッピングされた袋には、花音の為に作ったマドレーヌが置いてある。
「山葉、こんな所にいたのか」
 そこに、ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)がやってきた。いつの間にか消えていた彼を気にして、探していたらしい。
「花音が帰ってこないんだ……携帯にも出てくれないし……。まさか、鮪とこのまま夜まで……」
「そうか……」
 ニコラは涼司の肩をぽんと叩くと、沈みゆく夕日を指差して言う。
「山葉よ、思いのたけをあの夕日に向かって叫ぶのだ! さあ、一緒に!」
 涼司を立ち上がらせて背に腕を回し、両手を拡声器代わりにしてニコラは思いっ切り叫んだ。
「男は身長が全てではなーーーーいっ!」
「…………!?」
 その内容にびっくりしつつ申し訳なくなりつつ、涼司もあらんかぎりの声でこう叫んだ。
「花音! 戻ってこーーーーーーい! 鮪だけは許さーーーーーーん!!!!!」
「そうだ、その意気だ!」
 その時、涼司の携帯電話が鳴った。環菜だ。
「……だそうだから、どこかの頑固親父みたいなこと叫んでないで行ってあげたら? もとはといえば、あなたが大げさにへたれて甘酒ごときで酔っ払ったのが原因なんだから」
「悪いことしたな、花音…………」
 涼司はしばし暗い顔で携帯電話を見詰め――
 思いなおしたようにテンションを上げた。
「よし! 病院にまだ鮪がいたら考えないでもない……だが、まずは料理対決だ!」
 足元に置いていたマドレーヌをひっつかみ、彼はリョーコを呼び出すのだった。
 
 
 
 
(END)
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

リアクション、遅れてしまって申し訳ありませんでした。今回もまたこちらのタイム的都合により、個別コメント9割以上白紙にて失礼させていただきます。私信等、返せなくてごめんなさい! ありがたく読ませていただきました。

その代わりといっては何ですが、マスターコメント少々長めに裏話を。
本当はリアクションページ使って太文字とかも使ってあとがき書こうと思いましたが、こういうのは淡々と書いた方が良いのかなー、と思いなおし。

裏話というか、ほぼ、ラスト3ページのネタバレに関することになるのですが。
こちらは、私のでっちあげではなく、公式情報になります。多少誇張しているところもあるにはありますが。
正直、私も知りませんでした。おかげさまで、似ったような質問メールを本気で3回ほど運営さんに送りました。
これを開示するかしないか誤魔化すか……。考えた結果、今後、心おきなく誰もがアクションを掛けられるように、回答内容の肝心な所は殆ど盛り込んだつもりです。こちらは私の独断になります。

ただ、あくまでクリエイティブですので、今後メガネと花音がどうなるかは、メガネがトラウマ克服後にどうするのか、誰を選ぶかは、今後のシナリオ内容、アクション、リアクションで変わっていけるようになっています。だから、少し曖昧な部分も残しました。私が決定づけられる内容ではないので。(何せ、NPCとしてのID0001番ですからね。メガネ )

しかし、メガネやりたい!
と言い出した時は、まさかこんなことになるとは思ってませんでした(笑)
ただの好奇心というか、1度使ってみたかっただけというか……。軽い気持ちだったというか。立候補してしばらくして、あれ不憫キャラだったらうちのNPCほとんどそうじゃん、とか思って書き分けできるかなー、とか考えてたくらいで。

食堂の台詞が変わって、何ーーーーーーーっ! と1番思ったのはたぶん私です。

公式NPC書くのって、難しいですね……。

何はともあれ、参加していただいた皆様、ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
また、他のシナリオでお会いしましょう!