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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

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五機精の目覚め ――水晶に映りし琥珀色――

リアクション


・マキーナ・イクス


「さあ、ゲームの始まりといこうか」
 施設内、中央制御室。
 傀儡師との三度目の戦いが始まった。
 エヴァルトが制御室内に浮いている傀儡師に対し、パワードレーザーを放つ。
「そんなものが、効くとでも?」
 敵の束糸は、レーザーさえも遮断した。エヴァルトは夢幻糸に触れないように、床に伏せながらの攻撃を行う。だが、それでも糸は彼の身体に巻きつこうとする。
「この空間――夢幻灯篭に隙はないよ」
 目に見えないだけで、糸は蜘蛛の巣のように室内に張り巡らされている。それは、傀儡師が一見すると浮いている事から明らかだ。
 エヴァルトはそのまま糸に絡め取られてしまう。
「さあ、まずは一人」
「くく……」
 彼は低い声で笑う。まるで傀儡師を嘲笑するかのように。
「おや、何がおかしいんだい?」
「なに……これも作戦のうちだったら、どうする?」
 エヴァルトの表情は、パワードマスクを被っているせいで読み取れない。
「作戦ね、時間稼ぎのつもりだろうけど……この調子であと四分保つのかな?」
 そこへ、今度は真人が銃撃で応戦する。
 モニターで、転送が無事に済んだ事は確認した。あとは、ここで傀儡師を封じるのみである。
「銃弾が当たるとでも?」
 夢幻糸は、傀儡師の周囲にも存在する。それを敵が指をわずかに動かすだけで、身を守る盾とする。それは結界のようなものでもある。
「なら、これでどうだ!」
 トーマが、真人が攻撃している間に傀儡師に接近し、飛び掛ろうとする。獣人である彼は超感覚によって、夢幻糸を上手くかいくぐりながら移動したのだ。
「甘いね」
 すぐさま傀儡師によって拘束される。
「今じゃ!」
 白き詩篇が、敵に向かって氷術を放つ。これの目的は、部分的にでも夢幻糸を無効化する事だ。
 電撃対策はされ、火で燃えるとは限らない。これが一番有効に思えたのだ。
「最近は、こういうのが流行ってるのかな?」
 だが、それをまったく問題とせず、糸を操り続ける。
「それだけで足りんなら、これでどうだ?」
 セレナが転径杖で威力を高めた氷術を重ねる。それらを駆使する事で、網の目を凍らせていく。
 さらに、傀儡師自体には奈落の鉄鎖をかけ、動きを鈍らせようとする。
「……倒す!」
 凍った糸の中を風天が駆けていく。抜刀術で、凍った糸を切り裂きながら、傀儡師に近づいていった。
「はは、そうでなくっちゃね。さあ、これが全部防げるかな?」
 傀儡師は、凍った糸を全部破棄した。音を立てて、糸が凍りの残骸となって床に降り注いでいく。
『夢幻灯篭』
 夢幻糸が視認出来る形で、広がっていく。
『――焔ノ調』
 この技を、風天は知らない。
「風天、そいつに触れるな!」
 それは見える糸に対する警戒か。だが、セレナの咄嗟の判断は正しかった。
 糸に触れる寸前に、アルティマ・トゥーレで凍らせ、先程と同様に、セレナが氷術を上乗せする。
 そこに、今度はサンダーブラストを打ち込んだ。
「伏せろ!」
 室内の者達が身を伏せた。
 轟音。
 張り巡らされた糸が大爆発を起こす。
『夢幻灯篭』
 爆発の中、傀儡師が次なる攻撃に出る。
『――風ノ瞬』
 夢幻糸が包み込むのは、制御室内にいる者ではなく、自分自身だった。
 その糸に対し、氷術を発する。
「こうすれば出れぬはずじゃ」
 白き詩篇だった。それにセレナが外から氷術を重ね、敵の身動きを封じようとした。
 だが、氷が砕けその中には、
「いない!?」
 傀儡師の姿はなかった。あるのは、人の形に練られた糸。
「――ッ!!」
 それらの勢いが、物凄い勢いで引っ張られる。その時に、風が起こったかのような錯覚を覚えた。
 少し掠めるだけでも、皮膚が切られてしまう。下手をすればそのまま切断されかねない。
『夢幻灯篭』
 今度は、別の位置からだ。先程の二回に比べ、糸の本数が異様なまでに多い。
『――籠ノ鳥』
 死に至らしめるまで、無限に相手を囲い込む傀儡師最強の技。
 それがついに発動されたのだ。
「風天!」
 抜刀術で糸を斬る――寸前にアルティマ・トゥーレ。しかし、糸はどれだけ凍らせようと、斬り裂こうと、風天達の息の根を止めるまではずっと取り囲んだままだ。
 それでも、糸が身体に触れようと、傀儡師に向かって突っ込んでいく。
 傀儡師は凍った糸はすぐに破棄し、袖口から新たな糸を繰り出しているようだった。一体、どれほどの量を仕込んでいるのだろうか。
 傷付きながらも、風天は傀儡師の目と鼻の先まで迫っていた。
「これが人間の『執念』ってやつかな。すごいね」
 感心したように呟く、傀儡師。
「あと一分か。これが――最後だよ」
 両手を広げ、その全てから夢幻糸を放出する。それら全てが、夢幻灯篭籠ノ鳥に組み込まれ、風天を捉える。
 糸に絡み取られる前に、金剛力で眼前の糸を斬り裂いた。そのまま、傀儡師の身体に向かって、疾風突きを繰り出す。
 風天の身体も、糸による傷と力の行使で、ボロボロだった。この一撃で決まらなければ、勝機を逃す事になる。
 そして――

「君の、勝ちだよ」
 
 そこにいた傀儡糸は、写糸による偽者ではなかった。
 胴体を貫かれた和装の少女が、そこにいる。血は流れない。ここにいる傀儡師は、機械仕掛けの人形なのだから。
「貴様はあまりに多くの者を苦しめ過ぎた。ここで終わっておけ」
 突き刺した刀を引き抜き、傀儡師の身体を袈裟切りにする。肩口に触れた刃は、敵の身体をそのまま斜めに切断した。
「だけど、僕を必要とする者がいる限り……また会う事になるだろうさ」
 それが、傀儡師――マスター・オブ・パペッツとも、マキーナ・イクスとも呼ばれた存在の、最期の言葉だった。