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リアクション
「ふっ、上の囮部隊を相手にがんばってくれたまえガーディアンナイツの諸君」
ソーン3兄弟の長男アベルがそうつぶやきながらほくそ笑む。
アベルを中心に左右の少し下がった位置にウダルとイビルがいるという形で空を飛ぶ彼らは、商船の船底を覗く遥か真下にいた。
「兄貴ッ! 来たぞ!!」
と、ウダルが横にやってきてそう叫ぶ。
見れば、雲をつき抜けて数機の小型飛空挺が浮上してきた。
「ねえ、先行してたウチの精鋭とも合流したし、そろそろ行こうよ兄さん!」
イビルが親指で上を差しながらアベルにそう言う。
「わかっている! ローズ様も囮となって敵を上空へと引きつけているのだ――速やかに仕事を終わらせて帰還する!!」
そういうとアベルは手を前に振って”GO”と合図を送る。
するとそれを待っていましたと言わんばかりに、皆は上に見える商船に向かって全速力で向かって行った。
「……敵の本命は必ず無防備な下から攻めてくるはずだ」
戦いが始まった頃より小型飛空挺に乗って商船の下で待機している天城 一輝(あまぎ・いっき)は、そうつぶやきながら飛空挺に取り付けた機関銃を下方に向けてじっとその時を待っていた。
「あらっ、なんでこんなところにガーディアンナイツがいるのよ?」
「むっ!?」
と、一輝は突然聞こえてきた声に反応して機関銃を動かす。
銃口を向けた先には空飛ぶトナカイに牽かれたソリに乗っているヴェルチェ・クライウォルフの姿があった。
「なんだ、おまえは? 敵か味方か?」
「敵だったらとっくに攻撃してるでしょ。味方よ、味方♪」
ヴェルチェはウィンクをしながらそう言った。
「そうか」
真面目な一輝はヴェルチェの言葉を聞くと、機関銃をまた下へと向けた。
その反応を見てヴェルチェはつまらなそうな顔をする。
「ねぇ、こんなところで何やってるのよ? 他の人たちは上で戦ってるわよ?」
「……俺のことはいい。おまえこそ、どうしてこんなところにいるんだ?」
「えっ、あたし? あたしはねぇ、えっと――」
ヴェルチェは一輝の質問に対して言葉をつまらせる。
本当はソーン3兄弟に粉をかけて、敵の仲間になり、金目のものを商船の中から一緒にいただこうと考えていた。
しかし、ソーン3兄弟の姿がどこにも見あたらず、とりあえず戦闘を避けるためにこっそりとここに非難してきたのだった。
「あっ、そうだそうだ! あなたと同じことを考えてここに来たのよ♪」
と、ヴェルチェは頭の中で閃いた答えをとりあえず口にする。
それを聞いた一輝はヴェルチェに視線を向けた。
「そうか、あんたも敵の本命は下方から仕掛けてくると思ってここに来たのか」
「えっ、ああっ、そうよ。だからよろしくねっ♪」
ヴェルチェは作り笑いを浮かべながら一輝にそう言う。
と、その時下方からエンジン音が聞こえてきた。
「やはり来たか!」
一輝は機関銃を握りなおして、神経を集中する。
「うそっ、ホントに来ちゃったわ!」
「うろたえるな! 冷静に戦うんだ!!」
一輝は照準を睨み、確実に撃ち落せる位置に敵がやってくるまでじっと待つ。
「今だ!」
と、敵機を捉えた一輝は機関銃の銃爪(ひきがね)を引いた。
「なっ――うわぁっ!?」
一輝の放った銃弾に、精鋭のひとりが倒される。
「ほぅ、どうやら船底にネズミが1匹いるようだ――ネズミは俺にまかせておまえたちは仕事を終わらせろ!!」
アベルはそう言うとスピードを上げて、前へと躍り出た。
「不用意に前に出ると危ないぜ!」
そんなアベルに狙いをつけて一輝は再び機関銃のトリガーを引き絞る。
だがアベルは巧みな操縦でそれをかわす。
「なに!?」
「――狙いはいい。だが優等生な射撃だな。それではこの私は倒せんよ!」
アベルはそういうとライトブレードからビーム状の光刃を伸ばす。
「まだだっ!!」
一輝はアベルを狙って何度か射撃を繰り返す。だが相手は見切ったように紙一重でその攻撃をかわしながらどんどんと接近してくる。
「終わりだ!」
アベルがライトブレードを振りかざし、一輝に斬りかかる。
「くそっ!」
一輝は機関銃から手を離し、バーストダッシュを応用した動きで飛空挺を動かして緊急回避。
なんとか撃墜を免れた。
「運がよかったな――だが、次はないぞ!」
そう言ってアベルがまた斬りかかろうとした時。
魔法の稲妻が飛来し、それを阻む。
「新手か!?」
アベルが稲妻が飛んできた方向を見やる。
するとそこにはソーンたちの動きに気づいてやってきたガーディアンナイツたちの姿があった。
「ちっ、少し数が多いな」
「あら、お困りのようね」
と、一輝の側からひっそり離れて戦闘を見守っていたヴェルチェがひょっこりと姿を現した。
「これは美しいお方だ。ここが戦場ではなかったら口説いているところだが――貴女もガーディアンナイツなのかな?」
アベルは鋭い目つきでヴェルチェ射抜く。
「違うわよ、もしそうなら後ろから攻撃してるでしょ♪」
ヴェルチェはそう言うとウィンクを投げる。
そんなヴェルチェの言葉を聞いた一輝は目を丸くして言った。
「おっ、おまえ! 仲間じゃないのか――!?」
「女心は変わりやすいものなのよ、ボク♪」
ふふっ、と笑うヴェルチェ。
と、そこへ真人たちがやってきた。そして真人たちは即座にアベルを囲みこむ。
と、アベルの顔をみた舞羽が言った。
「あっ、この人! ソーン3兄弟に間違いないよ!」
「ソーン3兄弟もどうやら年貢の納めどきのようだな」
ジルベルが拳をバキバキと鳴らしながら威嚇する。
「んふふっ、そうは問屋は下ろさないわよ!」
と、ヴェルチェがそう言って鎖の形をした光条兵器を生じさせ、一輝に向かって投げつける。
「なに!?」
不意を突かれた一輝は鎖に体を拘束され、身動きが取れなくなった。
そしてヴェルチェに引っ張られ、飛空挺から引き摺り下ろされる。
「ふふっ、ここは見逃してくれるわよね? じゃないと大切な仲間がどうなるか……わかるわよね♪」
人質をとったヴェルチェにそう言われ、ガーディアンナイツたちは動けない。
「ふっ、どうやら貴女は私の女神のようだ」
「じゃあその女神のお願いよ。私も仲間に入れてちょうだい」
「もちろん、喜んで――では、ここから脱出しましょうか?」
「ええ、そうしましょう」
アベルはそういうと包囲から抜け出していく。それを見たヴェルチェは突然鎖を手放した。
「あっ、手が滑っちゃった♪」
「うわあっ――!」
それを見て即座に反応した真人たち3人が一輝を助ける。
「なっ、なんとかキャッチできたみたいですね」
「危機一髪じゃったのう」
「す、すまん」
助けられた一輝は申し訳なさそうにそうつぶやいた。
「いいのよ、とりあえず無事だったしね」
セルファはそんな一輝に微笑む。
「それじゃあ私も行くわね、バイバイ♪」
と、ヴェルチェは胸の谷間から何かを取り出してそれを舞羽に向かって投げつけた。
「あぶねぇ!?」
それを見たジルベルが舞羽を庇って前に出る。
と、ジルベルにあたった何か――煙幕ファンデーションが弾けて、周囲は白い煙に覆われた。
その隙にヴェルチェはトナカイを鞭打って、アベルを追いかける。
「兄貴、なにをやってた!?」
と、船底で爆弾を仕掛けていたウダルが、アベルの姿をみて叫ぶ。
「ガーディアンナイツの奴らがそこまで来ている! いいから早く船倉に穴を開けろ!!」
「なに、わかった」
ウダルはそう言うと皆に下がれと合図をして、爆弾の起爆ボタンを押した。
すると、爆発と共に船倉に穴が開く。
「よし、俺たちは中に入って宝をいただく。お前たちはガーディアンナイツたちを足止めするんだ」
アベルは精鋭の空賊たちにそう言うと、ウダルとイビルを連れて船内へと浸入した。
「あっ、私も行くわ!」
と、ソーン3兄弟の後を追ってヴェルチェも内部に侵入する。
内部に入ったソーン3兄弟は船倉の中にあるはずのシャンバラ王国の名品を探す。だが、それらしい品物がいっこうに見つからない。
「ねえ、兄さん。もしかしてこの船にお宝はないんじゃないの?」
探すのに飽きはじめたイビルが、アベルに向かってそういった。
するとその言葉にウダルも同調する。
「イビルの言うとおりだ。きっとこの船には俺たちが狙っていたお宝は元々積んでいなかったんだろう」
「そうだよ、だからとりあえず金目の物だけ貰って今日は引き上げよう。これ以上は危険だって」
「いや、そう言うわけにはいかん。ローズ様が欲しているものはこの私がすべて手に入れなくてはならんのだ!」
アベルの言葉に他の兄弟は少し呆れたように顔を見合わせた。
だが兄弟はすぐにアベルに協力を申し出ると、金目のものを積んで船倉から飛び出していく
精鋭たちに足止めされていたガーディアンナイツたちはその姿を見て顔を歪める。
だがソーン3兄弟が護衛船に向かって飛んでいくのを見て不思議に思うのだった。
「うふふっ、お宝お宝♪」
と、ひとり船倉に残っていたヴェルチェはソリに詰めるだけお宝を詰めると穴から逃げ出して戦場から脱出していく。
「じゃあね、ガーディアンナイツのみんな。今回もありがとう♪」
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