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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「ようし、皆揃ったな」
 全身を紅墨のパワードスーツにつつんだエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、合身戦車 ローランダー(がっしんせんしゃ・ろーらんだー)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)を前にして言った。
 ここはツァンダ近くの山岳地帯である。人目につかないこの場所でなら、秘密の合体訓練にふさわしい。
「今日こそ、機晶姫同士の合体を正式に可能とし、西シャンバラの歴史を塗り替えるのだ」
「おーっ」
 エヴァルト・マルトリッツの言葉に、パートナーたちが声をあげた。
 合身戦車ローランダーは、その名の通り、戦車型をした非人間型機晶姫である。機晶合体時には、変形して脚部になれるはずである。根性を出せば、できないことも絶対できると信じている。
 対するロートラウト・エッカートの方は、プロテクター状の外部装甲を纏った少女型の機晶姫であった。ちょっと厳つい上半身とは真逆に、下半身は少し艶めかしい生足である。ここに合身戦車ローランダーを装着することができれば、防御面も、攻撃力も、出力も通常の1.5倍となるはずであった。二人で1.5倍……細かいことは気にしてはいけない。
「よし、では始めるぞ!」
「おーっ」
 いよいよ、合体である。
「蒼空の騎士パラミティール・ネクサー。コール、ブレイザー!!」
 エヴァルト・マルトリッツが、右手の鉄甲に爆炎波の炎を纏わせる。本来の構想は全身を炎がつつむはずであるのだが、今はこれが精一杯である。
「カモン、ランダー!」
 ロートラウト・エッカートが走りながら、合身戦車ローランダーを呼んだ。
「ラーサ!」
 横合いの道から飛び込んでくるようにして、合身戦車ローランダーがその姿を現す。
「機晶石エンジン、連結準備! 合体可能、であります!」
「いっくよー。機晶石エンジン、フルドライブ! 焼きつくほどフルパワー!」
「承認する。合体せよ!!」
 エヴァルト・マルトリッツが、燃えさかる右腕を高々と掲げて叫んだ。
 ロートラウト・エッカートがスピードをあげて、合身戦車ローランダーに追いついていく。
「機晶合体! フォルセティオン!」
 叫ぶなり、ロートラウト・エッカートが空高くジャンプした。空中で膝をかかえて一回転すると、狙い違わず合体フォームで合身戦車ローランダーの上に降りていく。そして、二人は合体した。
「ついに、我々の待ち望んだ窮極の機晶姫が誕生した。法(ロー)を司る正義の神の名を冠する、その名も、フォルセティオン!!」
 合身戦車ローランダーが、高らかに宣言した。
 その姿は……、最初と同じ姿の合身戦車ローランダーの上に、ロートラウト・エッカートがぺったんこ座りをして馬乗りになったシルエットだ。どことなく、タンク型のサブメカっぽい。
「やったよね!」
 喜んでロートラウト・エッカートが叫んだ。生足で合身戦車ローランダーの頭部にあたる部分をがっしりと挟み込んでいる姿は、無意味に色っぽい。
「こ、これは……」
 エヴァルト・マルトリッツが、ロートラウト・エッカートを乗せたことでかなりスピードの落ちた合身戦車ローランダーを見てちょっと呻いた。もちろん、またがっているだけなので、エンジン連結などされてもいない。
「次回までに、さらなる改良を計画する。以上。撤収!」
 エヴァルト・マルトリッツはそう叫ぶと、パートナーたちにクルリと背をむけた。
 
    ★    ★    ★
 
「では、センセー、そろそろ始めましょうか」
「うむ。手柔らかに頼むぞ」
「またまた、御冗談を」
 ツァンダ近くの森にあるうち捨てられた道場で、九条 風天(くじょう・ふうてん)宮本 武蔵(みやもと・むさし)と相対していた。
 いつの時代に作られた物かは分からないが、放置されていた道場は半ば廃墟同然であった。いや、ここが武道の道場であったのかも怪しい。遺跡の一つらしいが、中が板張りであったので道場として利用しているのだ。この板さえ、最初から張ってあったのか、後世に誰かが張ったのかも不明であった。
「では」
「いざ尋常に」
「勝負!!」
 木刀の先を軽く触れ合わせると、二人は相手の出方をうかがっていったん間合いを離した。
 床の上をすべるような足捌きで、ゆっくりと円を描くように横へと回り込みあう。
 呼吸の音も聞こえない静かな時が流れていった。聞こえるのは、微かな衣擦れの音だけである。
 誘うように、九条風天の切っ先が下がった。
 あえてそれに乗った宮本武蔵が、相手の思惑を上回る速さで踏み込む。
 九条風天の木刀の切っ先がクンと返った。
 中段から横に薙いだ宮本武蔵の木刀を、九条風天の木刀が間一髪で上に跳ね上げる。
 二人の体がすれ違った。
 上段に持ちあげた木刀を、素早く振り返った九条風天が勢いをつけて振り下ろした。
 だが、弾かれた木刀をその勢いのまま行く先を変えた宮本武蔵が、振り返りもせずに背中に回した木刀の切っ先に左手を添え、九条風天の剣を背後で受けとめてみせる。
 次の瞬間、肩を支点としたてこの原理で相手の木刀を押し返すと、宮本武蔵が身体を捻って振り返り、逆刃にした木刀を顔の横で構え、切っ先をピタリと九条風天の顔にむけた。
「さすがですね、センセー。こちらの手を読んでいらっしゃる」
「余裕だな。こちとらいっぱいいっぱいだっていうのに」
 やや下げた木刀の峰に左手をすべらせて構えを移しながら宮本武蔵が言った。
「今や、経験も、技も、力も大将の方が上。ならば、遠慮はいらん。正面から全力で打ち崩すのみ!」
 一気に踏み込んだ宮本武蔵が、下から跳ね上げるようにして斬りかかる。木刀を合わせた九条風天が、絡めとるように手首を回して宮本武蔵の木刀の下へ自分の木刀を潜り込ませ、相手の木刀の力までも利用して空高く撥ね飛ばそうとした。だが、深く踏み込んだ宮本武蔵は、その位置を巧みに利用して、力を逃した木刀を相手の木刀の刃に沿わしてすべらせ、その懐を狙った。
 けれども、素早く身を沈めた九条風天は、最小限の動きで宮本武蔵の木刀を浮かせて背後へと逸らせると同時に、振り上げた木刀の柄頭を宮本武蔵の側頭部に叩き込んだ。ふいを突かれた宮本武蔵が、もんどり打って倒れる。
 そこへ、九条風天が木刀の切っ先をむけた。
「参った。まったく、実戦慣れしすぎだぜ」
 宮本武蔵が降参する。
「いえいえ。センセーでなければ、もっと正攻法でいったのですが。普通じゃ勝てないなと感じまして」
「なら次は、そんな策を考える間もない動きを見せてやろう」
 多少の虚勢を張って、宮本武蔵が九条風天に言った。
「では、もう一本、手合わせお願いします」
「おう」
 
    ★    ★    ★
 
「いないいないと思ったら、こんな所にいたんだ」
 蒼空学園の屋上にやってきたミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、呑気に寝転んでいる菅野 葉月(すがの・はづき)をやっと見つけてそう言った。
「いいじゃないですか。君もここに来たらどうです?」
 晴れ渡る空を見あげながら、菅野葉月が自分の横のコンクリートをポンポンと叩いた。
「しかたないんだもん、まったくう」
 誘われるままに、ミーナ・コーミアが菅野葉月の横に腰をおろす。形のいいヒップが、菅野葉月の頭の横に鎮座した。
「やっと闇龍がいなくなって、のんびりひなたぼっこができるってものです」
 ふあーあと大きくあくびをしながら菅野葉月が言った。
「そうだよね」
 そう言うと、ミーナ・コーミアは身体を横に動かすと、膝の上に菅野葉月の頭を載せた。
「こういうのって、ひさしぶりなんだもん」
「ええ、ひさしぶりですね」
 軽く目を閉じたまま菅野葉月は言った。そんな彼の顔を、ミーナ・コーミアはちょっぴり幸せそうな瞳で見下ろした。