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リアクション
第3章 自転車戦!
各組の漕者達は、颯爽と自転車のペダルを漕ぎ始めました。
2人3脚での自転車は、選手の誰もが初体験です。
「ふっふっふ、自転車小僧と呼ばれた俺の実力見せたるわ!
優勝は東シャンバラがもらった!」
(このアホ面だけによい格好はさせませーン!
これで活躍して千尋様に褒めてもらうのデース!)
トップでスタートした【イーシャン】の2人は、それぞれの野望に燃えています。
日下部 社(くさかべ・やしろ)は優勝、著者不明 パラミタのなぞなぞ本(ちょしゃふめい・ぱらみたのなぞなぞぼん)は。。。
『回想・はじまり』
「ろくりんピックにはいろんな競技があって面白そうやんなぁ。
特にみんなで『たすき』を繋いでいくトライアスロン、憧れるわぁ」
「やー兄かっこいいー!
ちーちゃん、大きな声で応援するから絶対優勝してねー☆」
「よぉ〜し!
ちー、兄ちゃんがんばってくるからしっかり応援頼むでぇ♪」
「Qちゃんもがんばってねー♪」
「フッ……千尋様を失望させるのだけは勘弁デス。
我のホントの力をちょっとだけ見せてやりマース!」
「な!?
お前が相方かいっ!
初めに言うとくが、チームのみんなに迷惑をかけるようなことは絶対にすんなや?」
『回想・おわり』
パラミタのなぞなぞ本は、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)にいいところを見せたいようです……変態?
ちなみに千尋は、社のことを『やー兄』、パラミタのなぞなぞ本のことを『Qちゃん』と呼んでいます。
「何やってるデスかアホ面!
もっと気合入れて漕がなきゃ駄目デース!」
回想中の社の発言からも分かるように、社とパラミタのなぞなぞ本は犬猿の仲です。
パラミタのなぞなぞ本は、基本的に自分勝手でマイペース。
人と力を合わせることなど、あまり好んではやりません。
ただ。
今回のように目標が一致したときは、力を合わせようとがんばることも。
「ほれ、1人ではりきりすぎてもしゃあないやろ。
せっかく2人3脚でやっとんのや、俺と呼吸を合わせてみぃ?」
自転車の運転は得意な社が、パラミタのなぞなぞ本に協力を呼びかけます。
はりきりすぎて無理をしているふうなパラミタのなぞなぞ本を、少し気づかう社。
皆が理解しているとおり、どちらか片方の努力では本競技を勝ち抜けないのです。
「ペース配分を守って、時間内に確実にゴールしよう!
順位よりも完漕できるかどうかが優先だ、事前の計画と準備も完璧だしな!」
(ただし……実際のレースでは、往々にして、計画段階では予想もしていなかったアクシデントが発生するものだ。
肝に銘じておかなければ)
【ウエスト】のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は、【イーシャン】の背中を見て話します。
もちろん、勝利を諦めたわけではありません。
ですが、『たすき』を繋がないことには最終的な優勝もありえないと考えたのです。
「ジーベック、なぜ私をパートナーに選んだのですか?」
隣の冷静なクレーメックに対して、素朴な疑問をぶつけるゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)。
実はクレーメックが選手に立候補した際、自分以外の人がパートナーになるだろうと予想していました。
それが結果として、同じ組で同じ種目に出場しています。
ゴットリープは、クレーメックの意図を知りたくてうずうずしていたのです。
「2人3脚で重要なのは、競技のあいだずっと2人の呼吸が合った状態が続くことだ。
ゴットリープ、君は、仲間の誰よりも、わたしの考えをよく理解し、わたしに従ってくれている。
だから、君を選んだのだ」
(他の仲間は我が強くて困る……その点、フリンガーはぎょしやすい)
「僕を信頼して、パートナーに選んでくれたですね!」
(必ず、彼の期待に応えなければ)
クレーメックの発した言葉に、感動を覚えるゴットリープ。
心中の思惑にまでは気付かないまま、使命感を新たにします。
「どれだけ完璧な事前準備を行ったと思っていても、想定外のトラブルは起こりうる。
だがどんな事態が発生しても、冷静に状況を分析して対処の仕方を考えることができれば、レースへの影響は最小限に留められるはずだ」
「はい、ジーベックの指示に従って、足を引っ張らないよう精一杯がんばります!」
述べて、クレーメックが必殺技『バンジャンドラム』を発動しました。
自分達の前を行くことなど許さない、と言わんばかりの猛スピードで突進。
ゴットリープも、必殺防御『超ラッキー!』の発動機会を見計らいます。
効果は、一定時間、必殺技を含むあらゆる妨害が失敗に終わるというものです。
呼吸を合わせて、足を引っ張らないことだけを考えて、ゴットリープは自転車のペダルを漕ぎ続けます。
「まだまだ青いのう」
クレーメックとゴットリープのやりとりを聞きながら、天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)は苦笑いを漏らしました。
幻舟は、クレーメックの本音に気付いていたのです。
(ま、そこがよいのじゃがのう)
ただ、感付けば面倒なことになるのは明らかですし、集中力を切らすわけにもいきません。
口を閉じて、幻舟は『軍用バイク』で選手達を先導します。
おや、幻舟の懐に1匹の猫が。
「選手として出場できるだけの体力があれば、わたくしもジーベックと一緒に試合に出たかったです」
「私はよかったよ〜だって、ヴァルナさんとお友達になれたんだもん!」
クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)が、ハンドルを握りつつごちりました。
ただよう無念を吹き飛ばしたのは、綾小路 麗夢(あやのこうじ・れむ)の笑顔です。
麗夢は、クリストバルの運転する『軍用バイク』のサイドカーに乗っています。
幻舟、麗夢、クリストバルの3名は、【ウエスト】の漕者2名の契約者であり応援者。
2台の『軍用バイク』で選手に併走しながら、できる限りのサポートに努めています。
ちなみに、幻舟と行動をともにしている猫は、麗夢の使い魔『アルファ』です。
「ささ、身体を冷やしてよね!」
「お2人とも、受け取ってくださいませ」
麗夢は、最低レベルまで威力を落としたスキル『氷術』を発動させ、選手達へと涼しい風を送り続けます。
さらに前方の坂道に備えて、クリストバルが『ヒール』および『パワーブレス』のスキルを唱えました。
消耗していた体力を回復するとともに、足腰の筋力を強化したのです。
「あ、そうだ。
ゴールしたあとで、疲れきった体をマッサージで優しくもみほぐして差し上げましょう」
「それいいね!
あ、ヴァルナさんもどうぞ」
なんて、楽しいことも考えつつ、クリストバルは選手を支えています。
とびきりに笑って、スポーツドリンクを差し出した麗夢。
他にもレモンのシロップ漬けを用意してきており、選手だけでなく自分達の水分補給もばっちりです。
「西シャンバラチームを優勝へ導くのであります!」
(前原と協力する……というよりサポートしていくという感じになるだろうか
私が彼に合わせよう、ともにゴールに駆け込めればと思う)
「とにかく、勝つ! この1点に尽きる。常に全力を心がける!」
(西シャンバラというか、『新日章会』のメンバーとして日本の国益のために戦う。
それに西王陛下のために勝ちたい、すなわち西シャンバラの面子を保つためにも、絶対に勝つ!
しかし、アンヴィル嬢と一緒だからな……最初から速度を出すと彼女が疲れるかもしれない。
何しろ200キロもあるし……ならば彼女を気づかいながら漕ぐか?)
ジェシカ・アンヴィル(じぇしか・あんう゛ぃる)と前原 拓海(まえばら・たくみ)の眼は、すでにある映像を視ていました。
それは、ゴールテープを切る【西シャンバラ】の姿です。
まずは2番手に上がることを目標に、前の組を視界に捉えています。
(あのとき、教導団と蒼空学園の関係が一時的に悪くなったが。
今は西シャンバラという運命共同体のような感じになったし、教導団の者と組むことにためらいはない)
(教導団と蒼空学園、特にクイーン・ヴァンガードは、一時期関係が悪化してたと聞いている。
ならば、その関係修繕に努めようではないか)
拓海とジェシカは、それぞれ蒼空学園とシャンバラ教導団の所属です。
しかしながら、どちらも過去を引きずることなく、一致団結することを心に決めていました。
実は、水泳競技のあいだに練習までしていたのです。
『練習中の様子・はじまり』
「個人競技ではない。
2人3脚なのだから、私と君の呼吸を合わせる必要がある……それに、時間もない。
遅すぎてもよくないが、適度な速度を維持してくれ」
「了解した、自転車は普段から乗り回してるので自信があるのだよ。
練習しておいてよかった、ありがとうな」
はりきる拓海に、安全運転を申し出たジェシカ。
これは、障害物を想定しての対応です。
拓海もしかと頷き、有意義な誘いに謝意を表しました。
『練習中の様子・おわり』
「個人では勝っても負けても、西チームに得点が入ればいい。
私は私にできることをする……それだけだ」
「とにかく完走できればいい。そして確実に次に繋げる!」
改めて前を見据え、ジェシカは足に力をこめます。
刹那、拓海は胸に付けた、日本国旗を象ったピンバッジに眼をやりました。
西シャンバラチームのため、そして自身が管理者のコミュニティのため、さらに強くペダルを踏みしめるのでした。
「みんながんばれ〜あと半分だよ!」
西シャンバラチームの応援団員である、湯島 茜(ゆしま・あかね)。
ちょうど中間地点の沿道から、元気いっぱいの声援を贈っています。
両手に握られているシャンバラ旗は、茜の手作りです……どうしてシャンバラ旗を振って応援しているかというと?
「シャンバラ王国が復興した記念の大会だもんね!」
ということのようです。
華奢な身体のどこからそんな大きな声が……と皆に不思議がられつつも、チームの応援を引っ張っています。
「東シャンバラチームもがんばるのだ!」
中間地点、西シャンバラチームとは反対側の沿道に真城 直(ましろ・すなお)が現われました。
直は、東シャンバラチームに応援団員として招かれていたのです。
「さぁゆくのだ、僕が来たからには絶対に勝ってもらおう!」
応援団長と同じ衣装をまとい、そっくりの姿に変身した直。
選手達がなかだるみしないように、真面目に、誠実に、応援の言葉を飛ばすのでした。
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