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リアクション
「コンセプトは『ベストを尽くすこと』!
といっても『やれるだけやればいい』ということではなく、医学的な視点も踏まえつつ『どうすればベストな状態を引き出せるか』を考えるのだよ。
【ワイルド・ワイルド・ウエストチーム】で優勝を目指すのだ!」
じりじりと、前との差をつめてきている【WWW】。
一因となっているのが、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)の必殺サポート『的確なペース配分』です。
特技の『医学』に加えて、スキルの『セルフモニタリング』と『防衛計画』をも取り入れた、本競技の技術的な側面を補うもの。
闇雲な加速ではなく、レースに関わるあらゆる要素を把握したうえで、適切なペース配分や水分・塩分摂取を行っているのです。
「こういった長丁場の競技で最終的にものをいうのは、技術を超えた強い精神力!
疲労でグラつきそうになる心を支えるのは……厳しい訓練で培った『不屈の心』!
この競技に携わり、つないだ『たすき』への想い『諦めない心』!
そして、競技のパートナー、クレアさんとの『友情の心』!
お互いの心をともにして、最後の最後まで、一緒に走り抜けますわ!」
さらに、御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)の必殺サポート『パートナーへの配慮』も重要な役割を担っていました。
スキル『エンデュア』において発揮される強靭な精神力を根底に、精神的な側面を補足します。
「日頃より厳しい軍事訓練を行っている私たちですから、こういう苛烈な環境下での戦いでは逆に本領発揮といきたいところですね。
ねえクレアさん」
「あぁ……参加するからには、優勝を狙わないとな」
真夏の陽射しに焼かれ、気温は30度を超していました。
ですが千代もクレアも、暑さをそれほど問題にはしていなさそう。
それもそのはず、実はクレアが、必殺防御『体感温度操作』を発動していたのです。
スキル『氷術』と『火術』を利用して霧をつくり出し、特技の『医学』で適温を計算。
クレアと千代は、常にこの霧に包まれています。
「『心』をキーワードに、技術を超えた精神力で勝利を目指します!」
最後まで諦めない強い心、それが『教導魂』!
受け継いだ教導の『たすき』は魂をも繋ぎます!」
スキル『心頭滅却』で競技に集中力を注ぎ、『超感覚』と『トラッパー』で進行方向の障害物や路面に注意を払う千代。
何事にも動じず遮られない、必殺防御『障害感知』の効果です。
お互いのことを想い、不足を補う『心』の強さ。
この2人こそ、誰が呼んだか『教導団鋼鉄女』コンビだったのです。
「妨害工作が認められているなら、それを妨害するのも認められるわよね?
それに競技参加者イコール選手を攻撃するわけじゃないから文句はないはずだし?」
つぶやいたのは、コース上空を飛行中の宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。
東シャンバラチームによる障害が設置されていないか、あるいはされようとしていないか、『空飛ぶ箒』に乗ってパトロールしているのです。
コントラクターといえども、レースの条件は過酷極まりないもの。
ゆえに祥子は、障害物などは極力排除して、正々堂々と競技をして欲しいと考えていました。
「あら、誰もいなかったし、何もなかったわね」
スタート地点から中継所まで、選手よりも先行して回ってきたのですが。
祥子の眼には、特にそれらしいものや人影は映りませんでした。
「東も西も、障害を設置しなかったようね……安心したわ」
息を吐くと、祥子は箒を降ります。
そのまま、ゴール地点の応援団に混ざることにしたのでした。
「残る距離は半分だ、持てる力を全開にして全力で漕ぐ!
悔いのないように!」
「……本当に考えてるのか、こいつは!
しようがねえな、ばてんなよ!」
「時間内にゴールできるように、役割りを決めたんだぞ!
僕が漕ぎまくるから、アルフには補助を頼むよ!」
トップに遅れること数十分、中間地点をとおり過ぎた【UPW】。
飛鳥 桜(あすか・さくら)は、自身のリミッターを解除しました。
頼まれたからには、アルフ・グラディオス(あるふ・ぐらでぃおす)もスキル『火術』の勢いで自転車を推し進めます。
「トライアスロンか……本場アメリカ出身にはもってこいだね!」
ちょうどいいじゃないか、僕らの力を見せてやるんだぞ!」
(こんの剣術ヒーロー馬鹿!
勝手に俺をエントリーしやがって、何のつもりだ……)
桜は、自転車を漕ぎながら両腕を上げてガッツポーズ。
隣で舌打ち、アルフがあきれた顔をしています。
「全力を尽くして、悔いのない戦いをするんだぞ!
ヒーローに任せてくれよ、優勝を勝ちとってやる!」
「ハア?
俺はめんどくさいんだけど……」
どんどんとヒートアップしていく桜を横目に、アルフが大きなため息を吐きました。
まぁ片思い中の桜と少しでも一緒にいられることは、嬉しいのですが。
正直なところ、すぐにでも涼しい部屋に帰りたいとも思っていたり。
「僕は君と出たかったんだよ。
最高のパートナーである、君と、ね」
「……え、あ、ああ……最高のパートナー、か……久々に聞いたな。
それに、お前と行動すること自体、久しぶりだったな……だったら。
お前の期待に応えるぐらい、俺も本気になるか……いくぞ、相棒?
俺達の絆……見せてやるぜ!」
「僕らの絆の強さ……無敵だってことを!
ここで証明するよ!!
東にも負けるかー!!」
(僕達の絆の強さを証明したい、確認したい。
これが、僕が君を競技の相棒に選んだ理由。
いまじゃパートナーも増えたけど……今日は初心に返ろう、一番最初の相棒の君と!)
桜の口から出てきた言葉に、思わずアルフはきょとんとしてしまいました。
思い出すように空を仰ぎ、しばし考えます。
そうして戻した視線は、まっすぐ、幾先のゴールを視ていました。
きりりとしたアルフの表情に、桜のやる気も増す一方です。
「西シャンバラー、ファイトー!!
フレーフレー、西軍ー!!」
兄さーん!!
サクちゃーん!!
がんばれー!!」
『空飛ぶ箒』に乗り、【UPW】を追うレフィ・グラディオス(れふぃ・ぐらでぃおす)。
アルフと桜を、それぞれ『兄さん』と『サクちゃん』と呼び、全力で応援しています。
「僕は、兄さん達のようにあまり運動は得意じゃないけど……僕でもみんなの力になれることがしたいんだ!
兄さんとサクちゃん、西シャンバラチームのみんなにも勝って欲しい……でもみんな無事でゴールして欲しいのが一番かな」
長くて白いはちまきと、少しぶかぶかの学ラン姿は、まさに応援団員。
背中からは、白い右翼と黒い左翼の『光の翼』を出しています。
「はえぇ〜……」
と、突然の悲鳴。
応援しながら、つまり余所見をしながら飛んでいたため、眼の前の電柱に気付けなかったのです。
眼をぐるぐるさせているレフィは、沿道の応援者に助けられて、休養所へと運ばれていきました。
「小次郎さん、大丈夫ですか?」
「あぁ、少し疲れてはいますが……絶対に走りきりますよ」
【こりいとさ】のリース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、パートナーの小次郎が心配でなりません。
小次郎は先ほど、本競技の水泳を泳ぎきったばかり。
体力の消耗もなかなか激しく、息が荒くなっています。
制限時間と合計距離からリースが計算したところ、自転車種目にかけられる時間は約4時間。
時速52、3キロで走りきることが目標です。
「私と聡殿以外、皆さん女性ですからね……がんばります」
「ありがとうございます、小次郎さん。
私も、絶対に諦めませんわ!」
他のメンバーへの心づかいに、リースはとても感激しました。
小次郎のがんばりに応えようと、気合いを入れ直します。
ちなみに最初、小次郎とリースは自転車種目への参加を希望していました。
3種目のなかで、にわか仕込みの知識という意味での小手先の技術が通用するのは、自転車種目であると考えていたからです。
「それにしても、追い風でよかったです。
追い風時に進むのと向かい風時に進むのとでは、天と地ほどの差がありますから」
「えぇ、体力の消耗も、抑えられますね」
自転車種目において体力を消耗する要因の1つとして、小次郎とリースは風の影響を想定していました。
今日は左手後方に見える海から、心地よい潮風が吹いてきています。
基本的に、自転車種目のコースは海を背にして進むため、風で苦労することはないでしょう。
ただしこのままでは、マラソン種目で向かい風のなかを走ることになりそうですが。
「さぁ、リース!
ラストスパートをかけますよ!」
「それでは私も『セルフモニタリング』を発動しますわ!」
残り20キロを切った地点で、小次郎は最後の力を振り絞ります。
精神勝負になることを予想したリースも、スキルで最大限までテンションを上げました。
「敵チームだし、悪いけど邪魔させてもらうよ」
西シャンバラチームの組がすべてとおり過ぎたことを確認して、コース上に姿を現した橘 恭司(たちばな・きょうじ)。
素早く、スキル『トラッパー』を発動させます。
(でも絶対に、出場選手には怪我をさせないようにしないと)
恭司が設置したのは、野山で獣を捕獲する際に使用する『トラバサミ』です。
ただし威力は低く、歯も丸みを帯びたものがついているだけ。
さらに恭司は、トラップをしかけた一帯へ水をまきました。
「これで少しは休めるだろう」
路上を冷やすことで、選手の熱を冷まそうと考えたのです。
なかなか粋な……いや、もし転んだときには泥水でべちょべちょ。
逃げて、避けてっ!
「あ、何かあるみたいだ……が!」
「いや、間に合いませんねぇ!」
【東】の弥十郎と涼司が当該の場所にさしかかったのは、障害が設置されてしばらくのことでした。
たいして対策をしていなかったこともあり、発見が遅れてしまい……転んでしまいます。
トラバサミに挟まれた車輪に穴の開かなかったことが、不幸中の幸いでしょうか。
どうにか態勢を立て直し再度、ペダルを漕ぎ始めます。
最後の下り坂でのカーブを、弥十郎と涼司は、遠心力で曲がりました。
「必ず俺らが優勝しような!」
「……がんば……ッテ……」
社は、最大限の労いの言葉とともに【イーシャン】の『たすき』を渡します。
へとへとなパラミタのなぞなぞ本は、声を発することすら難しそう。
何となく笑顔で、手を振りました。
「ちーちゃん見ててとっても楽しかったよー!
ハラハラやドキドキがいっぱいだったー☆
ちーちゃんもおっきくなったら出られるかなぁ?」
「おう、絶対に出られるって兄ちゃんが保障するでぇ」
「……ち……ひろさまなら、ダイジョブ……ヨ」
「うん、やー兄、Qちゃん、ありがとう!」
抱きついて、社の頬にアリスキッスをする千尋。
自転車種目に興味津々な様子で、大きな眼を輝かせています。
話しながらたどり着いた休養所にて、パラミタのなぞなぞ本はついに倒れこんでしまいました。
ベッドの縁に座り、社と千尋は優しく団扇で風を送るのでした。
「がんばれよー!
目指せ、西シャンバラ優勝!!」
『たすき』で足を結んでやり、マラソン走者に手を振る桜。
かすれた声ながらも、エールを贈ります。
「桜、やったな!」
「あぁ、アルフとならやれると思っていたんだよ!」
(……男同士の友情っぽい……)
桜の肩に、アルフは後ろから手を載せました。
応えてくるっと回った表情は、達成感と喜びに満ちたとびきりの笑顔。
交わすハイタッチに、桜はなんだか気恥ずかしさを覚えるのでした。
『さぁ、ラストの組が中継所に入ってきました!
皆さん、【東】の選手達へ大きな拍手を、そして激励を!
マラソン種目もがんばってくださいっ!』
中継所に置かれた巨大スピーカーから、リポーターの白熱した声が響きます。
気になる自転車種目の順位は、水泳種目から少し変動があったようで。。。
【ウエスト】、【西シャンバラ】、【イーシャン】、【WWW】、【UPW】、【こりいとさ】、【東】となりました。
しかし、野球は9回2アウトから!
この2人3脚トライアスロンも、最後の最後まで眼が離せません。
(ん〜自転車区域には怪しいの、いないみたいだわ)
シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は、いわゆる『破壊者』を探すメンバーの1人。
『小型飛行艇ヘリファルテ』で、自転車区域の偵察に来ていました。
出発前のコースをひととおり調査したあと、飛行艇を降りて沿道を歩きます。
スキル『ディテクトエビル』で標的を探索、見付け次第『ヒプノシス』で眠らせる作戦だったのですが。
「まぁ、何もないならそれが一番よね……報告に戻ろうかしら」
結局シルフィスティの出番はなく、自転車種目の『たすき』リレーも無事に終了しました。
飛行艇に搭乗すると、自転車種目のスタート地点、つまりマラソン種目のゴール地点へと軌道を合わせるのでした。
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