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空京放送局復旧作業・ダークサイズ新キャラの巻

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空京放送局復旧作業・ダークサイズ新キャラの巻

リアクション



「オーライ、オーライ!」

 放送局屋上に空いた大穴を塞ぐのに多少手間取ったものの、未羅の活躍で遅れはほぼ取り戻せていた。
 ハーレック興業のロゴが入ったパラボラも到着し、エレムのクレーンを中心に、ラルクやグランたちもロープで引き上げ、さらにミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)ペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)のサイコキネシスがバックアップに入る。

「ふうー。お手伝いのついでにダークサイズを懲らしめたかったのに、結局ずっと作業してたね〜」

 ミルトが額の汗をぬぐう。
 隣でペルラが微笑んで、

「ふふ。私もダークサイズさんが一緒になってお手伝いをしているのは驚きでしたわ」
「うーん、そうなのよねー。一緒にがんばってるからやっつけるわけにもいかないし……」

 一方、アサノファクトリーの次女、未那が腕をまくってパラボラの固定と配線作業に取り掛かる。

「やっと私の仕事ができますぅ〜」

 アンテナの電線を新たに引きなおし、ケーブルを色分けして用途を分かりやすくし、予備と電波フォローのために、小さなパラボラも追加で設置する。

「ひえ〜、壊れる前より豪華になってるじゃんか……」

 と、方々から感嘆の声が聞こえる。

「よーし、パラボラの隣にはやっぱこれだな!」

 と、侘助がさきほどのダークサイズの旗を立てる。
 レキとチムチムは早速パラボラに絵を入れ始め、それをみたガートルードは、

「あっ! くれぐれもハーレック興業のロゴは消さないで下さいよ!」

 と忠告する。

「空京放送局と言えば、やっぱり向日葵だよねー」

 と言いながら、ミルトもパラボラのイラストに参加し、ヒマワリの花の絵を描く。

「さあさあみなさん、手が空いた方から麦茶と水羊羹はいかがですか?」

 いつの間に用意したのか、ペルラが大量の麦茶と和菓子を運んでくる。

「いいねえ! ピクニックみたいだ!」

 喜ぶ面々に、ペルラは麦茶を配って回る。
 のどが渇いて小腹もすいた作業員は、我も我もとペルラに群がる。

「まあ、みなさん、ちゃんとたくさん用意してますから……」

 と、順に渡していこうとするが、ダークサイズやお手伝い、さらにハーレック興業の人足もいるため、ちょっとしたパニックになる。

「あらあらみなさん、きゃっ」
「あ、危ない!」

 とペルラが、ミルトがヒマワリの隣に描いている最中の、猫の絵にぶつかってしまう。

「あらあら、ミルトさんごめんなさい」
「ううん、だいじょ、あら?」

 ペルラが離れた後の猫の絵を見ると、ちょうど目の部分に大きな円が二つ。
 ペルラが自分の豊かな胸を見ると、そこに猫の目のペンキがついている。

「ね、猫の目がおっぱいに……」
「あ、あらあら……」
「あはは。何かこの猫、すっごいびっくりしてるみたいだね」

 ミルトはこれはこれで気に入ったようだ。
 日下部 社(くさかべ・やしろ)日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)は、復旧作業も終わりにさしかかったのを見て、本来の目的をどうしようかと考え始める。

「やれやれ。俺らにも責任あるから、つい最後までこっちにおったけど……これを何とかしたいんやけどなぁ」

 と、社はポケットから手紙を取り出して眺める。

「やー兄ぃ。はい、ようかん」

 千尋がペルラから受け取った水羊羹をたどたどしく持ってきて、社に差し出す。

「ありがとう、ちー」
「やー兄ぃ、それちーちゃんが書いたお手紙?」

 千尋はさっそく口元に羊羹をつけながら、社を見上げる。
 社は千尋の羊羹を拭きながら、

「せやで。ちーが昨日がんばって書いてくれたやつや。できれば向日葵さんに渡したいんやけどなぁ。何とかしてみんなに聞いてもらいたいわ。ほんまよく出来てるで」
「うん! ちーちゃんがんばったよ」
「あ、あのう、お話し中すみません」
「ん?」

 社に話しかけたのは、泰輔のパートナー、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)。自分が作業に集中しているうちに、いつの間にか泰輔が姿を消し、レイチェルは自分の契約者を探していた。

「いやあ、ちょっと俺には分からんなぁ」
「そうですか……泰輔さん、一体どこに行ったんでしょう……」
「あ、もしかして、向日葵さん達のゴタゴタに顔突っ込んどんのとちゃうか?」
「え? まさか。欲にとらわれてそんなこと……」

 とレイチェルが独り言を言っていると、パラボラの方でわっと歓声が起こる。
 どうやら、パラボラの設置が完了したようだ。未那が皆の拍手を受けている。

「お。終わったか〜」
「ではもうすぐ試験放送でしょうか?」

 とレイチェルがつぶやく。社はレイチェルを見て、

「試験放送?」
「ええ。そういうのってありますよね? あら? ないのかしら。私、素人ですからよくわからないんですけど」

 それを聞いて社はひらめいて階段に向かって走り出す。

「それや! ちー、行くで! 四階や!」
「あーん、やー兄、待って〜」


☆★☆★☆


「あ、秋野くん……」
「さあ〜、取締役っ。観念する時だよ!」

 パラボラの設置が完成したそのすぐ下の七階。
 ドアを開けて現れた向日葵に、取締役は一瞬焦りの顔を浮かべるが、

「一体何の話だ?」
「空京たからくじでひと儲けしようなんて、そうはいかないんだからね!」
「秋野くん、落ち着きたまえ。私が何をしてるって?」

(さすがにこういう時の度胸は大したもんやなぁ……。演技はばっちりや)

 泰輔は一人感心する。
 そこに郁乃がずいっと身を乗り出す。

「何をした、だってぇ!? 甘いわね! 裏であんたが何やってたかなんて、私たち正義の結社カルモニアが、全てまるっとお見通しだいっ!」
「そうだそ……いやカルモニ何とかは貴公らだけでしょう! 我らは違う!」

 と巽がノリツッコミ気味に郁乃に言う。

「もう! ここは形だけでもそうしとけば説得力が、ていうか『カルモニ』まで言えたのに何で『ア』だけ出てこないのよ!」
「そんなとこまで突っ込まなくていいじゃないですか……」

 灌がこっそり突っ込む。
 さらに透乃、陽子、芽美が、郁乃と巽の内輪もめの隙を突いて前に出る。

「おとなしく不正の証拠を渡した方がいいよ。でなければ私たちの正義の鉄拳が、あなたの臓物を部屋中にぶちまけることになるわ」
「わあ、透乃ちゃん、いつになくグロい」

 芽美がつぶやく。
 彼らが騒ぐことで、取締役はなおさら冷静になっていく。

「で、君らは一体何が言いたいのかね。私が何か不正をしている? じゃあその証拠はどこにあるって? 私はそんなもの持ってないし、ここにいる私の部下たちも何も知らん」
「甘いですね、取締役さん。俺たちはあなたの社内データを隅々まで洗いました」

 今度は陽太が進み出る。

「な、何だと」
「そしてさらに! あなたの部下の中には俺たちのスパ……」

 陽太は自信満々に言い切りながら、伽羅に目くばせをする。しかし肝心の伽羅は、取締役の後ろで、微妙に首を振っている。

(え? 証拠は?)
(見つかってないですぅ)
(うそ! だって合図寄こしたじゃないですか)
(状況が変わったんですぅ。関係ない人が増えちゃってぇ……)
(ええー……)

 顔が青ざめる陽太を、不審がる取締役。

「スパ? スパ何だ」
「す、スパ……スパゲッティ食べたい!」
「何の話だ!」
「ちゃんとアルデンテになってるやつ!」
「知らんがな!」

 作戦がいつの間にか崩壊していて、涙がこみ上げる陽太。

「もう、伽羅さん! 根回しが台無しじゃないですか!」
「まぁ! 陽太さん、それ言ったらそれこそ台無しですぅ!」
「きゃ、伽羅くん、一体どういうことだ?」

 と、取締役は、そこそこ信頼を培っていた伽羅の態度の方に驚く。

「お、おほほほ、それは……」
「もうとっくに、それはもこれはもないのよ!」

 ドアの向こうから声が響く。直後、

バキィッ!!

 とドアが見事に破壊され、バットを持ったメニエスを先頭に、ダークサイズが顔を並べる。

「ああっ! 直したばかりのドアが!」

 取締役の取り乱しをよそに、ネネはメニエスの破壊能力に驚きの顔を見せる。

「まあ、素晴らしいですわ、メニエスさん」
「ふふん。ここからが本領発揮よ。本物の悪のやり方を、あんたたちにみっちり教えてあげるわ」
「それは頼もしいですわ、バットマン」
「ちょっと! 何よその名前!」
「新しい幹部名が欲しいようでしたから、ご希望に添えようかと」
「添えてないわよ!」
「そうですお姉さま、失礼ですよ。ちゃんとバットウーマンとしてあげなければ」
「あら、そうでしたわね。ごめんなさい」
「そういうことじゃないわよ! 信じらんない! 何であんたたちそういうとこばっかり拾うの!? 大体あんたたち今まで何もしてないわよね!」
「ちゃんとお茶してましたわ」
「だからそういうことじゃないわよ!」

 メニエスのクレームは留まることを知らない。
 祥子はやれやれといった顔で、

「ほらー。連絡網作りをきちんとしないから、こんなくっちゃくちゃになっちゃうのよ」

 とぼやくが、メンバーが多いうえ、みんなが好き勝手動くダークサイズで、全員を把握しようとする祥子の作業はこれからも挑戦が必要なようだ。

「とにかく、ダークサイズにも渡さないが、あなたのように私腹を肥やすだけのために着服するのは、それ以上に容認できない」

 と、永谷が最終的に焦点を絞る発言をする。

「ふん! それなら証拠とやらを見つければいい。見つかるはずはない。そんなものは存在しないのだからな。私は健全な経営者だ」

 取締役は絶対的な自信があるようだ。

(ふーむ。一応この部屋中を見てみたが、金庫はおろか隠し部屋のようなものは見つからぬな)

 一連の騒ぎをよそに、隠形の術で姿を消して、マイペースに探し物を続けていたグロリアーナ。

(やはりシンプルに、取締役が身につけている、といったところか)

 グロリアーナは、取締役の懐に手を伸ばす。
 そもそもカレンも、当たり券とデータは彼が身につけているのではと疑っていた。カレンはボディーガードのふりをしながら、チラチラ取締役の挙動を窺っていたのだが、

(あ、あれ? 胸元がもぞもぞ動いてる……?)

 グロリアーナはだいぶ奥の方まで手を突っ込み、取締役もその違和感に、

(なんだ? 虫でも入ってきたか?)

 と胸元を押さえる。
 それをするりと抜けるように取締役のスーツから抜け出てくる、茶封筒が一つ。

「え、あ! 何で!?」

 驚く取締役をよそに、グロリアーナは封筒からUSBのデータカードと、たからくじのチケットを取り出した。

「あ、あれ……!」

 グロリアーナは隠形の術を解き、姿を見せる。

「ローザ、あったぞ」
「な、なにいー!」

 全員の目が、グロリアーナの持つアイテムに注がれる。

「そ、そんな単純なところに!」
「やったあ! これで取締役告発だね!」
「そうはいきませんわ。せっかくのお宝。わたくしたちダークサイズがいただきましょう」
「冗談じゃない! ここまで上手くやってきたんだ! 最後の最後で私の老後を台無しにするわけにはいかんぞ!」

 三者三様思いを口にするが、それぞれ戦闘要員も擁している。
 グロリアーナが持つくじとUSBを中心に、じりじりと対峙する三勢力。

「これはやっぱり……」
「やるしかないようですわね……お約束の流れ」
「争奪戦だっ! 私に返してくれれば、ボーナスを保証するぞ!」
「おーっほっほっほ! この時を待ってましたわ!!」

 そこにひと際大きな笑い声が窓の外から聞こえる。
 エレムに頼み込んでクレーンのゴンドラに乗り、ゆっくり下から姿を現す女性が二人。ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)と、翡翠のパートナーのくせに単独行動をとるフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)
 ビル七階の高さとあって風も強く、二人の服がバサバサなびいている。

「おおっ! ようやく来たな! 現在チャイナ服チラリズム中!」

 ロドリーゴたちは書き込みを怠らない。

「お三方ともお待ちなさい! そのお宝は、DS大幹部候補こと! ミズ・ラフレシアこと! ジュリエットさまがいただきますわ! キャノン姉妹ごときにダイソウ閣下の側近は譲れませんことよ!」

 キャノン姉妹にライバル意識満々のジュリエットは、フォルトゥーナと結託して、たからくじの漁夫の利を狙う。
 フォルトゥーナはわざわざ用意してきたチャイナ服の胸元から分厚い紙束を取り出し、

「先は見えるとつまらないものよ? 未来なんて分からない方が面白いと思わない? 大丈夫。偽物じゃないわ。ま、全てはずれだけどね」

 と、いつもの謎かけのような言葉を吐く。
 ジュリエットもフフフと笑い、

「フェイク、というのはわたくしも面白いと思いますわ」

 と、USBカードが大量に入った段ボールを抱える。

「さあっ! 奪い合いなさいな! その隙にわたくしは、本物をいただきますわー!」
「ちょ、ちょっと待て! まじかよ!」

 中の人たちの制止を無視し、ジュリエットは段ボールを窓ガラスに思いっきり叩きつける。

ガシャン!!

 窓が完全崩壊し、外から強い風がびゅうっと吹き込む。

「わああー!」
「直したばっかりの窓―!」

 ついでにフォルトゥーナも持っていたたからくじの束を投げ込み、乱れ飛ぶ。

「おーほほほほ! 本物はわたくしが……あら?」

 予想以上に強い風に、グロリアーナはつい本物を手放してしまっている。当然その他のものと見分けがつかない。

「あ、あら、ホントに分からなくなってしまいましたわ……」


☆★☆★☆


「ふう〜。ついつい水羊羹食べすぎちゃったですぅ……」

 お腹をさすりながら、屋上から階段で下りてきた咲夜 由宇(さくや・ゆう)

「お手伝いに夢中になっちゃいましたぁ。そろそろキャノン姉妹さんのお手伝いしなきゃですねぇ〜……あら?」

 どうも騒ぎ声がするのでその方向を見ると、騒ぎとは別に何やらごそごそ作業している四人組。

「ぬぉわはははは! ついに完了したぞ! ビル内全てに盗聴装置!」

 放送局内で起こっていることそっちのけで独自に動いていた野武たち。

「これで密かにダイソウトウ様の上着に紛れ込ませた、受信機で全ての情報が我らダークサイズに筒抜け! ん?」

 ご満悦の野武が由宇を見る。

「きゃあ! 変なおじいさんがいるですぅ!」
「失敬だなチミは! 変なおじいさんってか! 確かに今頭真っ白だけども。いやそれより。ついに当たりくじの争奪戦が始まったのだ。ダイソウトウ様の受信機に中継をつなげなければ」
「えっ! ホントですかぁ! あ〜ん、私、お手伝いに夢中で気付かなかったですぅ。ダークサイズ幹部として、キャノン姉妹さんをお手伝いするですぅ! 『怒りの歌』を演奏して、ダークサイズのテンションアップです!」

 と、エレキギターを構える由宇を見て、野武が、

「では、この辺に仕込んである盗聴器に向かって演奏するのだ! キャノン姉妹にも仕込んでおいた受信機で、おぬしの楽曲も我が同胞たちに届くぞ!」
「やったぁ! 変なおじいさんありがとうです! よーし、DS幹部ほわほわ音楽隊、いきまーす!」

 由宇がこうもりの羽を広げて、怒りの歌をかき鳴らす。
 すると由宇の音楽が、何故か放送局中から爆音で流れる。

「ぬぉ! どうしたことだ」

 するとシラノが、

「どうやら電波干渉によるジャミングのようですね。安い機器を使ったせいです。拾った音声が放送局中にダダ漏れになりますね」
「盗聴の意味がないではないか!」
「ところでこういう時、スキルの効果はどうなるのでありますか? やはり味方だけ? それとも……」

 金烏の質問の最中に、放送局中から

うおおおお!!

 と、地鳴りのような怒号が響く。

「全員に効いちゃったようですね」

 ノニ・十八号はあっけらかんと言う。

「しかも爆音だから、効果も高そうです」
「……ぬ、ぬぉわはははは! ま、いっかー!」

 野武はいつものように簡易スイッチを取り出し、煙幕を張って姿を消した。