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リアクション
【File2・戦う生徒たち・1】
A.M. 11:59
図書館で源 鉄心(みなもと・てっしん)とティー・ティー(てぃー・てぃー)は、アーデルハイトの特別講義のために植物のネットワークについて勉強していた。
「アレロパシーやフィトンチッドの例を鑑みても、植物は他の動植物にも影響を及ぼすことは明白、と。確かに森林浴をして、気分が楽になるのも実はこういう化学物質があってこそだしな。そういえばこっちの資料の香歌ノ樹も、自分の香りで他の生命を元気にする特性があるみたいだな」
「みたいですね。メジャーな所でイルミンスールの大樹も、他の樹から恩恵を受けたり、また逆に力を奪われそうになったりしてるみたいですし」
「そう考えていくと、歌に感動する樹とか、強者を妬んで養分を横取りする樹とか、まるで人間みたいだな。植物も確固たる意思を持ってるってことなのか……」
そこへ、十二時を告げるチャイムが鳴り響いた。
「さて、そろそろ昼か……」「ですね、一旦切り上げましょうか」
腰をあげ、のんびりと食堂へ向かおうとしたふたり。
だが。耳にガラスの破砕音と、生徒達の悲鳴が届いたことで空気は一変した。
互いに顔を見合わせた後、窓へと駆け寄ると。外では蠢くツタたちが地面を覆い尽くす勢いで広がっているところだった。
(テロか……?)
「た、大変です! どうしましょう鉄心!」
うろたえるティーを見ながら、部外者が無闇に動くと現場の混乱を助長する可能性もあるかと考え。ひとまずここは、
「何が起きてるのか、把握するのが先決だ。行動はそれから決める!」
そう叫んで鉄心は外へと飛び出して。
P.M. 12:14
そして今ふたりは、正面玄関とは逆位置にある、来賓用の出入り口として設けられたホールで藤 悠介(ふじ・ゆうすけ)から事情を聞いていた。
ユーニス・アイン(ゆーにす・あいん)と、パートナーのホルス・ウォーレンス(ほるす・うぉーれんす)とロア・メトリーア(ろあ・めとりーあ)も一緒にいる。
「つまり、これはその怪人がしでかした事態ってことなのか」
「そうみたいだな。情報が信用できるかどうかは置いといて、今は襲われてる生徒達を助けないと」
「でも、ほとんど学園一帯にツタがひしめいてる状態よ。やるならちゃんと方針を決めて動かないと」
鉄心は、悠介とユーニスからの話を総合して自分なりの策を打ち立てる。
「よし。ここは三組にわかれよう。必要なのは、逃走経路を確保する役、襲われてる生徒を助ける役、はびこるモンスターを撃退する役の、みっつあたりか」
人指し、中、薬指と順に立てて説明していく鉄心。
「逃走経路についてだけど。俺個人としては放送室からルートを指示するのがいいんじゃないかと思う」
「うん、いいと思うわ。じゃあ、アナウンスはあなたに任せるとして。私達がモンスターをなんとかするわ。回復もできるから、そう簡単にはやられないし」
応じる形でユーニスが言って、パートナーふたりも頷いた。
「わかった。じゃあ、生徒を助けるのは俺に任せろ。校舎内を走り回ることになるだろうから、ひとりの方が動きやすいからな」
悠介も同意して自分の役割を明言する。
「よし。それじゃあ、避難させる出入り口は比較的被害が少ないこの場所でいいな。ルートに関しては、放送室がここだからこの階段を使って……」
案内盤を指差しながら鉄心はルートを考えていき、ある程度固まったところでそれぞれ散開していった。
P.M. 12:20
ユーニス達は早々に、ルート上にある一階階段でツタの群れと遭遇していた。
「よし、そんじゃあやってやるぜ!」
「ホルス殿。油断は禁物なのだよ」
ホルスはリターニングダガー、ロアはブロードソードを手に、切りかかっていく。
主にロアが近接戦闘で近寄ってくるツタを相手にし、ホルスはこちらの出方を伺うような不審な動きをみせているツタを重点的に攻めていく。
少しでもふたりが傷を負わされようものなら、すぐにユーニスがヒールで治療するというサイクルで戦いを繰り広げていった。そうしてツタは次々数を減らされていく。
「よし、いけるわ! ここは意外と早く安全確保できそうね」
ユーニスは自分達と相手の戦力を考え、これならまだまだいけそうだと余裕を持っていた。
同時に、ある考えが頭をよぎる。
(こういう場合って、やっぱり回復要員を先に叩くのが定石よね。相手のツタって、そういう戦い方できたりするのかな?)
のんびりと、そんな風に考えながら。
実際、背後に迫っているツタには気づいてはいなかった。
「おわっ、ちょ、馬鹿! あぶねぇ!」
先に気づいたホルスは目を見開き、前へ進もうとした足首を強引に捻ってユーニスの方へと跳び。彼女を庇ってツタに左膝を強打された。
顔をしかめるホルスと、息をのむユーニスだが。その後の行動は早かった。
ホルスはダガーでツタを切り裂き、ユーニスはヒールをかける。共に謝罪や叱咤の言葉も今は交わさずに、隙を生まないよう再び攻撃と援護へと戻っていく。
ロアはふたりのそうした行動を横目で追いつつも特に何も言わず、あることを探っていた。
(このツタ達……一応ダメージは負っているものの、おそらく大元を倒さないと枯らすことはできそうにないな)
しかしどこから生えてきているのかを探ろうにも、ツタはどいつもこいつも結局は地面の中へと行き着いており。モグラでもなければ追跡は不可能に見える。
もしや校庭あたりにその大元がいるのではと思い、ロアは窓から一瞥したものの、そこではただひとりの生徒がツタ連中と戦っている姿があるだけだった。
(くっそ、さっきまで授業受けてたのになんでこんなことに……や、まあ正確にはバイト疲れで寝てたけどさ)
その校庭で後から後から沸いて来るツタを、ハルバードを振り回しながら切り落としているのはセルマ・アリス(せるま・ありす)。
彼は突然の襲撃に、焦りと不安を感じながら戦っていた。
しかし、実践経験が少ないセルマとしてはこの機に経験値を貯めておきたいという思いを抱いてもいた。
(俺は腐っても騎士だ。守りたいものを、守れるようにならないでどうするよ)
この場には先程まで慌てふためく生徒の姿もいたが、今は無い。
そんな状況下では、おそらく賞賛されることも心配されることもない。手を貸してくれるような戦闘要員足りえる先生や生徒さえも、他のところで手一杯なのか来る気配は無い。
「だから、どうしたっていうんだ」
言葉で自分に活を入れながら、レンジを生かして近寄るツタを一気に薙ぎ払うセルマ。
が、その中のツタが一本切られた拍子に勢いよく跳ね、そのまま左腕に鈍い音をたててぶつかった。
(ぐっ……いや、大丈夫。この程度なら)
一瞬顔をしかめハルバードを取り落としかけたものの、すぐに力を入れ握りなおす。
校庭のツタはまだまだ留まるところを知らずに生え続けている。
自分がここで退けば、知らない誰かに戦闘の責を追わせる事になると理解していたから。
「かかってこいよ、俺は全然参ってないぜ!」
そしてセルマは、孤高に戦いを続けた。
そのころ別の一角では、
「ななな、何なのこれ!?」
事情を知らずに、園芸部員として花壇の手入れをしていたアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)が突然のことに慌てふためいていた。
けれど。詳しいことはわからずとも、花壇に被害が出そうなことだけは理解できた。
「学園……は校舎自体は校長の財力に任せれば平気ね」
自分がなにを守るべきかは、これで決まったとばかりに腹を決め。光条兵器のブライトグラディウスを展開し、花壇ごと傷付けないように斬る対象をツタモンスターだけに限定させる。
そして、
「本当は貴方達も斬りたくは無いのだけど……」
流れるような腕と剣の動きで、花壇に迫らんとしていたツタを次々切り裂いていく。
すると、ツタのほうも多少の知能は有しているのか、動きを止めて出方を伺うように蠢き始める。
やがて一本のツタが正面からしなりながら襲ってきた、と同時に地面の土を粉砕しながら足を絡めとらんとするツタも出現した。が、
「あんまり、なめないでよね!」
タン、とアリアは軽やかなステップで横へと跳躍し、下からのツタをかわした。
かと思えば次の瞬間には前へと跳んで迫っていたツタをまっぷたつにして、更にぎゅるりと足首をひねらせて身体を横回転させながら、自分を捕らえ損ね間抜けに空をかいているツタを輪切りにしていった。
「ここなら存分に動き回れる、蜘蛛の塔の様にはいかないよ!」
ツタの形状からして、鞭の様に曲線的、又は扇状の薙ぎ払いが主。
後は地面からの不意打ちにさえ気をつけていれば大丈夫と考え、アリアは油断も慢心もしていなかった。その証拠に、徐々にツタ達を花壇から引き離している。
相手側のツタとしても彼女を厄介な獲物と判断したのか、今度は囲むようにして四方八方から一斉にアリアへ躍りかかった。
「いつも縛られていると思ったら大間違いよ!」
が。アリアはそれを狙っていた。
わずかに口元に笑みすら浮かべ、空飛ぶ魔法↑↑で空を舞い包囲から脱出する。
だがツタ達も、多少同士討ちでぶつかりあいながらもアリアを逃すまいとして、空へとその触手を伸ばしていく。
しかしそれでも、アリアの笑みは保たれ続ける。
「光よこの剣に集え! アサルト・サンクチュアリ!!」
アリアは馬鹿正直にひとまとまりになったツタ達めがけ、
女王の剣スキルを活用し、落下速度も付加させた攻撃を繰り出していった。
直後、まさに光の爆発が周囲に起こり。
そのあとには華麗に花壇の傍に立つ、アリアの姿だけが残った。
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