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リアクション
【File4・エレベーター(上)】
P.M. 12:40
学園のあちこちで騒動が激化する中。
特に変化もなくまだエレベーター内に閉じ込められている黒衣の男と、内谷利経衛。
ふたりはしばらく非常のインターホンに向けて声をかけていたが、
「……さっきからまったく返答がないな。やはり何かあったらしい」
「参ったでござるな。事が解決するまで閉じ込められるなんてのは御免でござるよ」
すっかり途方に暮れている彼らから、上へと移動すること数メートル。
上層階のエレベーター扉前にトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)とテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)がいた。
ふたりは先程から扉を強引にこじ開けようとしているものの、わずか数センチ程度しか動いてくれそうもなかった。力不足に参るふたりだが。そこへ、
「エレベーター待ってたら、急にツタが襲ってきたからもしやと思ったけど……やっぱり中に誰か居るのか?」
階段をあがってきたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が姿を見せる。
「ああ、そうらしいんだ。だから救援物資でも届けられないかと思って」
「悪いんだけど、扉開けるのちょっと手伝ってくれないか」
「ん? よし、ちょっと待ってな」
ふたりの要望にエヴァルトは、コホンと一度咳払いしたかと思うと、
「ティールセッター!」
イキナリ掛け声をかけ、物陰にちょっと隠れたかと思うと。次に出てきた時には全身にパワードスーツを纏った姿に変身していた。
「「…………」」
それに対しトマス達は深く言及せずに、再びエレベーター扉に手をかけ、せーのの掛け声でトマスとテノーリオが扉にわずかながら隙間を開け。そこにエヴァルトが指を突っ込んで、ドラゴンアーツの力を用いながら一気に引っ張った。
すると、ガギゴゴゴ、とあきらかに壊れたような異音を出して扉は開かれた。
どう見ても扉が変なほうにひん曲がっていたが、全員が無視した。
「よし。じゃあまず僕が降りてみるから。テノーリオ、ワイヤー頼むな」
トマスは自分のベルトに命綱としてのワイヤーを繋ぎ、
テノーリオは頷いてきちんと「オーライっ!」と叫びながら、逆側に繋いだ柱などを指差し確認して安全を確かめていた。
ちなみにそんな様子を見ながらエヴァルトが、
「それならいっそのこと俺も、降りて……」ということを言ったものの。
「ちょ、ちょっと待った。そのパワードスーツ状態だとどう考えても、重さが危険ライン突入確実だろ」と返されて、今は様子を見ることにした。
ワイヤーの強度を確認し終えたトマスは、背中に物資の袋をくくりつけ、ついに黒い口を広げる穴へと向かってゆっくりと降りていく。
停止中のエレベーターまで直線距離にすればさほど離れていないのだが、場の暗闇と足がつかない恐怖のせいで、どこまでいっても下につかないような錯覚をトマスは感じ、軽く身震いする。
「うわ。どれだけ絡み付いてるんだよこれ……」
しかもエレベーターのケージだけでなく、そこらの壁にもツタが繁殖しているのが上から差し込む光のおかげで目に入ってきて怖さを倍増させる。時折牽制するように、ツタが波うっているのも見てとれた。
(気持ちが悪いな。まるで逃がさないようにしてるみたいだ)
やがて、足が固いものに触れた。それがエレベーターのケージだと気づいて密かに安心するトマス。
もうさっさと事を済ますべく、早急に作業用入口に張り付いているツタ達を引き剥がし、最後は力任せにその四角い鉄扉をこじ開けた。
「おーい。大丈夫かー?」
「む。ああ、今のところ問題ない」
「職員……ではないようでござるな。助けに来てくれたでござるか?」
中のふたりは、安堵と驚きが混じったような表情を浮かべていた。
トマスはそのままエレベーターの中へと着地する。
「助けっていうか、僕は閉じ込められた人が困ってると思ってこれを持ってきたんだ」
背負っていた袋の中身をひっくり返して、水やチョコや簡易トイレなどを散らばらせた。
「ん? それならいっそこのまま引き上げて貰うわけにはいかないのか?」
「あー、今はちょっとムリかもな。こういう場合、救出には安全面を重視すべきだろ? 僕のワイヤーで引っ張りあげるには力が足りないし、周りに絡みついたツタモンスターの動きも気になるし」
「なるほどな。上っている最中に襲われたらどうなるか、想像するまでもないか」
「それに自分で言うのもなんでござるが。拙者を引き上げるのは相当大変でござろうしね。それはそうと外で一体なにが起きてるんでござる?」
その問いに、トマスは現在の状況を説明し始めていった。
同時期に、鉄心からのアナウンスも流れていた。
P.M. 12:47
そのあと、一旦トマスが再び上の階にあがった時には、いつの間にか「危険! 安全第一」の柵と、同内容の看板が設置されていた。
行なったテノーリオは現在、ワイヤーを見張りながら携帯電話で話をしている。
「エレベーターの復旧には、まだ時間がかかる? さっきも同じ台詞だったじゃないか。ちゃんと正確な時間を教えて……え、こっちも大変? だからそれもさっき聞いて――」
どうにも苛立ちながら話しているところを見ると、救助には時間がかかりそうだなとトマストとエヴァルトは溜め息をついた。
「うん。甘い匂いはこっちのほうからするわ、え? うん。ルルナちゃん達はそっちに任せるから。それじゃあ、舞も気をつけて」
そんな彼らの元に、何やら話し声が届いてきた。
目をそちらへ移動させると、ちょうど通話が終わったのか、携帯をしまいながら歩いてくる霧島 春美(きりしま・はるみ)の姿が映った。ちなみに超感覚のうさ耳をだしている。
「あっちはあっちで推理研の役目果たしとるみたいやな、ボクらもがんばらんと」
一緒にいるのはパートナーのカリギュラ・ネベンテス(かりぎゅら・ねぺんてす)。
ふたりは安全第一の柵などに気づくとキョトンと目を丸くさせる。
「って、どうしたんですか? これ」
そんな彼女たちにどう返したものかと一瞬考えるエヴァルトだったが。
この出で立ちはどう見ても不審者ではなさそうだとして、簡単に事情を説明した。
「エレベーターの中に閉じ込められている人がいる? これは助けないといけないわね。お兄ちゃん、なんとかなる?」
春美は言い方こそ疑問形であったが、言外に『なんとかしろ』の意が含まれていることを、パートナーのカリギュラは知っている。なので特に異を挟むこともなく、
「まかしとき。ボクは天使やからな、すぐに助けたるわ」
背の翼をバサバサと動かして、躊躇もなく一気に扉の向こうへと飛び込んでいく。
そのまま一気に降下し、あまり揺らさないよう気をつかいながらケージの上に着地する。
「ふふん、やっぱこういうとき飛べるのはええよな。さあて、中のみなさんー。ケガしてへんか?」
上から顔を出したカリギュラに、中のふたりは軽く首を振る。
閉じ込められて若干疲弊しているようだが、怪我などはしていないのを確認後、
「よっしゃ、せやったら順番にボクが運んだるわ。そっちの太めのあんちゃんも、上の皆と協力したらなんとかるやろ」
カリギュラはまず黒衣の男を抱え上げ、バサバサと翼を動かして上昇していく。
途中ツタが襲ってくるのではと構えるときもあったが、運良くツタは動かないままどうにか春美達の待つ階へと到着することができた――
として安堵しかけた直後、エレベーターがガガガガガと音を立てながら落ち始めた。
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