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第4章 宴の夜

 そして、宴の夜が、ついにやってきた。
 ギギーッ
 普段はかたく閉ざされている館の扉が、重々しい響きをたてながら開いてゆく。
「みなさま、今宵は満月、当館で、主であるサッド様主催の宴が開かれる晩です。招待された方々は、どうぞお入り下さい」
 シビトの挨拶にうなずきながら、扉の前に並んでいた招待客が、次々に入館していった。
 入館した招待客の周囲には、骸骨戦士やライオンソルジャーがうろうろしていて、厳重な警備を行っている。
 鎖につながれたメイドたちは、招待客が通りすぎるとき、床の上にひざまずいてお迎えの挨拶をする。
 招待客たちは、メイドたちの悩ましい下着姿を鑑賞しながら、シビトの案内で、館の食堂へと進んでいった。
 招待客の行列の最後尾が館に入ろうとしたとき、館の外から怒鳴り声がした。
「おいっ、開いてるぜ! 乱入するならいまだ!」
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が叫んだ。
 毎晩のように館への侵入を試みながら成功しなかったパラ実生たちが、やっと入り込むチャンスをみつけたのである。
「変態サッド! シャンバラ大荒野で美少女を一人占めするとはいい度胸だ! だが、俺たちの美緒ちゃんまで独占することは許されないぜ! みんな、特攻だ!」
 たまたま館の入口の直近にいたゲブーの呼びかけにこたえて、パラ実生たちは拳を振りあげて、雄叫びをあげる。
「おう、やったるぜ!」
「うおー、美緒ちゃーん!」
 パラ実生たちは、血走った目で叫びながら、館の外の堀にかかった橋をわたって、扉の開いている入り口に殺到しようとする。
 パラ実生だけではない。
 失踪した女子生徒を救出するため各校からやってきた生徒たちも、いっせいに館に乱入しようとしていた。
「フン! クズどもが!」
 入り口を見張っていたグルルは鼻を鳴らして、重い扉を再び閉めようとする。
「閉めるな、この、ウンコタレがー!」
 ゲブーは閉まりかかった扉に手をかけ、全力を振り絞って開けようとする。
「ああ? ウンコはてめえもタレるだろうが! このボケ!」
 グルルは歯を剥き出しにして怒鳴ると、ゲブーの力に抗って、扉を閉めようとする。
「開けろコラァ!」
 ゲブーが踏ん張ったとき。
「うおおー! 殴り込みだー!」
 扉の隙間を目指してパラ実生たちがいっせいに押し寄せ、館の中に押し入ってくれる。
「ちいっ!」
 グルルは扉から手を離し、ムチを振るった。
 ビシィッ!
 ムチが、ゲブーの額を打ちを、血をにじませる。
「ぐわっ! やりやがったな!」
 ゲブーは、拳をグルルに振りあげた。
「この、小物が! 俺様の力を味わえ、俺様サイキョー無敵必殺!! ゲブー・ダイナマイト!!!」
 ゲブーの瞬送の拳が、グルルの顎を見事にとらえていた。
 ボゴォッ!
「うごぁ!」
 グルルの身体が館の玄関ホールの奥に吹っ飛んでいく。
「やったぜ! ああ!?」
 歓声をあげるゲブーに、ライオンソルジャーたちが次々に襲いかかってきた。
 爪で切り裂かれ、肩を噛みつかれてうめくゲブー。
「ゲブー、大丈夫か?」
 ホー・アー(ほー・あー)がバットを振りまわしてライオンソルジャーを追い散らしながら、気遣う。
「だ、大丈夫じゃねえ!」
 肩から鮮血がほとばしっているのをみつめるゲブーの顔は、青くなっている。
 ついに館入口を突破したパラ実生たち。
 玄関ホールで、大混戦が始まった。

「うーん、許せません! 百合園を愛する私を怒らせましたねー! 美緒さんにまで手を出すなんて、絶対許せーん!」
 レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は、襲いくるライオンソルジャーたちと拳で渡り合い、飛びかかってきた獣を受け止めて背負い投げで投げ飛ばすなど、大暴れの状態で叫んだ。
「うぬぼれるなよ! お前も鎖でつながれれば、やりたい放題されて泣いて許しを乞うんだからな!」
 態勢を立て直したグルルが、レロシャンにムチ攻撃を放つ。
 骸骨戦士たちもレロシャンを取り囲み、剣で斬りつけてくる。
「さあ、ここから大決戦ですね! 今日のアホ毛は切れがひと味違います!」
 レロシャンは、前屈みになって頭を突き出し、ぴんとはねたアホ毛を骸骨戦士たちに向ける。
「くらいなさい! ビッグアホ毛クラッシャー!」
 レロシャンは、アホ毛を振りまわす。
 ピシピシ!
 アホ毛に打たれた骸骨戦士の身体がバラバラに刻まれ、床に散りまかれる。
「んだ? アホ毛に刃を仕込んでやがるな。アホな発想しやがる!」
 グルルは、ムチ攻撃を放った。
「見切りました! 本日は絶好調です!」
 レロシャンは素早く頭をうち振り、ムチの一撃にアホ毛をぶつけて、切り裂いた。
「なに!?」
 グルルは、下打ちして、別のムチを取り出す。
「クフフフフ。苦戦しておるようだな」
 招待客たちを食堂に案内し終わったシビトが、玄関ホールに姿をみせた。
「出ましたね、変態ネクロマンサー! 名前が既に変態です!」
 レロシャンはシビトに突進。
「貴様、いってはならんことをいったな」
 シビトは怒りに顔を歪ませ、分身の術を使う。
 レロシャンのアホ毛は、シビトの分身を切り裂くのみで、本体をとらえられない。
「やりますね! ほんのちょっと優位で嬉しいですか?」
「はっ! ほんのちょっとではないわ、身の程知らずが!」
 シビトの幻術が、レロシャンを襲った。
「は、はああ!?」
 レロシャンは視界が真っ暗になり、戸惑う。
「フハハハハハハ! 死ね!」
 ここぞとばかりに、グルルがムチでレロシャンを徹底的に打つ。
 ビシ、ビシ、ビシ!
「あ、ああああああああ!!」
 ムチによって全身を傷だらけにされ、激痛のあまり、レロシャンは悲鳴をあげた。

「う、うおお、百合園の姉ちゃんが、危ないぜえ!」
 ピンチのレロシャンをサポートするため、館に入り込んだばかりの五条武(ごじょう・たける)は走った。
「テメェらみてーに、人に迷惑掛ける変態はぁ、ナラカの底で羞恥プレイでもしてやがれェ! いくぞ、俺は改造人間! 変身、パラミアーント!」
 パラミアーント、パラミアーント、パラミアーント、……。
 声に、エコーがかかる。
 ピカァッ!
 走る五条の身体が、光に包まれた。
「とおっ!」
 蟻の改造人間パラミアントに変身した五条は、思いきり跳躍すると、グルルに飛び蹴りを放つ。
 ドゴッ!
「ぐわっ、お前は!?」
 グルルは背中を蹴飛ばされて、よろめく。
「ガオー!」
 着地したパラミアントに、数匹のライオンソルジャーが襲いかかってきた。
「どうした、俺と遊びたいのか?」
 パラミアントは神の動きで獣の攻撃をかわすと、目にも止まらぬ勢いでまわし蹴りを放った。
「ブラインドナイブス!」
「ワ、ワオーン!」
 攻撃をくらったライオンソルジャーがひっくり返して、じたばたもがく。
「この館に捕まってるお嬢ちゃんたちは、俺が助けるぜえ! ガイ、こっちに来いよ! そろそろ一蓮托生だ!」
「やれやれ。相変わらず、威勢のいいことだな」
 寄生型 強化外骨格(きせいがた・きょうかがいこっかく)は感心したようなしないような口調でいうと、魔鎧にチェンジする。
「おし、装着! フルパワーでいくぜえ!」
 ガイを装着したパラミアントは、天井をあおいで拳を振り上げ、ポーズを決めた後、館の床に思いきり拳を叩きつけた。
「くらえ、爆炎破ぁ!」
 すさまじい炎が巻き起こり、押し寄せつつあった骸骨戦士たちを焼き焦がす。
「火葬だ、あの世へ帰れ! 逝ってみようかぁ!」
 パラミアントは絶叫した。
「ふっ。この館、殺戮の臭いがするな。いい気持ちだ」
 パラミアントに装着されているガイは、どこか嬉しそうだった。
 
「面白い奴がいやがるな。オレも負けてられねえぜ!」
 パワードスーツに身を包んだ篠宮悠(しのみや・ゆう)は、2メートルを越す大剣フラガラッハを振りかざして叫んだ。
「絶刀戦士パラフラガ見参! さぁ、退くか斬られるか選べ外道ども! お前たちのその悪意、両断する!」
 ちゅどーん!
 なぜか、パラフラガの足もとから爆発がわきおこる。
「ガウー!」
 ライオンソルジャーたちが、いっせいに口から炎を吐いて篠宮に攻撃を仕掛けてきた。
「熱いじゃねえか! いくぜ!」
 篠宮は、フラガラッハを振りかざして突進する。
「悠、ただ突っ込むだけじゃ、隙がありすぎだよ! もう、放っておけないんだから!」
 オリーヴェ・クライス(おりーぶぇ・くらいす)は慌てて篠宮を追い駆け、魔鎧にチェンジし、篠宮に装着される。
 篠宮のパワードスーツにさらに魔鎧がつくかたちになり、2段構えの防御体制となった。
「おらー! この一撃、旋風を巻き起こす!
 篠宮は炎を吹きかけるライオンソルジャーたちのただ中に立つと、メラメラと燃やされながら、大剣を振りまわす。
 ライオンソルジャーたちは剣によって撥ね飛ばされ、後退していく。
 カクカク、カクカク
 骸骨戦士たちが骨を鳴らしながら篠宮に迫り、剣を振り下ろす。
 カキン!
 敵の剣は、篠宮の異様に分厚い装甲にあたって弾かれた。
「ぬるい! そんな攻撃、きかないんだよ!」
 篠宮の大剣が、骸骨戦士を一刀両断する。
「悠、お姉さんを助けにきたんでしょう?」
 真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)が散弾銃【スターバニッシャー】で援護射撃を行いながらいう。
「うん? ああ、わかってるさ。姉貴に手を出されたから、俺はこんなに怒っているんだ!」
 篠宮は、大きくうなずいた。
「どこにいるんだ、姉貴? 姉貴ー!」
 叫びながら、篠宮は駆けて、骸骨戦士たちを次々に骨の山に変えてゆく。
「レイオール、何かわかったか?」
 篠宮は、館の外のパートナーに通信を送った。
「ユウ。姉上のパートナーから通信がきている。姉上は地下の牢獄に囚われているとのことだ。サッドは食堂で宴を取り仕切っている。玄関ホールの敵陣を何とか突破し、地下になだれこむのだ」
 巨大すぎて館に入れなかったレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)から、情報収集の結果が伝えられる。
「なるほど。モリガンがいろいろやってくれてるんだな。姉貴は、いいパートナーを持って幸せだぜ! 要するに、いまはとにかく、暴れまわってここを突破しなきゃいけないってことだな」
 篠宮は、自分で自分に言い聞かせるようにうなずいている。
 モリガンが姉たちをサッドに捧げて潜入捜査を行っているなどとは、ゆめにも思わない篠宮だった。
「いくぜ、突進! どわああああ!」
 再び突撃した篠宮は、勢いあまって壁に頭をぶつけてしまった。

「おーい、みんな、特にパラフラガとかいう突進鎧男! 闇雲に闘ってるだけじゃダメだよ。あたいが敵を引きつける!」
 御弾知恵子(みたま・ちえこ)が、あまりにも無秩序に闘う生徒たちに呼びかける。
「うん? 俺は闇雲に闘ってるわけじゃない! ちゃんとレイオールに連絡をとって、とにかく暴れるのが重要だと認識したんだ!」
 篠宮悠が、抗議する。
「だから、闇雲じゃんか」
 御弾は少し呆れたが、気を取り直して、走り出す。
「ほら、ライオンさんに骸骨さん! 悔しかったらこっちに来なさいな!」
 おびただしい数の敵に銃を乱射し、御弾は挑発を続ける。
 ガオー!
 カタカタ、カタカタ
 ライオンと骸骨が、御弾を追って走り出す。
「生意気な女だ。犯すぞ!」
 グルルも、ムチを振りまわして御弾を追っていた。
「あら、本当にそうしたいの? そのわりには、あたいはさらわれなかったじゃないさ!」
 御弾は吐き捨てるようにいって、グルルに向け銃をぶっ放す。
 ドゴーン!
「何だ、気にしてるのか? なら、もっと色気を磨け!」
「んだと!? わりゃ、地獄に送ってやっかー!」
 グルルの言葉に、御弾はマジギレ同然になった。
「チエ、落ち着け。いまは、オレたちが奴らを挑発して、陽動を行っているはずだ」
 フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が、御弾の肩を叩いてクールダウンを呼びかける。
「はっ、そうだったね。よし、単細胞たちをこっちに!」
 御弾は我に返って、敵をたくみに引きつけ、館の奥へと走っていく。
「どこに行く? 待てー! オレから逃げられると思うな!」
 動き出した敵を、篠宮悠が、フラガラッハを構えて追い駆けてゆく。
「ああ、だから! あたいたちが陽動をしてるうちに地下の牢獄に行くんだよ!」
 御弾はイライラしながらも、自分を追う敵をスプレーショットで牽制し、さらに奥へと走っていった。
 ふと、入口近くに目をやると、闘い疲れたところをボコられてぐったりしたゲブーを、パートナーのホーが館の外に運んでいくのがみえた。

「始まったな。俺も作戦を実行に移すとしよう」
 館の外の堀の縁では、パラ実生たちと館の魔物たちとの闘いの音を耳にしながら、ロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が呟いていた。
「おい、いいのか? 熱いバトルをやるはずが、冷たい水の中に飛び込むってのか?」
 ロイに装着されている魔鎧の常闇の 外套(とこやみの・がいとう)が、戸惑った口調でいう。
「俺は最初からこうするつもりだった。教導団団員には、お堀のワニをみかけたら調教しなければならないという、古来から伝わる伝統的な鉄の掟があるのだ」
 ロイは、堀の中の暗い水に飛び込む態勢に入った。
「そんな掟、本当にあるのか? 他の団員は、みんな館に入っていったぞ?」
 ヤミーの言葉に、ロイは答えない。
 無言のまま、お堀の中に飛び込んでいった。
 バシャッ
「ガオー!」
 暗い水につかったロイに、お堀の中のワニたちがいっせいに襲いかかってくる。
「おい、武器を使え!」
 ヤミーは焦った口調でいう。
「小細工などいらない。調教は素手で行う」
 ロイは、拳でワニの顎を打ちすえ、ひっくり返してしまう。
「ほ、本気か?」
「素手で調教してこその調教団、いや、教導団だろう」
 ロイは、自分をくわえこもうとしたワニの巨大な顎を脇に抱え込んで、水の中で振りまわし始める。
「そんなこといったって、おまえ、スナイパーだろ? 無理があるんじゃ?」
 伝説の呪いのアイテムとうたわれたヤミーも、ロイの突拍子もない言動にはドン引きしそうだった。
「さあ、みんな! 魂があるなら、俺についてこい!」
 ロイは指を鳴らし、ワニたちと大立ち回りを演じる。
 気のせいか、ワニたちがロイに身体をすりよせ、なついてきているようにもみえた。